【11】繋がった名前



「――斗望、お祖母ちゃんの家というのは、御遼神社か?」
「え? うん、そうだけど」

 遺言状に出てきた小学生の名前を思い出し、昼威は思わず唇を手で覆った。
 まぁ狭い地方都市であるし、世間は狭いというのは、その通りだ。

「昼威、昼食は出来たし、冷蔵庫には今夜の分のお惣菜もあるから、食べてね」

 そこへ朝儀がやってきた。それを見ると、立ち上がって斗望が笑顔を浮かべた。

「父さん、プール行くんでしょう?」
「そうだね。よし、行こうか」

 それから二人は昼威に向き直った。

「またね、昼威」
「昼威さん、またね!」

 こうして帰っていく二人を、昼威は見送った。
 そうしながら、もう一度侑眞に、話を聞くべきだなと考えた。
 しかし、何から聞けばいいのか、なんと聞けばいいのか。



 そう考えつつ昼食をとっていた時、総合病院から呼び出された。臨時でバイトをして欲しいとのことだった。人手が足りないらしいから、仕方がない。朝儀に話を聞くという用事も済んでいたので、昼威は病院へと向かった。

 臨時だったので、洗濯物を持って出るのを忘れたから、終わってすぐに昼威は藍円寺へと戻った。シャワーを浴びる前に一本飲もうと冷蔵庫を開け、お惣菜を取り出す。

 すると、玄関が開く音が聞こえた。入ってきたのは、享夜と玲瓏院紬だった。

「ああ、来ていたのか」

 紬に対して声をかけながら、そういえば朝、そう聞いたなと昼威は思い出した。

「だから! 着替えてから家に入れといつも言っているだろう」
「バイトが終わったばかりなんだ、口うるさいな」

 術着の胸元を掴んで、パタパタと揺らしながら、昼威は怒鳴っている弟に向かって嘆息した。熱い。蝉の鳴き声が聞こえてくる。

 それから座った紬に、昼威は視線を向けた。

「元気だったか? 紬」
「はい」
「お前がいると、何も祓わなくていいから、本当に気が楽だ」

 昼威はそう言いながら、肩に何ものせていない享夜を一瞥した。

「え? 何をですか?」

 しかし紬は視える前に、いるだけで除霊が可能だから、幽霊など目視していないらしく、純粋に分からないという顔で首をひねっている。

「あ、いや、その、ホコリの話だ。享夜は、掃除が下手でな」
「そういう事は、一度でも掃除をしてから言え」

 ぶすっとしたように享夜に言われたものだから、何も言えず、昼威はビールを呑んだ。実際、昼威は掃除などしない。その後は、九時過ぎまで、三人で食事をした。