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 一回目は『黒騎士商品のモデルが必要なんだが雇えそうになければ自分でやってくれ』として、指輪の手だけだと思っていたゼクスが自分でやるというから、全身だ。二回目は、レクスのブランド品のモデル。これは、レクスが経営しているブランド(デザイナーは雇用)の服のモデルだ。三回目は、父のブランドで、クライスは自分でも服のデザインをしている。高級ブランドだ。金持ち向けだ。二人共に、リアルブランドである。三ヶ月目は、レクスと二人で撮影した。レクスは実を言えば既に中学生モデルとして活躍中であり、大人気だったのである。ゼクスが世間を知らないから知らなかっただけであり、特に十代ならば、多くの国民がレクスを知っていた。そして、ここからは、広告モデルというだけでなく、二度ほど、レクスが毎月モデルをしている雑誌1つと、クライスのブランドが毎月ページを貰っている富裕層向けのメンズファッション誌1つに、モデルとして出た。

 ゼクスは終始嫌がった。だが、カメラを向けられて、指示されると、その指示が『強気』で『強引』だったら、押しに弱いため、その通りにしか出来ないようで、きちんと言われた通りにしていた。指示内容が『俺様風』だったり、『強気風』だったり、『強引』だった場合、ちゃんと『俺様っぽく強気で強引そうな顔』をゼクスは作った。目を細めて、とか、角度とか、唇を持ち上げて、とか、その単位からの指示は必要だが、完成した写真は、どこからどう見ても、肉食獣に仕上がった。パーフェクトである。

 しかし前後が低姿勢だし弱気で優しいから、撮影陣の目がヤバかった。レクスとクライスと秘書勢が一緒でなかったならば、お持ち帰りコースだっただろう。

 さて――名前も身元も公表していなかったのだが、ゼクス、すぐに火が付いた。まず、レクスとの方は、珍しく雑誌が各地で販売だった。名前は出していないし、本当だとも書いていないのだが、『兄との休日カジュアル』という特集であり、3ページに渡り、イケメン兄弟の休日の買い物と休憩みたいなのを撮影したのである。『誰このイケメン!?』として、ゼクスが注目を浴びた。レクスは、学校の友人から大量に連絡を貰い、「あれ、どこの事務所の誰!?」と、聞かれまくった。中高生が購入する雑誌なのだが、これは、男女問わずに購買者がいるため、普通に女子にも大ヒットだった。レクスは秘密で通した。

 もう片方、富裕層向けの雑誌は、雑誌側から、自分の社の専属にしたいからとハーヴェストに連絡があった。実はこれは、偉業である。出ている他のモデルは、キャリアを積んだ名のある人ばかりで、金を払ってもモデルとして使ってもらえないと評判なのだ。抱かれたい男ランキング十名中八名は、ここのモデルである。内五名が、俳優もしている。実はこの雑誌でモデルをやるというのは、イケメン俳優の夢でもあるらしい。やりたくてもやれないのだ。

 また、ハーヴェストで展開が決まった黒騎士の指輪50種類のVR広告のモデルとして、ハーヴェストのレクスブランドのモデルとして、クライスのブランドのモデルとして、3枚、2枚、5枚撮ったのだが、これは5つの話題になった。一つは続けて、『このイケメンモデル誰?』である。二つ目は、若者向けとしてのレクスブランドの評価が上がった。これまで、女性人気が高かったのだが、メンズが盛り上がったのだ。三つ目はクライスのブランドの人気だ。金持ち系だが、イケメン系では無かったのだが、イケメン金持ち系としてどストライクな脚光を浴びて、一気に売れたのだ。四つ目として『黒騎士再起動?』という話である。ここまで数年動きが無かったため、ファンが喜んだのだ。そして最後の五つ目が、『黒騎士との契約に成功したのはハーヴェストらしい』という話である。そう――やはりみんな狙っていたのだ。黒騎士は格好いい。当然だ。しかも、カッコイイ黒騎士のモデルがまた格好良いという流れで、VR業界がざわっとなっていた。

 だがゼクス、モデルが嫌そうだった。好きじゃないらしい。キャーキャー言われるのとかも嫌いみたいだった。恥ずかしいようだった。初々しい。レクスは、言われるの結構好きだから、何とも言えなかった。

