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兄がロードクロサイト議長と食事に行き、一人で早々に岐路へと付いたと聞いていたレクスは、帰りを待っていた。結果、朝の七時手前に、兄ゼクスは、ハーヴェスト邸へと帰宅した。
「おかえり兄上」
「ああ、ただいま」
「ロードクロサイト議長はどうだった?」
「……レクス、お前が俺に渡した調査書を書いた黒色が買収されていないか調査したほうがいい。非常に身持ち固く、奥手であり、性的気配皆無冗談でも言わないとかいうデマ」
「ん? 何かあったのか?」
「いいや。普通に食事をしただけだが、随分と機微に富んだ方だったものだからな」
「優秀な医師だからな、兄上なら話も合うだろう」
「いいや、全く。レクス、俺とアイツを同類だと思っているなら即刻やめてくれ。俺、なんでもするから」
「本当か? じゃあ、ウィルナーディア銀行を買収して傘下にしてくれ」
「やっておく」
「感謝する。そこだけが面倒だったんだ――ああ、もちろん、兄上とロードクロサイト議長が同類だとは思わない。ロードクロサイト議長は、兄上のような変態ではない」
「は!? 逆だろう! 俺のどこが変態だと言うんだ!」
「――兄上が世界で一番好きなものは?」
「レクスに決まってるだろ!」
「それを世の中ではブラコンというし、変態という」
「そういうことじゃなくてだな……」
「まぁいい。兄上も疲れただろうから、早く買収して、休んでくれ」
「買収はもう魔力通信で指示を出して終わらせた。そうだな、無駄に疲れた。少し眠る」
「おやすみ兄上」
レクスが自室へと戻ってしまったので、ゼクスは肩を落とした。
弟は十歳年下である。可愛くて仕方がない。現在ゼクスは二十七歳だ。
なお、時東は二十八歳である。
「……時東修司か……」
一人になった部屋で、ゼクスは呟いた。左手を持ち上げて、手首にヒビが入っているのを確認した。短剣を持っていた手であり、利き手だ。最初に交わされた時に、重力変化魔術で手首を抑えられて、それを対抗魔術で無理に振り払った時に骨折したのである。あちらが『手加減』して魔術を緩めてくれていなければ、もっと完全に折れていただろうが、言葉とは裏腹に手加減してくれたために、僅かなヒビで済んだのだ。
「先ほどの言動で俺の何を探ろうとしたんだ?」
つぶやいてみる。しかしさっぱりわからないゼクスだった。