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 ゼクスが首を傾げた。心底わからないと言う顔をしている。
 魔力を感知していても、疑問符しか見えないので、これが演技ならすごいなと高砂は思った。その時、時東が言った。

「高砂、どうして気づいたんだ!?」
「「!?」」

 時東のその声に、揃って二人が視線を向ける。

「まさか、気づかれるとは……」

 自分の恋心がギルド全体に露見しているのだと考えて、時東は思わず両手で顔を覆った。
 そんなの恥ずかしいではないかと、今更ながらに彼は羞恥にかられたのである。

 しかし周囲は、言うなれば黙示録のような、何か壮絶に凄い自体が、やはり密やかに進行中なのだろうと判断した。それは、ゼクスもである。自分が知らない何かを、ロードクロサイト議長は知っているにだと判断した。ただ一人高砂だけが首をひねる。

 何故ならば時東はオープンかつ面倒臭がりだからである。仮にそんな自体ならば、必須の雑用は周囲に割り振るし、良い案がないかどうかも周囲に堂々と聞くのだ。そういう点も時東の人気の一つである。

「時東、具体的に話して」
「話せるはずがないだろう! 俺にとってこの件は、現在最重要任務なんだ」

 恋愛とは人生を賭けた行為だと内心頷きながら時東が言った。

 周囲がざわついた。

 そんな重要な件など知らないため、ゼクスが息を飲む。
 あからさまに表情がこわばっていた。

 その反応を周囲は、「ゼクス様が凍りつくほどの出来事なのか……」と、とらえた。
 高砂のみ、ゼクスは何も知らないんだろうなと正しく理解していた。

 ゼクスが意を決したように時東の前に立った。

「……ロードクロサイト議長、少し二人で話せないか?」
「えっ!? 二人きり!?」

 恋心に相手は気づいていて二人きりだというのだから、即ちこれは好意自体は比較的歓迎ということだろうと、時東は前向きに捉えた。そのため、珍しく満面の笑みを浮かべた。

 時東は、類いまれなる端正な顔の持ち主である。
 その顔が綻んだ姿には、思わずゼクスも目を瞠った。

 こうして二人は隣室に移動した。高砂を含めて周囲はそれを見守っていた。





「それで、ロードクロサイト議長。重大な任務の件だけどな……あの」
「待ってくれ、チャンスをくれ。もう少し俺に頑張らせてくれ」

 隣室にて、念のため、本当に念のため、振られないように時東は予防線を張った。
 しかしゼクスは、一人で任務を行う気だと判断した。

「俺に何かできることはあるか?」
「え? そ、そりゃあ……俺としては、服を脱いで俺に乗っかって欲しい」
「は?」
「ん?」
「一体なんの話をしているんだ?」
「俺とお前の恋愛という重大な任務以外の話は特に」

 ゼクスは肩を落とした。濁されたと思ったのだ。
 今度は時東が首を傾げる番だった。

「お前こそ一体なんの話をしてるんだ?」
「シルヴァニアライム闇枢機卿が言っていた、進行中の件だ」
「ん? あいつが言っていたのは、この件だろう?」
「交わさないでくれ。ローストビーフをおごるから」
「え……ホテルに行ってくれるのか!?」
「……あ、ああ」

 引きつった顔でゼクスが頷いた。思わず先日のことを思い出して、まだ痛む手首を押さえる。それに時東が気づいた。

「お前、まだ治ってないのか? 見せてみろ」

 医師としての条件反射で時東が言った。
 それからチラリと時東がゼクスを見た。

「……その、病気の方は、どうなんだ?」
「特に問題はない」

 目を細めてから、ゼクスが顔を背けた。時東は顎に手を添えた。
 言われて見れば確かに病気であるが、そう重篤には思えない。
 だが、念のためということもある。

「医療院に行くか? あっちにもベッドはある」
「ローストビーフが目的であり、ベッドは関係ない」
「あ」
「『あ』じゃない!! もう良い。勝手に探らせてもらうし、勝手に協力させてもらう」

 ゼクスはそういうと、不機嫌そうに出て行った。