7


「三番目が、料理だけでなく皿洗いもしてくれた時。四番目がその他の家事を手伝って、特にゴミを捨ててきた時。五番目がお祈りを聞いてくれた時。五番目は良いだろう。私に祝詞を聞いてもらえると嬉しいというのは私もとても嬉しい。さて六番目、なんだこの、殺し合いをしている時というのは? お前は自殺願望でもあるのか?」
「いやっ、違っ、き、きっと榎波と会う時は大体そうだから、お前に会えた時という意味なんだ、た、た、た、多分!」
「では超プラス思考でそう解釈して七番目。榎波が可愛い黒色や闇猫、黒咲、猟犬、ガチ勢と戯れている時、特に恋愛的な意味でいい空気の時。これは?」
「……」
「やっと榎波にも春が来たのだろうと感じて俺は、今度こそこの愛が成就するのを祈ろう。好きな人が好きって幸せだな。これがきっと愛に違いない。つまり俺は榎波が好きなのだろう――って、おい。この発想は、お前に対する恋敵を殲滅してきたらしい私より最低だろう。いうなればお前は愛する相手にセフレをあてがい続けるのと同じことだ」
「……うっ、いや、そ、そういうんじゃ……」
「聖人の方が残酷だという最たる例だな。それで八番目。誰にも内緒で、榎波にも無論気づかれずに王都近郊に出現した黙示録風生体兵器を全て単独殲滅できた時。ボケ。二度とやるな。言っていけ。お前は万が一何かあって死んだらどうするつもりだ? 自分が倒しておけば解決する、そう考えるのは、事実そうだから間違いないだろうが、危なすぎるだろうが!」
「……」
「みんなを招集すると忙しいから悪いし、俺は暇だし、今後も気づかれずに討伐を続けていこう、これもまた愛だ――じゃない! 馬鹿者! 以後、一人で行ってはいけないし、どうしても緊急事態で一人で行かなくてはならないのなら、誰かに連絡していけ」
「……は、はい。ごめんなさい」
「土下座しても許されない。そして九番目。これもなんなんだ? 榎波に似合いそうなかっこいいロステク兵器類を発掘して修繕した時って。確かにお前は昔からよくわからんロステク兵器を私に渡すがあれは愛だったのか。知らなかった。私には、室内の観葉植物に水やりをするロステク兵器がにあっていて、かつあの羽ペンのようなものは、お前から見るとかっこいいのか?」
「う……か、かっこわるいか?」
「ダメだなお前の頭は。ひとまず最後として、十番目。嫌いなところが特にない稀有な人間であるところ。なんだこれは? 消去法ということか? それともお前、案外人に対して好き嫌いが激しいのか?」
「ん? 普通、他者に対しては好きな部分と嫌いな部分があるだろう? 榎波にはあまり嫌いな部分がないんだけどな……これがあばたにえくぼというやつなのだろうか」
「――許そう。それなら、十番目は許す」
「うーん、けど、順位で愛情を感じる場面が出るのか? 俺の側にはそういう機能はなかった」
「接触中に順位で質問送信すると、順位通りに情報が返ってくるんだ」
「えっ、そうなのか。榎波――」
「いやだ」
「キスして……そうか。分かった」

 ゼクスから言われたのは初めてだったのと、断ったらしゅんとしてしまったので榎波は胸をえぐられた。ズキュンときた。なるほど、これが両思い力。やばい。思わず抱きしめて唇を重ねていた。そしてキスした。

「……っ、榎波、あの……」
「ん?」
「一番目、顔。二番目、声。三番目、瞳。四番目、体。性的な意味で。五番目、戦闘力。六番目、料理以外の生活家事能力。七番目、祝詞読むところ、神聖さ。八番目、頭が悪いところ。九番目、お人好しなところ。十番目、後全部同じくらい好き――これ、どうなんだ? 簡潔にまとまっている部分以外評価できない」
