【序-上】最前線
遠くの海から目前の平野までをもひしめく敵集団を、どうにか足止めするには成功した。
もう時間は夜だ。
現在、PSY複合科学兵器による防壁を前方に展開して、一同は臨時建設した場所にいる。怪我人続出によりそうするしかなかった。
総合指揮をしていた猟犬首領の英刻院藍洲がまず腹部にひどい怪我を負い、頭部と腹部にPSY融合医療の包帯をまき、点滴をしながら吐血しつつ椅子にぐったりと座っている。
言葉を話すのも辛い様子だ。
先程から周囲の喧騒も耳に入らないのか、青い顔色で目を伏せている。
しかし口元からは咳き込むたびに大量の赤い血が溢れる。
特殊な医療包帯でも抑えられない負傷状態なのは、先方の兵器にもPSYが多分に含まれていたのが理由だ。
これでまず、全体の指揮系統が一つ崩れた。
次に藍洲の横で膝をつき、咳き込むたびにこちらも大量吐血をしていて険しい表情のクライス・ハーヴェスト侯爵だ。
こちらも攻撃による負傷もあるが、どちらかといえば、大規模にPKを使いすぎたために、体が持たず、全身でPKが暴発していて、体内が傷つき吐血している。
現ギルド総長のこの状態に、まずギルド黒色の統制が一つ崩れた。
こちらはいくら指揮を飛ばしてもギルド自体がハーヴェストを守るために存在するので、総長派がまずもう撤退保護を先程から繰り返している。
残るという側と副総長およびギルド闇司祭議会の副議長であるレクス伯爵派が戦っている状態で、現在、最大派閥の闇司祭議会議長派と口論している。
これは、レクスもまた守護対象であることが最大の原因である。および闇司祭議長派が黒色最高の武力保持集団なのだが、連携が崩れているせいで、同等武力を持つ宗教院の闇猫側と上手く共戦できず、先程から争いが絶えないのだ。
その闇猫の連携が崩れた理由は二つだ。
まずこれまで藍洲とクライスと連携を維持してきたゼスペリア十八世であるアルト猊下がこちらも負傷しているのである。
真っ青な顔で低体温。
完全に持病の特異型PSY-Other過剰症を重度のレベルで発症していて、本来ならば今すぐ集中治療室行きなのだ。
しかし現在、ゼスト家直轄部隊とされる、闇猫最強部隊かつ全闇猫の指揮権限を有する者の中で、最高決定権があるのはアルト猊下であり、撤退を許さないという言葉を最後に意識を喪失して現在点滴中で寝台に横たわっているため、闇猫が割れているのだ。
そんなことは無視してでも、大至急病院へ行くべきだという派閥、それはわかるが王都側に防衛兵器を展開中なのにどうやって運ぶのか、この体ではテレポート装置のPSYに耐えられず呼吸が停止すると繰り返す派閥、とにかくこの集団はもう撤退する気しかない。
その代表は、ゼスト家直轄ではなく、ゼスト配下家の筆頭であるラクス猊下だ。
対して、アルト猊下の指示なのだから残って戦わなければならないというのが、闇猫のゼスト家直轄部隊のもう一名であるルクス猊下だ。
このルクス猊下とレクス伯爵、それ以外の派閥の闇猫と黒色が特に争っているのである。
せめて闇司祭議会議長のユクス猊下がこちらに加わってくれればどうにかなりそうだが、ユクス猊下は完全にラクス猊下と撤退協議に入っている。
そして元々こちらの闇猫・黒色および猟犬とあまり仲が良くなかった華族黒咲。
それをまとめて英刻院閣下に協力して来たのが、匂宮総取りである銀朱匂宮だ。
こちらも現在意識不明。
ずっとベッドの上で真っ青な顔をしている。
結果、その時点で、黒咲が猟犬に協力するという流れ自体がまず消滅した。
続いて全黒咲の指揮権限をもつのは、匂宮の闇の月宮直轄部隊のみなのだが、このメンバーでここにいるのは高砂と桃雪と真朱匂宮である。
そして高砂は配下家なので指揮権限は無い。桃雪匂宮は分家だが保持している。
けれど桃雪は、こちらはESP欠乏症で、やはり先程から意識こそギリギリあるもののベッドから起き上がることができない。
