12


 一月から、ゼクスは、朝食時の、十時半から十一時までの間に打ち合わせも終了として、十一時から翌日の十時まで完全フリーとなった。クライスやレクスも、秘書達も、ザフィスすらも、その三十分しか会えない。それ以外、ずーっとゲームである。どう考えても、職を3つ以上、さらに生産、これらのレベル上げに取り掛かっているだろうという事で、父と弟は一致していた。1レベル上げるだけでも相当時間がかかるから、全部カンストなど普通は年単位である。VRシステムは、一般家庭に普及したとはいっても、それはあくまでも接続状況であり、自治体完備以外の自宅保有は、実は富裕層しか無理なので、廃人になれるというのは、その段階で、金持ちか仕事で家にある人間である。ゼクスは、仕事で家にあったのが開始で、今は両方の理由だ。朝食時最初は諌めようとしていた執事だが、「ゲームはどうですか?」と聞いた瞬間、あんまりにもゼクスが嬉しそうに微笑してキラキラした顔をしたため、見惚れて何も言えなくなり、そこから触れていない。大好きなんだなと全員が知った。レクスも、大好きなものが欲しいが、悩む。ゲームは好きだが、うーん……。試しにと思って、ゼクスに相談してみた。

「進路か……俺、お金も無かったし、物理的に近所に学校も無かったからな……学校について悩んだ事が無いんだ……こう『行けない』というのが前提にあったからな……考えた事も無かったけど……やりたい事をやれるとするなら、俺だったら、ゲームの会社作って、ずっとゲームしたいなぁ」
「ゲームの会社?」
「ああ。クラウンズ・ゲートみたいなのを作って、ずっと『テストだ!』と言って、ゲームしてる。デザインも、ゲームのデザインをしてる。中で」
「――なるほど。悪くないな」
「だろ?」

 ゼクスが笑顔になったので、レクスは礼を言って、後にした。考えていた事柄として、安価な『VRシステム』『VRゲーム設備』の販売会社と日本での普及はあったのだが、『クラウンズ・ゲートとのセット販売』と、ハーヴェストによる株式買収が頭に浮かんだ。実は既に、株主だったりはするのだ。それも、ハーヴェスト家の名義で三分の一に近い。だがそれは、企業としてではない。露店部分に『リアルマネーとゲームマネーの置換利用店舗』を置いての、企業参入と、ユーザー側からの露店の課金化――これは海外には比較的あるのだが、普及率的には日本にはまだ無い。2つだけあるが、それは海外からの輸入ゲームであるし、店も海外のショップばかりだ。実際には、レアアイテムなど、リアルマネーでも欲しい人々は多いし、RMTはなんだかんだで存在しているから、公式の方が良いとも言える。クラウンズ・ゲートならば、『鴉羽武器』や『ルシフェリア銘』の武器が高い。リアルマネーで500万円で売れたなどと聞く。それならば、普通に公式課金の一形態の方が良い。ただ、これだけでは弱いと思っていたのだが――兄上の「中でデザイン」というのに、レクスは一人頷いた。生産者は、自分のオリジナル武器をデザインしたかったりするものだ。『デザインスキル』を作る。外部参入時は、VRデザインの資格で、置換可能。内部でも、スキルを上げれば、オリジナルデザインが可能。ただし、生産スキルはゲーム仕様であり、ゲーム内部で上げなければ、参入しても武器はレベル1、つまりオシャレとなる。良い気がした。これは、流行りそうな気がする。

 クラウンズ・ゲートは、面接が、『履歴書』『卒業見込みOR証明書』『企画持ち込み』『面接予約』である。大卒以上(VR可年齢不問)であり、随時だ。だが、基本的には履歴書で落ちる、と、有名だ。さて、その日そのまま、レクスは送ってみた。即日で面接希望日を聞かれて、提示された三日後に、出かけることになった。三日間は、資料を作った。そして、「あの、本当に当社で良いのでしょうか?」と下手に聞かれて頷いて、採用された。そう――『就職』してみたのである。ある意味新卒採用だ。その知らせにゼクスは大歓喜、クライスは吹き出し、ザフィスは汗をかいていた。