「一と二と三と七は一目惚れ時から継続。四番目と、他の内面を知って好きになった部分の追加、そして私もまた特に嫌いな部分はないということなのだろう、十番目からは」
「……そうだとするなら、簡潔にしないでもっときちんと詳細を教えてくれたほうが俺は良いと思う」
「お前は長々と愛を囁かれるのが好きだったのか?」
「やっ、いや、そ、そういうことはないから、言わなくていい」
「まずいかにお前の顔が好きかというと、まず――」
「やめ、やめろ、やめてくれ! 恥ずかしくて死ぬから言わないでくれ!」

 ゼクスがまた両手で顔を覆った。
 やばい、可愛い。榎波はニヤニヤしてしまった。なんともいじめたくなるし、普段だったらそうするのだが、こう、同時にいいしれない愛おしさがあって、それでもしたくない。なんだかゼクスが愛おしい。

「しかしゼクスもすごいな。結婚するならば家族に言わなければならないだろう、として孤児院のメンバーだの闇猫やギルドの特に直属の部下だのを思い浮かべたのは普通として――曽祖父とはこういう人だと思っていたら本当に曽祖父でびっくりした長老二人。さらに祖父とはこういう人だろうと常々思っていたが四人も祖父がいるはずがなく普通は祖母がいるはずで、かつ全員方向性が違うのになぜなのか祖父イメージがあったラフ牧師、ザフィス神父、ローランド神父こと法王猊下、舞洲猊下が浮かび、なんか自称でいつも言っている両親だが自分には本当に両親に思えるけどありえないと思っていたらありえてしまったとしてアルト猊下とハーヴェスト侯爵、これまたありえないか、自分のハーヴェスト側でない生みの母親か何かが親戚とかだろうと踏んでいたレクス伯爵が実弟、これも弟のように思っていたとくっついている。もうひとりの弟のような存在だが、こちらは弟子だからちょっと違う琉衣洲様とは異なる弟イメージがばっちりだ。他に従兄弟風イメージのラクス猊下と時東、桃雪、ちょっと違うが高砂。すごいな全部、かなり昔からあたっている――が、これでいくとリュクス猊下のお前のイメージは、『まさに使徒ゼスト!』というのがちょっとよくわからん。他は全部あたっているが、リュクス猊下、そうなのか?」
「そうだろう?」
「――人の前に立ってやりたくもない仕事をし続ける苦行を今までもそしてこれからも自分の代わりに一生やってくれる、まさに神様のような人だ! この人が頑張ってくれる限り、俺は自由だ! この人のような、まさに使徒ゼストのような働き者がいるなんて、さすがは宗教院! いいや、使徒ゼスト以上! 使徒ゼストはヴェスゼストに宗教院を作らせたり教えを広めさせたり聖書を複製させたりみんなをこきつかって福音書を書かせたりしたが、この人は多分、ラクス猊下と共に宗教院を作っていき、教えを広めていき、聖書も量産し、場合によっては福音書も自分で書くタイプだ! となると、使徒ゼストではない! 使徒ゼストの良心! きっと使徒ゼストの良い部分があちらへ行き、武力とかがこちらへ来たのだろう、可能性として。そうだとするならば、正しく使徒ゼストは理解していたのだ。一人で全部は大変すぎるが、ほかの使徒に全部押し付けてもいけないということを――って、そうなのか? これ、そうなのか? あいつ、使徒ゼストの良心なのか?」
「俺なにかおかしなこと考えたか?」
「いやな、なんでも偽ゼスペリアとやらは、使徒ゼストの良心となりえる存在が、闇に絡め取られた存在らしいぞ」
「へぇ。それは知らなかった。それもランバルト機密とかいうやつか? けどあの人は闇に絡め取られたりしない。あの人のように自分をしっかりと持っているタイプは闇汚染とかもされないしな。宗教院の教育の賜物だ。どちらかというと権力欲や金銭欲と、最終的には元の軌道に戻す能力に長けているから、悠々自適に豪遊し、最後に幸せな眠りにつくという、榎波の理想とするような人生を送るタイプだ。ん、こう考えると、お前、リュクス猊下と結婚すると理想通りの一生が来るぞ」
