【10】インテリジェンス・デザイン――体育というか武道――
そのようにして、六日目が訪れた。
航海も残すところ、後二日だ。明日には、どこかの港に到着することになっている。
「ええ、本日の課題は、体育です。格闘技! 各組代表者によるトーナメントを行います」
朝食のポテトを食べながら、四人はモニターを眺めていた。
「私は暴力は嫌いです」
「俺、体力無いよ」
縁と要がそう言った。すると相が頬杖を着いた。
「俺、裏番とか言われてるけどな、喧嘩クソ弱いぞ。まぁこれはあれだな、芸能人ファイト」
その声に、時野は笑みを引きつらせた。か、格闘技……。確かに実家で叩き込まれている。
そしてここまでの間、自分だけ何も活躍していないのは紛れもない事実だった。仕方がない。そう、観念した。
立ち上がり、訪れた案内人に従い部屋を出ようとした時野に、残る三人は気のないエールを送った。全然励みにならねぇよと思いながらも、会場へと向かう。
競技は計三つ。
剣術、銃術、体術だった。
ただし、剣術と銃術は特定の型や流派に乗っ取る必要はなく、対戦相手の体を捉えれば勝ちとのことだった。体術も含めて、相手にリタイア宣言をさせるか、審判員が勝利と判定した方が勝ちとのことだった。
時野は、一応剣道も学んでいた。銃に関しては、海外旅行の際に練習場のスクールに通わせられたことがある。だからどちらも、一通りは出来る。それが時野の自負だった。
しかし、深山家は、SPを多数輩出している名門中の名門だ。深山家の一通り、普通は、世間一般の普通とは異なる。時野は、優秀な、深山家の跡取りである。
剣術、一回戦目は、日向と対峙することになった。
「まさかお前が相手とは。俺は剣道三段だ。精々恥をかけ」
開始直前、日向が嘲笑するように時野に囁いた。一方の時野は特に家以外では竹刀をはじめとした剣になど触れたことがないため不安でいっぱいだった。
「開始」
高瀬の声がした。
すぐに日向が竹刀を向ける。その時――時野には、はっきりと残像のようにその先の動きが見えた。ああ、右から来る。そう思った時には体が自然と動いていた。
バシンと高い音が響き渡る。
「勝者、深山時野」
膝を突いた日向は、何が起きたのか分からないという顔で、目を見開いていた。
その後も次々と時野は、相手を倒していった。本人は不安でいっぱいだったのだが、誰もそうとは思わない。次の銃術も同様だった。
「……っ、お前は、暗殺者か何かなのか?」
気づいた時時野は、元オリンピック代表の芸能人の眉間に銃口を宛っていた。
剣術、銃術共に時野の圧勝だった。無論それは体術もかわらない。
全てが終わった時、時野は全身を心地の良い脱力感に襲われていた。
「すごかったねー、時野! まさか君にこんな才能があるとは思わなかったよ」
試合が終わると、笑顔で亮生が歩み寄ってきた。タオルと、凍ったペットボトルをうけとり、ふにゃりと力無く時野が笑う。亮生は意気揚々とした面持ちで、「今度戦隊ヒーローものとかやってみる?」なんて言っていた。
亮生に連れられて部屋へと戻る。
室内にはいると、寝転がった縁はゲームから顔を上げ、相は棒付きアイスを銜えているところだった。要はシャワーらしい。