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 なんというか、様変わりしていた。人が違えば空気も違う、というのもあるし、ギルドホームが増えていたりというのもある。だから景色自体が最初とは違うのだ。見に来ていないから知らなかった。知り合いも全然いない。大福様の格好で、ダラダラと歩いているのだが、着物の装飾が俺だけだから、無駄に目立った。失敗したなと思っていたら――知り合いを見つけた。

「あれっ、ゼクス!?」
「あ! ラフ牧師!」

 教会の前で日向ぼっこしていた老人を発見したのだ。一番最初に一緒だったプレイヤーで、ラファエルというのだ。職業が聖職者で、聖職者は最初の職業名が『牧師』だから、みんな『ラフ牧師』と呼んでいたのである。聖職者だけの聖職者は、当時は珍しかったものだ。なお、老人の見た目も珍しいのだ。次に年配のアバターは、俺だった。そしてギルメン以外に唯一俺のリアルアバターを知っているのもラフ牧師である。俺達二人は、大福様とおじいちゃんに見た目を偽装している若人である。結構ノリが合う。フレ登録したかったのだが、ラフ牧師は、再開後一週間程は、ログインできないという話だったので、再開してもその通り、いなかったのである。

「うわぁっ、久しぶりだなぁ!」
「うん。会いたかった。会えて良かった!」
「嬉しいねぇ。覚えててくれたか」
「当たり前だ。フレになりたかった」
「え、いいのか?」
「お願いします、え、ダメ?」
「俺は勿論いいよ。うわぁ嬉しいな」

 と、こうして俺達は、フレになった。改めまして、という感じではある。

「いいのか、っていうのは、ほら、お前なんかすごいだろ? ルシフェリアとかと」
「あー……あれ、羞恥プレイだよな……」
「ぶはっ、威張れよ。すごいって、本当!」
「ラフ牧師は、優しい……」
「ん? 俺は優しいけどな、すごいのも事実だろ。だって俺、『いやぁ、昔はゼスペリアの教会のメンバーと一緒にいてな』とかって話すと、大興奮されるもん」
「ぶはっ、昔とか、リアルおじいちゃんかよ」
「ぶはっ、楽しいぞ。ルシフェリアはさ、ちょくちょくみんな見てるから『おー!』ってなるけど、『ゼクスも知ってる』って言うと『え!?』って、神様扱いされる」
「ぶはぁっ、嘘だろそれ、盛ってるだろ」
「まじまじ。後は、『ゼストもレベルが低い頃はなぁ……』とか話すと興味津々」
「あはは。ゼストの事も知ってるのか?」
「ちょっとな。エルナからマイセスまで、俺とあいつで一緒に行ったんだよ。それで、俺がそこで休止した。まさかあいつがゼスペリアの教会に入るとは夢にも思わなかったな。まぁ俺より弱い所から、俺より強い所になったのまでは、マイセスで見てたけどなぁ。あいつは、クソ強い」
「まぁな。前に進んでいくタイプだよな」
「あはは、だな。後で聞いたけど、お前がエルナに連れてって、マイセスからも連れてったんだろ? 偶然だよなぁ」
「な。その時にラフ牧師にも再会できてれば良かったのに」
「嬉しい事を言ってくれるねぇっ!」
「真面目にだ。会えて嬉しい。最近は、何してるんだ?」
「一応、ギルマスしてるぞ」

 おお、と、俺は驚いたというか、嬉しい驚きだった。他のギルマスに会ったことが無かったのだ。何してるのか興味津々だ。素直にそう言ったら、ニコニコしながら、ラフ牧師が教えてくれた。