「ついさっきゼクスとの結婚生活が理想の一生だと判明したから大丈夫だ。金は既にあるし、地位もすでにあるし、他に必要なものは――子供、作るか?」
「今忙しいからやめよう。その内、あるいは、まぁデキたらその時はその時だな」
「デキてもいいんだな?」
「だ、だからっ、今は忙しいから意図的には……」
「お前が意図的でないだけだという話だ」
「え」
「好きな相手に他の人間と結婚しろと言われた私の悲しみよりはましだろう」
「うっ……ごめんなさい……もう言いません。何も考えていなかった」
「言ったら怒る。まぁ、考えていないだろうな。せめて嫉妬だったならば可愛げが……」
「嫉妬か。それ……結構難しい高等な概念だよな……幸せそうで良いとかしか俺は思わないんだ、そう言うの……みんな、難しいこと考えるよな」
「まさに使徒ゼストの写し身だな。お前を聖人と呼ぶんだろう」
「だとすると榎波も言ってたけど使徒ゼストって壮絶な馬鹿ってことか?」
「私はそう思う。十二人プラス奥さんが徹底的にお守りしないとどこ行っちゃうかもわからなかった上に、何するかも分からず、ミラクルを大量に起こしていったんだろう? しかもその血筋は原初文明の頃から続くって、一体どれだけ周囲を大混乱に巻き込んだ記録が歴史的に残存する家柄なんだ? 頭おかしいバカが出やすい血筋ってことだろう? 文明も社会も変わってるのにそのミラクル行動が変わらないっておかしいだろう」
「なんだかさっきまでいきなり恐れ多い人物認定された気がしていたけど、榎波にそれを聞いたら、とても納得してその通りだと納得して安心した。恐れ多くないし、どちらかというと恥ずかしいな」
「ああ。私にも一部その血が入っている上、黙示録に『ゼスペリアの剣』などとして『お前は目を離さず守護しておくように』と名指しされているとしか思えない自分が少し悲しい。もはや予知して先に書いておき使徒として保護者まで記して置かれるレベルで使徒ゼストとその写し身はダメだということだ。だから堂々とゼスペリア十九世として即位しろ。使徒ゼストの良心に、そんな汚名まで被せるのは流石にな」
「うん。そうだな。わかった。俺すぐにでもヴェスゼストへの赦祝を読んで、リュクス猊下に今後もお願いしますと頭を下げる。一番恥ずかしい、末裔であるって公的に振舞う部分全部押し付けるわけだしな……申し訳ない。だけどこればっかりは俺もやりたくない」
「まぁ読んで即位するだけ良い心がけだ。しかし――お前の使徒設定も中々すごいな。間違いなく使徒なのは、第十一使徒のゼスペリアの医師の時東だけ。理由、他にあんな医学的変態は存在しない。他の人間には理解不能な医学フェチだ、って、まぁ、そうなんだろうが」
「そうだろう?」
「ああ、そうだな。戻って――第一使徒は高砂だと言われているが、理由が不明だ。適当に当てはめたのだろうか? あの条件でいいなら、なぜ俺が第一使徒ではならないのだろうか?」
「それだってそうだろう!?」
「――第二使徒はラクス猊下だと呼ばれている。神様のような綺麗な人だからそれっぽいしあの人が法王猊下になったら世界はもっと平和になりそうだが、ヴェスゼストっぽくないから疑問だ。あの人は、どっちかというとミナス家の人だというから、他の使徒が向いているように思う。この人もまたゼスペリアの医師や、第十使徒の同僚だっていけるであろうが、おそらくは他に法王猊下候補に該当する人物がいないため適当に当てはめられたのだろう」
「……あってるだろ?」
