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「企画を募集するという企画はどうでしょうか?」
「――新人運営ゼクスくんへの相談支援って事?」
「う、あ、は、はい」
「ゼクスくんの初企画を、みんな手伝ってください、みたいな?」
「は、はい……」
「名前をとりあえず『ユエル(仮続行)』として、今日だけ時給1000円で、明日の朝までやって良いから、やってみる? 今日は金曜日だから、夜から人増えるし」
「は、はい!」
「良いのがあったら、検討、無かったら、逆質問タイム的に、みんなの質問にも身バレしない程度に答えてね。司会はこちらでやるから」
「頑張ります……」
「後別に敬語じゃなくてもいいからね」
「は、はい」

 こうして、この日は、アイゼンバルドの初心者街となった。初心者街だけならば誰でも入れる。『企画相談会議らしい』の告知により、ちょこちょこ人が集まり始めた。昨日からのお客様も多い。そこで運営が『企画を考えていて詰まったので来ました』という話からした。金額は出さないが、『クビがかかってます』とは話していて、ネタだと思われたらしく、吹かれた。

「伝説になってるフレ多いなら、インタビューとかは?」
「レベル上げ、相談会とか。装備相談会とか」
「装備相談して欲しいー!」
「ってか、イケメンだし、ファッションショーやれば? 鴉羽で全身だったら色々な意味で来るだろ」
「「「「ぶは」」」」
「ソロボスが俺は見たい」
「それは思った。メインでガチ本気やって欲しい。思ったんだけど、絶対動画出てないクラスの伝説だろ? 俺、察しついてるけど、もしそうだったら、ゼストより早いはず」
「「「「えっ」」」」
「へ? 俺も察しついてるけど、それは無い。じゃあ別人か……いやけど、絶対確信ある」
「待って、俺の推測、絶対お前らと違うけど、俺も超自信あるんだけど」
「え、これさ、中身当てで良くない? 企画。ステもレベルとかも全部問題として」
「けど、当たったら身バレだろ? 戻りづらくね? 可哀想だろ」
「それはまぁな……」
「逆に、ユエルくんが、ヒントから相手のステ当ては?」
「あ、面白い」
「――ユエルくん、ノー装備で、ジャージと茶色ローブのみで、相手フル装備で、PK戦みたいな」
「「「「ぶは」」」」
「面白そう、そっちの方が」
「PKレベル、メインはいくつ?」
「っ……1です」
「「「「「ぶは」」」」
「え? R18制限? 違うよね? ハロワ」
「うん……苦手なだけだ」
「「「「「ぶは」」」」」
「あ、意外とそこはレベル低いんだ。面白いけど人道的になぁ。ただ、レベル高いから、上がるっちゃ上がるけどね」
「試しにやってみたら?」
「ヘルプ申請OKにすれば良いしな」
「誰と? 募集?」
「えっ……俺、それはちょっと……」
「じゃあ最初から二人組にしたら?」
「俺組んでやろうか?」
「――時東!? お前、いつからいたの!?」
「「「「「えっ!?」」」」」
「ん? 今。俺と組んだら、お前死なないし」
「いやそれ、逆に地獄だろ? 終わらないんだろ? しかもお前、回復しかしてくれないんだろ? ずっと逃げるのか?」
「「「「「ぶはっ」」」」」
「えっ、何、時東さんを呼び捨てレベル!?」
「すごっ」
「あ、フレ有難う」
「いやいや。じゃあ俺とPKする?」
「お前なぶり殺しパターンだろ、絶対やだ」
「「「「ぶは」」」」
「所で、企画考えてるのか?」
「そうだ。怖くないのを頼む。さらにこう、なんというか、昨日なみのインパクトが欲しいそうだ」
「「「「「ぶは」」」」」
「別に俺昨日インパクトゼロだったぞ。お前なら余裕だろ、あれ」
「う、うん……まぁなぁ。廃レベルが俺、カンストだったな」
「「「「「ぶは」」」」
「お前の顔面の方がインパクト高かった」
「「「「ぶは」」」」
「やっぱアバター違うってことだよね?」
「人じゃないんだろ?」
「あ、なるほど、え、誰それ?」
「気になる……っ!」
「英刻院閣下とか?」
「いや、さっき見かけたから違う」
「――どうでも良いが、ハロワで見たって、ことは、お前クラウンズ・ゲートの近所に住んでるのか?」
「「「「「ぶは」」」」
「そうだ。とても近かった」
「お前身バレっていうかリアバレに気をつけろよ。リア共有なんだから」
「あ……な、なんで聞いたんだよ!」
「いや、俺さ、俺も近所でな」
「「「「ぶは」」」」」
「――しかも俺、お前のリア共有アバ見て、見たことあったんだよ」
「「「「「え!?」」」」」
「嘘だろ、どこでだ? 俺、ひきこもりだぞ!?」
「「「「ぶは」」」」」
「言うと俺が身バレする。さらにお前のテンションも下がりそう」
「えっ!? ハロワ!?」
「「「「「ぶは」」」」」
「違うっつの。個別で教えてやるよ」
「うん」