 さて、三ヶ月が経った時、その『インフィニティ』というお金持ち雑誌に関して、クライスが聞いた。条件は、月に1度の撮影で、2月から1年契約。4月号(3月20日発売)からの契約であり、毎年12月に、翌年の契約が決まる、というものである。試しに一年だけ、という話だった。ゼクスが、「む、無理だ……」と言っていたのだが、珍しく執事達が父上に加勢した。「安定収入ですから、ゼクス様もこの一年間はデザインに打ち込めますね、収入を気にせず」と言ったのである。ゼクス、頷くしかないようだった。見ていたレクスは吹き出しそうになったものである。実際の理由は、金というよりも、執事や秘書も金持ちなメンズなので、インフィニティのファンであるから、そこでゼクスを見たかったのだろうと直ぐにわかった。

 後は、レクスが専属をしている、『クエイクス』という雑誌で、レクスブランドのメンズ向けコーナーを3ページ毎月貰えたので、そこに黒騎士のリアVerを出すと決めた。そのモデルがゼクスである。こちらも毎月撮影だ。ただこちらは、撮影後に雑誌に渡せるから、インフィニティとは違うし、ブランドも固定である。インフィニティは、雑誌側からの指示で服が変わるのだ。その中のクライス関連に関してのページは、勿論全部ゼクスが出ると決まった。なので、雑誌関連が、月に3回撮影と決まったわけである。

 なお、この三ヶ月で、最初の一ヶ月で二個、次の二ヶ月で五個、三ヶ月目は三個、ゼクスは新作の指輪、服と指輪、時計と指輪と鞄を黒騎士で出していた。出したその日に完売である。みんな待っていたのだ。二ヶ月目の後半にVR広告が出た結果、全商品即日で完売していた。さらに三ヶ月目に入り、雑誌が出たら、レクスブランドがリアルで完売、クライスの方も、金額が高いというのに、8割が完売した。VRショップは、同一商品は、5個10個50個500個1000個2000個3000個、5000個、1万個、2万個、3万個、10万個、20万個というセット受注となる。サイズは誰にでも合うわけだし、複製も簡単なので、VRデータ量というのが、企業側負担となる。個人ブランドだと、2000個が最大数である。3000個からは、会社としてやっている所ばかりだ。大体は、1種類1個で、ショップに300商品くらいを並べるパターンが多い。黒騎士は、元々は、50個で、既存商品プラス新作として、ショップアイテム数を増やしていた。レクスは今回50種類の指輪の権利を得たが、指輪のみで578種類あった。特に売れ筋のものを今回手に入れたのである。なお、ハーヴェストの代理販売分も完売だ。代理販売は、5000個用ずつ意したのが、完売である。黒騎士は、VRシティ首都という、一番大きいVRショップ街に1店舗しかない。1店舗につき、おける商品数は、100種類なので、ゼクスは100種類を各50個ずつ販売していたのだ。種類は適宜変更可能だが、商品補充は、月に1度しかできない。ただし、見本は500種類までおける。だからVRショップの多くは、300程度見本を置いて、100種類の内容をチェンジチェンジチェンジで回しているわけである。だが、ゼクスは、100種類のみを50個にした以外は、操作をせず、次の月に、売り切れていたら、新商品と追加したい商品を、また50個、というパターンだった。これは、看病が忙しかったのもあるだろうが、あまり得意じゃないというのもあるようだった。

 レクスの感想として、デザインは、上手いのは分かっていたが、かつ早い。クオリティが高いのがバンバン出てくる。商品化は、三ヶ月で10アイテムであるが、デザイン数は50アイテムを超えている。そちらもボツでもなくクオリティも高いのだが、ゼクスが「これかなぁ」というのを出したのだ。それも売れそうとかという理由ではなく、新作っぽいという理由らしい。そして、五年前の開始からその時点までに2万アイテム程度あったのだが、こういった出ていないデザインが、5万から10万はありそうだった。金の生る木だったのである。なので、指輪50種類は、まず様子を見たが、来月から、その50種類を20万個作って、保持しながら小出しにしつつ、売り切れをゼロにする他、企業枠なので、500種類おけるため、450種類は、出ていない黒騎士デザインを契約してハーヴェスト枠で出す事になっている。そちらも20万個、最初からだ。これは異例である。見本も500種類おけるので、これも全部出す。そしてそれは、既に先週から出しているのだが、予約が全商品に1万個以上入っているので、それは別製造してある。今月枠で作っているのだ。さらに、服1店舗、時計&鞄&靴で1店舗、指輪以外の装飾品1店舗をハーヴェストで出す。3店舗共に、500種類、各3万個で来月スタートである。全部、御蔵入りしていた非公開デザインからである。レクスは、デザインはどうせ余っていないだろうと思っていたら、それどころか大量に素晴らしいのがあって吹いた。しかも数年間毎月新作を投入しても困らないのだ。金の生る木以外の何者でもなかった。さらに現在進行形で生み出されている。値段も、ハーヴェスト分はレクスが自由につけて良いそうだった。当然、本店のゼクス経営より値段は上げる。レクスから見ると、黒騎士は安すぎる。ゼクスから見ると、高いらしいが。

