18
そう焦っていたら――呼び鈴が鳴った。え……?
恐る恐るインターホンに向かったら、レクスがいた。早いだろ!
しかし荷物も持ってるし、追い返せないし、追い返したいわけでもないので、とりあえず迎えて、話を聞くことにした。
「久しぶりだな、兄上」
「ああ。久しぶり。元気だったか? 入ってくれ」
扉が開いてすぐにそういう会話になったので、俺は中へと戻りながら、緊張心が顔に出ないように頑張った。笑顔、笑顔! 俺は頑張った。撮影でも笑顔なんて浮かべないから、強ばったかもしれない……。
「コーヒーでいいか?」
「ああ、ありがとう。気を使わないでくれ。いきなり悪いな」
「いや、大丈夫だ――ええと、その、何かあったのか? 聞いて良ければだけどな」
「――ちょっとな。なんて聞いたんだ?」
「ん、レクスが来る三分前くらいに、二年くらいレクスを泊めてって言われた。それだけだな」
「それで兄上は何て?」
「うん、って言った」
「ぶはっ」
レクスが咳き込んだ。俺は慌てた。そうしたらレクスが大丈夫だと手を上げたので、頷いて、俺は正面のソファに座った。そうしたらレクスが話し始めた。
「実はな、一年前から日本にいたんだ」
「あ、そうだったのか」
「ああ。それで、日本の高校に通ってる」
「なるほど。今、二年か?」
「そうだ。二年泊めるというのは、それだと思う」
「そういう事か」
「今までは、お祖父様の家にいたんだけどな、これ以上ゲームをやるなら出て行けと言われた。俺もいちいちうるさいから出ていこうと思っていた。ただ、今は、VR規制法があるから、未成年者の一人暮らしだと、VRシステムを置けない。限定的に置けても、夜十時以降使えない」
「あーっ、なるほどな! 二年前くらいにできたんだっけ? 俺の時は無かった!」
「羨ましい限りだ。それで、兄上の所なら、もうVRシステムもあるし、部屋もあるし、規制されないし、と、聞いたから頼んだら、『行って良い』というから来たんだ。まさか三分前に兄上に連絡するとは……そこは聞いていなかった」
「あはは。うん、VRは全部の部屋にあるし、ゲーム用GUIも予備もあるし、俺も好きだから、使ってくれ。空いてる部屋なら、どこでも良いぞ。食事は、夜に一日分届くし、その時に洗濯ものも持って行ってくれる。お掃除の人は、月水金に、鍵閉めてない部屋に入るから、言っとくとそっとしておいてくれるよ。学校は何時から何時だ?」
「兄上は神様だ! 本当にありがとう! 学校は通学多めの定時制だから、俺は土曜一日と月水金の午後だ。ここから一時間程度だし、電車ですぐだ。何も問題ない。かつ家事しなくて良いのと、食事すらも買ってこなくて良くて泣きそうに嬉しい」
「分かる。俺も買いに行くのだるい。昔は作ってたけど、今は全くやらない」
「普段は何してるんだ?」
「あ、その」
「仕事の邪魔をしないように気をつけるけど、特に気をつける事はあるか?」
「う、う、うーん、あ、あの、ほぼ無職だ……」
「そうなのか? 新作発表が年に一回って大変じゃないのか? 広告もかなり見るし」
「え、そうか?」
「ああ。大体が三年に一回くらい発表で、広告なんて、年イチなら大人気だろう」
「え!? じゃあ俺、しばらく休んでもいいと思うか? 正直あんまりやりたくない」
「ぶはっ、全然良いと思うがなぁ」
「真面目に休む連絡してくるから、待っていてくれ。部屋とか見て、その間に必要物をちょっと確認してくれ!」
「ああ、ありがとう」
こうして、俺は立ち上がった。デザインの方は、今年分はできているので、送って、来年から休むと伝えた。広告は――家族経由なので、レクスといるから、で、押し切ったら「レクスを頼むからな……」と、許可してもらえた。レクスよ、ありがとう! こうしてリビングに戻ると、興奮したレクスが降りてきた。
「兄上、本当にあれ使っていいのか!?」
「ん?」
「VRシステムとGUI予備!」
「ああ、いいよ」
「うわぁ! 最新型の一個前で一番安定してる上機能が多いけど2500万円もするのに……GUIなんて500万! 普通のは、50万と5万で、そっちですら高いのに! うわあ!!! 使ってみたかったんだ。どちらも販売店で三分くらいしか体験がないけど、欲しすぎて泣いてたんだ!!!」
「あはは、分かる。やっぱりさ、最高の環境で打ち込みたいよな」
「全くだ! ……ん? 俺、てっきり兄上は、仕事のデザイン再現で使っていて、ゲームは亜空間ソリティアくらいかと思っていたが違うのか?」
