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この9店舗……見に行った公式だけでなく、全ユーザーの足を止めた。は? である。レクスは、3月1日のその日、朝10時、見に行くとゼクスに伝えていた。ゼクスは待っていると言っていた。さて、猫ゼクス、そこにいた。隣にルシフェリアとイリスもいた。場所、桃花源前である。レクスは、笑顔がひきつりかけた。後ろには、公式の取材カメラが浮かんでいる。まず、動揺しながら聞いた。
「え、兄上ってアンチノワールも兄上なのか? ギルドじゃなく」
「うん」
「それより重大な事として、鴉羽銘って、兄上?」
「ああ」
「黒曜宮も?」
「うん」
「――そうか。それはそうと、ルシフェリアさんを紹介してください。俺、大ファンです」
「「「ぶは」」」
桃花源三名が吹いた。イリスは、よく考えたら、モデルの素顔とアバター、同じだ。
「よ、良かったら、キャプお願いします」
「ルシフェリア、お前、レクスにとってあげてくれ」
「構わないが、逆じゃないのか? ユレイズのレクスだろう? 弟だという話、今日までデマかと思っていた。ある日突然『弟ができた』『レクスというそうだ』『モデルだって』『知ってるか?』『知ってるの!?』という流れだったからな。かつ、ゼクスが黒騎士をやっていたのは知っていたが、モデルとして映った時は、他人の空似かと思ったものだ」
「うん。僕も完全に他人の空似だと思った――レクスくん、あのね、僕達三人、VR大学の同期で、一緒にクラウンズ・ゲートを始めたんだよ」
「えっ!? イリスさん、それは、事実ですか? あと俺、写真集持ってます」
「「「ぶは」」」
それにしても、レクスは固まるしか無かった。まさか兄が伝説の一人であり、かつルシフェリアと、本気で親しいとか思っていなかったのだ。てっきり開始時期が同じな顔見知り程度だと思っていたのである……。しかも『ユレイズの』と、ルシフェリアに言われて、嬉しかった。しかし、兄上、台本が無いが、大丈夫なのだろうか……。
「ゼクスは、リア共有しないの? 僕、猫よりそっちと撮りたいな」
「イリス、俺、嫌だ」
「イリス、もっと推せ。俺もリア共有ゼクスを見たい」
「でしょ? レクスくんも言ってよ」
「兄上、お願いだ」
「……」
こうして、ゼクスがリア共有した。見守っていた周囲、別の意味で騒然となった。まさかまさかと見ていた全員、現れた壮絶なイケメンに硬直である……。さらに負けてないイケメンのルシフェリア、抱かれたい1位のイリスと4位のレクス。やばい、これ。しかもプレイヤーとしても伝説だ。戦闘スキル的にも、生産スキル的にもだ。
「なんていうか、ゼクスはゼクスだな。ああ、変わらない」
「うん。そうなんだけど、そしてイケメンなんだけど、雑誌や動画のあのイケメンっぷりは、僕の中で今動揺、別人感」
「確かにな。ライオンと猫という感じだ」
「まさにそれだよね」
「イリスは、中身ハイエナだからな」
「ルシフェリアなんて、中身、犬じゃん」
「おい」
「僕飼い主ポジだよね。ルシフェリア犬と猫ゼクスを、こう、ね?」
「――そうか? お前、ゼストに飼われてるだろ」
「は? ゼストも僕の、そうだな、放し飼いの伝書鳩みたいな」
「「「ぶは」」」
「レクスくんに飼われると、ライオンに進化するんなら、ルシフェリアも飼ってもらったら狼くらいいけるんじゃない?」
「なるほど。それならば、天球儀のクライスさんも良いかもな」
「どういう事? ルシフェリアの元執権でしょ?」
「言って良いと聞いているから言うが、裏の通りでハーヴェストをやっている、こちらのゼクス&レクスの実父だった」
「えっ!?」
「後な、ルシフェリア、お祖父様がザフィス神父だった」
「ぶはっ、そうか。うん、納得の一言だ。外でも中でも回復か」
