【5】緑羽ゼクス(★)
さて……高砂は、転移装置で急いで王都近郊の富裕層向けの住宅街へと移動した。
そして内心では焦っていたが、平静を装い、呼び鈴を鳴らした。
「高砂……?」
出てきたのは、緑羽である。普段は、緑羽ゼクスと名乗っている。
首を傾げている麗人を見て、そのまま中へと押し返し、片腕で抱きしめながら扉を閉めた。
「え、お、おい……? っ、ん……」
そのまま高砂は、緑羽の顎を持ち上げて唇を貪った。慌てたように緑羽が押し返そうとするが、失敗して体勢を崩した。その腰を抱きとめて、もう片手は首の後ろに回し、高砂は続いて和服から覗く首筋に噛み付いた。
「ま、待ってくれ、ここは玄関だ……」
「玄関じゃなければ良いの?」
「っ、ぁ、あ、いや、あ、あの……」
動揺している緑羽の鎖骨をなぞり、高砂が目を細める。
いきなりやって来て、いきなり襲って来た高砂に、緑羽は大混乱していた。
高砂が右の首を舐めながら、指では緑羽の左の鎖骨を撫でる。
ツキンと体の奥が熱くなり、緑羽は涙ぐんだ。
実は、マインドクラックされた高砂を救助する過程で、意識現実の中で体を重ねて以来、こうして現実に戻ってからも、たまに触れられるようになったのだ。
マインドクラックだと分かっていてさえ、緑羽は性的な事柄に疎かった。
だから現実ではなおさらなのだが、高砂を拒めない。
それは、二人が許嫁だからではなく……緑羽が高砂を好きだからだ。
まだ結婚はしていない。
酷いsexばかりで、高砂側からの愛など感じたことがなかったというのは、そのまま事実である。しかし、あのマインドクラック以降、日参する高砂に優しく抱かれすぎて、緑羽は怖い。こちらこそが現実ではない気がして、何度も調べてしまった。
震える手を高砂の背中に回す。指先で、軽く服を掴んだ。
目が合う。それから再び深く口付けた。舌を甘く噛まれて、緑羽の体がピクンと跳ねた。
それを見て高砂が、体を離して緑羽を解放した。
「玄関じゃなく、どこを希望してるの?」
「えっ、あ、あの……お、お風呂に入ってこようと思う」
「俺あんまり浴室プレイみたいな趣味はないんだけど」
「ち、違っ……違う!」
真っ赤になった緑羽を見て、小さく高砂が吹き出した。
こうして二人でリビングへと向かい、緑羽がお茶を用意した。
緑羽の中で、性的な事柄とは、寝る前に行うのである。
それに仕事帰りで疲れているだろう高砂にも休んで欲しかった。
いつものことである。
だが、この日はいつもとは違い、高砂はお茶を飲まず、湯呑みを置いた直後の緑羽の手首を引いた。畳の上で、体勢を崩した緑羽を、高砂が抱きとめる。
「俺は我慢できないんですけど」
「え……」
「お風呂は後で入ったら?」
そう耳元で囁きながら、高砂が両手で強く緑羽を抱きしめた。
「何かあったのか?」
「何かないと、こうしちゃダメなの?」
「っ、い、いや、そ、その……」
高砂に耳朶を噛まれて、緑羽が真っ赤になった。瞳が潤んでいる。
大きな高砂の手が、着物の合わせ目から入り、緑羽の和装を乱してから、左の乳首を掠めた。そのまま親指で乳頭を弾きながら、もう一方に手の指を二本、緑羽の口に押し込む。指で舌を刺激され、緑羽が震えた。後ろから抱きかかえられ、しばらく緑羽はそうされていた。高砂は時折緑羽の耳の裏舌でなぞる。その度に、緑羽がピクンとした。
「あ」
緑羽の唾液で濡れた自分の指を、高砂が緑羽の中へ進めた。左手では緑羽の陰茎を握り、右手を進めたのである。膝を立てている緑羽は、突然のことに息を飲んだ。ここのところは焦れったいほどに慣らされてばかりだったため、このように性急なのは久方ぶりだった。しかし既に高砂の体温に慣れきっている体は、すぐに指を受け入れる。これは、高砂が指でPSYを操作していて、PKで体が弛緩したことも理由の一つだ。指を進めた高砂は、その状態で緑羽にキスをした。
