白と黒




気づくと僕は白い世界にいた。周囲の人々、髪の色が真っ白だ。僕だけ黒い。少なくとも地球じゃないだろう……そう思って話を聞いたら、彼らは羊獣人だそうで、時折異世界から訪れる”黒き稀人”から知識を貰って発展してきたらしい。味噌が普及している! それ、確実に日本人!※転移モノ





 大型のトラックが高い車輪の音を立てた。何故なのか道路を歩いていた子羊を庇った僕は、死を覚悟した。冷静に考えれば、現代日本の県道に、子羊が歩いているっておかしい。だが必死だった僕は、何も考えずに白いモコモコのその子を庇ったのだ。

 ――しかし、覚悟した衝撃は訪れなかった。
 まぶたの向こうに広がったのは、真っ白な光だった。
 なんだろう――……体がふわふわする。僕は、少し光が収まってから、ゆっくりと目を開けた。

 すると僕は、見慣れない場所にいた。まず花を擽ったのは、甘酸っぱい果実の匂いだった。一瞥すると、遠くに桑の実が見えた。同時に――周囲にいる多くの人々を視界に入れた。皆、真っ白な髪と銀色の瞳をしている。巻き毛の人が多いが、たまに真っ直ぐな髪の人もいる。幼児から老人まで、大勢の人がいて、みんな真っ白だった。

 綺麗だ。って、あれ、待って、僕はトラックに轢かれたんじゃ……?

 そう困惑した時、僕の目の前に、一際長身の青年が歩み寄ってきた。見上げると、まるで天使のように純白の髪をした青年が、僕を見て微笑した。

「稀人だな? 突然現れたから、驚いた」
「え、えっと……」
「先程、羊神からお告げがあった。稀人をもたらすと。私への最初の”祝福ギフト”として」
「ギフト?」
「昨日、この羊獣人族の国、メルフォーレの国王に就任したファルスと言う。貴方を生涯大切にすると誓おう」
「どういう事ですか?」

 さっぱり状況が見えないままで、僕はひとつの事実に気づいた。ここにいる白い人々の頭には、可愛い角がついていたのだ。それは僕が助けた子羊のものにそっくりだった。

「メルフォーレ王国は、代々、国王が代替わりする際、羊神から祝福を授かるんだ。その際もたらされる稀人は、数々の叡智を宿している。我々は、その知識を授かる事によって発展してきたんだ」
「叡智!? え、僕は普通の高校生だから……学校の成績もあんまり良くなくて。ただ、なんていうか、ネットでよくある異世界転生物小説は大好きだから、ちょっと味噌作りの知識くらいは持ち合わせていますけど!」
「味噌――! それは五世代前の稀人がこの国にもたらしてくれた」
「え……っと、じゃあ、醤油!」
「それは七十二世代前の稀人の手により普及した。納豆は六十五世代前だ。稀人は皆、この世界には存在しない、漆黒の髪と瞳を持っている。それが叡智の理由なのだろうか?」

 僕は口ごもった。それ、間違いなく日本人!

「ただな、メイジやタイショウという異世界から来た稀人は、自分自身の手で様々な叡智を再現できたのだが、ショウワとヘイセイの人間は、味噌作りなどができないというんだ。それらは、スーパーに売っているという。そこでスーパーという叡智を授かって今ではこの国では多くの食料雑貨店が存在する。貴方は、どの異世界から来たんだ? ここ十世代ほどは、ヘイセイが続いているのだが――何故なのかヘイセイになった途端、また調味料を自作できる稀人が増えてきた。たしか、ナイセイというらしい」

 思わず生暖かい笑みを浮かべてしまった。とすると僕の前にここにやってきたトリッパーは、絶対僕の同類だ。異世界転生小説の愛読者だ。やはり、Web小説民たるもの、自分が転生する際に備えて、相応の知識は必須である。が……僕の知っている事柄は、もしかしたら、普及済みだったりするのかな? ちょっと僕は困った。

 改めて考えてみる。そうか、トラックは転生トラックであり、白い子羊が――羊神! 僕は俺TUEEEなチート能力を与えられる部屋をすっとばされているが、異世界に転生したに違いない! ううん、生まれ直してないから、トリップなのかな? 僕、死んでないし。どちらでも良いが――……