さらにこれまで絶対王政的に権威および、闇猫最強のアルト猊下および匹敵するルクス猊下、黒色最強のハーヴェスト侯爵とユクス猊下に並ぶ壮絶な強さを発揮し誰に文句を言うのも許さなかった真朱であるが、こちらが英刻院藍洲なみに負傷し、やはり椅子に座っていて、頭部と肩、足に包帯を巻いている状態だ。
点滴をしながら大きな瞳に険しい色を滲ませている。
そしてこの状態である上、他に黒咲の全指揮権限を保持する匂宮関係者は不在。
黒咲本来の指揮系統に戻るのだが、最初から名目上の総指揮者である橘宮に従っていた黒咲はゼロに等しく、その橘宮自体が現在治療行為でそれどころではない。
ならば内部指揮はといえば、本来それは榎波柊の役目だが、これはここまで前代の銀朱に任せてきたから上手く把握できていない上、現在榎波は猟犬側をまとめる作業で琉依洲と二人、手一杯だ。
藍洲がいないと猟犬はバラバラで全くまとまらず、派閥どころか個別でバラバラであり、指揮系統など存在しないのである。
よって、万象院列院僧侶の救済寺院戸籍という名目で参加しているガチ勢、この院系譜僧侶の位置づけのガチ勢のみがまともにまとまって動ける。
榛名や若狭、政宗だ。
だが万象院以外からきている、その他の全列院をまとめている橘院配下の正式な院系譜武装僧侶はガチ勢を僧侶などと認めないから、まずもって協力しない。
そして半数は猟犬であるし半数は黒咲だ。
よって猟犬と黒咲に分かれていて、院系譜として戦っているわけですらない。
混乱が拡大しているだけだ。
さらに悪いことに、敵集団が先程から、防衛用各兵器のクラック電波を流し始めていて、高砂と橘管理の兵器の一部の動作が怪しい。
さらに高砂はこういう自体だから、完全PSYによる殲滅活動側に回っているため、橘一人での対処となるのだが、兵器の数が多すぎる。
かつ、時東とともに政宗も医療行動側で手一杯だ。
榛名まで医師として動いている。
だから副の情報把握と橘の兵器修理と管理以外、上手く回らない。
騒いで喧嘩をしている連中と、撤退で喚く連中ばかりで、何一つまとまらない。
人数が多すぎて時東が範囲回復することも無理だ。
時東は本来そもそもそういう力の使い方ができる体質ではない。
それが可能だったアルト猊下はあの状態だ。ルクス猊下は一切できないし、ラクス猊下とユクス猊下は範囲が狭いので、それぞれ闇猫と黒色の負傷周辺で発動している。
黒咲側は橘宮がこれまた本来そういう使い方はあまりしないのだが、全力でそれを行いつつの治療活動だ。
ガチ勢は、時東の範囲回復でギリギリ治ったものもいるが、時東は力は強いが持続時間は短いし、治らないものも多い。
さらに兵器使用にしろ肉弾戦にしろ、もうPSYを全員がかなり使っていて、痛覚遮断コントロールや自己回復に回せるような青Otherを持つものすら減っているし、PKやESPも使いすぎてめったにない枯渇状態の者すらいる。
このままいくと、敵集団に殲滅される。
だが、かといって、撤退してもこの状態から立て直すのは非常に厳しく、さらに追ってがかかるわけだから、いっきに王都に敵がなだれ込む未来しか見えない。
だから、動こうにも動けない。その対応策についても話し合っているため、集団をまとめることにも注力できない。誰もが現状を理解しているから不安感でよりピリピリしていて、喧騒が絶えないのだ。
――その時だった。
不安でいっぱいな特にこういう集団経験が特にないガチ勢達の後ろ、高砂の横を、真っ直ぐに敵へと向かい歩いていくものがいた。
徒歩で横を通り過ぎられるまで、一切気配に気付かなかったことに高砂はうろたえて顔を上げた。
見れば、黒色ローブによく似た黒衣の人物が黒いブーツで歩いていく。
その背中には、黒咲の闇の月宮の象徴である、黒い色による満月、その内部に黒いのに銀に光る糸で三日月、周囲には同じ糸で舞い散る桜が描かれていて、黒く光っているブーツにもその糸による桜の刺繍が見て取れた。
