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 こうして、九月からは、兄上は医学も加わった。ただ、提案者の祖父も、最初はリアルには、翌年取れるとは思っていなかったのだが、もう九月の頭には、祖父も余裕だと思っていたらしく、病院実習に必要な物全部を先に教えるカリキュラムに変えていて、11月の一ヶ月にそれをクリアしたら、後は国試と国際資格試験をクリアで医師免許が決定した。兄上は、十一月の終わりで二十一歳であるので、医師免許は本来二十四歳まで取れないから、日本国内で、資格取得確定待機医師となる。新制度であるので、まだ数は少ない。さらに今から、卒論の心配が始まった。学部最終生としては、正しい姿勢であるが、それはもうVR医学でOKとなったので、祖父と兄上が、ちらほら話して進めるようだった。

 九月には、レクスが現在中三のため、高校進学の推薦試験があった。レクスもVRで経営学部を卒業しているし、義務教育も終わりだから行かなくても良いのだが、高校生モデルの方が何かと便利だというのもあって、迷った末、別の高校に変えた。こちらは、元々の方が、月に一度の通学だったのだが、代わりに、週に一度のVR講義があるのだ。ただ、出席は、月に1度以上で良い。さらに、学期末に1度の通学で、それを休んだら翌週の好きな日に1度通学である。完全単位認定制なので、外部で習得している単位も認定されるため、レクスは、その通学さえ守れば、既に卒業可能単位であるから、何一つ授業を受けなくて良かったのが大きい。なお、試験はVR内部にて、高校入試としては難しい問題が出たが、レクスには楽勝だった。合格発表もその月だったので、楽勝ではあったが、レクスは一応肩の荷が下りた気がした。仕事が配慮されて減っていたので、ゲームの時間が増えたものである。特に試験日の後からは、ずーっとやっていた。その時レクスは、兄上もかなり長時間やっていると気づいて、自主学習部分は大丈夫なのだろうかとちょっと思った。兄上、本当に、ファッションではなく廃人っぽかったのである。なお、そんな兄上は、インフィニティの巻頭と父上ブランドとさらに2社くらいのブランドの服を着ている。イケメンの不動の代表的になってきた。

 十月に入り、兄上が自主学習可能な分を全部完了させた上、全部最高評価だったと祖父が喜んだ。これには、父上とレクスも驚きながらお祝いした。ゼクスが照れていた。っていうか、それ、普通にすごい。真面目に天才だったのである。なんでもゼクスは、夕食後の五時半から八時までと、朝二時から開始直前の四時まで自己学習だったらしいのだ。それで、お風呂後の八時半から夜の十時までがゲームで、寝て、朝の二時起きだったらしい。それ結構、すごい。四時間睡眠である。それで日中は、デザインもきちんとあげているのだ。すごい。結構周囲、見る目が変わっていた。やればデキる男だ。なのに、ゼクスは、小動物のように、「そ、そんなことは」と照れている。なんだこれ。そこでちょっと家族会議となった。スケジュールの再編である。結果として、朝七時半に朝食で、これは四人全員で、お祖父様の会社、兄上の会社、これに関しても全部この時打ち合わせであり、各社連携もこことなった。グループの話もここだ。そして、八時半に終了して、兄上の新デザインは、三十分。1個で良いし、直しだけとか提案とか、秘書との連絡でも良いとした。そして九時から開始である。開始するのは、医学部のリアル側講義だ。午後二時まで、これであり、お茶を三十分して、午後二時半から移動して、その一時間の間が論文打ち合わせとなり、午後三時から午後六時が実習、夕食を食べながら資料を見て、午後六時半から午後九時までVR医学アイテムの製造、お祖父様の最初の目的はそれだ。かつ、それをデザイアの商品として、翌朝報告となる。そして、九時半までに帰宅して、お風呂に入り、兄上の自由時間となる。レクスはチェックしていたが、兄上は、十分でお風呂に入り、十時代からログイン。夜中の二時半くらいまでゲームをして、寝ていた。朝は遅刻ゼロである。そして、デザインも朝の三十分で、2個から3個、あげていた。すごい。なおこの月は、黒騎士の広告で、兄上の新バージョンを作った。ただ、黒騎士1店舗は、実は広告が無くて、ハーヴェストのブースの黒騎士商品の広告である。黒騎士のアイテムは、相変わらず月に2個〜5個、秘書が代理で新作を投入後、後は、翌月まで何もしないという流れで、全然変化はない。値段を秘書がつけるようになったのと、商品内容を変えるようになったのだけが、変化で、それ以外はブレない。売り切れ続出だが変化なしだ。

