【4】天使は、やはり天使だったのだ。(★)






 だが、不思議な事に、謎の腰の不快感が残ったあの日の翌日、俺は人生で初めて、一度も肩こりをせずに過ごす事が出来た。肩がこらなかったのだ! 感動しすぎて大変だった。きっと、あれは、揉み返しとやらだったのだろう。天使は、やはり天使だったのだ。

 しかし、翌々日――つまり、今日は、どっと肩が重くなった。
 本家から電話がかかってきて聞いたのだが、例のお化け屋敷(民家)に、昨日どこぞの馬鹿な学生が侵入して、結界を構築していた御札を剥がしたらしい。普通、そもそも罰当たりな行為だから、概念として、そういう事はしないべきだと、躾けろよ親……! 教師! と、まず思った。同時に、もう良い年の大学生集団だったらしいのだから、自分で常識的か判断しろとも怒りが沸いた。とはいえ、俺が怒ってもどうにもならない。けれど頭にくるのは、民家から俺の寺まで漂ってくる嫌な気配のせいで、肩がこる事だ……。

 さて、本家からの電話である。

「何でも、うちの絆のぶっちゃけライバルのタレント霊媒師が、除霊に来るらしいから、今回は頼まれてもノータッチで」

 そんな内容だった。
玲瓏院絆というのは、俺の本家の長男だ。双子の兄であり、弟は紬と言う。
 絆は、KIZUNAという名前で、芸能活動をしている、事務所所属のタレントで、ウリが霊感だそうだ。オカルト番組に引っ張りだこだが、そこ以外でも活動している。時々、ドラマの脇役として見かけたりすると、親戚だからテンションが上がる。

 ただ、親戚だからこそ分かるが、絆は、多分俺以下である。
 本当にすごいのは、紬だ。何せ、大天才(霊能力者的な意味で)と評判だ。
 紬は、歩くだけで、近隣の霊を全て吹き飛ばせるなんて聞いた事もある。
 ――実際、紬と一緒にいた時に、嫌な気配を感じた事は、一度も無い。
 俺から見ても、やつはすごい。それに比べると、絆は、「視える」「視える」と言うが、「だから?」と、聞き返したくなる事が多い。視えたって、なぁ。特に何も、視えない俺にとっては、影響が無いのが実情だ。

 それよりも、問題は肩こりだ……。
 俺は今日も今日とて、絢樫Cafe&マッサージへと向かう事にした。



「挿れて欲しいか?」
「あ……」

 朦朧とする意識が、僅かに鮮明になった時、俺は菊門に陰茎の先端をあてがわれていた。ヒクつく俺の孔も、既に存分に解されているグチャグチャな孔の中も、一昨日知ったばかりの、ローラの肉茎を求めている。

「ぁ……ぁ、ぁ」
「それとも、止めるか?」
「あ、止めてくれ」

 俺は、少しだけ自発的に言葉を発する事が出来た。肉体は快楽を求めているが――男同士だ。まずい。こんな背徳的な行為に興じて、万が一はまりこんでしまったら、俺はもう、現実に帰れない。それがよく分かる。例えこれが夢だとしても、俺の体はきっと変化してしまうという直感があった。

「止めて良いのか?」
「ぁ、ぁ、あ、ああっ、うあ」
「が、挿っちゃいそうだなぁ?」
「あ、あ、ああああ」

 ぬるりと、痛みも無く、ローラの巨大で長い陰茎の先端が入ってくる。めり込んできた熱いものが、俺の中を犯していく。だが、カリ首まで入った所で、ローラが動きを止めた。

「お前の内側、絡みついてくるな。もっと挿れろって言ってるみたいだぞ?」
「あ、やっ、ァ」

 限界まで広げられている菊門が、キツキツにローラの楔を締め上げる。しかし――それでは、俺の感じる所には、届かないのは明確だ。ダメだ。足りない。

「あ、あ、挿れてくれ……ッ」

 俺の本能的恐怖は、別の本能的快楽に、あっさりと陥落した。

「ああ、良いぞ」
「あ! あああ!」

 実直に進んできたローラの陰茎は、迷いなく俺の前立腺を押し上げた。そして何度もこするように突き上げる。

「あ、ああっ、んあ、あ、ああ」

 俺は息をするのに必死になり、その度に声も漏らした。

「あ、や、ヤっ、うあ、あ」
「気持ち良いだろ?」
「あ、あ、気持良い、うん、あ、ああ」
「コレで突かれるの、たまらないだろ?」
「うん、あ、あ、ああっ、ア」
「今日は、コレで突かれて、中だけで、最初から出してみるか?」
「う、うん。あ、もう俺、あ、出る、ぁ、イくっ」
「――素直だな。素直なお前、可愛いよ」
「うああああ」

