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 そうして、十二月からは、来年のスケジュール編成を決めた。
 週に一度の半VR手術、つまり月に4回となる。
撮影も、一日にまとめてもらう事になり、場所も日本で、月に4回。
 黒騎士は、月の頭に2個から5個。
 エクエス・デザイアは、全商品30万アイテムを現在出しているので、新作はとりあえずもう無しとして、どうしてもという時と、特別依頼を受注する場合だけとなった。ハーヴェストのクライス&レクスの委託分も、後はストックから出していくとしたので、何かあった場合の特別発注以外はしないと決めた。黒騎士の毎月の新商品の1個をずっと新しく出させてもらう形で、2個目からは黒騎士のみで、2個目からは、ハーヴェストも翌月の1個にそれを当てる、という流れだ。打ち合わせ会議は、撮影の日の夕食時に、月4回である。打ち合わせなので、帰ります、という流れだ。なお、手術の打ち合わせとVR医療機器の依頼は、当日の朝からとなっている。なので、週8日だけ、ゼクスは来年から働くのだ。他は、朝十時半に朝食兼ミーティングをして、十一時から翌日の朝十時まで、完全に自由となった。というのもゼクスが「やっぱり俺には無理だったから、一人暮らしに戻ってゆったりする」と言うので、全員が止めたからである。押しに弱いゼクスだが、決めると頑固で、この条件になるまで、しばらく粘った。出て行くとしか言わないし、家を探し始めていたため、みんな慌てたものである。ザフィスの手術まとめ時点で、「俺、出て行く」と言われていたらしい。だから、手術だけでもやらなくて良いように、という流れである。経験として、ザフィスは最低限あれだけはやらせたかったらしい。

 さて、三度目の十二月、二回目のランキング発表、こちらの『抱かれたい男ランキング』も、エクエス・デザイアのVRランキング同様、不動の1位となった。さて――『抱きたい男ランキング』今年も注目を集めていたのだが、『1位』だった。爆笑した人も多い。はっきり言って、キャリア的にも今回は、落ちるという予測だったのだが、『白衣が色っぽかった』だとかという予想外の理由でのランクインである。昨年までの不動の1位を抜き去った。その人物は2位であるが、得票差が圧巻だった。両方で、ぶっちぎりでトップなのだ。すごい。なお国内ブランドVRランキングでは、『黒騎士』が一位だ。これは服やアクセの部門であり、インテリアなどが入ると、デザイアが一位である。そうして頭の方は、撮影消化と引越し騒動で忙しく、後半はランキングネタでゼクス以外はざわざわしつつ、一年が終わった。

 そして1月が来た。ゼクスの機嫌がすごく良い。理由は、手術をした翌日、撮影を4日連続でやり、手術し、4日撮影して撮影が終わり、手術を2日連続でする。これだと、12日間で、全部の仕事が終わるのだ。周囲の予定と違った。だが、ゼクスは貫いた。ゼクスは、まとめてやるタイプだったのだ。結果、1月13日から、ゼクスは、朝11時から翌日の朝10時まで、自由時間となった。だが、約束であるし、これで特に問題もないので、というわけで、そのまま2月、3月と進んでいく事になる。今年でレクスも高2である。早いものだ。その月、レクスは『アンチノワール』というブランドを耳にした。中学時代の友人も、現在の学校の、前以上にVRに詳しい友人達も、噂している。VRシティ首都に1店舗だけ出ている、総合ショップで、インテリアから服、アクセ、時計、鞄、靴などがある。赤と黒と白とギンガムチェックが代表的なブランドで、二月にオープンしたのである。高級ブランドではない。しかし、趣味が死ぬ程良いのだ。傾向が違うが、黒騎士に負けない。100種類、5個ずつで、月末に売り切れとなるのだが、普通、開店一ヶ月では売り切れない。3月になり、さらに100種類追加されて、200種類5個ずつだが、今回も売り切れとなり、どころか完売していた。流行の最先端にいる人々は、もう持っている。アンチノワール風を出してきた他社もある。後追いだ。黒騎士のライバルになるかどうかが、レクスは気になった。どこかのプロが様子見で出してきたと考えていた。

 四月が始まり、三月発売と四月発売は、ゼクスが表紙。三月は単独だったが、四月は今度、『先輩風』で出た。まだ二十二歳で、今年二十三歳だから、普通なら新卒社会人なのだが、まぁ良いのだろう。とっくに社会人であるし。イケメン・金持ち・デキる男の象徴は、最早ゼクスだ。この年は、このまま進んでいき、七月の終わりに、新大陸であるエフネスが攻略開放された。その筆頭ギルド名が『アンチノワール』で、どうでも良いが、レクスは吹いた。偶然だとしても、国産VRのクラウンズ・ゲートの層と、VRシティ層はかなり被っているので、話題となっていた。なお、レクスはそちらの情報を集めていて、『ギルマスはゼクス。猫アバター』と聞いてむせたものである。この頃、アンチノワールのブランド側も、国内の人気ランキングで、二位になっていた。一位は黒騎士である。三位はハーヴェスト。四位は、エクエス・デザイアだ。

