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「お花畑にいるようです」
「それ、頭の中身か?」
「違う。点滴の色彩だ。こんなにカラフルで派手なのがあるとは驚いた。地味というか洗練されたものもある。PSYがお花のようにパぁぁあっと散らばっているのも綺麗だな」
「――効果も分かるのか?」
「Otherの青系統は想像がつかなくはない程度で少しはな。精神安定剤系だと思う。あと、お腹がゴロゴロしてきたから胃腸というか腸かな、それもあると思う。この速度は完ロス薬だろう。それくらいしかわからない」
「なるほどなるほど。お腹の調子は?」
「動いてる気がする。痛みとかはそれ由来では発生していない。あと、なんだか息が楽になって、呼吸をしても前より胸が痛くない気がする。他には――腕を折り曲げた時の痛みが、なんだか軽くなったような気がする」
「うんうん、良いな」
「ところで、あの、点滴が全然減ってないけど、終わるのか?」
「必要量が勝手に補充されてしまう品だったものだから……忘れていた……」
「えっ」
「無くなるまで続けてください」
「なっ」
「足りてねぇんだよ、まだ輸血すら。かつ三日だのという制限は色相濃度不適合の場合だから、今は完全に一致してるから続けてOKなんだよ、主治医判断でな」
「……俺、それじゃあ七台も持って歩けないから、ここから動けない……」
「旦那様にPK浮遊で動かしてもらいなさい」
「だ、旦那様……」
「ちなみに旦那様とはベッドでどんな風に寝たい?」
「うん? ええと、腕枕をしてもらい、ギュッとしてもらい、猫を二匹くらいと一緒にねる。俺を背後から高砂がぎゅ。俺は猫を腕に中に」
「あ、う、うん。そうだな、睡眠は重要だな……ま、まぁ、それでいいや」
「?」
「気にするな。俺はお前の純情さにキュンとしただけだ。安心しろ、恋心ではなく保護欲的なサムシングだ」
時東はそういいながら、それとなく銀の十字架を握り、夢の内容をそれに設定した。
「さて、これで一応終わりだ。今日はいっぱいお前も働き、さらにお前は結婚という人生の一大行事を行ったわけだが、眠気は?」
「……チーズ食べていいか? お腹減った」
「どうぞ」
「ええと、うーん。肉体的に言うなら、精神的疲労でグタグタだ。けど、寝て起きたら全部夢だったらと思うと怖くて寝たくない。ただ寝逃げできるレベルまで俺の中で痛みが減ってるから、即座に睡眠に入りたいような気分でもある。けどお腹が減っていて、食べると精神的疲労もちょこっと楽になるから、まずは食べたい。できるならシンプルな塩のお粥と万象院の漬物とあさりのからはとってあるお味噌汁も」
「――榎波氏、塩のおかゆとあさりの味噌汁のストックないか?」
「ある。ほれ」
「お、さすが。ありがとう」
「ありがとうございます!」
「なんのこれしき」
近くを通りかかった榎波が出現させていき、時東がさらに高砂がおいていたストックの漬物を出した。
ゼクスはビーフジャーキーを食べてから箸を受け取る。
あさりのからはついていなかった。
これはランバルトの好みの合致と言うしかないだろう。
「これはどんな時に食べていたんだ?」
「高砂とレクスのどちらかが来て帰っていった日の夜だ」
「ぶは。精神安定剤か」
「わかんないけどこれを食べると落ち着く。先代の緑羽曽祖父もこれだ。なんかよく食べてる。それで俺は冷たい緑茶だけど、あっちは暖かい梅昆布茶だ」
「へぇ」
「――なぁ、時東先生」
「ん?」
「俺、お引越しするまで……生きていられるだろうか? 率直に」
「――まず、ショック死と安楽死は消えた」
「ショック死も?」
「ああ。消えた。悪化しても、心臓再鼓動させられる一瞬だけレベル5程度にしかならないから、ショック死はない。絶対俺、じゃなくとも医者、どころか黒色でも闇猫でも、医師免許不要の黒咲や猟犬でさえ覚えてるし所持してる心臓マッサージ機で息を吹き返すから、ショック死は大丈夫だ、が――心臓およびその他内蔵がそれに耐えられる状態になり血もそれに耐えられる量にならないと身体がもたない可能性がまだある」