「――第三使徒は琉衣洲と言われているし、俺もそう思うから、早く使徒ゼストの写し身らしき人物をみつけて弟子入りさせなければならない。今のところ、琉衣洲の師匠は俺一人だ。これでは黙示録は阻止できない! さらにこの父親は、黒き黒翼の賢者その2という、黒が二重に使用されている、双子の義兄弟と同じレベルで意味不明な名前だけど、超重要ポジの人物の息子なのだから、その2は場合によって死ぬので、英刻院藍洲閣下を死ぬほど保護しなければならない。これは、もうひとりの黒翼であるかもしれないというか、なんだか周囲にそう呼ばれているし本人も自称しているからラフ牧師も同じであり、その他、死ぬ可能性がある三人のヨハネは、ローランド神父とザフィス神父と長老緑のような感じで皆語っていたので、これらの人々の周囲にも気づかれぬようにロステク防衛装置を展開し、一応赤にもやっておいて今に至る。すごいな。確かに彼らは襲われた気配があるのに、本人たちすら気づく前に敵が死んでる」
「……危機管理は大切だろ」
「第四使徒はレクスだと言われているが、これはおそらく、紅い目だからだ。ルシフェリアは目が紅いと書いてあったからだ。レクスは俺を兄だと言ってくれるが、ハーヴェスト侯爵家の人々を昔から闇ギルド内で守ってきた一人としていうが、他に兄弟などみたことがない。よって、俺を兄上とし、なんかこう兄弟がいる空気を作り出してきただけで、きっと使徒ゼストの写し身的な兄などいないだろう。俺は実の弟のように感じている。だからこそ、一刻も早いギルド総長への就任を願っているのに、最近周囲が非協力的になってきて、なんだかムッとしてしまう」
「だって、見たことなかったんだ……」
「第五使徒は確実に青殿下だ。しかしながらこの人物は生まれる場所を王家とゼスト家で間違えただけで、この人が使徒ゼストの写し身としていいと俺は思う」
「その通りだろ?」
「第六使徒もまた確実に朝仁殿下だ。思うにこちらは、美晴宮と王家を間違えて生まれたのだ。俺はこの人にもまたロイヤル力があると思うから、この人を第五使徒にすれば、青殿下が使徒ゼストで良いのだ――う、うん、ぶは」
「だってそうじゃないか!」
「朝仁殿下が使徒ゼストはないのか?」
「んー……あの人は、使徒ゼストのように、突然民衆の前に現れて人々を土下座させる感は無い。青殿下は時と場合によってそうするだろうな」
「土下座、ぶは。ま、まぁ、そうかもな――第七使徒。皆は榛名がそうだという。だがこれだって俺でも良いだろう。やはりみんな適当なのだ。政治ならばゼスペリア教会の牧師は全員履修済みだ。医師免許もそうだ。だから第九使徒が梟、第十使徒がゼスペリアの医師と同僚かつ部下的な記述があった点を、長期予知による誤差とするなら、この辺は誰がどれでも良いのだ。中でも第七使徒は誰でも当てはまるのに、偽ゼスペリアの可能性などといわれる可哀想な使徒でもある。榛名がとても可哀想だ。俺でもその役はできるが、俺はそんな役はいやだし、榛名のように俺が使徒ゼストの写し身だとハッとするようなバカではない。あいつは病院に行くべきだ。これは同時期に思いついた設定になっているゼスペリアの医師にも言えることだが、幸い時東はそんなことは言い出さない。俺は榛名が心配でたまらない。なにせあの頭が超おかしい榎波の一番弟子でもあるのだから――というのは、榛名というより私に対して何を言いたいんだ?」
「……」
