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六月になり、各国で兄上がモデルをした雑誌が並んだ頃、VR関連ニュースだけでなく、ベンチャー情報や、一般的なニュース関連でも、各国が、エクエス・デザイアを取り上げるようになり、むしろ取り上げない日がなくなり、さらに兄上の写真が雑誌にしか存在しないので、雑誌のモデルのイケメンが取り上げられるようになった。そんな中で、ハーヴェスト公式で、父上が隠し子だった話を恰好良く動画でアップ。驚きのラブストーリー&結果となり、しかも『黒騎士のハンティングに行ったら、息子だった』みたいな流れになった。モデルに関しては、『レクスが「兄上も一緒に……」と、言ってね』という事になった。手紙が届いて息子発覚は、ハンティング後になっている。結果兄上は、超実力あるイケメンで、弟にも優しいみたいなキャラとなり、ガツガツしていないが、母の事があってこれから再スタートな感じで、エクエス・デザイアをやろうとしていた方向になっていた。計画性と将来性がばっちりの、天才高学歴なイケメンで、実は大金持ちの良い家の血も引いていた流れである。兄上熱がやばい状況になっていった。その月の新露出は、インフィニティの巻頭とクライスブランドのみである。
だが、六月末発売の雑誌で、『抱かれたい男ランキング1位』に躍り出た。これは女性誌のオリジナル企画で、インフィニティがチェックしているものとは別で、もっとポップな企画なのだが、ダントツの1位だった。
しかし、レクスや周囲、やっと気づき始めた。なんとゼクス、ニュース全く見てない。自分が出た雑誌だとかも見ていない。本人、ゲームとデザインと月5回の撮影しか出て行かないのだ。どころか、デザイン後の、お店への投入は、秘書がやってくれる事になったので、もう本気でデザインしかやっていない。午前中の時間は、レクチャーが終わったため、無くなっていた。朝ごはんを食べながら、報告を聞き、同時に自分側のデザインを、これは黒騎士にもその他にも渡して、そこからデザインに入る。そしてお茶の時間までやって、お茶を飲んだら、ゲーム開始。夕食は無くなった。その後寝るまでゲームをしていて、朝起きてシャワーに入り、朝食となっていたのである。一日二時間半労働で、ご飯が一回だけ三十分、お茶が一回三十分である。十時半から二時までが、兄上のリアル活動になっていた。けどその短時間でのVRデザイン量が半端なくて、一日10デザインくらいを、完成品で上げている。機能性も入れてである。見た目だけではないのだ。見た目のみがさらに20はあるので、デザインのみの20アイテムも1日で出るのだ。普通、デザインなんて月に2個なら多い。機能性など3ヶ月に1個だ。そう――本当に天才だったのだ。
このスタイル、『ゲーム』の部分を『プライベート』と換言して、インフィニティがインタビューに載せた。超カッコイイ感じになっていた。だが本人、自分が有名人だとか、大企業の社長になったとか、青年実業家だとか、一切自覚がない。周りも特に伝えない。外部スタッフも、インフィニティの編集部は、察しているようで、突っ込まない。こちらも固定メンバーだから、むしろ、兄上を守る側として同志的な感じになっていた。
七月が過ぎて、八月号に、『イケメン兄弟の夏休みの一日』みたいなコーナーがあって、あってというか、レクス&ゼクスで希望されたので撮影したわけだが、二人でロケしたカフェが翌日から満員になったという話だった。なお、八月、『恋人にしたい芸能人』で、ゼクスが1位。モデルのみ、からのランキング入りは、実は初だったそうだ。これも女性誌だが、これはみんなチェックしていた。これも一つの登竜門なのだ。普通は、どのドラマの主役が入るか、脇役か、みたいな形なのだが、ドラマに出ていない兄上がぶっちぎりだったので、レクスが吹き出した。その月、祖父がやってきて、祖父だとか名乗らず、『エクエス・デザイアで、これを作ってくれ』と、医療器具を一式置いていった。兄上は、エクエス・デザイアができた事は知っていたので、「仕事がもらえた!」と感動してキラキラしていた。周囲爆笑しかかったものである。祖父だとも気づいていなかった。そこから兄上が頑張り出し、数日間、ゲームも休んでいたようだった。そして、三日後、祖父に頼まれたものを全部仕上げ、残り二日はなにかしていて、一週間後、祖父が再訪した時に、秘書達から受け取り驚愕、さらに兄上が秘書にチラっと相談していたらしいここまでのアイテムを全部放出(768アイテム)した結果、祖父感嘆し、「使いたいからまとめて発注するゆえ、売ってくれ」となった。兄上が照れながら頷いた。お祖父様「いくらだ?」と聞いた。兄上、秘書を見た。秘書は腕を組んだ。