「まずな、俺は、この街では『ラフ牧師』で、他の古参連中には、『鴉羽卿』と呼ばれている。だからお前が作ってる武器、俺が作ってると勘違いしてる奴がいる」
「ぶはっ、なんだそれ?」
「いやな、ほら、二枚目の右側さ、お前とクラウと俺とゼスト、全部じゃん?」
「ああ、うん、あれ鴉羽色相っていうようになったんだろ?」
「そうそう。それで、ゼストがそれを知った道中で、俺に使い方を教わったのがきっかけで、俺は鴉羽卿」
「そうなのか!」
「うん。ゼストの師匠の一人として尊敬されてる」
「ぶは、他の師匠って誰? クラウ?」
「いや、お前だろ。クラウとゼストとか、全然イメージが沸かん。あいつら上手くやれてんの? 想像ができない」
「別に普通だよ? 俺が知る限り、みんな平和だな」
「良い事だ」
「けど俺は別に師匠じゃないけどな」
「そうなのか? まぁ、それは兎も角そういう感じ。休止と再開を繰り返しつつ、一応開始一年で、なんとか新大陸に行って、後は戻ってきたんだ。ギルドは、創設イベントの時に作っておいたんだけどな、当時は一人いれば良かったから、単独でやってて、復帰してから、新しい大陸までとりあえず到着を目指す組で入りたい奴を全部入れてた。到着したら抜けて良いって感じのギルドだな。それで、ゼストがどこかのパーティに一人いればダンジョンをギルドのやつが全員クリアできる感じになってたなぁ。ゼクスの話もちょいちょいしてたぞ。『元気かなぁ』『超元気!』みたいな」
「ぶはっ、呼べよ!」
「思えばそうだよな。いや、な、なんかこうゼストは俺より弱かったの知ってるからあれなんだけど、お前はこう、もう手が届かない人みたいなイメージが」
「ぶはっ、んなことはないぞ。っていうか、それ、悲しい……ひ、ひどい……」
「あはは、褒めてるんだって。けどゼストもその内に、そういうイメージになったぞ? 本人も自分のレベル上げに忙しいっつぅのもあるし、俺も到着してからは、俺と同じくらいの奴らと、自分達のみで手伝えたからなぁ。むしろ、俺でさえ近寄りがたい恩人扱いされるからな。これは自慢だ」
「ぶは。俺もラフ牧師に手伝われたい。どう考えても楽しい日々だ」
「あはは。結構俺、鬼だっつぅ話だけどな。本当は怖い人的な」
「ぶはぁっ」
「ゼストも似たような事を言われてるけどな。ルシフェリアは怖そうなのに実は優しいとかなんとか」
「あはは」
「まぁそんな感じだから、ランキングのお前らの次の、一般的な上位から中位くらいまでは、俺に敬意を評して『鴉羽卿』って呼ぶわけだ。俺がいなかったら行けてないとか、レベル上がってないとかあるから。で、それがひと段落して、古参のアイリスを目指す組が大体到着したから、ギルドから大体旅立ったので、さて、初心者の村のどっちかに行こうと決めて、今に至るって感じ。俺、ほら、手伝いして褒められるの好きだから」
「なるほどなぁ! いい人だよな」
「そ? まぁ楽しいよ」
「どうしてこっちにしたんだ?」
「んとな、一つは、こっちだと最初から最後まで熟知してるっていうのがある」
「ああ、なるほどな」
「うん。もう一つは、アイリスだと古参に会うから『鴉羽卿!』って呼ばれるけど、こっちだと『ラフ牧師!』で、こっちの方が親しみやすい」
「あ、なんかそれ、すごく分かる」
「やっぱ? なんかさ、支援してても、頑張ってる初心者で普通にお礼程度が良い。熱烈崇拝系とか困るだろ」
「うんうん、すごい分かる。なんかこう、たまにギルメンが誰かと街にいる時に遭遇すると、『あ! ゼ、ゼストのギルマス!?』みたいになる」
「ぶは、だろうなぁ、だって俺でもこれなんだから、お前はやばいと思う。うん」
「あはは。俺は別に普通の人なんですけど、ちょっと廃気味なだけで、みたいなさ」
「ぶはっ」
「え、じゃあ、今はここで初心者をギルドに迎えてるのか?」
「おう、そんな感じだな。そしてこちらも、強くなったら旅立ち自由。初期のパーティ組みにくい時とか、フレできる前にいるパターンが多いな。見かけて俺が勧誘して、って感じだ。装備も、この大陸内なら、というか、まぁ実際アイリスでも使える装備がお古でいっぱいあるから、貸し出しだ」
「なるほど」
「そして大体が、ゼストがくれたお前の制作物だから、桃花源か鴉羽商會か鴉羽銘かちょこっとルシフェリアとイリス。よって俺が鴉羽さんである説が根強い」
「ぶはっ!!!」
「間接的にだけど、とっても感謝してたよ!」
「あはは。なんかいる時、言ってくれ。俺、やる事なさすぎてすごく暇だ」
「えっ、まじで!? うわぁ、ありがとうな。じゃあ俺に、『鴉羽卿コスチューム一式』と『ラフ牧師コスチューム一式』をくれ。和服と牧師服が良い」
「あ、うん、いいよ。俺のチョイスでデザインして良い?」
「むしろそれが良いっつぅか、デザインからやってくれんのか? わーん、ありがとう!」
「できは保証しないけどな」
「あはは。俺、今もお前が作ってくれた紐の腕輪持ってるぞ」
「本当に!? うわぁ、嬉しいなぁ」
「あはは」

 こんなやりとりをして、和んだ。いつ来てもいいからな、と、言ってもらった。多分、コスチュームはさして本気じゃないんだろうなと思ったが、俺は本気という事にしておいた。帰ってから、ゼストに、ラフ牧師について聞いてみた。「面白いけど、頑固なおじいちゃんだよね。よく80歳からVRを始められるよ」と言っていて吹いた。本当は若いと知らないのである。