「!」
目を見開き、緑羽が逃れようとした。全身の力が抜けていき、頭が真っ白になった。
「ああああああああああああああああああああ」
高砂がそのまま容赦無く、緑羽の青otherを経口で抜き取ったため、全身を快楽が埋め尽くした。青を吸収されると、ただでさえ気が狂いそうな快楽が生まれる。一瞬キスされ奏されただけだったが、もう果てるギリギリになっていた。思わず叫んだ緑羽に気を良くしたように、高砂が指を動かす。最近は、こういうのは無かった。少し怖くなる。だがそれを訴える余裕が、緑羽には無かった。
「ああああああ!! ダメだ、いやああああっっ!!」
いつの間にか放っていた。その己の白液を高砂に指で掬われ、今度はそれで濡れた指を押し込まれる。次第に水音が響き始めた。緑羽が仰け反る。首が、高砂の肩に触れた。
「あ、あ、あ、ああああっ、んっ、あ、あ」
高砂が指をバラバラに動かす。そして時折、気まぐれに前立腺を刺激した。
「ひっ、ぁ」
「……お風呂だっけ?」
「あ、あ……ぁ………ぁ……っ……」
「入ってきていいよ」
その時高砂が指を抜いた。涙を浮かべた瞳で、緑羽が高砂を見上げる。
高砂はスッと顔をそらした。
我に返ったのだ。もう酷い抱き方はしないと決めていたというのに、乱暴にしそうになったので、自制したのである。だが、緑羽には、単純に高砂に意地悪をされたようにしか思えなかった。昔はよくあったのだ。体が辛い。
だが、羞恥で、自分から求めることなどできなかった。
一度きつく目を閉じてから、緑羽は体を起こした。
熱い体で立ち上がる。高砂はそれを見ないようにしていた。そのため、緑羽の着物を拾っていたのだが、その瞬間に緑羽の足がその上にあるとは思わなかった。
転倒した緑羽を受け止めて、高砂も転んだ。
後頭部に衝撃を感じた高砂は、畳の上で良かったと思いながら、呆然としたように自分の上に乗っている緑羽を見た。無事で良かったと安心して抱き寄せる。緑羽の顔を肩に埋めさせた。そこまでは無意識だったが、そこからは理性が飛んだ。
「うあああああ」
高砂に反転させられ、後ろから深く突かれて、緑羽は泣き叫んだ。求めていた熱に穿たれ、全身を快楽が満たした。激しく抽送され、膝で立っていられなくなると、そのまま押しつぶされるようにして暴かれた。荒々しくされるのは久しぶりだった。絹のような黒髪が汗で肌に張り付いている。快楽で染まった瞳から、涙がわずかに溢れる。
「ああああっ!!」
一際大きく突き上げられ、緑羽は放った。同時に高砂も果てていた。
肩で息をしながら、緑羽がぐったりした。高砂が横に並んで、今度は腕枕をするように、横から抱きしめた。
「も、もう、できない」
「うん」
「……」
「本当に良かった。俺には君がちゃんといて」
「……? どういう意味だ?」
「なんというかね、榎波はともかく時東がちょっと哀れでね」
「ロードクロサイト議長は、まだ意識が戻らないのか?」
「戻らないというより、自発的に戻らないでいるだけだと思うけどね」
「架空の現実意識を採用しようとしているなら、固着点を探して外部から解除して強制的に意識を取り戻させた方が良いんじゃないのか?」
「架空の現実意識用に構築したマインドクラック設定の研究に忙しいみたいなんだ」
「どういうことだ?」
「前にさ、闇猫のゼクスに、俺と時東で逆マインドクラックしたんだ」
「ああ、オーウェンの恩赦式典の少し前か」
「うん。その時に俺が作った、朱匂宮の設定を研究してるから、あの日から一度も目を覚まさないんだと思う」
「……? ならば、本物の朱匂宮であるギルドの副総長を呼べば良いんじゃないか?」
「そこが難しいんだよね。本物より偽物を気に入ってるというか……同化できるわけじゃ無いからわからないけどね」
高砂はそう呟いてから、再び緑羽を抱きしめた。