そう考えて会計しようか考えていた瞬間、目の前で彼女が、瞬時に真っ赤になった。
 え。
 逆に俺が驚くほど真っ赤になってしまった。

「そ、そ、そ、そ、そ? そ、そんな!」
「……緑?」
「生まれて初めて告白されたの! 私、私、え!?」
「……」
「一体私のどこが好きなの!? 見た目!?」
「……理知的な部分と気さくな性格も好きだ」
「ま、まだ、出会って一時間ちょっとなのに! 私、私、モテないのに! 嘘! 紺と一緒にからかってるの!?」
「からかってない。というか、モテない? どうして?」
「だってこれまで誰も私を好きにならなかったもの!」
「それは周囲の見る目がないんだ」

 ……紺の言葉は、どうやら本当だったらしい。さすがだ。
 何度か友人の言葉を回想し、おそらく押し切れということだと俺は判断した。

「こういう時、どうしたらいいのかしら? 法律には書いてある? 私の専門の精神医学には、様々な理論があるんだけど、どれもピンと来ないのよ!」
「残念ながら婚姻手続きに関してや同棲に関してしか記載されていないけど、どうすればいいのかは明確だ。俺の恋人になればいい」
「……!」
「嫌になったら、別れれば良い。付き合ううちに、好きになる場合もある。恋人として過ごすうちに、恋愛感情に関して分かれば、精神医学の各理論についても分かる可能性がある」
「な、なるほど、そうかもしれないわね! 別れる場合の手続きも、ずっと好きな場合も、あなたは手続きの専門家だもの! 分かったわ! 嬉しい!」

 結果、彼女が満面の笑みを浮かべた。
 その顔で、俺の胸の鼓動は激しさを増した。
 それからしばらく、二人で雑談した。彼女は頭の回転が早い。
 そしてふと思いついて聞いた。

「今もドイツにいるのか? いつまでイギリスに?」
「ああ、私、次の春からハーバードの院で精神医学の特別研究プロジェクトに参加するから、しばらくはこちらで過ごすの。安心して、一緒にいられるわ! 撮影でたまにフランスやドイツに行くけど、これからしばらくはイギリスの雑誌と契約をしてるの」
「そうか」

 こうして俺は、幸せすぎる大学生活を終え、大学院進学が決まった。
 ちなみに翌日会った紺に言われた。

「よくやった! お前のおかげで、緑はやっとやっとやっと恋人を得た!」
「いや、こちらこそ感謝してる」
「いいや、俺こそありがたい。なんであんなに鈍いのか意味がわからなくて困ってたんだ」
「ああ、そうなのか」
「それにしても、意外だな。お前が一目惚れするタイプには全く見えなかった」
「実は俺も、自分で自分が意外なんだ」
「へぇ。これまでには無かったのか?」
「初めて恋をした」
「そうなのか。へぇ」
「人生で、自分が女性と関係を持つ可能性を全く考えていなかったから、なんの知識もない」
「待て。だから俺は、家族の下の話に興味はないんだ。ただ、友人として、教えておくと、緑、経験ゼロだから、なにがあっても絶対気づかない。安心しろ。それにさすがに、避妊の知識くらいはあるだろう?」
「その程度はある」
「じゃあなんとかなるだろ。あと、土曜日は約束守れよ。聞いた限り、その日は緑も研究室に決定だから、大丈夫だろうけどな」
「わかった。本当に、ありがとう」

 こうして、俺は友人と恋人を得たわけであり、イギリスには本当に感謝している。