通り過ぎた時に見えた口布は、黒色の最高の実力を示す特別完全免除階梯にのみ与えられる銀と金と黒の糸によるギルド紋章の刺繍が入っていた。
何よりも目を引いたのは黒い猫面だ。これは、ゼスト家直轄部隊の所属でなければ持たないものだ。
さらにローブの下は直轄部隊所属を示す牧師服であるし、その両手首には、最高武力の保持を示す金色のカフスがついている。
また、ローブの左腕にはクルクルと万象院本尊本院守護冠位であるこのメンバー内でもっとも優れた戦闘技能の冠位の最高階級の者しか保持しない金緑のフチ取りの袈裟のような帯がリボンのように巻いてある。
そして右側の肩の下には、猟犬の最高指揮権限を示す銀の王冠と斜めの長剣が刺繍されていた。
その人物は無言で前方に歩いていき、周囲の多くはその人物が防衛システムを一瞬ですり抜けて敵集団前方にたった一人で立ったとき、ようやく存在を認識した。
黒い手袋をはめた右手を上げて、左から右へとその人物がゆっくりと振った時、敵集団がほぼ全てピタリと動きを止めた。
そのまままるで人形のように地面に続々と崩れ落ちた。
あれほど大量の人間がどこから湧いてくるのか、まるで人形でも操っているようだと人々が噂していることは多かったが、まさにそんな様子で敵がいっきに崩れたのだ。
だがPSYを放ってくるからそれはないだろうと話していて、生き残っていたと思しき敵がやはり後ろから宙を飛ぶようにしていっきにその人物へと襲いかかろうとした時――ローブのみ残して消滅したらしく、青い修道服じみたローブと白い仮面がいっきに地面へと落下していった。
既に徒歩活動をしていた敵集団は一名も残っていない。
残っているのは大規模生体兵器と大規模完全ロステク兵器だ。
五台存在していた白い不気味な怪物のような巨大な生体兵器は、ナメクジのようにノロノロと前進しながら感染症を引き起こすウイルスを撒き散らしている。
その時、シャランと音がし、見ればその人物の右手に金色の細く長い錫杖が出現していた。錦の不思議な色合いを放っていて、斜めに天へと伸びている。
それを左下に一度振り下ろすようにし、それから前方へと向けて、最後に右手で強くついた、その音だった。
瞬間、五台の生体兵器が全て内部から爆発した。
周囲に血肉が飛び散り、大地がウイルス前の毒液状態だったもので溶けていった。
嫌な煙があがっていく。
あんなものの毒に人体は耐えられないのだが、その人物は平然と立っている。
だがこちらの防壁の壊れかけた状態では防げないと思って橘と高砂が焦って兵器類を見て、そして息を呑んだ。修繕されているのだ。これはESPで内部を全て把握してPKで修理したのだ。
改めて前方を見れば、おそらく同じことをして壊した様子で、完全ロステク兵器の敵のもの全てがガラガラと崩れていった。
さらに人々は気づいた。いつの間にか、アルト猊下よりもさらに範囲が広いが威力はより高い青Otherの治癒回復フィールドが自分達の足元から上へと展開されているのだ。
さらに上から下へと、これは一度、時東がやったのだが、ロードクロサイトの力によるものと同じで、独特の緑味を帯びた青Otherにより、全カロリーや水分を体内に補強するフィールドがかかっていた。
さらに最初はガチ勢が、配布されていた万象院念珠という手首の翡翠の数珠が光り輝いていることに気づいた。
続いて全ての黒咲が下げている勾玉、猟犬が所持している銀の短剣つきの首飾り、黒色のローブに刺繍されているギルドの紋章、さらに闇猫の階層ごとに配られるカフスのそれぞれが特有の光を放ち始め、全員がPSYが満ちていくのを実感した。
PSY能力補完だと一同がやっと気づいて唖然としているところへ、その人物がゆっくりと振り返り、戻ってきた。
そして集団の全員が見つめる前で、少し距離を置き、立ち止まった。それから、全員が、ESP音声を耳にした。年齢等はまるでわからないが、冷静で感情が見えない男性の声であることだけはわかった。