「あの、稀人って、元々の世界には、もう二度と帰ることは出来ないんでしょうか?」
「帰りたいのか? 帰ることは可能だ。だが、私は貴方にそばにいて欲しい。稀人に愛想を尽かされた国王というのは、暴君として多くが歴史に悪い意味で名を残している。私は、良き王になりたい。そのためには、貴方の叡智だけではなく、貴方の存在もまた必要なんだ。私では駄目か?」
「だ、駄目とかじゃなくて……っ、あ、あの、僕に出来ることならば協力します! だけど、帰ることができるなら、帰りたいです!」
「わかった。では、帰りたい時は、協力する」
「今一度帰ってきたいんですけど!」
「今、か……心の準備が……」
「僕には今物理的準備がありません。一度帰って、必要物とか知識をガッツリ持ってきます!」
「わかった、そこまでこの国の事を思ってもらえるならば――……ついてきてくれ」

 頷いた国王陛下の後に従い、僕も歩き始めた。

「貴方の名前を教えてくれないか?」
「悠斗です」
「ユートか。良い名前だな」

 こうして連れて行かれたのは、屋根が丸い王宮だった。真っ直ぐに二階へと進み、国王陛下の寝室へと連れて行かれる。寝室に帰るための何かがあるのだろうか? そう考えていた瞬間――……僕は後ろから抱きしめられた。

「まだ出会ったばかりだが、帰りたいと望むのだから、仕方がない」
「え?」
「体の奥に子種を注ぐ事で、この世界と異世界への”絆”が完成し、自分の意志で往来可能になるそうだ」
「子種?」

 何を言われているのか分からないまま、僕は国王陛下が僕の服を脱がせるのを見守った。ひんやりとした空気が肌に触れる。

 ――僕はこの時、ぼーっとしているべきではなかった。


「ああっ、ン――!! あ、いやぁっ!!」

 僕は全身を愛撫された後、今、陛下に貫かれている。あまりにもの手際の良さに、僕は完全に飲み込まれた。陰茎を右手で扱かれながら、下から突き上げられる。僕を膝に乗せたフォルス様は、熱い楔を容赦なく突き上げてくる。その度に、体が蕩けてしまいそうになる。左手では乳首をつままれ、三箇所を一気に刺激されると、僕はもうわけがわからなくなった。なんだろう、なんなのだろうこれは――僕は、男の子なのに。童貞だったのに! 後ろの処女を奪われていた。不思議なのは、一切痛みがない事だった。陛下に貫かれると、ぐちゅりと甘い蜜のような香りが広がり、中も自然と解れるのである。全身に響いてくる快楽に、僕は痺れた。

「あっ……あっ」
「可愛いな、私の稀人は」
「やぁっ、もう、出したい……あ、あああっ」

 思わず口にすると、優しく果てさせてもらえた。だが、まだフォルス様の動きは終わらない。重力に従い、座っているだけで奥まで暴かれているのだが、ぐっと腰を動かし、さらに中を抉ってくる。気持ちの良い場所を刺激されると、僕の目尻からは涙が溢れた。

「あ、ハっ、ああっ……熱い、体が熱いよぉ……ああっ、あああ」

 僕はもう泣くしかできない。気持ち良かった。

「白と黒が交わる時、白が黒を染め尽くす時、そこには真実の愛が生まれるという伝承を私は聞いていた――だが……っく、こうしていると、私は異常な程に満たされる。大切にしようと思っているのは、本当だ。けれど、自分が抑えきれない。私は――ユートに恋をしてしまったようだ」
「ああああっ、ン――!! あ、ああっ、あ!!」

 その時一際大きく動いて、フォルス様が果てた。内側を白液で染め上げられた瞬間、僕の意識は暗転した。そして――次に目を覚ますと、僕は前後左右が真っ白な空間にいた。正面には、小さな子羊が浮かんでいる。

「助けてくれてありがとうございます! 僕は羊神です」
「あ、あれ……?」
「帰還を願われたから、転移空間にお招きしました」
「あ、あのさ、僕、帰る時は、フォルス国王陛下と、その……ヤらないとならないの?」
「そういう事になります。そしてまた、現実世界で『ヤりたい』と望めば、夢の中での交わりの後、目が覚めるとメルフォーレ王国に移動しています」
「……ヤるたびに、帰ってきちゃうの?」
「いえ、帰ると口に出して、相互がそれに同意をした時のみです」
「な、なるほど……所でそもそも、あの世界は、なんなの?」
「僕が絶対神の世界です。ほら、僕を助けてくれるような良い人だから、世界の発展も手伝ってくれるかなって思って」
「……」
「本来僕は、みんなには見えないんです。見えた稀人だけが、あの世界へ渡航できます」
「――助けたお礼に、もう元の世界では死んでるから、転生とかじゃないの?」
「違います。良い人の心につけ込んでるだけです。僕、世界を発展させるの下手で」
「っげほ」

