【28】録画
球体装置も、ガラスケースに入れて持ってきた。
「成功しましたね、会話は成立です」
縁が部屋につくなり、誇らしそうに笑った。
「本当に縁さんのおかげだよ」
頷いた要も微笑している。それから彼はパソコンに向かった。
相は早速スケッチブックを開いている。皆のために、時野は紅茶を入れた。インスタントだ。
「それにしても、記録装置があるからと言って、それを再生できるのですか?」
縁が聞くと、要がキーボードを動かしながら答えた。
「同じ人間が考えたものだから、全く違う技術と言うことはないと思う。あちらの方が、文明水準は高かった可能性があるから、そう言う意味では、現在の技術ではまだ再生困難かも知れないけど。少なくとも再生装置を今後作り出すことは出来ると思う」
そういうものかと時野は頷いた。
「やるべき事は、五つだね」
要が打ち込みながら言う。
「一つ目は、キメラを退治するウイルスの作成。二つ目は、そのためにも古代文字……神代文字の解読。三つ目は、今回渡された記録の解析。四つ目は、三種の神器というものの発見。五つ目は、三種の神器の使用方法の理解」
「それで人類は救われるのですね」
縁が頷いた。
「三種の神器って神宮の宝物殿にあるんじゃないのか?」
相が聞くと、縁が考えるような顔をした。
「レプリカだと言われていますよね。本物は、平家が滅んだ時に沈んだとか」
「海の底にあるのか?」
時野が言うと、要が溜息をついた。
「剣と勾玉と鏡だよね? それでどうやって、宇宙人の生物兵器を倒すんだろう」
確かに想像がつかない。要は、それからソファに移動して、カップに手を添えた。
「それにこの球体……」
ガラスケースを一瞥した要を見て、時野が首を傾げる。
「これ、2KHの立体パズルみたいだな」
何気なく呟いたその一言に、要が息を飲んだ。
「まさか」
狼狽えたように呟き、要が球体を取り出す。そして――二つに割った。
あっけなくひらいたそれを、相と縁もまじまじと見る。
中から出てきたものを見て、一同は虚をつかれた。
「USBメモリ?」
時野が率直に言うと、要の顔色が変わった。
「そうか……俺達の文明の発達レベルをこの水準に想定して、記録を作成したのかも知れない。これなら解析できる」
要が、ノートパソコンと共に手渡されていたらしい携帯電話を手に取った。
「廉、解析用にパソコンが欲しいんだけど……そう、エリア9だね」
すぐに通話を打ち切り、要が立ち上がった。
「行こう」
そのまま皆で、エレベーターに向かった。今は要も鍵を手渡されている。
地下九階へと向かうと、そこには壁一面に備え付けられた巨大なモニターがあった。
様々な文字が記された、見たこともないようなキーボードが並んでいる。
各国の言語に対応しているのだろう。要は迷うことなく、USBを接続した。
そして再生した瞬間、それまで光り輝いていたモニターの電源が落ちた。どころか、室内が停電した。
「壊れてんのか?」
相の言葉に、要が焦るように首を振った。
「違う、スペックが足りないんだと思う。ああ……クイーンズ教室の俺のパソコンがあれば……」
悲痛な声が響いた時だった。
「あるぞ」
四人の後ろから声がかかった。見ればニヤリと笑った廉が、白衣のポケットに両手を入れて立っていた。
「エリア10に運んである。すぐに行け」
その言葉に、要が走り出した。いつも冷静沈着な要のこういう姿は珍しい。
そのまま階段を走り、四人は地下10階に降りた。
そこにあったのは、一見すると、普通の日本用のパソコンだった。要はタワー型のパソコンに、壁に設置されたスクリーンへ接続する端子をさす。それから、USBを挿入した。
今度は、パソコンの電源が落ちることはなかった。
「行くよ」
そう言って、要がENTERキーを押した。
すると、走馬燈のように、いっきにめまぐるしく代わる画像が流れた。同時に無理に圧縮されたような音楽も流れた。それは、一瞬で終わった。
「録画できた……」
要がマウスを操作しながら呟く。そして、先ほどの映像を、一枚一枚の画像として再表示させた。そこには膨大な量の画像がある。全てが動画ファイルの形式で、要が試すように一番最初のものをクリックすると、今度はゆっくりと音楽を伴って流れた。字幕のように、神代文字も表示されている。映し出されているのは、紛れもない人間と、そして現代とはどこか異なる科学技術だった。
古いものは石器時代のものらしい。要が別のウィンドウを開き操作すると、楽譜が表示され、その下にひらがなが現れた。
「音からあいうえお表を作ったのですか?」
「うん」
頷いた要が、動画ファイルの音声を解析させる。今度開いたファイルには、「素戔嗚尊」と表示された。音楽と日本語と神代文字が対応するように動く。
「文字の解読も出来る。これでキメラを退治することができるようになる。後は、三種の神器を探すだけだよ」
要が信じられないといった表情で画面を見ながら呟いた。
その時再び後ろから声がかかった。
「三種の神器なら、既に確保してある」
やはり廉の声だった。要が驚いたように振り返る。
「使い方は分からないけどな」
歩み寄ってきた廉が、無造作にポケットから黒い物体を三つ取り出して、パソコンの乗るデスクの上に置いた。
「オカリナ……?」
眉を下げて、時野が自信なく呟いた。オカリナに見える。
「分からん。次はこれを調べて、使い方を発見してくれ」
「どこでこれを?」
要が呟くように言うと、廉が楽しそうに笑った。
「日本は不思議がいっぱいだ」
「廉……ごまかさないで。冗談は良いから」
「現時点でお前に知らせる情報はない」
「発見地点にヒントがあるかもしれない」
要が不機嫌そうに声をあげる。苛立っている姿など、時野は初めて見た。
「無いな。断言する。お前は余計なことを考えずに調べればいい」
そう言うと廉は踵を返した。すると要は疲れたように肩を落としたのだった。