「第八使徒は、榎波だと皆が確信している。第八使徒と第十使徒の師匠というポジションおよび最近明らかになった法王猊下の孫であるという記述がぴったり一致したそうだ。孫であるのと、師匠というより闇猫部隊のリーダーというのが正しいが、これもまた俺でもいい。なんだかゼスペリアの剣とは格好いい響きだから、やるんなら俺はこれが良いのに、榎波は孫だと分かる前からこれだろうと言われていたのに、俺は言われたことがなかったし、師匠などと呼ばれたことはなく、リーダー的扱いもされないのは、人徳の差というか、人々に見る目がないのだ。やはりやつらも、ほかの全部も頭がおかいしいのだ。榎波が神聖な剣士に見えるやつは全員眼科と精神科に大至急いかなければならない。これぞまさに黙示録! またこの人物は偽ゼスペリアになりえる第二候補と書いてあり、黙示録内で一番可能性が高いと名指しされている。本命は隠されているとして、俺は榎波はいつでも闇落ちすると思う。榎波が闇落ちしたら俺も勝てないかもしれないので、榎波から全力で逃げる準備を常にしておこう。やつが世界を滅ぼしたらどうしよう。やつは俺を救済する一名には選ばないだろうが、俺もやつをたたえて生きていくのは面倒だから嫌である。ただし根は優しいから、きっと闇落ちしても最低ギリギリのラインでは踏みとどまる。が、念のため、使徒ゼストの写し身が現れたら完全隔離して、絶対に性的な接触をさせないようにしよう。絶望の神とやらは即座に十人くらい爆誕するのではないだろうか――ゼクス猊下。あなたは私を一体何だと?」
「……ごめんなさい」
「第九使徒は副だという。俺もこの中なら、時東の次にあたっていると思うのと、この人、時東の血縁者じゃないのかなと思う。ザフィス神父ともそんな感じだ。理由は不明だがそんな気がするのだ。なんだか彼らはレインボーなのだ――ロードクロサイト血統のOtherは虹色だというから、合ってるかもな」
「う、うん」
「第十使徒は政宗だ。榛名の次に誰でもできるから俺がこれでもいいし、俺ならひっそりと同僚的部下もクリアしてるのに、誰も気づいてくれない。なぜなのだろうか。俺、牧師じゃなかったら医者になっていたと思うのだが。そしてゼスペリアの剣の次にかっこよく、偽ゼスペリアの容疑もかからず、非常にためになるし有能であり、ならびに偽ゼスペリア出現時はそちら側にたって上手く立ち回り生き残る最高のポジションだ。俺はこの役が第二希望だ。政宗が羨ましい。まぁ政宗は良い奴だから似合ってはいるが、榛名がここでも副がここでも良いように、俺がここではなぜいけないのであろうか? ぶは」
「その通りだ!」
「第十一使徒はさっきの通り時東で、最後の第十二使徒、橘。これもまた皆が言うとおり橘だと俺も思うが、そうだとしたら近所に居るバツイチの二人の子持ちは全員該当者になってしまうだろう。とすると銀朱匂宮総取りだったか金朱匂宮総取りだったか、どちらかも二人の子持ちだったはずだ。花王院陛下も英刻院閣下も美晴宮様も一人ずつだが子持ちだ。年齢や人数など誤差の範囲内だ。さらにロステク知識なんて、この関係者はみんな持っている。たまたま橘は詳しいだけかもしれないし、橘と高砂が逆でも良いだろう。しかし高砂がこっちは無理だ。やつには子供も既婚歴もなく、俺は黙示録の阻止よりも高砂の孤独死の阻止の方が命題だと常々思っている。なぜ高砂はもっとお外に出てお日様を浴びないのだろうか?」
「間違ったこと言ってるか? 正しいだろう!」
「総括――まぁなにはともあれ、俺は使徒の中に入っていないようで、ほっとした。なんか使徒は全員死にそうだが、俺は大丈夫であるようだから、今後もこの、絶対死なないような気がするという直感を信じ、前向きに生きよう。そして彼らもなんとなく俺が助けたら生きているような気がするから大丈夫だろう。助けてあげようとか思う部分は俺、使徒ゼストっぽいが、俺が思うに本物の使徒ゼストは全員おいて一人で逃げるタイプだ。だって夢に出てきた自称使徒ゼストが『そこまでの救済活動不要だからちょっとそろそろ逃げていいし、守ってもらう場面まで全部自分で処理するってなんで?』と言っていた。