【20】鈍いだけだった。(★)


 さて、その後。



「はぁ……」

 昼威は、この日も御遼神社の侑眞の家にいた。
 離れの一室で、畳の上で、昼間から二人で酒を飲んでいる。

「どうしたの? 先生」
「――朝儀が同性愛者なのは、俺は知っていた。なにせハッテン場のバーマスは、俺の高校の同級生だ」
「あー、ね。今、LGBTだったっけ? 色々あるしねぇ」
「俺が学部生だった頃は、まだ性同一性障害という扱いだったし、気が重い。ただ、まぁ朝儀には子供もいるし、やつの人生だからな、仕方がない」
「ふぅん」

 侑眞はいつもより素っ気ない反応をしながら、昼威のグラスにビールをついだ。
 それを見ながら、昼威は続ける。


「だがな、享夜まで……」
「絢樫Cafeの吸血鬼とだっけ?」

 淡々と侑眞が聞くと、昼威が大きく頷いた。

「そう。そうなんだ。男かつ人外だ……あいつには、きちんと結婚して、寺の跡取りも設けて欲しかったし……というより、三人兄弟で兄と弟がホモで、真ん中の俺は悲しい。俺にもそっちの気があるんじゃないかと不安になってくる」

 嘆くように言ってから、昼威がビールを呑んだ。
 それを見て、隣に近づいて酒をついでいた侑眞がすっと目を細める。

「ダメなの? 先生は。男」
「俺自身は男を対象に見た事はないし、男に好かれた事もないからな。別段だからと言って、他二人を否定しようとは思わん。奴らの人生だからな……でも、はぁ……」

 そんな昼威を見て、ぐいと侑眞が詰め寄った。

「男に好かれた事がないって、本気で言ってるの?」
「は?」
「昼威先生ってさ、どこまで鈍いの?」
「どういう意味だ?」

 昼威は視線を向けて、気がついた。すぐそばに、侑眞の顔がある。
 慌てて体を離そうとすると、両頬に手をあてがわれ、覗き込まれた。



 いきなり過ぎて逃れることができず、昼威は抗議しようとうっすらと唇を開けて、そして後悔した。侑眞の舌が中に入り込んでくる。すぐに翻弄され、飲み込まれた。ねっとりと貪られ、舌を絡め取られる。息が上がってくると、角度を変えられ、息継ぎを促される。体が震え、力が入らなくなっていく。

「ぁッ」

 耳の後ろをなぞりながら、唇を離された。そして首筋を噛まれたから、昼威は思わず声を上げてしまった。拒絶しようとした手首をギュッと握られる。

「俺のものになってよ」
「ああっ」

 服の上から陰茎を撫でられて、昼威は思わず声をあげた。

 動揺と混乱で頭が真っ白になる。その間に、下衣の中へと手を入れられた。服をはだけられて、鎖骨を舐められた時、昼威はのけぞった。すると腕を背に回され、抱きとめられて、その場にゆっくりと押し倒される。焦燥感から逃れようとした昼威の太ももを開き、服を下ろして侑眞が陰茎を口に含んだ。全く予期していなかった展開に、昼威は涙を浮かべた。

「や、やめ……」

 情けのない声を出してしまう。だが、重点的に先端を刺激されると、すぐに昼威の陰茎は反応を見せた。何かが内側から這い上がってきて、それが快楽だと気づく頃には、昼威の息は熱くなっていた。


 ローションをいつ用意していたのか、侑眞が手に取る。それをタラタラと指に垂らして、硬直している昼威の後孔へと挿入した。昼威は抵抗しようという気持ちよりも、困惑と恐怖が強くなり、必死で侑眞にしがみついた。バラバラに中で蠢く指の存在感に苦しくなる。

「ひっ」

 その時感じる場所を探り出されて、昼威はのけぞった。

「ここ?」
「あ、ああ、あっ、やっ」
「ここだ」

 そこばかりを侑眞がなぶり始める。全身が汗ばんできて、昼威は息の仕方を忘れた。
 こんなのは、強姦だ。そう思うのに、何故なのか――不思議と昼威は満たされていた。
 相手が数年来の付き合いの侑眞だからなのか、嫌悪感もない。

「あ、ああっ、待て、そんな――ひ!!」

 侑眞が腰を進めて、昼威の中に入ってきた。押し開かれる感覚に、昼威は喘いだ。進められるたびに、侑眞の熱い体温が体に染み込んでくる。溶け合うような交わりなのだが、ひどく卑猥な水音がした。香油がぐちゃりと音を立てるのだ。

「あああっ、あああ」

 その内に、動きが早くなり、ガンガンと腰を打ち付けられて、昼威は首を振った。感じる場所に侑眞の屹立が当たる。その度に、全身に白い快楽が走る。情けなくポロポロと昼威は涙をこぼしたが、それは気持ちが良すぎたからだ。


「あ、ああっ、ン、あ」

 震える昼威の体の向きを変え、侑眞が後ろから突き上げる。猫のような姿勢になった昼威を、押し倒すように体重をかけて、侑眞が身動きを封じてきた。快楽を昼威の体に刻み込むように、一度動きを止め、そしてゆっくりと再び動き始める。どんどん奥を暴かれ、内壁を広げられる感覚に昼威は震えた。それから前立腺に先端をあてがったままで、侑眞がまた動きを止めた。

「ああ、やぁっ」

 ずっと刺激を与えられたままになり、けれどそれ以上の動きがなく、昼威は声を上げた。ついに泣き叫ぶのを止められなくなった。ずっと気持ちいいという感覚が続いているのだ。今は前を触られていないというのに、何かがせり上がってくる。果てると、そう思った。

「ねぇ、言って、昼威先生。俺と付き合うって」
「や、やぁっ」
「嫌なの? じゃあ、動かない」
「あ、あ、あ」

 俺はきつく目を伏せ、目尻から涙をこぼしながら、舌を出して息をした。
 なにを言えばいいのかわからない。どうしてこんなことになっているのだろう。

「昼威先生は、自分がどれだけ狙われていたかわかってない。男にも女にも。この数年間、俺がどれだけ周囲を蹴散らしてきたか。でもそれももう限界だ。俺のものになってください」


「あ、あ……ま、待って、あ、うあ、あ、や、やぁ、怖っ……何かクる――ひあああああああああああ!!」

 昼威は絶叫した。中だけで果てていた。ずっとイきっぱなしの感覚が全身を支配し、頭が真っ白になった。ぐったりと全身から力が抜ける。力が入らない。なのにその瞬間も気持ちが良いままだった。だめだ、だめだこれは、気が狂う――そう思った時だった。

「ダメだ頼むやめろ、あああああああ、動かないでくれ、ああああああああああああああああああああああ!!」

 容赦なく、侑眞が動きを再開した。何も考えられなくなった。焼ききれる。昼威は強すぎる快楽に、最終的には声を失った。そして、意識も。


 ――次に目を開けた時、昼威は侑眞に抱きしめられていた。

 その腕の中で、ポツリと昼威は言った。

「お前、俺の事が好きだったのか?」
「うん。気づいてないのは、先生だけだよ」
「……そうか」
「俺と付き合ってよ」
「時間をくれ」

 こうして、藍円寺の三兄弟は――全員が恋人を得る事となる。