 気になったので、俺は送った。

「まじで? どこ?」
「――西桜病院の救急のソファで、4月11日」
「っ」
「弟は高一?」
「あ……え、あ、そっか、医者だって言ってたな……」
「おう。それと」
「うん」
「南桜第二小学校、一年と二年が三組」
「っ!?」
「三年と四年が二組」
「……」
「五年が一組、お前は後期から来なかったけどな」
「……っ、あ……」
「見た時、一発で分かったが、声はかけなかった。けど、今回――困ってんのか?」
「……」
「やっぱりテンション下がったな」
「あ、いや……」
「ちなみに俺の事は覚えていたか?」
「修司くんだろ?」
「ぶはっ、懐かしい。そう、そうそう。なぁ、四つ上に、高砂いたの分かる?」
「え!?」
「高砂は、昨日見て、『もしかして?』って感じだったらしくて、それでクラウンズ・ゲートの場所調べて、近所だったから、俺に言ってた」
「嘘、小学校同じ?」
「そ。俺達が、二年で、あっちが六年の時の、図書委員長」
「へ!? 祐介先輩?」
「そうそうそう」
「わぁー! 驚いた……そ、そうか。確かにお前ら、言われてみると似てる。顔そのままだろ?」
「うん。ちなみにあいつ今、お前の弟の学校の先生もやってる。本業は、リアルでも僧侶」
「ぶは、リアルでも僧侶、って、お前もリアルでも回復だろ」
「ぶはぁっ」
「え、嘘、そうなの!?」
「おう。そうなの。今日学校で弟に聞いてるはずだ。クラウンズ・ゲートについて」
「えー!?」
「別にいいだろ、知ってるんだろ? 昨日の放送的に」
「まぁな。驚いただけだ」
「後ここまでで気づいてないみたいだから言うが、お前の母親の葬儀した僧侶だぞ」
「ぶはっ、あ、あ!!!! 高砂さんという名前だった……似てるとは思ったけど、黒髪だったから……」
「あはは、まぁな、だろうな。あれ、始めた時の学生の頃の髪色だからな」
「なるほどなぁ。お前らずっと仲良かったのか?」
「うん、というか、家が近所って感じだな。数軒先みたいな」
「ああ、そうなんだ。じゃあ寺の近所――え? あれ? 時東記念病院って」
「俺の所だ。あの日は、西桜から搬送予定の患者がいて、打ち合わせに行っていた」
「そ、そうだったのか……お前ら、本名か」
「お前もそうだろうが。ゼクスとか、一発で身バレだろ」
「うっ」
「俺はバレても問題ないからな。高砂も」
「……」
「今日はバイト何時までなんだ?」
「うん、企画が決まるかどうか、今日だけ朝までやっていいって」
「――は? あのな、それはハロワが言う通り、ブラックだ」
「……けどな、350万円くらいの企画が必要なんだ」
「学費か?」
「うん。学費と二人分の生活費だ。50万円は、俺が運営のバイトを一日三時間の週四で貰えるそうで、それとは別に」
「――へぇ。400万円か」
「うん」
「もう振り込まれてるのか?」
「昨日のは、一年分を昨日一日でやったから、もう400万円もらった。今のは、来年の分で、昨日で高二、これからので高三をどうにかするんだ」
「じゃあ、昨日までのは貰ってるが、仕事も終わっていて、今後はまだなんだな?」
「ああ」
「だったら、俺と高砂の方で、400万でバイトしないか?」
「え!? 何するんだ!?」
「モデル」
「へ……?」
「白衣着て、パシャリ。袈裟つけて、パシャリ」
「ん?」
「VR病院とVR葬儀場の医師&僧侶としてモデルやってくれ」
「は?」
「イケメン医師と僧侶がいる風に」
「お前な……」
「モデルは医師免許も僧籍も不要だ。俺達それらのベンチャーをやってる」
「え!?」
「そこで雇う。正社員」
「えっ!? 本当か!?」
「おう。社保付き。週五勤務で、朝十一時から夕方六時半、休憩自由だが、無し計算。ただし、雇用書には、一時間て書いてある。火水休みの木〜月。残業なし。手取り――400万って、30万くらいだったのか? 昨日の一年」