 ググッと一際激しく突き上げられた時、俺は達した。緩やかに穏やかな快楽が全身を支配し、気持ちの良いままに果てた。こんなにも優しい快楽を体験したのは、初めてだった。強すぎず、弱すぎない快楽だ。上がった吐息を落ち着けながら、俺はローラに首筋を噛まれた。今日も正面から抱かれている。だが、続いて今回は、上に乗せられた。

「ひあっ」

 初めて、最奥まで貫かれ、俺は息を詰めた。
 重力に従い、体がローラの全てを飲み込む。寝台の上で、俺はローラの肩に手を乗せた。騎乗位――概念としては知っていた。俺は、エロ動画を見る時、この体位が好きだった。だが、まさか自分が上に乗る日が来るなんて、想像もしていなかった。夢とはいえ、ありえない。ありえないのに、気持ち良い。

「あ、あ、あああっ、あ、あ、や、動くな、動かないでくれ、ダメ、ダメ、あ」

 ローラが俺の腰を掴んで、体を揺らす度、俺はむせび泣いた。全身に快楽が響いてくる。下から突き上げられたり、前後に揺らされたり、かき混ぜるように陰茎を動かされる度、俺は再び果てそうになった。しかし――今度は、イけそうで、イけない。まるで、前みたいに、何故なのか、達してはいけない気が強くしていた。俺は、果ててはダメだと、何故なのか強く理解していた。

「うああっ、あ、あ、イきたいっ、うあ、あ、あ」
「だーめ」
「いや、いやだ、ローラ、頼むから、お願いっ」
「……っ、お前な、可愛い言い方を覚えてきたよな」
「お願いっ、お願いだ」
「……どうしよっかなぁ……あー、もう」
「やぁァ」

 小さく舌打ちし、ローラが動きを止めた。

「……マズイマズイ。持ってかれるかと思った」
「や、や、あ、ああ、あ、あ、ああっ、そこ、そこダメだ、そこ突くの、やめてくれ」
「それはダメだ。今度は、この前教えた通り、俺のモノで雌になれ」
「あ――!!」

 そう言うと、俺の左胸をローラが甘噛みした。ジンっと、その箇所からも快楽が流れ込んでくる。熔けていったその熱は、すぐに下腹部の熱と直結し――さらには、体の奥深くに灯った。

「あ、あ、ああああああ!!! いやだぁあ、あ、あ、だめだ、今噛まれたら、俺、俺、あ、あ、イくッッッ――イっちゃう、あ、あああ!!」

 俺は、もうすっかり覚えてしまった空イキの気配に怯えた。どんどん快楽がせり上がってくる。怖い。強すぎるあの快楽は、俺には耐え難い。けれど――射精は何故なのかしてはダメなのだ。ボロボロと俺は泣いた。俺は、出したい。ドライじゃなくて、出したい。だが、体には漣が押し寄せてくる。ああ、もう、ダメだ。

「うああ!! あ、あああああ!! あ、ああああ!!」

 ついに俺は、中だけで果てた。いいや、果て続けている。終わらない。
 頭が真っ白に染まった時、乳頭を強く吸われた。

「いやあぁっ!!!!」

 すると、やはり世界が青く染まった。もう快楽以外、意識できない。全身が性感帯になってしまったかのようで、繋がっている部分しか理解できない。何かが体から吸い取られている気もしたし、同時に、『快楽』が入り込んできている気もした。混じり合っているようなその感覚の中、絶頂が続く。

「ああ、ああ、あああああ!!!」

 その状態で、よりにもよってローラが動き始めた。

「嘘、あ、嘘、あ、あ、ああ、ダメだ、ダメだ、待って、待って、あ、あ、ああ」
「やだね」
「うあ、あっ、ひあ、あ、ヒっ!!」

 何とか逃れようと、腰を浮かせたが、少しだけ浮かせる事しかできず、すぐに力尽きて、より奥深くまで貫かれる形となった。まだ、絶頂も残っている。まだ、波が引ききらない。気が狂いそうだった。俺は頬が涙で濡れている事を上手く理解できないまま、何度も腰を持ち上げては、ローラの陰茎を抜く事に失敗した。そして無我夢中で髪を振り乱して泣いた。

