【38】統計
「これ、手で解いて」
某統計の問題が書いてある紙だった。
まぁ簡単だからいいやと思ってといた。
「……お早い解答で。なに? 問題見ると、解答わかっちゃう感じ?」
「違いますよ! ちゃんと、過程も書いてるじゃないですか!」
「まぁねぇ。よし次こっち。大学でやったんでしょ?」
一台目のパソコンには統計のソフトが入っていた。
そこで私はまた、別の某統計をやった。
何度もやったことがあるので、とても楽だった。
「ちゃんと使えるんだ」
「あたりまえじゃないですか!」
「……俺の部署のさぁ、君よりすっごく頭の良い大学出てるボケは使えないなぁ」
「心理学科じゃないんじゃないんですか?」
「うん。統計学の専門家のはずの学科」
「そりゃ、きっと、AO入試だったんですよ! AO入試は特技があれば入れます! きっと統計の他の分野が得意なんですよ! それか、使ってたソフトが違うとか!」
「そいつね、このソフトを使えるって豪語したから採用したのにさぁ。説明会に来てる学生よりできないってもうアウトだな。俺はあいつを別の部署に飛ばす」
「え! 可哀想ですよ! もしかしたらあるいは仮に奇跡的に私が大得意なだけかもしれないです!」
「大得意なの?」
「どっちかといえば嫌いですけど……」
「あんまり興味なさそうに淡々と、ある種つまらなそうな顔でやってたもんねぇ」
「……あ、あはは」
「まぁいいや。さて、最後ね。ちょっとこの本見て」
私はそこで、一冊の本を渡された。
なんか、誰にでもできるSQLっぽい名前だった気がするが、忘れた。
そして指定されたページを眺めた。
「読んだ?」
「はい! 英語の本ですね!」
「……じゃあさ、こっちのパソコンで、ちょっとやってみてよ」
「はい!」
英語は嫌いな私であるが、なんかこれは楽しそうだったのである。
初めての知識だったからかもしれない。
私は新しいもの好きなのだ。
そうしてしばらく、私は指定ページにあった例を参考に、英語を打ち込んだ。
しかもこの英語、すごく簡単なのだ。
SQLという英語は、簡単なんだと理解していた。
「どうだった?」
一通り楽しく遊び終わったところで聞かれた。
「これ楽しいですね! こんなジャンルの英語の本があるとは思わなかったです!」
「HTMLとか心理学でやったプログラムと比べてどう?」
「へ? HTMLはこういうんじゃないし、プログラムは【*】っぽい印象しかなくて、ただの数学の簡単なものだし、英語じゃないからわかんないです!」
「他の言語の経験は?」
「日本語と英語だけです!」
「ふざけてんの?」
「え」
「……SQLって、知ってた?」
「いや、初めて見るジャンルです」
「本当に?」
「はい! これって、データベースが無いと遊べない英語だから、英語の授業じゃやらないんですよね?」
「というかね、英語じゃないから。確かにほぼ英語だけど」
「はい?」
「これは※データベース操作言語だ。まぁそうだね、いうなれば、僕が言いたかった言語――プログラミング言語に近い。HTMLよりも難しいバージョン」
「は!? プログラミング言語って、こんなに簡単なんですか!? え、嘘! 私これなら、就職してもやっていけそう! 嘘! ここの会社以外も、こんなに簡単なんですか!?」
「もっと難しい言語とか、扱える人間が少ない言語とかもあるっちゃああるけど、んー、SQLやってる所は、まぁ、ブラックじゃなきゃ内容は一緒だから、君が簡単だと思うんなら簡単だろうね」
「私SEになります!」
「いや、マーケティングにおいで」
「いえ! 簡単な方がいいです!」
「うちのところでさ、某統計をSQLにして、某今後売り出し予定新商品のシステム作って、マーケティング関連もやる予定なんだよね。その顧客企業と会議もある。君の場合、ディスカッションを見た限り会議ができるし、今回ので、統計もできるし、SQLも今の段階で既にいけそうだ。しかも心理学で、そこそこ人々の傾向を知る能力を持っているらしい。だからマーケティングにおいで。システム設計関係はやらないけど、システムすごく使う部署だから」
「だけど私四年生だし、ここ三年生が来るところだし、受からないのでいけないです!」
「本当は、他に本命企業があって、内定もらってたりするから、今日は適当なの?」
「違いますよ! それなら、もっとちゃんと最初から、英語が得意だって言います!」
「真面目に一回も他に行ってないんだ?」
「はい! これからいっぱい行かないとならないんです!」
「秋からで、まだ予約はしてない?」
「はい!」
「じゃあうちの合否出るまで、予約しないでね」
「え?」
「秋までには出るから」
「はぁ……就活って、そういうものなんですか? 私の友達は、同じ日に二個行ったりしてたんですけど……同時に内定五個もらった人とかもいたし……? この会社は違うんですか?」
「君が馬鹿で良かった。そうだよ、この会社はそういう会社なの。どうせ次は秋なんだから、深く考えないで。いいね?」
「わかりました!」
「後この本あげるから、読んでおいて。SQL覚えて。あと、ネット環境あってHTMLできるなら、MySQLっていうDBを入れられるから、弄っといて」
「はい!」
これは楽しそうだったので、本当にやってみることにした。
帰ったら調べてみよう!