 十一月もそうなった。本来十二月に翌年契約なのだが、インフィニティからは既に契約続行依頼があって、兄上が答える前に、秘書がOKしていた。また、来月から、VR内国際ファッション誌でも、兄上は年契約が決まっている。国際誌だ。さらに、1月発売号からイタリア・ドイツ・フランス・アメリカの雑誌で決まっている。ドイツとフランスは、血が入っているのもあるだろうが、日系人の専属のモデルは初らしい。だが、イタリアの最高級のファッション誌が決定した発表を受けて、フランスが即座に食いついた。イタリアとドイツのは富裕層向けでもあるが、フランスは完全にイケメンセレブ御用達で、顔重視である。イタリアも、どちらかというとその傾向のファッション誌だ。イタリアと同日に発表だったアメリカの雑誌は、青年実業家のイケメンしかモデルにしない雑誌である。この雑誌は、個人の起業家の憧れだそうだった。なお、撮影は、全部日本だ。来てくれるというのだ。ありえない破格の対応である。これにより、撮影が12月から月9回に増えた。兄上、泣きそうだったが、雑誌が増えたことには、気づいていない。さて、この月は、兄上の誕生日月でもあるので、「いて座なんだ……」と、お誕生日スナップにファンが喜んでいた。個人情報がありそうで無いモデル、それがゼクスだったのだ。

 十二月になり、午後六時から九時のデザイン製造の時間が国試・試験対策に変わった。祖父がつきっきりで、みっちりと叩き込んだ。時に十時を越えた。祖父的にこれをクリアしてもらえないと、製品が使えないというのはあるだろうが――兄上、勉強が超できたようだったのだ。しかも祖父、ドイツ語と英語も叩き込み始めた。兄上、医学とはそういうものなのだろうと勘違いしていた。元々、母親から、英語とフランス語を多少習っていたみたいで、祖父は地味にフランス語も取り入れているが、祖父は母国語がドイツなので(ドイツ人と日系ドイツ人の間の子供で本人はドイツ人)、ドイツ語を頑張っている。ガンガン続いていき、そして――みんなが大注目の『抱かれたい男ランキング』の発表があった。一位、もう、結果は目に見えていたが、ぶっちぎりで兄上。ダントツの1位である。しかしながら――『抱きたい男ランキング』も、2位だった。これには、かなりの人々がポカンとなった。同性愛は、もうメジャーとはいえるのだが、抱きたい男ランキングは、なんだかんだで、女装が多いのだ。そしてここ数年不動の1位で、今年も有力視されていた美女系は、ギリギリ1位だったのだが、僅差で兄上が2位だったのだ。え、何これ? 兄上は、男らしいのである。今まで、そういう人は、入ったことが無かったのだ。ホモっぽいとかは別だが。そして兄上は、ホモ疑惑も無い。が――色っぽいし艶っぽいし、抱きたい、自信家風だから喘がせてみたい、といった理由でのランクインだったらしい。兄上、超すごい……。しかし、兄上は勉強漬けで、感知していない。

 一月に入り、VR講義、VR外講義、全部が終わり、そこから完全に医学部試験になった。実習も終わっていた。朝の朝食と三十分以外は、全部勉強である。兄上は、ゲームも休んでいるようで、周囲が心配になるくらい、夜中の二時過ぎまで勉強していた。たまに、朝四時半とかまでやっていて、時には、朝食の時間だと言われて勉強を中断していた。兄上、集中力がやばすぎた。もうそれは、全員が知っていた。かつ、終わるまでやるタイプであり、分からなければ分かるまでやるタイプなのだ。ずーっと勉強している。完全にお祖父様のクローンみたいだった。お祖父様は「休んだ方が良いのでは? あれは、普通か?」と呟いて「私もそう思うけど、父上そっくりですね」とクライスに言われて、なんだか納得していたそうだった。自分がああいう感じだと、最初気付かなかったらしい。気づいて以後は、「邪魔をしてはならん」と周囲に教えていた。撮影で9回外出した他は、兄上は、ずーっと勉強だ。