 八月になり、後は一気に十二月まで進んで、十二月の発表――『抱かれたいランキング1位』の『抱きたいランキング1位』となった。もう今回は、両方誰も驚かなかった。さて、この月、ゼクスの仕事が一つ増えた。理由は、1月から、毎週1つ、エクエス・デザイアが動画を公開すると決まっていて、月に4回、その撮影をする事になったというものである。これは『VR実業家』『VR起業家』『デザイナー』へのインタビューである。インタビューするというか、対談相手が『ゼクス』という形で、相手は、基本的には、若手のVR系実業家やベンチャーとなる。最初レクスは『映像?』『喋れるのか?』と、不安になった。が、バッチリだった。これは、俳優オファーが殺到していたので、試しに周囲が台本を読ませてみて、表情指示や声のトーン指定をしたら、ゼクスがパーフェクトにその通りにできたため、発覚した事柄だった。ここまで、肉声と動きがあるものは、実はゼロだったので、話題性が期待できる。ゼクスは嫌がっていたが、朝夕1回ずつで、2日だけだと言われて、押し切られていた。予想外のものだとか、どうするのかなと思っていたら、ゼクスは『そういう場合は、ニヤッとして黙れ』と指示を受けていたらしく、それで乗り切っていた。なおこれ、撮影は、日本であるが、英語・ドイツ語・フランス語での撮影である。日本語ではないし、日本企業の予定も無かった。さらに――1月になり、ゼクスが、「今年分全部撮る。だから止めろ」と言ったため、48回分の残り44回を1月に全部撮影した。22日間かけてである。8日間は今まで通りだったので、30日間ゼクスは働いた。だが、これで1年の仕事が終わった。

 1月の放映分は大人気だった。視聴率がすごい。なんというか、ゼクスは、王者の風格だった。その年――2月に、クラウンズ・ゲートのレベルキャップが、10上がるという発表があった。発表直後にゼクスが宣言したので、周囲は笑顔だった。そして二月から、ゼクスのゲームがより本格化したのは、誰にでも分かった。8日間に関しても、空き時間はゲームをしているのだ。それでも、黒騎士2個はやっているし、他の仕事もパーフェクトだ。ただ、終わるのが異常に早くなった。慣れもあるだろうが、モデルの仕事はNGが消え、一発クリアだらけ。手術も超早い。完璧だが早い。クオリティは維持しているのだ。レクスが寝る時はインしているし(三時過ぎ)、朝起きたらやっているし(八時代)、一体いつ寝ているんだろう……? 聞いた話、三時間睡眠らしかった。本当に廃人だったのだ。課金すればキャラレベルと職も1個は、一緒に上げているのはあがるから、課金なら3ヶ月で、普通にやっていても上がる。そしてゼクスは課金もしているだろうが、ぶっ続けであるから、他や生産も上げているんだろうなとレクスは思った。その年の10月まで、ゼクスは片時もゲームから離れなかった。そして十月の終わりに、少し落ち着いたみたいだった。高三のレクスは、受験について考えていた。会社経営に専念するか、大学生モデルの肩書きゲットに適当に国内で何かやるかである。ガチ受験の予定はない。9月の海外への進学をしなかったのがその現れだ。ここまでの間に、経営と経済でさらに学位、修士、博士号もレクスはひっそりと取っていた。プラスして、ヴァイオリンの国際コンクールで一位、ピアノが三位、その二つを同時受賞も快挙だし、片方だけでもプロへの誘いが来ていたりもする。正直迷っていた。本音を言うなら――ゲームやってたい……!

 そのまま11月になり、「来年もやるなら、今のうちに頼む」とゼクスが言ったため、今のうちに来年の48本の撮影が決まり、11月の8回の仕事明けの9日から24日間撮影になっていた。12月は8日間はさんで、プラス4回、12月の仕事も12日に終わった。さらにゼクスは、『雑誌の更新はしない』と粘った。よって、3年で契約は終了となったわけであるが、この年も『抱かれたい男1位』だった。抱きたい男は、『3位』だった。微妙である。動画で落ちるかなと多くが思っていたのだが、あの肉食獣っぽい感じでもなお、3位だった。『屈服させたい』とかいうおかしなファンがついていた。結果、惜しまれつつも、翌年の1月からは、ゼクスは、4回の手術以外がフリーと決まった。さらにゼクスは、この手術に関しても交渉に入った。そして『どうしても必要な場合のみ、年に2回まで、どうしてもどうしても時を含めて4回まで』という条件で合意した。つまり――『やらない!』と決めたのだ。確かにもう、ゼクスの腕ならば、お願いされてやってあげるのが正しいのであり、経験を積む段階は終了していた。ゼクス、二十四歳である。四年かけてやっとゼクスは、『断る』を、ちょっと覚えたのだ。レクスは微笑ましかった。