「ゼクス様のご希望は? 何分、前例がないため」との事に、兄上が焦って「え、っと……3000くらいで」となっていた。
「3000億ドルか。承知した」
「え? え、え? いえ、3000円です」
「? 1個か?」
「セットです」
「何? どのセットが?」
「ぜ、全部です」
「は?」
祖父、評判の怖いド迫力になった。兄上が硬直した。祖父、無言。兄、無言。一見、怒っている人と泣いている人みたいになっているが、実は祖父のこれも、動揺のテンパりである。二人そのまま均衡状態に入った。モニター越しに見ていたクライスとレクスはそれぞれ笑っていた。秘書達は誰も何も言わない。
「――所で、これとこれとこれ、医学マニュアルからか?」
「は、はい」
「その他も全て作ってくれぬか?」
「あの、今日ないものは、VR医学専攻の特別資格が必要なので、作っても使えません」
「なるほど。では、VR医学を始めてみないか?」
「えっ……で、でも、あれはお医者さんが取るもので、俺はお医者さんではないので」
「ついでに医師免許もどうだ? VR医学と並行ならば、プラスして一部の学部授業をVR講習、および、実習のみ講義出席、その後の国試・国際試験と、論文提出で終了ゆえ、外部において必要なのは、3ヶ月ほどの実習講義出席、来年二月の二つの試験、三月の論文提出となる。VR側と試験勉強は一月までには終わるであろう。VR入学は常時であるし、指導教授は私が行う。その指導時の前後に、作ってほしい機材のリアルに置いての実物とVRのみは、提案をする。私もここで暮らすし、実習場所は、ここから近い、私の研究室となる」
「え、あ……」
「明日の朝、四時から九時がVR講義とする。実習は、午後二時から移動して、四時までとする。間はお前も仕事だろう。エクエス・デザイアには期待している。自習可能な学習システムは、既にこの家に同期した。ではよろしく頼む」
「は、はい」
なんと、兄上押し切られた。お祖父様、お金は、3000億円単位でセット分振り込んでいった。兄上、ポカーンとなったあと、周囲の人々を見た。
「あ、あの……明日から夕食も食べるかもしれません……10年くらい……かかると思います……」
半泣きだったが、頑張るらしいと知り、みんな笑顔になった。まぁ、医学部は普通6年であるし、VRは普通3年と言われていて、最近並行パターンもあるが、その場合だと7年が多い。兄上の場合は、恐らく、医学部入学も想定しているのだろうなとみんな思った。が――それは、間違いだった。
翌朝の十時半からの朝食は、お祖父様も一緒だったのだが、超褒めていた。昨日ひと晩で、自主学習可能なものが、3つ終わっていたのと、兄上がVR学時代に、実は、リアルの医師免許が不要な部分のVR医学の単位を取っていたのが判明したからだ。VR医学は、リアルの医師免許が無いと取得できないものがあるのである。そして、それらは、医学部生は取得可能なので、自主学習も可能なのだ。お祖父様が直接講義しているものは、リアルの医学部の講義である。VRが関係ないものを、VRでやっているだけだ。座学である。医学部の必修という事だ。お祖父様、超テンションが上がっていた。兄上、頭が良かったのである。その後お祖父様が本物の医学部の講義や手術に出かけて、兄上はデザインの仕事をしていた。周囲、ちょっと兄上への見る目が変わった。兄上は優しいのだが、デザインはデザインでやっていて医学部と切り離しているし、だがお祖父様が褒めるほど頭はいいのだ。そして、秘書に送られて二時半から四時までの実習に行った。
四時半の夕食に帰ってきたのだが、お祖父様も一緒で、この日は、クライスとレクスも一緒に食べた。お祖父様の話、および、同伴した秘書達の話だったのだが、兄上、超すごいらしい。今日は、VR医学側の実習で、VR内での手術実習だったらしいのだが、壮絶に上手くて早い。さすがは、VRのプロだと認識しつつ、三十分だけリアルの縫合練習をさせたら、パーフェクト。もと外科医で、現VR医学の権威の祖父、大歓喜である。医学面の後継者不在をみんな嘆いていたのもあり、兄上以外みんなそれを考え始めていた。