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 恋人関係になったものの――別段、俺と水栄の関係に目立った変化は無い。放課後部室で顔を合わせるだけだ。若干の変化としては、元々朝と寝る前に着ていた挨拶のラインの文面に、『おはようございます』の他に、『好きです』と加わるようになった事は……変化としても良いだろう。付き合い始めて今日で五日。明日は初の週末だ。

「ど、どこか行くか?」

 俺は、恋人とはデートをするものだという観念を抱いていたので、勇気を出して聞いてみた。すると水栄が、じっと俺を見た。

「――部長の部屋、行ってみたいです」
「俺の部屋? 何も無いぞ。ゲームとかをしたいなら、それこそ和田の部屋が良い」
「いや、別にゲームがしたいんじゃなくて……部長と二人きりになりたいだけです」
「? 今も二人きりだろ?」

 首を傾げた俺の前で、水栄が深々と吐息し、何故なのか肩を落とした。

「部長は、俺が部屋に行くの、嫌ですか?」
「別に良いけど。本当に、何も無いからな?」

 こうして、翌日は、水栄が俺の部屋に来る事に決まった。

 部屋の番号を伝え、俺は当日、軽く掃除をしてから水栄を待った。
 待ち合わせは、午前十時。その五分前に、部屋の呼び鈴が鳴る。

「お邪魔します」
「どうぞ。な? なんにも無いだろ?」

 俺は殺風景なリビングを見渡した。我ながら、何も無い。俺は、あまり無駄なものを置かない主義なのだ。

「そんな事無いですよ」
「ん?」
「部長がいます。それだけで、俺にとっては何があるよりも貴重だから」

 水栄は、そう言うと俺の腕を引いた。いきなりの事に動揺しながら、俺は水栄の腕の中に収まった。目を見開くと、じっと覗き込まれる。水栄は、非常に真剣な顔で、俺を見ていた。

「――俺、もう我慢できないです」
「え、えっと……」
「部長。俺、部長が欲しい。俺とベッド行って下さい」

 率直に言われて、俺の顔は、火が付いたように熱くなった。
 ――付き合う。もう俺達は子供では無い(?)のだから、当然こういう事態も、俺は想定していた。部屋に来たいと言われた時、少しは想像もした。だが、チャラくは無くなったと聞いていたから、ここまで唐突だとは考えてもいなかった……。

「風呂、とか……」
「入ってきました」
「いや、あの、俺の方が……」
「気にしないです」

 そんなやりとりをしつつ――俺は、押されるがままに、寝室へと向かう事になった。
 手首を握られ、連れて行かれたと言える。
 寝台の前で、軽くトンと押されて、俺はベッドに座った。

 すると顎を持たれて上を向かされ、唇を重ねられた。最初は触れるだけのキスで、それに安心していたら、すぐに舌が入ってきた。俺の初めてのチュウである。

 さて――水栄が性的玄人だというのは、本当だったらしい。

「ァ……」

 気づいた時には服を剥かれていて、俺は陰茎をねっとりと舐め上げられていた。抵抗しようと思っていたわけではないが、抵抗する暇も無かった。筋に沿って丹念に水栄の舌が行き来し、唇に力を込めてカリ首を刺激される度、俺の腰が震えた。

「わ、悪い、もう、出る、出そうだ……ッ」

 既にガチガチに反応してしまった俺は、このままでは水栄の口の中あるいは顔に出してしまうと恐れた。俺には別に顔射願望は無い。

「ぁ、ぁぁ、あ、おい、離せ、出るって――ン!!」

 そのまま、水栄が口の動きを早めたものだから、結局俺は出してしまった。荒く吐息しながら、羞恥に駆られてきつく目を閉じる。

「部長、可愛い」
「な、何言って……それよりお前、何、飲んで……」
「ご馳走様です」

 そう言うと水栄が、微笑した――のだが、この時初めて俺は、水栄の少し意地の悪い表情を見た。それから俺は、寝台の上で、猫のような体勢にさせられた。

「最初は、後ろからの方が楽だと思うから」
「あ、ああ……」

 俺が下側なのかと聞く暇も無かった。水栄の頭の中では、俺が突っ込まれる方で決定済だったようである。俺はこれでも、何度か付き合い始めてから、どちらが上なのか考えたのだが、それは無駄だったようだ。

「っ」

 ローションを指にまぶした水栄が、右手の人差し指をゆっくりと俺の中に入れた。クチュリと音がする。ゆっくりとゆっくりと、第一関節まで進み、第二関節まで進み、そして指の根元まで入った頃には、俺は震えていた。

 その箇所しか、体の中で意識出来なくなってしまったような錯覚がする。
 水栄の指の事しか考えられなくなる。
 圧倒的な違和感があった。それに必死に耐えていた時、水栄の指先が僅かに動いた。

「ぁ……」

 次第に指が振動を始める。最初は軽く動かされていたものが、徐々に揺れ動き、クチュクチュと音を立て始めた。少しずつ俺の中が広げられていく。抜き差しが始まったのは、その直後だった。最初は内側のみで、軽くつつかれ、その内に第一関節くらいまで引き抜かれては、再び根元まで挿入されるようになった。ぬるりとしたローションが、俺の体温に同化していく。その不思議な感覚に、シーツをギュッと握りしめて耐えていた時――水栄の指先が、俺の奥の感じる場所を掠めた。