「院系譜、万象院本尊本院守護直轄総指揮者の鴉羽と言う。猟犬、英刻院閣下の要請によりこの場の全指揮権限の委譲を受けている。まず、院系譜武装僧侶の万象院関連配下以外の全橘院所属武装僧侶は現在のまま、猟犬あるいは黒咲のいずれかに分散。さらに各集団は全て、万象院列院僧侶の下部となり、今後一番上層の組織は万象院僧侶とする。そして万象院僧侶は全て猟犬の直轄補佐とする。それと同化武装僧侶を含む黒咲全名――闇の月宮直轄部隊所属匂宮本家の人間として命じる。以後、匂宮配下家である高砂家ならび現貴族爵位において英刻院を名乗っている刻洲中宮家の人間、および配下5家として復古した榛名・若狭・政宗の各中宮家の人間に反抗した場合、匂宮家への敵意表明とみなし、脳破裂により即死させる。以後、匂宮に逆らった黒咲には死んでもらう。華族の誇りがあるのであれば身をわきまえて二度と匂宮の縁者に歯向かおうとするな。ならびに、黒咲は全名、内部指揮者筆頭、榎波柊の命令に以後全て従え。そうでない場合は心臓破裂により死亡すること、正確に理解しておくように」
その言葉に多くがゾッとしたが、黒咲は全員、いきなりビシッとして膝をつき、完全に統制を取り戻して膝をついた。
見ればその人物が右の手袋を外し、赤い扇を持っていた。
指先には、金からピンクゴールドにかわる三つの指輪がはまっていた。
親指、薬指、小指へとついていて、薬指と小指の間、小指と親指の間にそれぞれ、金色の鎖がたれていた。
親指には巨大なルビー、薬指にはブラッドトパーズ、小指にはダイヤがある。
中指には万象院本尊金印と呼ばれる、巨大なエメラルドつきの金が強い白金色の豪奢な指輪がはまっており、手首には翡翠から濃いエメラルドへと変化する五重の念珠がはまっていた。
「ならびに、ギルド黒色全員に告ぐ。俺は階梯ユグドラシル・ロイヤル・クラウンであり、ハーヴェスト血統を保持するギルド総指揮権限を持つ者で身分の詮索は不要。前ギルド闇司祭議会議長として、黒色特別完全免除階梯でもある。よって以後、ギルド関係者は全て、俺の指揮下に入ってもらう」
「ロードクロサイト議長……!」
「ユクス、議長は現在お前だ。レクス・ハーヴェストおよびクライス・ハーヴェストの保護を優先し、その他の全ての黒色をまとめろ。ならびにレクス伯爵へ攻撃能力のある特別免除以上の全ての黒色の指揮権限を与え、以後レクス伯爵は、猟犬所属現代表である英刻院琉依洲伴侶補殿下とともに、ギルド代表として黒色戦力の提供および今後の対策を話し合ってもらうので、ユクス、お前はその全面補佐および、闇猫との連携を整えろ」
「承知致しました」
ビシっと黒色も全員が膝をつき、最大派閥が完全にまとまった。
さらにレクス派もクライス派の黒色も全てが膝をついている。
見れば次に左の手袋を外した、鴉羽卿を名乗りロードクロサイトと呼ばれた闇司祭議会の前議長であるらしきユクス猊下の前任者は、中指にメルクリウスの三重環・アメジストと呼ばれるハーヴェストの指輪を身につけており、手首には白金色の腕時計をはめていて、そちらには巨大なアメジストの薔薇がついていた。円環時計である。文字盤が煌めいていて、歪んだ奇妙な数字が並んでいた。
「最後に闇猫。俺はゼスト家直轄闇猫部隊前隊長兼現副隊長である。アルト猊下の体調不良により、ゼスト家直轄部隊内および全闇猫指揮権限は現在俺に存在する。以後、アルト猊下の指示を正確に引き継ぎ指揮をしているルクス猊下に逆らった場合、ゼスト家への反抗とみなし、その者は、宗教院の敵とみなす。全員従うように。ルクス猊下は闇猫側の武力提供の相談にギルドのレクス伯爵と猟犬の英刻院琉依洲伴侶補殿下と共に相談へ。闇猫の内、階級砂嵐以上はラクス猊下およびユクス猊下の直轄を除き全てルクス猊下配下に。残ったものは、ラクス猊下を筆頭にアルト猊下の治療に当たれ。今、アルト猊下の足元に出現させた銀の保温ボックスに必要点滴類は全て入っている。そしてユクス猊下配下の闇猫は、クライス・ハーヴェスト侯爵の足元に出現させた類似のパックからPK過剰を留める点滴類、その隣の朱塗りの木箱からESP欠乏を抑える点滴を桃雪匂宮様に処置し、その際はロードクロサイトの時東医師ならびに、匂宮配下家政宗中宮家の医師に従え」
