【十七】種付け(★)




 俺の婿だと名乗って一人目にやってきたのは、水の国の公爵だった。血は薄いが、かろうじて王家の親戚だったらしい。薄い寝間着姿で寝台に座らされていた俺の前に立つと、ラハルと名乗った公爵は、首を傾げて笑った。

「随分とボロボロだ」
「……」

 何も言えなかった。俺の体は、黒薔薇の刻印や罪人印、足の傷で、確かにボロボロだ。下着を身につける事は許可されなかったので、俺は薄い衣で下腹部を隠して座っていたのだが、俺の背後に回ったラハルが、俺の陰茎を片手で握りこんできた。

「使い込んでいると聞いていたが、綺麗な色だな。ああ、後ろを使っているだけだったのか」
「……ぁ」

 与えられた手の刺激に、体が震える。俺は期待に満ちた瞳を、ラハルに向けたと思う。つり目のラハルは、更に目を細めて笑った。

「すぐに気持ち良くなられてはつまりませんからね」

 ラハルはそう言うと、革製のコックリングを俺の陰茎の根元にはめた。そうしてから、改めて、俺の陰茎を扱いたから、ピタリとそれがはまってしまった。

「膝を折ってうつ伏せに」
「……」
「返事をするように。婿には従うべきだ。それが妻の勤めだろう?」

 妻という言葉に違和を覚える。俺は、男なのに。だが、快楽を貪欲に求める体は、言われたとおりに動いた。

「ひ!」

 すると弱い足首を掴まれ、俺は背を反らせた。すると気を良くしたようにラハルが笑った。

「なるほどなるほど。動けないものをいたぶるというのも、中々そそる」
「あ、あ……ぁ……ァ」

 ラハルの指が、中に入ってきた。魔術なのか、ぬめる液体が、指全体から出ている。そのため、すぐにぐちゃぐちゃという音が響き始めた。

「ああ、嫌らしい音だ」
「う、ぁ……ァ、ああ……」
「今夜は、ずっと繋がっていましょうね」

 俺の腰を掴むと、すぐにラハルが挿入した。熱い肉茎の感触に、気持ち良くて俺は涙を零した。もう俺の体はダメらしい。何をされても感じてしまう。

「あ、あ、あ」
「酷くされるのがお好きなようだ」
「ああ、もっと突いてくれ」
「――いいえ。私は夫ですから。存分に優しくして差し上げますよ」
「っく、ぁ……」

 ラハルは意地悪く動きを止めてから、俺の感じる場所から少しだけ逸れた場所を、ぐっと突き上げた。ゾクゾクと全身が震える。思わずラハルのものを締め上げた。すると喉で笑ったラハルが、震える俺の顎を後ろから持ち上げた。

 ゆっくりと律動が始まった。抜き差しされる度に、俺の内側に魔力が注がれていく。その感覚に意識がぐらつくのだが、果てそうになると動きが止まり、快楽を体が思い出すから意識を飛ばす事が出来ない。

「いっぱい子種を注ぎましょうね」
「あ、ぁ……ァ、あ……んン」

 ポロリと俺が涙を零した時、ラハルが果てた。瞬間、俺の内側で魔力が渦を巻いた。

「え」

 途端に体が熱くなり、俺は絶叫した。今までに覚えた事のない、未知の感覚がする。

「いや、あ、あ、何これ、なんだこれ、あ、あ」
「水の魔力は、注ぐと渦を巻くんですよ。そんな事も知らないとは」
「あ、あ、あああ、うあ、あ」
「気持ち良いでしょう?」
「気持ち良、い、あ、ア」

 その後、うわごとのように俺は、気持ち良いと繰り返した。もう理性なんて何処にも無かった。俺から陰茎をラハルが引き抜いたのは、少し時間をおいてからだった。

「さて、栓をしておきますか」
「っく、ぁ、ああ」

 だらりと何かが零れそうになっていた所へ、ラハルが張り型を突き立てた。涙で滲む虚ろな瞳をシーツに向け、俺はギュッと手を握りしめながら、いまだ体内を渦巻く快楽に耐える。

「今日は初夜ですから、皆が遠隔魔術でこの風景を見ているんですよ」
「!」
「無事に済んで良かった」
「あ……ぁ、ァああ……う……うう、ぁ……体が熱い……や、やぁ……」

 俺はすすり泣きながら、痴態を見られている事に苦しくなった。結局どこへ行こうとも、俺に求められているのは体なのだ。

 この夜、ラハルはそのまま出て行った。俺は一人寝台の上で悶えていた。
 熱が酷く、一睡も出来ないまま朝を迎えたのだが、どんどん体の内側が熱くなっていく。まるで満月の夜が続いているような錯覚をしてしまう。朝食が運ばれてきたが、立ち上がる事すら出来なかった。それは昼食時も夕食時も同様で、俺は夜までずっと快楽に震えていた。

 夜になりラハルがやってきて、俺の中から張り型を引き抜いた時、俺にはもう、ほとんど意識は無かった。目こそ開いてはいたが、自分が何処で何をしているのかもわからないほどの快楽に苛まれていた。

「一日でここまで魔力卵を成長させるとは。さすがは神産みの経験者だ。もう卵が孵化しかかっている」

 まじまじと俺の菊門をラハルが見ていた。太股を持ち上げられている状態で震えながら泣いていたその時――俺の内部から蠢く何かが出てきた。まるで触手のように太く長い何か、怯えながら視線を向けると、それは半透明で、中にびっしりと卵が詰まっていた。それらが俺の肉壁を刺激しながら出てきた時、俺は絶叫した。あんまりにも気持ち良かったからだ。

「あー、あー。あー、あ、ああ」
「出産とは気持ちが良いそうだ。雌にとっては。これで陛下も立派な雌だ」

 この夜、俺は一度目の産卵を果たしたのである。以後、これは日常となる。