 それで、こちらのVR広告を、どうしようかという話になった。当然、レクスはゼクスに出て欲しい。そして、拒否なんかさせない。結果、レクスの専属雑誌の時の黒騎士リアVerの撮影のみでなく、その他別途月に1回撮影とした。さらに、クライスも1回ねじ込んできたので、ゼクスは月に5回撮影となっていた。泣きそうだった。4ヶ月目はそれの調整と、黒騎士&ハーヴェストの契約も詰めていき、翌年三月間近の、インフィニティの取材から、本格的な新生活が開始となったと言える。普段着だとかは、執事が用意済みである。服はハーヴェスト関連企業が大量にくれていた。レクスの秘書の内片方は、そのままゼクス専属になり、ゼクスの秘書になった。さらにクライスとレクスがそれぞれ秘書を1名出して、運転手に執事の腹心の使用人が付いて、四名が、ゼクス専属になった。四名とも、SP能力もばっちりである。

 さて、すごかったのが、インフィニティ――思い切ったというか、これまでやりたくてもできなかったのだろうが、春の初回号で、専属モデル決定時の表紙をやらせて、新会社員や新起業家を狙っていった。若者の金持ちって、案外いるが、その場合同年代のモデルよりも金持ちである場合が多くて、あまりこう、買う気が出ないらしいのだ。だから、インフィニティの若者モデルは、若者金持ちに、さして人気が無かった。しかし、突如現れたゼクス、死ぬほどイケメンである。かつ、情報ゼロだが、『モデルのレクスの兄役』『レクスはハーヴェストという大企業の息子』という流れで、イケメン兄弟(大金持ち)な印象まで出ていたのだ。さらに、現在VRとは若者の象徴であり、そこでヒットしている黒騎士のモデルまでやっている。これもまたイメージが超良かったらしい。さらにインフィニティは、モデルの写真目的で、女も買っていたりする。

 結果、まず、インフィニティが、創業初めて、初日完売だった。レクスも見たのだが、ヤバかった。超イケメンなのだ。カッコイイ……。インフィニティのモデルの中で確実に一番年齢が若いし、キャリアにいたっては、各雑誌のモデルと比べた時、街頭スナップの常連よりも低いのに、なのに、なのに、貫禄と雰囲気は誰にも負けていない。存在感も一位だった。雑誌内に、抱かれたい男2位とかいるのに、目じゃない。巻頭で、兄上単独の後、そいつと、抱かれたい男4位と、2ショット、3ショットがあった。これは雑誌が狙って配置したのだろうし、本来ならば、その二名ファンにも気に入ってもらうための配置なのだろうが、完全に兄上に二人が食われていた。ゼクスの方が段違いでカッコイイのだ。なんだこれは状態である。気に入ってもらうどころか、ファンを奪い去っていった感がある。これはやばい。さらに、新社会人とかでのエリート金持ちも、初めてインフィニティを手に取ってみた、という風になったし、なんかもうデキる金持ちイケメンの象徴みたいになっていた。また、その雑誌内のクライスブランドの服ページ。こちらもゼクスがモデルをしたのだが、全商品売り切れた。これまで金持ちは持っていがイケメン印象無かったのに、ガツンとくっついていた。父上が、ホクホクしていた。

 その後、4月になり、3月に撮影した、クエイクスの発売になった。こちらは、表紙がレクスだが、レクスは何度かやっていた。そして巻頭の2ページ目、レクス&ゼクス&黒騎士特集だったのだが、こちらも初日に完売した。これまでのティーンズだけでなく、大学生と小学生とVR好きまで購入し、既に発生していたゼクスファンの社会人以上も買うん有する結果となった。3月に開店していたハーヴェスト運営の黒騎士商品であるが、4月になったから、さらにプラス500商品を投入していて、各店舗全1000商品で、補填も行い、20万個ずつとなっていたというのに、雑誌が発売された4月10日、残っていた全商品が完売した。分かってはいたのだが、国外からの購買者も多数いた。日本人モデル起用だから、減る可能性も本来はあったのだが、逆だった。国際的に兄上カッコイイ熱が発生していた。VRで日本発生の企業商品が、海外に広がったのは初めてである。3月時点で、実は、売上数で、国際ランキングで30位に入っていたのだが、この日、3位に上がった。これは偉業中の偉業である。ハーヴェスト本社が騒ぎになり、お祖父様のグループからまで連絡が入り、クライス&レクス&グループのVR関連日本支部が、ハーヴェスト本社で会議と決まった。レクスも流石に緊張した。