「それと、TOEIC受けたって言ってたけど、前回のやつなら、絶対明日あたりには結果届くでしょ? 次、それも持ってきて。どんなに遅くとも明日までに届かなかったら、逆におかしい」
「次? SPIはもう受けたので、次はないです!」
「性格検査もやったから、過程すっとばすけど、次面接」
「え」
「本当は、ミーティングの結果とSPIで内々に選考して、性格検査して、集団面接して個別面接をいっぱいやって、後はさらに別に呼び出して個別面接と知らせずお話して、その間に色々調査した上で、それから実際に会社来て実務ちょこっと試してもらってから、もう一回面接して、場合によってはさらにもう一回面接して採用なんだけど、ちょっと君の場合、過程を変えた」
「ええと?」
「性格検査と実務ちょこっとも、後もうちょこっと程度まで終わってる。調査を先にやったんだよ。中高に関してまで。本当は禁止だけど、おうちのこととかも、全部。体弱かったみたいだとかもね。院試やめた理由とかも。さらに面接とお知らせしない面接を僕は最初からずっとしてる。最初に声かけたのは、本当に偶然だけど、話してる途中からはずっと、今日も面接だったんだ」
「面接!? 探偵!?」
「違う違う。大企業なめんなってやつ。後、ディスカッションの席に僕がいたのは、もうその時点で、君が俺の部署、つまりマーケティング候補だったから。ディスカッションの結果で、どうしようかなぁって考えてたんだ。そしたら結果良かったから、調べてみたら当たっちゃったよ。君、とっても良い感じ。人間として馬鹿なところ以外」
「……あの」
「なに? 質問なら受け付けるよ」
「何回も面接って、何回するんですか? その時は、何を答えれば良いんですか? 面接練習してないんです! 一回もやったことないんです! どうしたら良いでしょうか!」
「採用後にビジネスマナー研修を、どこに配属されても徹底的にやるから、とりあえずもうちょっと発言時に敬語に気をつけてくれれば良いよ。君が就活経験なくて頭が悪い素直な人だということは、伝えておくから。あとまぁ他の人の意見あるから断言はできないけど、こっちから声かけてるんだから、むしろ選ぶのは雛辻さんのほうだと思っていいかもね。他を受けるなっていうのは、つまり、他に行かれると困るってこと」
「!」
「回数は、最低三回。次が、俺と人事三人と俺の部下とシステムの人間の六人が面接官」
「六人!?」
「うん。それで、まぁその次かはわからないけど、流れとして、絶対にあるのが、その後は、偉い人三人との面接。で、最終的には社長の単独面接。社長っていうか、まぁ社長か」
私は沈黙した。
非常に面倒くさいし、緊張しそうだし、すごくやりたくない。
しかし、受かる可能性がある。受かったら、もう就活しなくて良い!
けど多分落ちる。面接できないし。だが、秋まで暇なのにぼーっとしていたら、みんなに就活状況を聞かれた時に困る。ならば、ここに通って落ちるまでの間、面接練習をしてみるのも良いかもしれない!
「頑張ります。精一杯の努力をします。次は、いつ来ればよろしいでしょうか?」
「敬語、その調子! 次はね、三日後。もう面接日、こっちは決めてた。君がSQL全くダメでも、やる予定だった。統計が出来ることは調べが付いてたし、それが一番重要だった。英語は微妙なところだけど、TOEICでだいたい分かる。そこがまず一つの判断材料にもなるかな。ただ、SQLを簡単な英語だと勘違いするんだから、まぁ確かに俺も同意見だけど、大丈夫じゃないかな。あれは俺も、ただの簡単な英語だと思う。午後二時ね」
「はい!」
こうして、私は次の面接日、TOEICの結果を持って出かけた。
まずはそれを提出した。その他の成績証明書などは、前回提出済みだった。