32


 ゼクスがドキドキして真っ赤になってうつむいていると、高砂はゼクスの和服をはだけさせた。

 ゼクスが息を呑むと、左乳首を軽く吸いながら、もう一方を右手でなでた。

「ひっ、あ、う……」
「奥様はおとなしく」
「ああっ……!」

 そのまま左を甘く噛まれ、ゼクスは背をしならせた。

 吸っては噛まれ、右はこすられ、ゼクスは最初ずっと緊張していたのだが――その内に、ツキンと広がりだした熱と腰の感覚が抜けて、陰茎にも熱が集中しだしたことに気がついた。

 完全に翻弄されていた。

「あ、あ……っ、ぁ」
「やっぱり左の方が好きだよね。もう下もガチガチになってる」
「うっ」

 陰茎を指で撫でられた時、背筋を何かが走り抜けた。

「可哀想だから、右も開発してあげないと」
「あああっ、うああ」
「敏感だな」

 そのまま今度は右を吸われ、左を指で挟まれ刺激された。

 なにやら左指にはオイルのようなものがついているらしく、羽のように乳頭を撫でられるたびツキンとする。

 涙が浮かび、ゼクスは震えた。
 高砂の言うとおりで、左がおかしなほど感じる。
 だが直接的に右を噛まれるたびに、そちらもツキンと疼く。

 しかし――それでは果てられない。

「や、やめ、高砂、俺、ああああっ」

 すると高砂が口を離し、両方を指でつまんで擦り始めた。
 ゼクスがむせび泣く。

「やだ、これ、やだぁっ、あ、うあ」
「――気持ちよすぎて嫌?」
「う、うん。変、体、熱い、ああっ」
「けどイけない?」
「うん、うん、あ、やだ、も、もう」
「ヌルヌルになってる」
「っ」
「どうして欲しい? 照れてるだけじゃわからない」
「あ……触って……」
「誰に触って欲しいの?」
「高砂、触って……」

 すると微笑して高砂がゼクスの陰茎の筋をゆっくりと指でなぞり始めた。
 だがそれだけで熱の燻りがひどくなるだけだった。

「嘘、あ、いやっ、あ」
「どうして欲しい?」
「うあっ、イきたい」
「どうやって?」
「な、舐めて……」
「いいよ」

 頷くと今度は、ゼクスの太ももの付け根から裏側の敏感な部分を、持ち上げて高砂が舌でゆっくりと舐めた。

 ゼクスがボロボロと涙をこぼす。
 焦らされた体が辛い。
 だが点滴のせいで身動きもできない。

「うあああああっ、やぁあああ、高砂、やめ、それ、もうだめだ、あ、おかしくなっちゃう!」
「じゃあちゃんとどこを誰にどうして欲しいのか言って」
「う、あ、高砂に口で、その、イかせてくれ……意地悪しないでくれ……」
「――うわぁ、意地悪すごくしたくなる顔。声。これが良くないと俺は思う。けど、まぁ、うんそうだね、ゼクスには自覚なくゼクスが悪いわけではなく、俺は意地悪だし、今日は色々言われまくって、優しくしようと昨日決意したばかりなのに確かにもう意地悪してたね、ごめん」

 一人自分に呆れるような苦笑するような、ただ少し意地の悪い瞳でそう言ってから、高砂は素直にゼクスの陰茎を口に含み、すぐに果てさせてあげた。

 するとゼクスが体を震わせて、少し長い間出していた。

 それが終わるとぐったりして、必死な様子で息をしていた。

 服を直してあげてから、高砂は冷たい緑茶をゼクスに渡し、自分用にもそれを出して一口飲んでから、タバコに火をつけた。

 ゼクスは静かにお茶を飲んでから、ゆっくりと体を起こして、それをテーブルに置いた。

「ゼクスも吸う?」
「いいのか?」
「――まぁね。ゼクスにタバコを吸うなといったのは、ゼクスが本院で貰いタバコしていた相手がゼクスに惚れててイライラしてたからだから」
「え」
「どちらかといえば、吸ってる指とか、ゼクスは綺麗だから見てる分には好きだよ」

 ゼクスが赤面しながらタバコを手に取り火をつけた。

「だから時東から受け取ってるのだけは許可する。俺は一応やつは友人だと信じてる」
「う、うん」
「悪いけど俺、死ぬほど独占欲強くて嫉妬深いから気をつけて」
「え?」