 また、ランキング表にも名前が載っていた。聖職者ランキングの17位で、冒険者が9位である。僧侶が7位だ。他は載っていない。ただ、冒険者と僧侶は、数が少ないが強い人が多いから、かなりすごい。また、聖職者の方は数が多いからこれもすごい。内容的に、前衛も可能な、回復と、中衛の物理&遠隔攻撃だろう。二枚目の鴉羽色相を考えると、かなり強いというか戦いの幅が広いと思う。また、学習システムが、最高学府と天才機関が最高評価である。生産は特に無かった。ギルドは、『ハーヴェストクロウ大教会』だ。これも多分、当選した名前だろう。ギルドランキングは、三十位まで出ているのだが、二十八位に入っていた。その時の人数は、十一人なので、おそらく維持に必要な八名以外は、ちょこちょこなのだろうと思う。八名に関しては、上位5つのギルドまで以外は、ギルマスしか出ないから分からない。

 これを見て、ラフ牧師のコスチュームを二個作った。オシャレを一式、二つである。さらに、防具・体装備・効果がある装飾具も作った。そちらは、聖職者と僧侶用である。そして、武器は、聖職者と僧侶と冒険者用を作った。回復杖、攻撃錫杖、盾である。後は、聖職者用の光攻撃杖も作った。ただ、オシャレ装備で、扇子の見た目で使えたりもする。カバンも和風に見えたりする。後は、教会がギルドホームみたいだというのは街で見たから、内装アイテムの燭台二個、大きくてシンプルだけど豪華なのを作った。台も二個だ。後は、全部の職の、装備を5個ずつ用意した。昔ゼストに渡したみたいな、10から25レベルの間の頃に好きだったような奴である。二ヶ月くらいこれをやっていて、二ヶ月になる手前に、またラフ牧師の所に行った。

「ラフ牧師」
「おう。お前な、連絡してから来いよ」
「あ、ごめん」
「いや、いつ来てもいいんだけどな、俺がいなかったら切ないだろ。その時出直してまた来てくれるなら、連絡はいつでも不要だ。やばい時は都度追い返すし」
「あはは、ありがとう。あのな、これを作ったんだ。どうだろうか」
「えっ!? まじで!?」

 ラフ牧師に持ってきた装備を渡したら、大きく目と口を開けられた。やっぱり本気ではなかったのだろう。ラフ牧師、すごく真面目な顔になったあと、満面の笑みになった。

「うわああああああああ、ありがとう!!!」
「どういたしまして」
「中に入る? というか入ってくれ。俺、中にこれを置きたい」
「あ、お邪魔します」

 こうして俺は、始めて他のギルドホームに足を踏み入れた。床が木だ。俺の所は石だ。共通点は、古めかしい事だろうか。なお、こちらの方がすごく大きい。最初にラフ牧師は、礼拝堂に燭台を飾ってくれた。なんだか嬉しかった。そして、応接間だという場所に通してもらい、そこで着替えるのを見た。

「うわぁっ、相変わらず趣味いいな。何これ、俺しか持ってないのか?」
「そうだ。この世に一個のオシャレだ」
「ありがとうっ、くぅ、鴉羽商會のオーダーメイドかっ……――って、これさ、武器と装備もガチで良いのか? まずこれ、俺が知る限りお前のギルメンしか持ってない回復杖と光杖、かつお前制作はお前とイリスしか持ってなくて、さらにそれは、現在一番威力高い。他が並べない。アーンド、見た目がかっこいい……そうでなくとも、これの普通の見た目で普通に出回ってる奴ですら、超強い。光杖の方は、普通のが出回る事すら稀だけどな。僧侶杖もクラウとお前以外持ってないだろ、これ。それもお前作。そしてこれに至っては、他に一個もないから、普通のとかない。作れるのお前とイリスとルシフェリアだけって話を聞いたことがある。レシピレベルの問題で。盾は、普通に桃源郷の人気商品で、上位陣の憧れだな。体装備は、全部俺が知らない奴だけど、ステータス的にやばい良い意味で知らないだけだ。俺が知ってるレベルじゃないって感じ。首飾りとか手袋もそう。俺、くれると言われたらもらうタイプだけど、本当にいいのか?」
「ああ。もらってくれ。ギルメンが使ってるのはそうだけど、それ以外はわかんない。威力は、俺が好きな感じ。あと、俺、流通とか需要とか分かんないんだ。人任せだ……」
「ぶはっ、お前らしいな。つぅか、さらにこの、初心者装備、えっ、いいの?」
「うん。良かったら使ってくれ。それは俺が当時好きだった奴だ」
「俺も好きなの入ってる。好きだけど俺は持ってなかったのもある! うわぁ、これはすごいみんな喜ぶわ。本当にありがとうな」
「いやいや。そう言って貰えると嬉しいな」
「これでまた、俺の鴉羽説が上がるわ」
「ぶはっ」

 こんなやりとりをして、「また来てくれ」と言われて、俺は頷いてから帰った。喜んでもらえてホッとしていた。すごく嬉しい。胸が満ちた。手伝いとかってこういう気分になるのだろうかと、なんとなく思った。そういうのも悪くないなぁと思う。