「いやああっ、だめだ、気持ち良い!!」
「だろ?」
「あ、ああっ、あ、あ、あ、あ、また、またクる」
「好きなだけ果てろ。中だけで、な。前はまだ、ダメだ」
「あア、ンぁ、あ、ああっ、あ、あ、ア――!!」

 俺はローラに思わず抱きついて、震えながら、二度目のドライを迎えた。するとローラが驚いたように硬直したが、かまってなどいられない。泣きながら快楽に耐えていると、今度は内部で、ローラの飛沫を感じた。すると再び、世界が真っ青に変わった。そして、プツンと、俺の理性は途切れた。

「――、ぁ……」

 次に気づいた時、俺は昨日と同じように、四つん這いになっていた。猫のような体勢で、後ろからユルユルと貫かれていた。舌を出し、俺は熱く甘い吐息を逃していた。最初からスムーズだと思っていたが、現在では段違いであるらしく、ゆっくりとローラのものが進んでくる時、俺は彼の形だけでなく、速度を意識できるようになっていた。引き抜かれる時は、寂しくて切なくて、そうしてゆっくりと入れられる時は、全身に甘い快楽が響いてくる。俺の腰を持っているローラは、腰を進めながら、時々荒く吐息している。彼も、感じているのだろうか? そうだったら、嬉しいのにと、何故なのか思った。

「ぁ、ァ、ァっ、あ」
「どうして欲しい?」
「もっと早くしてくれ」
「ふぅん。じゃ、もっとゆっくりとだな」
「あ、ああっ」

 ローラは、意地悪だ。俺の頼みとは逆の事ばかりする。
 ゆっくりとゆっくりと、さらに緩慢になった抽挿に、俺は震えた。焦れったい。しかも、奥深くまで貫くくせに、俺の感じる場所は、突いてくれない。

「ゃ」
「ここが好きになるまで、こうやってやろうか?」
「ぁ、ぁあっ、あ、あ、好き、好きだから、だから、もう」

 俺は、反対の事を言えば良いと理解していた。

「ふぅん? じゃ、ここだけで良いか」
「!!」

 しかし、ローラは小馬鹿にするように笑うと、俺を虐め始めた。

「ゃァ、っ、ッ、んあ」

 そこじゃない。俺はそう言いたかった。だが、言葉にならない。息ができないくらいもどかしかったのだ。

「ン!」

 その時、僅かに角度を変えられて、両手で左右の乳首をきゅっと摘まれた。俺の体が蕩ける。目を閉じると、涙が溢れた。ジンと響く甘い快楽が、胸を擦られる度に広がる。続いて今度は、左手はそのまま乳頭を弾きながら、右手では陰茎を握られた。果てる事ができない、陰茎を。

「あ、ああっ、あ、あ、ああっ、だめ、だめ」
「ダメばっかりだな」
「出したい、出したい、な、なぁッ……ン!」
「んー、そんなに?」
「うん、うん。あ、ああっ、ハ」

 頭の中が、射精したいという欲望以外、思い描けなくなっていく。俺の濡れ切った鈴口を親指の腹で撫でながら、ローラが笑っている気配がする。

「ひ!」

 その時――乳頭を弾かれ、強く陰茎を擦り上げられ、さらに不意に中の前立腺を突き上げられた。三ヶ所同時に快楽が襲いかかってきた。目を見開いた俺に、さらに四つ目――「あああああああああああああああ!!!!」

 ローラが、俺を噛んだ。俺は、射精したのを感じるのとほぼ同時に気絶した。




「またお越し下さいね」

 気づくと俺は、店のエントランスの扉の前に立っていた。あれ、いつ終わったんだっただろうか? まだマッサージ中に眠ってしまった微睡みが失せきっていないのか、頭がぼんやりとする。ちらりとローラを一瞥すると、彼は猫のような瞳で優しく笑っていた。だが、何故なのかその瞳が、獰猛に変わる姿を、俺は知っている気がした。何故だろう?

 そういえば、最近は、来店した頃には砂鳥くんを見かけるのに、帰りには見ない。俺が大抵いつも最後の客らしいから、彼はバイトを終えているのだろうか? 俺にはよく分からない。

「ああ。また来る」

 俺は、腰――と言うよりも、全身に気怠さを覚えながら、その日店を後にした。