【9】インテリジェンス・デザイン――美術――
さて四日目。やはり本日も目覚まし時計を叩いたのは時野だった。時野は根が真面目だ。
朝食をとりながら、皆で勝手に着いたモニターを見る。
「はーい。本日の課題は、美術です」
高瀬が朗らかに宣言した。なんでも水彩画を描いた後、彫刻をするらしい。
「俺、美術の成績Bだぞ」
時野が呟いた。すると縁が片目を細めた。
「美術とは観賞するものであり、手がけるものではありません」
すると要も両手でカップを握り、小さく吐息した。
「俺もあんまり得意じゃない」
それを確認するように頷いてから、縁が相を見た。
「貴方は得意でしょう?」
「おぅ、まぁまぁだな」
「美大志望なのでしょう?」
「一応な」
全然知らなかった時野が顔を上げると、相が指で頬を掻いていた。
「モデルが一人か」
要が言うと、縁が時野を指さした。
「貴方は芸能人なのですから、モデルには慣れているでしょう?」
「え」
「本来であれば美しい私が行くべきかも知れませんが、残念ながらユンゲラーが私を待っているのです」
「は?」
縁はそういうとベッドへと向かい、ゲーム機を手に取った。要もまた立ち上がると、自分のベッドに座った。どうやら時野がモデルになることが決まってしまったらしい。困惑している時野に向かい、相が言った。
「行くか」
こうして相と時野で指定された会場へと向かった。しかし相と美術……絵画などイメージが結びつかない。不安に思いながらも、時野は椅子に座った。鉛筆を持った相は、いつになく真剣な顔をしていた。じっと時野を見据えている。
まぁ、大丈夫か。なんとなく時野は思った。そもそも自分には絵心はないわけだし、失敗したところでペナルティがあるわけでもない。本日は食事抜きとも言われていない。
「なんだよ?」
描いている相を見ていると、不意に声をかけられた。二人きりで話すのは、思えば初めてのことだった。少し焦ったものの、時野は率直に告げた。
「いや、絵とか印象になくて。よく描くのか?」
「まぁなぁ。俺、アクセショップ経営してるんだよ。シルバー」
「へ?」
「それのデザイン画とかはよく描くな」
言われてみれば、相は趣味の良い小物を多数身につけている。
それから暫く雑談をした。その内に、相が描き上げた。
「どうだ?」
「え、上手っ……すご……」
そこには写真も吃驚の絵が広がっていた。人は見かけによらない。なんとなく時野はそんな言葉を思い出していた。しかし午後が本番だった。
その日相が作り上げた彫刻は、後にオークションで高値が付くことになる。
「と、とにかくさ、すごかったんだよ」
部屋に戻り、時野は相のすごさを力説した。ゲームを中断したらしい縁は、しかしあまり興味がない様子で、曖昧に頷いている。要にいたっては寝ていた。
「そんなに褒めるなよ」
照れくさそうに笑った相は、それから何でもないことだというようにシャワーを浴びにいった。そんな夜だった。
五日目は美術の専門家による判定会らしく、一同は休みとなった。