【26】友達以外の意味で(★)




「それが本当だとしたら……あ、あのさ……僕のどこが好きになったの?」

 意を決して僕が聞くと、水咲が小さく首を傾げた。僕は座り直して、正面からそんな水咲を見る。

「さらしな荘で寂しそうな顔をしていた時、あの一瞬で惹きつけられた。元々気になっていたのとは比較にならない瞬間だったな。俺の手で笑顔にしたいと感じた」

 それを聞いて――僕は、ギュッと両手の指先に力を込めてから、勇気を出してみる事に決めた。

「僕も少しは水咲の事が好きになったかもしれない。友達以外の意味で」
「――本当か?」
「う、うん。だから、その――」

 ちょっとだけなら体を、と、言おうとした時には、正面から抱きしめられて、僕の後頭部には水咲の手があった。強く腕を回され、僕は額を水咲の胸板に押し付けられていた。

「嬉しい」

 水咲はそう言うと、僕をさらに強く抱きしめた。その体温に、胸がドキリとする。水咲の柔らかな髪が僕に触れている。ここに来て僕は、ガチガチに緊張してしまい、体をこわばらせた。そんな僕を一度腕から解放すると、トンと水咲が僕に軽く触れ、あっさりと押し倒した。

「ん」

 そのまま、顎に手を添えられて、深く唇を貪られる。すると、鼻を抜けるような息が漏れた。舌を絡めとられ、深く口づけられていると、次第に息が上がって行き、体が弛緩し始める。

 ――水咲は、手馴れている。

 そう思いながら、僕は胸元のシャツのボタンがはだけられるのを確認していた。緊張はしているが、余裕が皆無というわけでもない。その時、僕の鎖骨の上に、覆うように水咲が手を置いた。僕よりも体温が低いらしく、ひんやりとしている気がした。

「声が聞きたい」
「僕はあんまり出したくない」
「そうか」

 僕の答えに、水咲が喉で笑った。そして僕の首筋に唇を落とす。ツキンと甘い疼きが広がったから、僕は背を反らせて体を震わせた。

「色が白いな」
「あんまり店の外に出ないからね」
「日焼けをする妖なのか?」
「え?」
「日に当たっても人とは違い、必ず焼ける妖ばかりではないだろう? 寧ろ、珍しい」

 言われてみれば、確かにそうだ。僕は、先日の北斗さんとのやり取りでも思ったが、人間基準でモノを考えてしまう時がたまにあるらしい。そういう部分は、僕が非力で人間により近いからだと思う。

「考え事とは余裕だな」
「っ」

 その時、胸の突起を弾かれた。僕が息を詰めると、水咲が少しだけ意地悪く笑う。それからゆるゆると、僕の乳頭を指先で嬲った。

「ぁ……っ……」
「艶っぽいな、砂鳥は」
「っ、言われた事が無いよ」
「では俺が、初めてか。他の誰かには、こういう姿を見せるなよ。そうすれば、俺以外、艶があるとは言わないだろう」
「……ン」

 約束できないと言おうとした時、強めに乳首をつままれて、声を上げそうになったから、慌てて僕は口を引き結んだ。すると水咲の右手が、僕の下衣の上から陰茎を撫でた。その刺激に、カッと頬が熱くなった。

「水咲、服が汚れる」
「そうだな」

 一度体を起こし、僕は服を脱ぐことにした。もちろん服を象る事は可能だから、汚れたら来ている姿を作り出せば良いのだが、脱げるものは脱いだ方が楽だ。僕は普段は、人間の服を着ているのである。

「砂鳥」

 僕が脱ぎ終わると、水咲がそっと僕を抱きしめた。優しい温度と腕の感触に、今更ながらに照れてしまう。それからゆっくりと、太ももに手を添えられた。

「っ、あ」

 水咲は僕の陰茎を咥えると、丹念に舐め始めた。思わず水咲の肩に手を添える。次第に口の動きが早くなっていき、あっけなく僕の陰茎は頭をもたげた。そうしてしばらく口淫された後、二本の指が僕の中へと入ってきた。

「ッ」

 痛みはない。じっくりと慣らすように指を動かされると、じわりじわりと全身が熱で絡め取られ始める。体は解れても、心はこの快楽に慣れられそうにはない。そう思っていたら、陰茎を菊門にあてがわれた。

「ん――!」

 水咲の先端が中へと入ってくる。僕は太ももを閉じそうになった。すると水咲が片手で僕の右足を持ち、角度を変えて一気に挿入した。

「あ、ああっ」

 その衝撃には、声をこらえきれない。着実に入ってくる固い熱が、僕の体温と混じり合っていく。根元まで入りきった頃には、僕の肌はびっしょりと汗をかいていて、髪がはりついてきていた。涙ぐんだ僕は、水咲を見る。

「ん、ア、ああっ」

 抽挿を開始した水咲の動きに合わせて、僕の口からは嬌声が漏れる。正直な話――気持ちが良い。そう思ったのは、奥深い場所を強めにつき上げられた時だった。

「っ、ン――!!」

 その後、水咲が動きを早め、何度も僕の感じる場所を突き上げた。快楽に震え喘ぎながら、次第に昂められ、気づくと僕は放っていた。

「あ、ハ」

 肩で息をしていると、一度動きを止めて、水咲が僕を気遣うように見た。

「大丈夫か?」
「う、ん……」
「悪いが俺は、もっとおまえが欲しい」
「あ、ああああ!」

 その後、水咲が動きを再開したので、僕は思わず声を上げた。それから必死で息をして、体から熱を逃がそうと試みる。しかし上手くできないでいる内に、すぐに再び、僕の体は快楽に絡め取られた。

「ん、あああア!」

 そうして水咲が果てるのとほぼ同時に、僕は二度目の精を放ったのだった。

 ――事後。
 二人で寝転がりながら、僕は水咲の腕の中にいた。布団は二つしいてあるのに、僕達は水咲の布団の上に寝ている。

「少し休め」

 水咲は僕の髪をなでると、そう言った。それが気恥ずかしく思えて、僕は無言で頷き、目を閉じたのだった。