 そして二月の一日、まずは国際試験からあった。そして三日、VR医学専攻の卒業試験、四日、VR医学院の修士課程卒業試験、六日、博士課程卒業試験、八日、VR医学専門医試験、十日、国際VR医学指定医師試験があった。なお、VR医学部〜VR専門医までの4資格は、合格しないと次を受けられない。まさかそちらまで単位を取っているとは、父上とレクスは知らなかった。さらにお祖父様も、VR医学専門医の勉強もしているとは知らなかったらしい。そして、十一日、日本国、医師国家試験があった。そして、十三日に国試結果、十四日に、国際試験結果、十五日にVR専門医試験結果と国際VR医学指定医師免許の結果が出た。これは、十三日の結果が出ないと、後ろは受かっていても出ないし、という流れである。兄上――全部合格した。スコア開示の結果、満点……受かるだろうとは思っていたが、父上もレクスも唖然としたし、祖父驚愕後に大歓喜していた。しかし兄上、淡々と論文を出してきた。「これ、出さないと無効だから、読んで欲しい」との事で、ハッとして祖父が、「医学部(総合外科)(救命救急)(検死解剖)(半VR外科)」「VR学部」「VR修士」「VR博士」「VR専門医」「国際医師」「VR医学専門医」「VR医学研究者」「国際VR医学指定医」「国際VR医学研究者」の論文を受け取った。医学部は四本、VR医学専門医で習得可能な医師&研究者の1本、国際指定でも医師&研究者の1本ずつを出したのだ。お祖父様は息を飲んでいた。

「ゼクスよ」
「はい……」
「現時点で、最高か最良は出せるが、まだ考察等に余地が有る、が、それはこちらでも指導提案、逆に教えて欲しい事柄があるゆえ詰めるとして、『総合内科』『総合精神科』『脳外科』『心臓外科』『病理学』『半VR内科』『半VR認知機能』の医学部論文も頼む」
「は、はい! あ、半VRの2つと、脳外科と心臓外科、総合内科はあります……ただ、あんまり気に入って無いからなと……」
「見せてみよ。他はどうだ?」
「書いてきてみます」
「うむ」

 こうして、兄上、書きに行った。一応医師免許を持っているクライスが、見せてもらってポカンとなった。

「あの子、天才だね」
「うむ。非常に医学センスが高い。メス裁きも論文も。できれば薬学もやらせたいのだが……どう思う?」
「デザイアの仕事との兼ね合いなら、デザイアは、もう30年は新デザインを出し続けられるから大丈夫だろうとは思うけど、本人の興味次第かなとは思うね。完璧主義者だからやったんだろうけど、基本的に医学の動悸が、『医学機器のデザインをするため』だからね。お薬のデザイン――……あ」
「なんだ?」
「クラウンズ・ゲートっていうゲームを、ゼクスはやっていてね」
「うむ――あ! 生産の薬剤か!」
「なんでザフィス父上知っているんですか?」
「私もやっている。あの生産はハマる」
「「ぶは」」
「よし、生産の薬剤を高めるとして、相談してみる。フレになろう」
「え、父上、私ともぜひ」
「俺とも」
「二人もやっているのか? ああ、良いぞ。ゼクスの集中力が途切れぬよう、論文が終わったら、食卓にて」

 というやり取り後、二時間しない内に、兄上が戻ってきた。それをお祖父様が受け取り、貰っていた方へのメモを逆に渡した。

「うむ。これらもまた、最良は出せるが、やはり最高は最初のものであるな」
「有難うございます。お祖父様、直しは、こういう感じで、質問もらったものは、こういう感じなのですが」
「ふむ。直しは良い。最高に評価が挙げられる。質問は、こちらで再度精査するが、論文自体には影響は無い。次に、今回のこれらを直してくれ。その間に精査する。質問もつけた」
「わかりました」

 それがサクサク進み、朝発表の後から開始で、午後四時まで直しがあり、四時すぎに、ゼクスが提出のメール送信をして、祖父は、受け取り側で入っている事や、教授達が受信サインを医学部全体で出したり、国際機関で出したのを見た。間違いなく、通るなと思いつつ、食事に四人で向かった。今日は、クライスとレクスも、持ち寄りで仕事をしていた。三月が論文期限なのだが、提出は今日からなのだ。

「所でゼクス」
「は、はい」
「実は私もクラウンズ・ゲートをしているのだが、フレになってくれないか?」
「えっ、あ、はい!」

 こうして、予想外だったらしくて、ゼクスが登録した。クライスとレクスもである。結果――祖父とゼクス、止まった。

「……え?」
「ゼクス、お前、ゼクスなのか?」
「は、はい……え? お祖父様って、ザフィス神父なのか?」

 クライスもレクスも、ザフィスについて知らなかった。名前は本名だが、神父とか聞いた事がない。どこのギルドかとかも知らない。