【22】牛歩
「芹架の事を送ってきてくれて、ありがとうございます」
侑眞の声に、昼威は小さく頷いた。
本日は木曜日だ。いつも火曜日にばかり顔を合わせているから、少しだけ不思議な気分である
「気にしないでくれ。斗望が一緒だったんだ。ついでだ。じゃあな」
「――明日も早いの?」
「クリニックはいつも通りに開ける。患者の予定は無いけどな」
「じゃあいっぱいどうです?」
「車だ」
「残念だな――じゃあ、また」
そう言うと、侑眞が手を振ったので、昼威は御遼神社を後にした。
そして、少し歩いてから振り返った。
「――日曜日、珍しく救急のバイトが休みでな」
「そうなの?」
「ああ。別に、特に意味はない」
別に、と、咄嗟に付け足したのは、昼威自身、なぜそんな事をを告げたのか理解できなかったからだ。しかし昼威の気持ちを昼威よりもあるいは読み取る事に長けている侑眞が息を飲んだ。
「じゃあ、週末、一緒に過ごせる?」
「――ああ、そうだな。暇だからな」
「デートでも行く?」
「っ、な」
思わず咳き込み、狼狽えて昼威が振り返った。それから慌てて周囲を見わたすが、幸い誰の姿もない。
「先生、どこか行きたい所はある?」
「え、いや……デ、デートって……」
声を潜めて昼威が繰り返すと、侑眞が楽しそうに笑った。
「じゃあ、俺が決めていい?」
「あ……ああ。別に構わない」
このようにして、二人の関係は、本当に牛歩で、少しずつ前進していく。