 再びゼクスが頬を染めて、そして信じられないというように目を丸くした。
 高砂はため息をつきそうになった。
 なお時東のタバコは薬が入っているから良いだけだ。

「それもあって君を見てると今までイライラして、しすぎて、いっそ誰かとヤったら、ぶち殺してやろうと思ってたけど、そうはならず、それで良かったと今は思ってる」
「高砂……それ、本当か?」
「うん。我ながらひどいとは思うけど」
「ううん。俺、高砂に独占されたい。嫉妬はされるようなこと特にないけど」

 その言葉が可愛くて、タバコを灰皿に置き、思わず高砂は抱きしめてしまった。
 慌てたようにゼクスもタバコを置きながら硬直し、かつ真っ赤になった。

「高砂……俺のこと、好きか?」
「うん」
「もっと言ってくれ……」
「ゼクス、好きだよ」
「俺も高砂が大好きだ」
「俺は愛してるけどね」
「っ、お、俺も……!」
「本当?」
「うん」

 高砂は一度ゼクスの頭を撫でてから両手で頬をはさみ、じっと見つめた後、後頭部に手を回し、片手で顎に触れて深いキスをした。

 ゼクスは最初と比較するとキスには少し慣れてきたようだった。
 高砂は少しそれが嬉しかった。
 が、絆されて甘やかしている自分には呆れて頭痛がした。

 本当は、本音では、ずっとこうしたかったような気までしたから、意識が遠のきそうだった。

 今日のことを振り返る。多くに「ゼクスを奪うなんて!」と言われたが、その多くはゼクスの元へと行った帰り「ベタ惚れされてたんだな。幸せにしてやれ」と言って帰っていった。

 別に最初の一言も気にせずどう考えてもゼクスの側が高嶺の花であると正確に理解していたが、後半で気分が上昇しまくったことも合わせてなんだか嬉しい気持ちになってしまう。

 さらに自分の行動に一々照れて赤くなり喜ぶゼクスが可愛くて仕方がないのだ。
 どうしていいのかわからない衝動だ。

 かといって、恋愛ど素人というわけでもなく人の扱いも実はうまいため、きちんと自分の感情の通りに現在も行動中だ。

 だからこそいじめすぎないように心がけようと思った。

 キスを終えてから、だいぶ短くなってしまったタバコをそれぞれがお茶を飲んでから再び銜えた。

「昨日な、高砂に腕枕してもらう夢を見たんだ」
「エロかった?」
「へ? いや、こうギュッと普通に腕枕で、猫と眠ったんだ。あれはどんな効果なのかな? 寝る前に、高砂とどう寝たいか聞かれたから、腕枕されたいといったらあの夢だった」
「……時東の意図もゼクスの回答も納得がいった。ふぅん――けど、ゼクスは俺に腕枕されたいの?」
「うん。目が覚めるとたまにしてくれていて、その時が人生で一番幸せだった。近くで起こっていない顔をいっぱい見たかった。だから今はもっと幸せだ。だって笑ってまでいるし、沢山お話もしてくれるからな。いっぱい一緒にいて、色々お話をしたかったんだ――昔はずっとそればかり考えていたんだけどな――……いつからだったんだろう。いつの間にか俺……そういうの思いつかなくなってて、痛いことしか……」
「痛みに愛を再度勝利させないとね」

 高砂が嘆息しながらそう呟いてゼクスの頭を撫でた。
 するとゼクスが微苦笑した。瞳が少し潤んでいた。

「そうだな。うん。うん……」
「愛とは一人で育むものではないので負けたので、今後は勝利のために敵である痛みはきちんというように」
「ああ。高砂、ありがとう……」
「謝るより断然感謝の言葉が良いね。ちなみに今日の痛みの具合は?」
「――ここ三年の間でここまで良い日はないし、五年遡ってもないくらい痛くない。まず頭痛がかなりよくなった。あと息がとても楽になった。それと高砂とご飯を食べている時と、こうやって話してる時は、何故なのか痛みが軽くなる。精神的なものだろうか?」
「ヤってる時は?」
「あれは衝撃が多すぎて痛いとかは問題じゃなくなってるだけで、意識がそれてるだけで軽くなるとかじゃない。こう、敵集団をいかにして一発殲滅するかというような集中力に近い形で意識が一方向にいって他になにも考えられなくなるだけで、こうやって話していて楽になるのとは全然違う」
「衝撃より、俺と話してる方が痛くないの?」
「うん。痛みは刺激だから触覚とかの方が勿論痛覚遮断になるはずだろうし実際衝撃だという理解はある。だけど、顔を見て話しているほうが痛みが軽くなる。笑顔でも怒っていても無表情でも冷たくても、高砂が目の前で俺に喋っていると、痛みが紛れるんだ。なぜなんだろう? こんなに長時間話したことが幼い頃以来だから、全く理由がわからない」
「それは、あれだよ、愛が勝ってるだろ、その時間」