 思わず僕は咽せた。
 ――この日を境に、僕はメルフォーレ王国の羊獣人達の発展を手伝うことになった。

 色々と話を聞いてみたが、これまでに来た稀人(日本人)は、既に多くのものを普及していた。どこか中世欧州風のイメージの世界ではあるが、科学の普及度も著しい。食生活なんか、現代日本とあまり変化がない。インフレも万全だ。僕には出来る事があまりなかった。それが心苦しい。だけど。

「ユートはいてくれるだけで良いんだ」

 僕を抱きしめて膝の上に載せながら、今日もフォルス様が甘く囁いてくれる。僕は照れくさくなって、彼の腕に両手の指を載せながら俯いた。

「ユート、帰っては嫌だ。だが、ユートが欲しい」
「陛下……ぁ……」

 フォルス様に唇を奪われて、僕の体がピクンと跳ねた。優しい唇は、続いて首筋、鎖骨、そして胸の突起へと降ってくる。僕は一糸まとわぬ姿で、最近いつもフォルス様の膝の上、腕の中にいる。すっかり開発された体は、すぐに熱を訴える。

「綺麗だ」
「あっ」

 チロチロと舌先で乳頭を刺激されて、僕は声を上げた。それから脇腹、へそへと舌が動き、太ももの付け根を舐められる。右手は、僕の中でバラバラに動いている。ほぐされながら、僕はもどかしさに震える。直接的には触ってくれない。

「あ、あっ、陛下、もう早くっ」
「堪え性が無いな」
「欲しいよっ」

 僕は求め方を教え込まれた。自分で腰を少し浮かせると、手で陛下が支えてくれた。そして下からゆっくりと入ってくる。その長い楔に、僕は歓喜した。奥まで入りきった時、僕をフォルス様が抱きしめた。そして長い間動かずに、僕の体にフォルス様の形を覚えこませるようにしていた。とっくに覚えているというのに。次第に体が熱くなってくる。最初から熱かったのだが、それとは異なる小さな熱が浮かび上がってくるのだ。

「あ……ああっ」

 そして僕は声を上げる事になる。ただ繋がっているだけだというのに、こうしていると僕の体はいつも悲鳴を上げ始めるのだ。僕の内側が振動を始め、フォルス様の陰茎に絡みつくように、絞りとろうとするように蠢き始める。

「いやあああああああああああああ」

 焦らされすぎて、僕は絶叫した。全く動いてくれず、僕の動きも腕で封じているフォルス様は、優しく笑っているだけだ。せり上がってくる快楽に怖くなる。そして――僕は、そのまま、何もされていないのに果てた。ビクンビクンと体が動く。頬をとめどなく快楽の涙が濡らす。

「あ、ハッ、ン……ああっ……はぁ」

 肩で息をした僕の涙を、優しくフォルス様が拭う。

「可愛いな。もっと私を感じてくれ」
「あっ、あ、フォルス様、フォルス様ぁっ」

 僕は無我夢中で陛下にキスをした。すると舌を甘噛みされ、耳の後ろを指で擽られた。こうして長い間、僕は全身に触れられながら、優しい快楽を煽られた。少しその甘さが辛くなってきた所で、寝台の上で体勢を変えられた。そして後ろから腰をしっかりと持たれて激しく律動された。

「うああああっ、ン――!! あ、ああっ、気持ち良い、もっとぉ!」
「私も気持ち良い」
「ンぅ、あっ」

 中に飛沫を感じたのと、僕が再度の絶頂を迎えたのは同時だった。


 それから二人で寝台に転がり、天井を見上げた。

「フォルス様、僕、何も与えられる知識がなくて、本当にごめんなさい」

 今では身も心も陛下の虜の僕は、本気で心苦しくなってそう呟いた。
 すると優しく僕の髪を撫でながら、フォルス様が首を傾げた。

「何を言うんだ。私は、ユートという何にもかえる事のできない大切なものを授けられた、誰よりも幸せな国王だ。愛しているよ」
「フォルス様……」
「ずっとそばにいてくれるね?」
「……はい」

 思わず僕がはにかむと、フォルス様がぎゅっとしてくれた。
 ――ここの所、僕は体を重ねても、現代日本には戻っていない。




***


「次のニュースです。小梅市北区で、高校生の日向悠斗くんが失踪した事件で、警察は運送業の男を逮捕しました。男は供述で、『白い羊が見えた』と繰り返しているそうで、遺棄した容疑は否認しているそうです。悠斗くんは、ひき逃げ事故後、二度ほど自宅に帰宅し、以降行方が分かっていません」