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その会議開催の前日、予定していたVRでの黒騎士広告が出た。なおこれ、ハーヴェスト本社がその他の日本各地、グループが海外の提携先があるシティ全部に流した。兄上は、シティ首都以外を知らないのだが、聞かれなかったので、レクスも言わなかった。結果、翌日の会議の日、朝7時の段階で、3位に戻り、8時に2位、9時10時も1位維持で、10時半に会議開始となった。VRは入れ替わりが激しいので、瞬間的にランキング入りは、100位までならば狙えるのだが、すぐに下がる。それでも50位以上は偉業だし、30位以上は、固定の有名企業ばかりで、大体は内部でのランキング変動となる。その中で、黒騎士は、3位になってから3日維持して、4位、5位と落ちて、8位維持で、会議前日の4月17日になっていたのだが、広告で盛り返したのだ。ちなみに、4月11日付けで、ハーヴェスト本社とグループの直轄で、日本にも各世界にも大量に店舗を確保してMAXの20万個、さらに国外は100万個が可能なので、100万個を可能な国には置いた。50万個上限の国は50万個だ。ランキングは販売個数と1時間での売上数で変わるのだが、その状態で、8位でかなり売れていたのが、広告展開直後に、また売り切れだらけになった。確保してはいたが、1時間毎のランキングが出るので、セーブしつつプロの販売員が個数管理をしながら出していたのだが、待たせる感やランキングのためというより、予約殺到も込みで、売り切れかけて、全員が焦っていた。その後の1位である。
他にアイテムは、無いのか? デザインは?
からの開始だった。モデルより、まずそちらだった。父上が、7万アイテムを出した。3万は、父上とレクスで保持しているという話を付けた。さらに――レクスも知らなかったのだが、ゼクスに聞いてきたそうで、ファッション系でない、インテリアや、VRでは実は人気だが人手が足りない、植物、空間、自然風景、室内風景、これらのアイテムおよびデータを出してきた。そちらのみで、10万アイテムは存在している。さらに、それ以外の分類が困難な、雑貨――ペーパーナイフだとか、文鎮だとか、そういったものが、30万点以上あった。
「本人に、VR系の学歴は?」
「エーヴェス大のVR学位、VR環境学とVRデザイン学の修士、VRデザイン学の博士、全部持っているけど、VRのONLY受講だった。逆に、ONLY受講の初学生の1人という意味ですごいよ。入学が10歳、スキップして、学位が11歳、修士が半年ずつで12歳、博士が13歳で卒。黒騎士開始が15歳。現在20歳。今年21歳だね」
「――あの、広告の青年ですよね?」
「ああ、そうだよ」
「非常にザフィス様に似た雰囲気ですが、中身は? 顔立ちは違いますが。ぶしつけですが、御子息なのですよね?」
「中身はね、レクスがチーターだとすると、ゼクスは子猫みたいな」
「「「「「ぶは」」」」」
「ああ。兄上は、口を開かなければ俺でさえ気圧されるが、開いたら世間知らずで詐欺に合いそうな気弱で押しに弱い、優しい人だった」
「そうですか。ご家族であると、血縁者だと公表しても良いんですか?」
「そうだね。私は構わないし、レクスはどうだい?」
「俺も良い。寧ろ、公表した方が良いだろう。個人的には、お互い昨年まで存在を知らなかった部分まで込みで全部公表して、黒騎士も学歴も兄上の才能だと宣伝した方が売れると思う。田舎在住は、それっぽく換言して、世間知らずや詐欺のカモの部分は黙ってではあるがな」
「レクス様が良いのであれば、ぜひそうさせて欲しい限りですね。イメージ戦略ごと頂きたいんですが」
「兄上は、撮影以外で外出しない。その際は、俺と父上の秘書が常にいる。現在までに、プライベート譲歩は外に出ていない。唯一、俺との兄弟説が少しあるだけだが、これは事実とわかって問題ゼロだ」
「最高ですね。我々から2名、ハーヴェスト本社はどうします?」
「こちらは1名を」
「決まりですね、とりあえず、3名をそちらにプラスして、管理しましょう。ご本人への許可はそれとなくこちらで取りますね。子猫が相手ならば問題はないです。子猫でなかった場合は、レクス様とクライス様に抗議に参ります」
「「ぶは」」
「黒騎士――エクエス、そう既に呼ばれているので、エクエス・デザイアとして、グローバルVRデザイン企業を立てます。その中の衣類・装飾品のみ、黒騎士・ハーヴェストのレクス様展開として、インテリアのVR販売は、ハーヴェストのインテリア部門と合わせてクライス様が、エクエス・デザイアの委託販売展開としましょう。なお、クライス様が現在保持している黒騎士系データ以外の、明らかに傾向が違う服は、エクエスで出します。他の国はグループ全体でも行います。位置づけとしては、エクエス・デザイアの方が親、黒騎士は下部となります。代表取締役は、ゼクス様。エクエス・デザイアは、グループ直下の1企業としてハーヴェストと分けますので、今後の相続権争いなども問題ないでしょう。なお、経営は全部、グループとハーヴェストの経営専門でやりますから、今後もゼクス様はデザインおよび適宜CMで良いです。世界的な若き青年実業家でやらせてもらいますが、実業家部分はやらなくて結構です。それよりもこちらで欲しいのは、デザインです」
