【8】榎波の見解
度々マインドクラックされる榎波だが、彼はゼクスをいたぶるのが趣味なので、自発的に楽しんでいるだけである。そのため、本当に多忙な場合は、察知して目を覚ます。
この日も比較的強い生体兵器が出現したため、目を覚ましていた。
榎波は、【短距離瞬間移動】をPSY-Otherにより使用できる。
瞬間移動のように加速したり時を遅くしたりするのではなく、本当に場所を、装置なしで移動可能だ。また、【一瞬前行動予知】もできる。ゼスペリアの青こそ持っていないが、実は現法王猊下の孫の中で、一番神の御業と言われる特定指定Otherを使えるのは榎波である。その技能を生体兵器討伐に活かしているし、本人も戦うのが好きだ。
さて、討伐を終えた榎波も、みんなが開いたモニターで時東の行動を見守っていた。
そして、首を傾げた。
「奴の気持ちはよくわかる。私も現実のいけ好かないゼクスより、マインドクラックの中のゼクスが良い。特に、闇猫のゼクスよりも、素朴な牧師が好きだ」
「別にお前に好かれなくたって良い」
それを聞いていたゼクスが目を細めた。
実は、昔二人は付き合っていた。しかし、闇猫だと話した途端、榎波が豹変して、顔を合わせれば殺し合いをする仲になってしまったのである。これは、両親を闇猫に殺害されたため、榎波が闇猫嫌いだからである。騙された感覚だったらしい。だがそんなことは知らなかったゼクスにしてみれば、ただ理不尽なだけだ。そこから二人の仲は自然消滅して今に至る。
「ただ、私は朱匂宮なら、ヤれる。色気を出す役目、いつでも引き受ける事が可能だ」
「向こうがお断りだと思うぞ」
「そうか? 時東の態度から脈なしと思って弱っているところに優しく付け入って、押しが弱そうだから押し切れば、余裕で喰えると思うが」
そういうものなのだろうかとゼクスが首を捻った時、時東が戻ってきた。
転移装置が王宮にある事と、一応彼なりに生体兵器討伐について思い出し、残っているギルドメンバーがいるだろうから話を聞こうと思っていたのだ。
時東が来た時には、既に気配を察知し、モニターは周囲が消失させていた。
みんなの配慮だったが、遠慮なく榎波が見ていたことを言おうとした。
「時東、ぜひ私に色気を―」
「榎波ちょっと来い!」
その手首を掴み、阻止してゼクスが歩き始めた。怪訝そうにそちらを見た時東に、レクスが話しかけ、そちらはそちらで討伐の話し合いが開始された。
さて、使徒オーウェン礼拝堂の中に現在現れている迎賓館の中に、榎波を引っ張り込んで、ゼクスは溜息をついた。亜空間客室なので、二人で入れば二人部屋につながる。鍵を持つと、同じ部屋に繰り返し入る事ができる。
「時東が可哀想だろう! あいつ、変なところで繊細なんだから、からかってやるな!」
「別にからかうつもりはなかった。事実として、私は色気を引き出せる」
「どこから来るんだ、その自信は」
「――現にお前は、色気が出ただろう?」
「え……」
「私との初体験以後、色っぽくなったと言われていただろうが」
「っ」
ゼクスは赤面して俯いた。ゼクスの初めての相手は、榎波である。そして致した後に、榛名達に色っぽくなったと言われたのも事実だ。もう四年も前のことである。当時は、二十三歳だった。
その表情を見ていて、ちょっと押し倒したくなり、そうしようか迷いながら、ふと思いついて榎波が聞いた。
「ところで、最近はどうしていたんだ?」
「ん? 何がだ?」
「性欲処理だ。右手か?」
「……俺は、な、お前と違ってそう溜まる方ではない。ただな、仕事として、未亡人等で相手がいないが敬虔なゼスペリア教徒だから再婚しないという場合は、慣例として聖職者が神の代理としてお相手する。俺にもそういった仕事がある」
「なるほど。上か? 下か?」
「俺は基本的に上だ。お前だけが例外だったんだ!」
「そんなに私が好きだったのか」
「ち、違っ」
本当は違わなかった。ゼクスは今も榎波が好きである。
なお――実のところ、榎波側には、別れているつもりはない。
闇猫は嫌いだし、殺意はわくが、付き合ったままだという認識だ。
「ゼクス、来い」
「っ」
「抱いてやる」
榎波が偉そうに言った。
ゼクスは……気づくと俯いて、真っ赤なまま、小さく頷いていた。