 高砂が冷静な顔ですごいことを言ったように思えて、ゼクスは恥ずかしくなりお茶を一気に飲んでから、もう一本に火をつけた。

「時東と話している時は?」
「特に変化ない」
「俺と以外の食事の時は?」
「うーん、ものすごく美味しい場合、敵殲滅時のような衝撃による一瞬だけの痛み消失はある時もあるけど、日常的には無い。食事内容も病気について話しているからというのも多分関係ない。だから本当にどの部分が良いのかわからない」
「まず一つ。俺の存在自体」
「それはある」
「二つ目、俺とゼクスが二人で間に愛があるので」
「恥ずかしくなる……」
「三つ、ゼクスが俺を好きだから」
「それもあるだろう……」
「四つ、俺がゼクスを愛してるから」
「た、高砂、心臓がドキドキするから、そういうのはたまに言ってくれたらもう良い。俺、俺、顔から火が出そうだ」
「いやぁいっぱい言っておかないとね。言わずに後悔するより、言って後悔。俺の昨日からの座右の銘だから」
「なんだよそれ……けど、高砂の存在は絶対に理由だ。なにかこう痛みを緩和しそうなロステク身につけてるかPSYを放ってるか?」
「残念ながら何もない――けど、これをあげる」
「!」

 高砂はそう言うと、ゼクスの左手の薬指に指輪をはめた。
 驚いたようにゼクスがシンプルな銀の指輪を見ている。
 ダイヤモンドがはめ込まれていて輝いていた。

「俺も同じものをつけてみる」
「あ……」
「結婚指輪。気に入らない?」
「き、気に入った!」
「それは良かった。昔熱心にこれを見て丸をつけていたからこれにしておいたんだけど」
「し、知ってたのか……十年くらい前だぞ……」
「まぁね。もう同じのは売ってなかったので、特別に作ってもらいました。ダイヤだけ変えたけど。それは高砂の家のお嫁さんがつけるやつ。俺のは当主用。つまり旦那」
「!」
「嬉し泣きも大歓迎だ」

 再びギュッと涙しているゼクスを抱きしめて、高砂は頭を撫でた。

「もっと早く俺に抱きついて泣きながら大好きだとゼクスが言っていたら、渡す時期も早かったんだろうけどなぁ。諦めていたとは」
「だって……こんな、こんな……幸せだ」
「俺は危うくその幸せを逃すところだったわけだよ。しかも想定外の安楽死で。許せない」
「だって、それもだな、だって……痛いんだ! 高砂、すごく痛いんだ!」
「うん、もっと言って良いんだよ」
「痛くて俺はおかしくなりそうなんだ。というか、なっていたと思う。今ちょっとおかしくない部分があるだけで、きっとまたすぐ全部おかしくなる。痛いんだ、痛くて、痛くて、もう俺、俺……高砂、俺は嫌だ、痛くて、もう、これ……」
「おかしくなってもおかしくなくても俺はゼクスのことが好きだし嫌いな部分も込みで愛してるから大丈夫。そばにいるから、痛い時はそうやって言って泣くように。俺には痛い痛いってちゃんと言ってもらえると、こう信頼されてるのかなとかちょっとは思えて、好きだって言われてる感じに近い。無論、辛いんだろうっていうのはわかってるけど」
「高砂……本当に? 鬱陶しくないか?」
「黙って我慢されるより百倍マシで、鬱陶しさゼロ」
「ありがとう……」
「今日もお粥食べるの?」
「……ううん。今日はチャーシューメンを食べる。お昼に、食べたくなりそうなの全部頼んでしまっておいてもらったんだ。全種類沢山」
「それはどういう時に食べるの?」
「なんだろうな……前回は、この前高砂に渡した旧宮殿が再現出来た時に食べた。その前はユクス猊下に議長を譲った時に食べた。めったに食べないんだけど、なんだろう……やった! できた! みたいな時のような気がする」
「俺も食べたい」
「うん。あれ、美味しいから一緒に食べよう」

 こうして二人で外に出て、チャーシューメンを食べ始めた。
 そう遠くない将来、二人は同じ家でチャーシューメンを食べるのだが、それはまた別のお話だ。