闇猫全員が、これにはルクス猊下も含めて膝をついた。
左手の残りの指、まず薬指には巨大な濃いサファイアつきの銀色の指輪、続いて親指には巨大な黒曜石と小さなダイヤがついた銀の指輪、最後の小指にはアイスブルートパーズと非常に小さな黒曜石とダイヤがついた銀の指輪が煌めいていて、やはりそれぞれが銀の鎖で繋がれていた。
これはゼスト・ゼスペリア家の直系のみが持つランバルトの青を含む指輪群である。
さらに左手の薬指には銀の指輪にアメジスト、銀の指輪にエメラルド、これはランバルト・アメジストおよびランバルト・エメラルドと呼ばれるエンジェリックリングと称されるランバルト家の血統の証と法王猊下の血族である証だ。
さらに右手の人差し指にはまるシンプルな銀の指輪の二つ、あちらは使徒ゼストの銀輪であると宗教院のものは知っていた。
なにより首からぶら下がっているのは、使徒ゼストの十字架と呼ばえる、中央に巨大な黒曜石がはまった豪奢な銀の十字架であり、これは例えゼストの血をひいていても並みの神聖力の保持者では触れることすら不可能であり、アルト猊下でも三十秒手に持つのがやっとであるとされる品だ。
これを所持しているのは、そしてその身分であるのは、ゼスペリア十九世猊下ただ一人なのだ。手首なシンプルの銀のチェーンも使徒ゼストの聖遺物だ。
最後にその人物は榎波を見た。
「俺は今、英刻院閣下の以来により万象院本尊からの出向としてきているが、以来により猟犬の最高名誉顧問位で今後活動する。猟犬冠位は、銀剣のロイヤル・クラウン。よって全猟犬には俺の指揮下に入ってもらう。そして今後猟犬内武力総指揮を榎波男爵に任命するので、榎波隊長に逆らった猟犬は投獄処分とする。さらに榎波隊長指揮下の元、英刻院琉依洲伴侶補殿下の指示全てに従わなかった場合、処刑となる」
それから、その人物は周囲を見渡した。
「俺は現在、闇猫総指揮権限『使徒ゼストの黒翼』および、ギルド黒色総指揮権限『使徒ゼストの聖刻印』ならびに、華族黒咲全指揮権限の『恩鴉羽闇聖印』と猟犬総指揮権限の『ハウンド・クラウン』あるいは『猟犬の首輪』と呼ばれるカフスを所持している。また全列院僧侶の指揮権限は、俺自身の存在にある。よって以後、鴉羽と俺を呼び、俺に逆らったものは、全て殺害処置をする。しない者はこの場において唯一のいずれにも所属していない時東医師と橘大公爵のみとなる。そしてこの各種の印は、全員からPSY能力を吸収すること、逆に提供することを可能としている。その同一効果中の補給能力のみ、時東医師が所持するロードクロサイト継承物、ゼスペリアの医師の終末時計にあるため、時東医師のPSY枯渇も今後はない。また橘大公爵の保持する王家分家称号である金の王冠の首飾りにも同一の効果が存在する。全ての者は外して辞職し逃げても構わない。だが、その場合、カロリーおよび水分、PSY補強が途切れ、かつ現在そこを経由して生体兵器へのワクチン作用が有るフィールドを個別展開しているため、逃げる最中に死亡可能性が高いので、その場合は逃げるのではなく、所属場所のリーダーに辞意表明をし、一箇所にまとまりおとなしくしているように。あちらに俺が作った円の内部にいるものは、今後、そういった処罰対象ではなく民間人として扱う。以上だ。今より俺は、英刻院閣下ならびに真朱匂宮様の治療を行う。よって各自己の仕事を全うするように。猟犬最高顧問として、琉依洲伴侶補殿下からの質問にのみ今後はお答えするので、どうしても必要な場合は、琉依洲殿下を経由するように。では、行動を開始しろ」
こうして、バラバラだった集団がビシっとまとまった。