 二月一日から、レクスは出社を開始した。卒業式に一度学校に行ったのと、離任式に行ったの以外は、雑誌のモデルも引退して、会社となった。そう、レクスもゼクスも引退したのである。読者は寂しがった。レクスの行方をみんなが探した――4月に判明した。安価なVRシステム&ゲーム設備&クラウンズ・ゲームのソフトがセットな新商品の広告に出たのだ。『公式NPC(中身もレクス)』として、クラウンズ・ゲートで会えます、として、大々的に販売である。これには、内部も騒然となった。ユレイズの青十字のレクスが、本物のレクスで、しかも運営!?!?!?!?!? みたいな大事件である。ギルドは、ギルマスを譲って、レクスは抜けた。代わりに、『公式のお仕事でゲームにいる』のである。フレリスだとかは、そのままである。すごい。値段が、5000万円から600万円になった上、500万円と30万円のゲームの設備&ソフトまでついてくるため、ゲーマーもであるが、普通に欲しかった人々が殺到した。買い替えも相次いだ。何せ中身が既存より良いのだ。レクスファンも手を出した。売れに売れて、4月の予約は10万セット、5月は初日に即日30万セット完売、超売れて、新規も爆増した。

 以来、レクスは『ゲーム内』と『公式VRチャンネル』で、見られるようになった。番組は、週に1度、水曜日である。メンテナンス日は、メンテナンス時間と2回やっている。さらに土曜日夜が、ゼクスの、デザイア動画である。ハーヴェスト兄弟は、そこでしか見られなくなった。これが続いて、12月になった。さて――抱かれたいランキング1位、ゼクスである。強い。抱きたいランキングからは、ゼクスの名前は消えた。代わりに、レクスが入った。18歳になったので、解禁されたのだが、抱きたいランキングの4位だったのだ。ちなみに抱かれたいランキングは30位まで出るのだが、レクスの名前は無かった。ゼクスの抱きたいランキング27位は、あった。レクス、ちょっとムッとした。どう考えても兄より自分が抱く側のイメージしかないが、世間は逆らしい。レクスは「可愛い」から「美人」になったそうだが、ゼクスは「かっこいい」「美人」であるようだ。頭クるな。ちなみにゼクスは、未だにこのランキングを知らないらしい。父上が言っていた。もうこの年には、言わなくてもエクエス・デザイアは、不動のトップだった。そしてこの年も11月にゼクスは撮りためたのだが、12月に、『日本企業初』の『クラウンズ・ゲート』をねじ込んでもらった。兄弟対談は、ドイツ語で行われた。その部分は、VRの将来性だとかについて語り、超大人トークである。しかし『特番』として、12月のメンテナンス日に、クラウンズ・ゲートの側で『日本語対談』を、翌週に放送すると発表。そちらにおいて、『ゲーム内部での武器デザイン、デザインスキル』の話を発表した。12月28日実装であり、二月登録開始の、三月プレオープンの、四月から公式開店の発表まで行った。放送日は、12月24日、イブ。クリスマスの夜のハーヴェスト兄弟。27日土曜日のデザイア動画は、通常運転だったが、日本人視聴者爆増だったらしい。

 これ、ゼクスくるかな、と、噂になっていた。ざわざわしていた。レクスもドキドキしつつ、兄上に聞いてみた。

「兄上も、お店をやってみないか? 黒騎士とか」
「えっ!? 良いのか!? ダメかと思っていた。やる!」
「みんなでやる方が盛り上がる。俺も兄上のデザインが楽しみだ」
「有難う!」

 最近、本当に一息ついていた様子のゼクスが、満面の笑みだった。レクスは、ホッとした。兄上は、デザインの資格的に、デザインスキルは最初からカンストである。そこは問題なかったが、それ以外がレクスは気になった。どうなるんだろうか。生産もどこまで上げているのかは不明だし(薬剤は上げているだろうとわかる)、キャラレベルも実は知らないのだ。ここまで一度も会っていない。キャラがエフネス攻略開放時にカンストだったのは分かるが、各職の状況は知らないし、現在の360レベルがキャップになってからも不明だった。長時間やっているから、キャラはカンストだとは思ったが。