「あ」
「――ここ?」
「あ、あ、あ」

 見つけ出した、勝手に声が漏れてしまう場所を、水栄が何度も刺激する。その度に俺の喉は震え、ジンと熱のようなものが込み上げてきて、陰茎へとその熱が伝わった。

「部長は、ここが好いんだ?」
「ン……あ、ハ」
「指、増やすから」
「!!」

 その時、一度指を引き抜かれ、今度は二本の指――人差し指と中指が入ってきた。俺の菊門が押し広げられ、ローションでぬめってはいるものの、キツキツの中を指が暴いて進んでくる。二本が中へと入ると、かき混ぜるように動かされた。そして動きがスムーズになってから、二本の指先で、迷いなく中の感じる場所を突き上げられた。

「うあっ、あ、ああっ」

 すると射精しそうになったから驚いた。痛みは無い。快楽だけが強い。
 再び硬度を取り戻した俺の前は、すぐに先走りの液を零しはじめる。
 指が次第に前後に動き始め、ギリギリまで引き抜かれては、まっすぐにそこを突き上げるように入ってくるようになった。抽挿される感覚に、俺は背筋をしならせる。

「部長、挿れるよ」
「あ、ああ……ン!!」

 水栄が俺の中に入ってきた。指とは全く異なる存在感と熱に、俺の体が震える。ぐちゃりと音がした。既に硬くなっていた水栄の陰茎が、俺の内壁を広げながら進んでくる。俺の腰を掴んでいる水栄は、もう俺を逃す気は無いというように、じっくりと体を進めた。

「全部入った。部長、どうですか?」
「あ、はっ……う、うう……熱い……」
「痛くない?」
「ああ。痛くは……っ……」
「じゃあ、動きますよ」
「あ!」

 陰茎を揺らした水栄は、それから緩慢に動き始めた。俺の体を気遣ってだったのかもしれない。馴染むのを待つようにして、俺の呼吸が落ち着くのを待ってから――水栄は、ゆっくりと引き抜くようにしては、また同じくらいの速度で突き入れ始めた。次第にその動きは増して行き、段々激しく打ち付けられるようになった。

「あ、ああっ、あ、ン」

 突き上げられる度、俺の口から嬌声が溢れるようになる。
 引き抜かれる時には一抹の寂しさを覚え、貫かれると全身が歓喜するように、すぐに変わった。

「ひっ!!」

 水栄の先端で感じる箇所を突き上げられた時、俺は悲鳴に似た声を上げた。
 するとそこばかり意地悪く水栄が突き上げ始める。

「あ、あ、あ」
「部長、本当可愛いな」
「そこ止めてくれ、おかしくなる」
「なって。乱れて下さい。本当、夢が叶った気分で……実際、叶ってます」
「ンぁ、ああっ、あ――!!」

 前立腺を突き上げられる形で一際大きく動かれた時、俺は射精した。中だけで果てられるという話は聞いていたが、実体験する日が来るとは思ってもいなかった。再び俺の呼吸が落ち着くまでの間、水栄が動きを止めて待っていてくれた。このリズム、やはり玄人なのだろう。想像よりも、俺の体は辛くない。

「まだ朝ですからね、ゆっくり覚えて下さい」
「ン……――え?」
「今日は一日、俺と二人っきりです」

 俺は水栄のその言葉の意味がよく分からなかった。
 首を傾げつつ、再び動き始めた水栄を意識する。

「ぁ……ああっ」
「部長の中、気持ち良いです」
「ン――っ、ぁ、ァ」

 水栄は腰をギリギリまで引き抜いては、深く深く進めるようになり、再び動きを激しく変えた。その度に俺の中が広げられていく。気持ちの好い場所を覚えさせられた後は、それ以外の様々な場所を全部探るように色々な角度で貫かれた。

「あ、ああっ、うあ、あ!!」

 腰を使ってかき混ぜるように動かれた頃、俺はむせび泣いていた。
 あんまりにも気持ち良かったからである。快楽から逃れようと体を退こうとしたら、体重をかけられて、シーツの上に押し付けられた。身動きを封じられた状態で腰を揺さぶられる。

「う、うあ、あ、あ、ま、また出る、あ」
「――イきすぎると続けるのが辛くなるから、我慢して、部長」
「ん――!!」

 水栄が俺の陰茎の根元を握りながら、腰の動きを再開した。

「やァっ」

 前立腺を突き上げられながら、射精を封じられ、俺は身悶える。
 そのくせ、水栄は意地悪く、親指の腹では俺の鈴口を刺激し、蜜を絡め取っている。

「水栄、い、イかせてくれ……ひっ」
「しょうがないなぁ」
「ああっ!」

 俺の懇願に、ガンガンと水栄が腰を打ち付け始めた。中を突き上げられて、再び俺は果てた。それから反転させられて、乳首に吸いつかれる。

「んっ、ぁ」
「こっちも可愛がってあげないと」
「あ、あ、っ、ン」

 甘く胸を噛まれながら浅く抽挿され、俺は涙を零した。
 ――こんなにもSEXが気持ち良いとは知らなかった。

 その後、お昼を過ぎてから水栄が果てるまで、俺は体を繋いでいた。