「う、あ」
「何やってるんだ?」
「そ、その、それはだな」
「俺は、クラウンズ・ゲートだ」
「ぶはっ、まじか? 俺もだ……え!?」
「本当か!? うわー! うわ、え!? 本当か!?」
「ああ。うわ、俺、ドキッとした」
「俺は嬉しすぎる……! 理解があるって事でいいんだろうな!?」
「うん。俺もそれを欲していた……! ゲーヲタの兄ってひかれたらと……」
「それはない。俺は、ゲーム時間を止められる心配しかしていなかったから、嬉しすぎる。本当に嬉しい……! 俺の事は、起こさなくて良いし、寝たかの確認も不要だし、食べたかどうかも気にしないでくれ。自己管理はパーフェクトだ!」
「ぶはっ、分かった。お祖父様の所は、そこら辺、チェックが不必要な程あるよな」
「それ、本当それだ!」
「あ、そうだ。課金クレカコード合った方がいいだろ? 俺名義だから、お前もコンビニ行かなくて良くなる」
「良いのか!? すごく泣きそうな程に嬉しい。金が有っても未成年というだけで、本当やりにくい! これでコンビニ課金があるだけ日本がマシって、他の国のゲーム勢はきついだろうな」
「ああ、俺がアメリカいた頃から、アメリカは規制あって、俺もその時未成年だったから怠かった。コードが、これで、銀行接続先空いてるから、後自由でいいし、俺課金余ってるから緊急時とか使って良いからな!」
「兄上ありがとう! 毎月定額しか日本口座に父上が入れてくれないから、俺が稼いだ金なのに俺は使えないんだ。それを約束しないと、高校に行かせないってひどいだろ?」
「ひどいな。俺なら家出だ。あ、結果は同じか」
「ぶはっ、まぁな」
「なんで日本の高校に? 大学終わっただろ?」
「あっちでクラウンズ・ゲートやってて、課金ができないからだ……」
「ぶはぁっ、な、なるほど!」
「名目は、交流して同年代の日本生活を知るため、だ。心の中で(ただしゲームで)と付け加えた」
「あはは。大正解だな」
「兄上はいつからやってるんだ? 俺は日本でいう中2だから、もう三年と少しだ」
「一番最初の限定テストだ」
「え!?」
「当時はリアルとアバター作れたから、俺の一個、お前と同じ歳だ!」
「あはは! すごい見たい! え、レベルいくつなんだ?」
「ひかれるレベルだ……俺は、新アバターできたから、非公開で普通になる」
「ぶはっ、え、普通じゃないって事で、限定だと……キャラ500以上だったりするのか?」
「あ、ああ……ま、まぁな」
「――暗くなるのは、以下だからか?」
「いや、その、逆的な」
「!!! ま、さ、か、700以上とかか?」
「う、うーん……」
「そうなのか!? キャラレベルだけとかか!?」
「い、いやぁ……」
「――職は?」
「う、うーん、ま、まぁ、ほら! 長くやってるから、色々だな!」
「仕様武器は、鴉羽か?」
「うっ、ま、まぁな」
「!!!!!!!!!!!!!! 羨ましい!!!!! リアルで始めて会った!!!」
「そんなにリアルでやってる友達がいるのか?」
「あ、いや、ゲーム内のフレだ」
「ぶはっ」
「何個持ってるんだ?」
「何個と言われてもな」
「そんなにあるのか!? え、見たい! すごく見たい! 今すぐ見たい!」
「ああ、良いよ。レクスは、キャラ名は?」
「レクスだ。アバターもレクスと記号だ」
「ぶは! 俺もゼクスと、ゼクスプラス記号だ」
「ぶはっ――……ん、って、え? 記号無しで、ゼクスか?」
「あ」
「えええええええええええええええええ!?」
「そ、その、あの、た、確かに、は、廃人です……ごめん」
「謝る所あるのか!?!?!?!?!!? えええええええええええええ!?」
「……」
「真面目な話か? からかってないか?」
「からかってはいないけどな、恥ずかしいな、これ……」
「今すぐ確認させてくれ。どこに行ったらいい?」
「そうだな、今だとアイリスの初心者の、街右の公園とかか?」
「チョイスが的確で知ってる用語で、俺はテンションが上がった。とりあえず行く! 兄上は、アバターは? どれでも良いなら、俺は十七歳のが見たい。俺はこのままだ」
「分かった。じゃあそれで行く」
こうして、俺達は、それぞれの部屋に向かった。ドキドキしながら、俺は十七歳アバター……――って、結局前から一人だと使っていたけど、ほとんど誰も知らない顔になった。そして目的地に向かった。