【19】穏やかな、けれど熱い交わり(★)



 宰相閣下は、今度は寝台の上で、俺を後ろから抱き抱えるようにした。そして半分ほど脱げているシャツの上から、キュッと俺の両方の乳首を摘む。



「あ……」

「お前は、左の方が好きらしいな」

「あ、あ……あ、あああ!」



 意地悪く服の上から擦られて、俺は悶えた。



「右も開発してやらなければ、可哀想だ」

「待って、あ、待ってくれ、や、やァ」



 下から挿入された状態で、胸の突起を刺激されると、俺の全身が跳ねた。宰相閣下は挿入したまま動いてくれない。意地悪く指先を動かしているだけだ。その感覚だけで、再び俺の陰茎は張り詰めた。先走りの液が零れ始める。



「どうして欲しい?」

「出したい……ッ」

「そう言うんだったか?」

「あ、あ、イルゼが欲しい……やぁァ」

「そうだ。それで良い」



 宰相閣下が緩やかに腰を揺さぶる。しかし感じる場所には、その刺激は響くだけで、射精するには足りない。



「今夜は、いつもよりも長く繋がっていられるな」

「あ、熱い、熱いよ、体が熱い……っ、あああ!」



 意地悪くまた宰相閣下が腰を揺さぶる。俺は泣き叫んだ。もっと激しく貫かれたいという欲求が強くなっていく。



「乳首だけで果てられるか?」

「む、無理、あ、触って……」

「可愛い頼みだな。ただ、な。俺は意地が悪い。それは、周囲の評価が正確だ。お前の体を開くのが楽しくて仕方がないんだ」



 宰相閣下はそう言うと、後ろから俺の耳の後ろを舐めた。



「ひっ」



 同時に、右胸を強く摘まれる。左手では、脇腹をなぞられ、腰骨をギュッと掴まれた。



「欲しければ、自分で動いてみると良い」

「あ、ハ……ああっ、ア!」



 言われる前に、既に俺の腰は揺れていた。自分でもそれが分かって恥ずかしい。



「そこが好きなのか?」

「ゃア、もっと、もっと奥、あ、足りない――やあああ!」



 体が熱すぎて、解放を求めていて、俺は泣き叫んで髪を振った。すると俺の目尻の涙を端正な指先で、宰相閣下がなぞる。そして耳元で囁いた。そこに触れた吐息だけでも俺の体は熱くなる。足の指先を丸めて、俺は快楽の本流になんとか耐えようとする。



 ――その時だった。全身が、カッと熱を帯びた。



「え」



 宰相閣下は動いていないというのに、俺の先端から、たらりと精液がこぼれた。



「やあああ、嘘、あ、ああああ!」



 繋がっているだけで俺は果てていた。全身が震え、汗がこみ上げてくる。呼吸が出来ないほどの強い快楽に、全身が絡め取られた。



「もう一度。その感覚をよく覚えておけ」



 宰相閣下はそう言うと、俺の腹部を抱きしめるように、ギュッと腕を回した。どんどん俺の内側から快楽がせり上がってくる。



「やぁ、ま、また出る、あ、イく、イく、ああああ、イっちゃう――うああああ!」



 再びダラダラと緩慢に俺は射精した。するとグっと俺の感じる場所を宰相閣下が突き上げた。しかし動いてはくれない。



「たまにはスローも良いだろう?」

「あ、あ、スロー?」

「繋がっているだけでも果てられる。俺の体がそこにあるだけで、果てられるようになれ。乳首もすぐに開発してやるがな」

「や、やぁ、またクる。あ、イく、やぁあああ!」



 その夜――俺達はずっと繋がっていた。俺は何度も緩やかに放ち、宰相閣下も俺の中へと放ったのだった。



 翌朝、目が覚めると体が綺麗になっていた。宰相閣下が処理をしてくれたらしい。気怠い体で毛布を掴みながら体を起こすと、丁度隣の執務室から宰相閣下が顔を出した。



「――大丈夫か?」

「う、うん。体は……思ったよりもずっと楽だ。あんなに、その、シたのに」

「それがスローだからな」



 俺は教えられたスローセックスが決して嫌いではないと思った。ただ、これ以上開発されたら、俺はおかしくなってしまいそうだ。



 その後、俺は宰相閣下が取り寄せてくれて、陛下の直属部隊の制服に着替えた。そして宰相閣下の執務室で、軽食をとる。二人で食べるサンドイッチが、無性に美味に思えた。



「今日で八の月も終わりだな」

「そうですね。今週からは、来週の大陸会議に備えないと」

「既にあちらの迎賓館には、お前と泊まると話してある」

「……本当に俺もご一緒して良いんですか……?」

「お前以外と泊まる事が考えられない」



 そんなやり取りをしてから、俺は職場へと向かった。すると珍しく物憂げな顔をしているユースがいた。



「ユース? どうかしたのか?」

「昨日……レフェル様に告白されちゃって」

「え!?」



 急展開に俺が呆気にとられると、ユースが遠い目をした。



「ご存知無かったんですか? まぁ、隊長は鈍いしなぁ」

「そ、それで、なんと答えたんだ?」

「俺はタチだし向こうもタチだし、きついかなって」

「お前って上なのか!?」

「どういう意味ですか? 俺も男なんで、突っ込みたい方ですけど」



 そういうものなのか。俺は、宰相閣下に対して、今では挿入したいといった思いは無い。端緒こそ、どちらが上なのか迷ったものではあるが。



「ただ……レフェル様、顔は好みなんです。俺、隊長の顔も好きだし。二人、よく似てるし」

「まぁ従兄弟だからなぁ――確かに似てるかもしれないが、俺の顔が好きだったのか?」

「隊長、美人さんですからね」



 あまり言われた事がないので、実感がわかないでいると、他の部下達が訪れた。なのでこの話はそこで終了した。



 しかし驚いた。レフェルは本当にユースの事が好きなのか。俺の知らない所でも、恋愛模様というのは、進行しているらしい。