「……」
「それで今日からの点滴でまず肺は完全に耐えられるようになる。昨日からのもので心臓も基本クリア。心臓側は、後ほどさらに強化をかける。そして脳機能、これは円環以外完全に無事で一番Otherも働いているし、ゼストの銀箔も保護直撃だから絶対OKで脳死可能性はゼロ。なのでここまでで最低限の生命維持はOKで意識もOK。危険なのが神経でこれは初日から保護かけているのは心臓と一緒で、さらに肺機能と同じく本日再強化したのでほぼ不安無しだが、PKが響くので迂闊なPSY使用によっては神経は悪化する。だがそれは心臓も脳ですらも同様だから、お前がPSYを使わなければ、この四つは安全だから、お前はどんなに悪化しても生きていて意識もあり全身が自由に動かせるのは保証できる。この段階でお引越しは余裕で可能ですので、先程の質問への回答としては、心停止する場合はございますが、生きてお引越しは可能です、となります。急な大怪我の失血死とPSYの使用による悪化の方が過剰症悪化より危険だが、どちらもご自分で防止可能だろうが、どうだろうか?」
するとゼクスが少し悲しげな瞳だったが、小さく頷いた。
不安なのだろうというのが伝わってくる。
だが質問内容が変化している。
全然マシであり、これはかなりの回復だ。
「……十年間、俺の体は持つだろうか?」
「過剰症と頭痛と貧血と栄養失調とその関連の他臓器の問題という意味なら余裕でもつ。大怪我とPSYの過剰使用、そして例えばいきなり末期ガンが見つかるとかといったほかの重大な死因となる病気がなければ余裕だ。一番怖いのは衰弱中の肺炎。ただ肺炎どころかガンもこのチェック下において、早期発見以外が逆に無理だから心配はほぼない。まぁ新婚さんだから言っておくが、子供も十年立つ前に産めます。人工授精でなくとも」
「っ、え?」
「今の身体状態だとOther抜いたり、体力使うのはダメだが、病気レベルと痛みレベルが安定したらいつでも産めるからな。ま、人工授精でも、あるいは子供なしでも、それは自由だけどな。思うに高砂側がうむことはないだろ」
「う、うん……考えたことがなかった……俺、本当に産めるのか?」
「当たり前だ。俺は精神科と産婦人科のどちらが得意かと言われたら産婦人科だ。保証する。ただしその前にまず体を最低限治せ。話はそれからとなる」
「わ、わかった……けど、俺にはPSYを使わないことや、そこのベルを押したり時東先生に症状を話す以外、治すために出来ることが何もない……何かあるか?」
「病は気からという言葉もあるので、まずはプラス思考。治るというより治す、それを考えろ。治らないや死ぬかも、ではなく、治していかにして死なないかを検討する。まさに王都の避難計画を練るのと同じようにじっくり考えろ」
「……う、ん。やってみる」
「それとレクス伯爵との交換日記および高砂の抱きしめを継続。夕食同席も」
「わかった。時東先生本当にありがとう」
このようにしてその日はPSY刺激を送ってもらい、ゼクスは眠った。
そして高砂に腕枕される幸せな夢を見ておきたら、レクスと時東がいた。
「おはよう、兄上」
「おはよう……」
「――安楽死撤回、まずなによりだ。かつ、昨日の日記を見て兄上は本当に頭が良かったと確認して、これは今日の分。が、なんというか、その直後に撤回させた配偶者を天才だと思いつつも、なんで高砂先生と結婚したのかと考え、やはり馬鹿だろうと俺は思ったが、とりあえずおめでとうございます」
「っ、あ、夢じゃなかった……」
「俺が夢であれと願うレベルでハーヴェストもゼストもランバルトも匂宮も万象院も宗教院も華族院も現在大騒動で、高砂が兄上を奪ったけど安楽死処置を撤去させたことのみ評価するとして罵詈雑言を含めて嵐が吹き荒れている」
「へ?」
「まぁ良い」
そこから始まり、その日は様々な人にお祝いされつつ「なんで高砂!?」と散々ゼクスは言われて、首をひねりながら高砂の素晴らしさを語り続け、周囲は最終的に沈黙して祝福して去っていった。
こうして夜、一緒に食事をしたあと、また高砂と周囲を遮断し、二人きりになった。