「「ぶはっ」」
「えっ、ハーヴェスト社長と、グループの会長? いやそもそも、ゼクスは分かるとして、レクスくんは微妙として、なんでクラウンズ・ゲートやってるの? しかもみんな廃人気味じゃん。ゼクスは完全廃人っていうか、廃神。それ、血筋?」
「「「ぶは」」」
「――それは、ゲーム内部を知っているから尊敬しかないですが、逆にモデル側のファンなので、イリスさんにも俺は聞いてみたいし、ルシフェリアさんも、インフェルノは兎も角、VR環境の権威ですよね、不思議です」
「いや、僕、課金代稼ぐためにモデルとデザインショップやってるだけだから」
「ぶはっ」
「会社自体は俺だが、VR環境の特許は、俺とゼクスだぞ? 何故か報道されなかったが」
「えっ!?」
「あれな、俺が言ってないからだと俺は思うんだ」
「なるほどな」
「それにほら俺、売るの分からないから、全部お前に押し付けて、ゲームしてたし」
「それ、その通りだ。全力で詫びてくれ」
「うん、ごめん……」
「お前の言い分は、『俺、11歳だから……』であり、当時の俺は、十四歳。そういうものかと思ってやっていたが、ゼクスが十四歳になって聞いてみたら『俺、クラウンズ・ゲートの生産があるから……』というから、おいおい、と、思いつつ続けていたら、『なんだかエクエス・デザイアとなった』と聞いて、なぜこちらをやらないのかと俺は生暖かい気持ちになった」
「「「ぶは」」」
「生産が混じってる……」
「ああ、けどな、鴉羽武器は、アイゼンバルド攻略には必要だった。さらにゼクスのヘルプもな。俺は何度、自分で武器のレベルを上げるべきなのか悩んだが、自分が上げてもゼクスが攻略に来なければ、意味がないし、さらにゼクスが経営をした場合、ゼクスは『無料でいいんじゃないか?』と、言いかねない大らかさを天然で持ち合わせているから、それも怖かった。ハーヴェストが後ろ盾になってくれたのは、世界中の幸運だろう」
「「「ぶは」」」
「器がでかすぎる」
「うん。ルシフェリア、それは僕も思う。バカと紙一重レベルで、器が大きい。完成までは完璧主義者だからきっちりやるんだけど、完成物には興味があんまりない所とかさぁ」
「それだ。武器作りも完成まで完璧で、レベル上げも攻略も同じだが、終わったら満足だから『この武器もうできたし、いらない』という感じなんだよな」
「「「ぶは」」」
「デザインも向いているが、完成までだからな。その後に興味が無いから、ハーヴェストで売ってやれ」
「はい!」
「「「ぶは」」」
「そういえば、インフィニティの編集部の友人が、ゼクスにまた出て欲しいって言ってたよ。レクスくんさ、クラウンズ・ゲートのオシャレ衣装着せて、ゼクスを出したら? きっと今なら、インフィニティ、出してくれるよ。ゼクスのオシャレ衣装チラ見したけど、コスプレとかじゃなくて、普通にブランド服だったし、良いんじゃない?」
「「「ぶは」」」
「――アリですね。イリスさんと、ルシフェリアさんも、ご一緒にいかがですか?」
「「「ぶは」」」
「ゼクスを撮影に貸してくれるんなら、僕としては、VR専門ゲーム雑誌に出たいな」
「あ、それ、良いですね。ぜひ、出て下さい」
「え? 良いの? やったー! ゼクス、お許しが出たよ」
「え、俺は嫌だ」
「兄上、頑張ってくれ。1回だ、いや、2回かもしれないが」
「レクス……あ、関係ないけど、ルシフェリアと動画を撮りたいと言っておいてくれ」
「! ああ。それ、ゲームチャンネル日本語版もお願いできませんか?」
「「「ぶは」」」
「レクスくん、それは、僕もやりたい。次の週か前の週に入れて」
「ぜひ!」
「ゼスト連れてってあげるよ」
「えっ!? お願いします!」
「って、言うか、今呼んであげるよ」
「お願いします!」
こうして――誰もが知る、伝説のプレイヤー、ゼストがやって来た。