やつが本物だとすると、俺はやりすぎレベルで世界を守っているから、もう黙示録は出来事はなぞられるが骨組みがボコボコで終末が来ない状態まで歪んでいるので、ただの兵器異常として終了するらしいのだ。よってやつは『そろそろ使徒ゼストの写し身の子孫を残していつかまたくる可能性もゼロではない黙示録に備えよう』とか言っていたが、馬鹿だろう。むしろ断絶しておけば、二度と使徒ゼスト的なものは現れず黙示録も起きない可能性はないのだろうか? そう考えたら、そういう場合は生まれないと言われたような気もするが夢だから忘れた――なんともすごい夢を見たものだ」
「……」
「使徒ゼスト公認で子供を作ってもいいということのようだな」
「た、ただの夢だぞ」
「絶望の神候補十人くらいとなるんだろうか?」
「なんでだよ!」
「しかしお前が強すぎるのと馬鹿すぎるのとで、黙示録的な出来事が発生しても終末の悲壮感がゼロだな。ゼクス猊下以外はみんな必死に悩み不安になりながら頑張っているのに本人の頭の中身これだからな」
「……」
「お前を見て神聖だと思っていた人々や尽くしたいと思っていた人々が可哀想だ」
「……」
「私をゼスペリアの剣だと称える見る目がある人々にもお前の頭の中身のスカスカ具合は、スカスカすぎるから見えなかったんだな」
「……」
「そのスカスカの頭的に私達の話はどう伝える?」
「――あ。東の墓場のむこうに大きいのが出たから、俺ちょっと行ってくるから言っといてくれ、多分三分位でもどる」
「は?」

 瞬間ゼクスが消えた。榎波が時計を見上げた。
 周囲はロステクモニターを起動し、出現と撃破を確認した。
 そしてゼクスは一分程度で戻ってきた。

「悪い、まだ言ってないよな」
「――周囲に知らせろといったと思うし、基本的に一人で行くな」
「ん? お前に言っただろうが。それにこんなの毎日三回はあるし、俺以外に直通テレポートできるやつがいない」
「……毎日三回……今までもずっとか?」
「ん? ああ、そうだけど? だからいちいち言ってたらキリがない」
「お前がその指輪をはめて感知した場合、移動予定値がこちらにも送信されるから、私も直通テレポートが可能だ。今後は私も行くか、私が行く。少なくとも、1・2で二日交互に分担、できれば3全て同伴だ」
「ん? あ、ああ。そうだな、それは安全だけど、たった数分のために一緒にかぁ」
「一緒に過ごしていれば同じだろう」
「? 俺は王宮では働かないぞ。ゼスペリア教会の牧師を続ける」
「王宮勤務中は公的に私が行く。他は私がゼスペリア教会にいる」
「なんで?」
「危険任務手当を貰いつつ、家賃を削減し、新婚だから的なことをいって毎日早く帰るには良いだろうな。あとはまあお前が心配だ」
「な、なるほど。う、うん。心配か。そこだけ言ってくれると良かったな」
「ゼクスが心配で心臓が破裂しそうだ」
「そ、それはそれで言わないでほしいな。うん、以後言わなくて良い。というか、俺今の討伐で疲れたから帰って寝たいんだけど、怒られるかな?」
「別にいいんじゃないか?」
「だよな。俺、寝てくる。先に帰るわ」
「私も行く」
「いや、二人でばっくれたらキレられるだろ」
「サインした結婚届と、兵器が出たので言ってくると一筆残せば誰も怒らないだろう。怒った奴がいたら次から自分で行けと宣告する」
「そうだな。紙ある?」
「結婚届は任務でいつでも差し出されるようにと持っていたから、とりあえず私とお前の名前だけ書いて放置。一筆はそれの封筒でいいだろう」
「ああ、わかった」

 そのまま二人の姿がテレポートで見えなくなった時、周囲はなんとも言えない気持ちながらも、最終的には成功なので各自頷いたのだった。

 こうして二人の結婚は成立した。