「あ、ああ」
「俺達儲かってるから50万出してやるよ。600万円、プラスボーナスで700万。額面だと900万以上。約1000万円」
「え!?!?!?!?!?」
「さらに非常時だから年俸制で先払いで700万円を先に渡そう」
「……本当か……?」
「ああ。受付だのもやってもらうかもしれない」
「そ、それだけで、700万円? モデル、怪しくない?」
「ぶはっ、怪しくないって、まぁVR医師とVR僧侶は、胡散臭いかもな、なんだそれは、弟に確かめろと言われてるのか?」
「いや、あの、レクスを心配させないように、自発的に」
「ぶはああっ、昨日も聞くべきだったな。ちゃんと服は着てるし、性的な事柄は特にない。まぁ、医者と僧侶だからな、流血死亡表現はあるだろ」
「ぶはああ、お前、不謹慎だろうが」
「あ、悪いな。ただ、リアルでも医者と僧侶は金持ちだ。そしてVR企業も高給取りだ。その両方だからな。700万円は、リアルだと350万円くらいとなるだろう。さらにモデルっていうのは、350万円程度の仕事は無くもない。普通の写真で、R18じゃないやつだ」
「な、なるほど……そう考えると、うん――けど、俺、ゲームは大丈夫だけどな、リアルはひきこもりだった。お前、知ってるだろ? 俺にもできるかな? 無資格で、小卒資格から無い」
「お前けど、ハロワでクラウンズ・ゲートが無かったらどうしてたんだ?」
「元々は、普通の仕事を探していた。だから、今の質問は、本音だけど、気にせず面接は行く予定だった。でも、お前らの仕事は、ハロワに貼ってない。だから聞いたんだ」
「それなら、今日はバイト、上がれ。高砂の仕事終わりに、二人でお前らの家に行って、レクスくんの前で、仕事の説明、してやるよ」
「え!?」
「場合により、レクスくんも、時給1300円くらいでバイトに雇っても良い」
「えええ!?」
「どうするかね?」
「お願いします! ど、どうやって、帰ろう?」
「病院から、クラウンズ・ゲートに電話してやろうか?」
「ぶはっ、え、何て?」
「ユエルくんを引き抜き勧誘してる桜市時東記念病院リアル医師、ゲーム内ゼスペリアの医師こと時東レベル360、聖職者・暗殺者・僧侶・魔術師・錬金術師360、生産薬剤装飾具360ですが、ユエルくん、俺の同小なので、コネ採用しようかなって。だからログアウトさせてもいいですか? って。暇な時、高砂寺の祐介住職、ゲーム内高砂列院総代ことレベル360、僧侶・聖職者・錬金術師・死霊術師360、生産薬剤建築スキル書360と、運営手伝いますよ? バイトで時給1000円で3時間。リアルでも回復と僧侶、ゲームでも回復と僧侶。インパクトありませんか? って」
「ぶはああああ、それ、今行ってみてくれ、反応、クソ気になる」
「おう」

 という事で、個別で爆笑した俺の前で時東が、運営を見た。

「ちょっと個別入ってもらえませんか?」
「あ、はい」

 そして、運営四人の前で、復唱した。運営、最初止まった後、爆笑した。

「うわあああああああ、奇遇!」
「え、マジですか、時東先生って、心臓外科の名医とかって」
「「「ぶは」」」
「俺、高砂先生の所の檀家」
「「「「「ぶはあ」」」」」
「言われてみると、髪の色以外そのまんまだ」
「「「「「ぶはっ」」」」」
「インパクトありすぎる。リアル回復とリアル僧侶に、ユエルくん引き抜かれたって言っていいですか? 時東先生とは言わないんで。それの結果、ログアウトと」
「おう」
「バイト楽しみにします」

 こうして、爆笑のあと、発表されて、お祝いされて、ログアウトとなった。
 さて、下に降りて、しばらくしたら、呼び鈴が鳴った。
 まだ連絡などしていないから、ドキっとした。

 出たら、レクスと高砂と、時東がもういた。