「了解、息子をよろしくお願いします」
「ええ」
こうして、そういう事になった。
その月、5月号のインフィニティが4/20に発売されたのだが、なんとこちらまで完売した。定期購読も増えていた上に、増量していたのに、完売だった。今回は、先輩後輩風に兄上ともう一人だったのだが、それでも完売である。ここまでずーっと国際ランキングでは黒騎士が1位だった。かつインフィニティ、海外の関係金持ち雑誌から、兄上カットの依頼が来たとかで、そちらにも掲載する分を、5月号の写真と一緒に撮っていた。国外から専用のスタッフが来ていたらしい。兄上、ぼんやりしていたらしい。撮影って国籍多様なんだなぁみたいな感想だったようだが、既にイメージ戦略も兼ねているスタッフが追加配備されているこちらは、問題ゼロだった。兄上、追加できた3人の感想として、「想像以上に小動物だった。子猫というか、生まれたばかり的な」というものだったらしい。手はかからないのだが、目は離せないし、プルプルしているという感じだった。超優しいし気が弱い。だが、そんな兄上のモデルの写真は、死ぬ程カッコイイ。逆に肉食獣感がアップした。なのに――余裕たっぷりで、いつでも殺せるから、殺さない、みたいな。
五月一日、エクエス・デザイアが、電撃的に開店した。
ありとあらゆるジャンルがある。どころか、既存には無くて、エクエスが初めて出しているのが、3万アイテム、18ジャンルはある。そちらはエクエス独占と言える。既存ジャンルは、これまでのダッサイ決まりきった業務用などから、一新されたどう考えても素敵なデザインをぶち込んだ。一気に、VR界のデザイン概念が存在した50000ジャンルと、学術・事業系・官公庁系の300ジャンル、その他500ジャンルくらいに、エクエス・デザイアの商品が出た。それとは別に、服や時計といったアバターが2万点程、黒騎士ではなく、エクエス・デザイアで出た。広告も、イケメン推しとかではない。デザインと機能性を推している。服や時計のみ、兄上が一部にいる感じだが、それらはトップモデルの1人的な感じで混ざっているだけである。やばい、超やばい。
一位が塗り変わった。一位は、エクエスである。エクエス・デザイアだ。
二位が黒騎士である。
同じ時間に、サイトができた。アクセス数がやばい。
株式会社なのだが、株の買いが殺到している。
代表取締役社長・ゼクス=ハーヴェストである。
お祖父様のグループ会社は、親会社ではなく、グループ本社が筆頭株主なだけである。対等関連企業扱いで、グループとハーヴェストのVR部門は、『取引先』である。後は、本人の学歴が出ている。キャリア部分に『黒騎士メインデザイナー』と書いてある。メインっていうか、一名中一名なのだが。
なお、三位がグループ。こちらは、エクエスの委託商品である。
さらに四位がハーヴェストだ。レクスの卸売&クライスの卸売だ。
1位から4位を独占し、そのまま5月10日を迎え――その日発売のクエイクスにて、『兄弟特集』が出た。特集というか、さらっと『弟のレクスにプレゼント』的なコメント付きのページ、さらに『ゼクス兄上のエクエス・デザイアの商品』的なレクスの一言で、騒然となった。だって、レクスは一人っ子のはずだ。だけど、エクエスのサイトにも『ハーヴェスト』って書いてある。どういう事だ、状態もあるのだろうが、クエイクス完売。そして、5月20日のインフィニティにて、エクエス・デザイアの代表取締役としての経歴付きで兄上の巻頭。三回目の今回も単独で表紙。インフィニティ、また完売。だが同時に、ビジネスニュースも、エクエス一色に変わった。
これまで、VRの1位〜5位は、長らく、特定企業しかいなかったのだ。瞬間的に3位以内までなら入る事はあるが、1位と2位は不可能だとされてきた。理由は、VRシステム開発企業とVR環境システム開発企業が強すぎたからだ。作った企業よりも良い機能性なんて不可能だろうと考えられてきたのだが――エクエス・デザイア、余裕で抜き去っていったのである。さらに、環境システムであるが、これも、自然造形や空模様といった部分から込みで、エクエス・デザイアが抜き去ったのだ。クオリティが違いすぎた。品物デザインだけでは無かったのである。現在五位に残っているのは、VR医学関連企業だが――こちらは、グループ内部の祖父直轄の企業だ。つまり、ハーヴェスト関係である。要するに、1位から5位が独占だと言える状況に変わったのだ。