24
廃人の俺の夜は長い。そしてレクスもそうならば、まだまだ時間はこれからだ。本当は眠かったら明日から来ないだろう。それに俺は、ぼっちだが、活動的なので、足は軽い。行くことに躊躇いはゼロだった。
さて、到着したら――いやもう既に転送鏡周辺が大混雑だった。なんだこれ。笑顔が引き攣りかけた。冷や汗だ。レクスは笑顔でスルーで歩き出したので、俺は慌てて追いかけた。そして気を取り直して、街を見た。ここは夕暮れ風景である。少し歩いて鏡前を抜けた。みんな追いかけて来ないし、そちらから歩いて来た人は立ち止まって硬直したので、すぐに普通の人数になった。ホッとした。
「な? 声をかけてこなかっただろう?」
「ああ。レクスは頭が良いな。露店がみたい」
「ああ、まっすぐだ」
こうして雑談しながら歩き、露店街についた。メイン街の一本裏である。噴水のある大通りが二本あったのだ。そこで露店検索をした。まず、ポットを見たのだが――なんというか、中の下くらいが多い。セット99個で売っている。しかし値段は、上の下くらいだ。高い。ディアバルトで買って転売だろうなと思った。そこで活動しているブランドの瓶が多いからだ。転売というか、移動費用を上乗せで、代わりに買ってきた感じだ。HP回復が多いのは分かるが、MP回復が以上に少ない。だが話を聞いた限りMP回復スキルの持ち主が多いようには思えない。状態異常解除に至っては、初級がちょこっと86個だとか中途でしかないから、これは売れたのではなく、生産練習だ。だとすれば、こうやって置くのは、捨てるのはもったいないが倉庫が無い、という感じだろうな。生産普及前に倉庫設置が急務だろうなと漠然と思った。次に料理を見たが、これも生産練習だろうなと思った。ただしこちらは、中級者が使えるレベルの品がそこそこある。ただし種類が決まっていて、完全にレベル上げ用だと分かった。武器は――噂のレンタルがあった。店の名前がレンタルである。中級下ばっかりで、そこだけ大量にある。中級中から上はほぼ無い。さて、見ている内にこの中級はどんどん消えて行き、どんどん返却分らしきものが増える。ごくたまに中や上が一個入ると、更新したら消えている。初級は逆に戻ってくるとしばらく置いてある。上級は一回も見なかった。ブランド名は、一個も知らない。見た目はデフォルトで、オリジナルデザインは無い。銘も無いものが多い。つまり、経団連に入っている露店の名前がついているだけだという事だ。製作者のレベルが低い。破損武器や劣化状態の武器も多々ある。修理屋の露店はゼロだ。逆にこれが俺には珍しい気もした。スキル書は一冊だけ、ありえない額で料理初級があるだけだ。しかもこれ、売れた……。えー……。また、オシャレはゼロ、装飾具の効果ありも二個。超高い。防具や盾、体装備は初級しか無い上、追加返却も無く、借りる人もいない。全部貸出中というより、無いんじゃないかなぁと思った。さて、素材……なるほど、超初級と超上級しかない。まぁなんか分からなくもない感じだ。マイセスの都の状態が、ゼストに会いに行った頃、こういう感じだったのである。
「うん。面白いな。良いな、生の露店」
「――そうか。いきなり真剣な顔になったから、気圧された。なんというか、空気が違った」
「えっ、あ、ごめん。俺、集中すると周りが見えないらしい」
「いや、いい。俺はそういう相手の方が好きだ」
「ありがとう」
「どう思う?」
「ああ、ゼストがラフ牧師とマイセスに到着して、その後俺とまた会うまでくらいに近いから、レベル上げが停滞していて、次の攻略に行きたいけどあんまり行けないイメージだな」
「まさにその通りだが、そうだったのか? マイセスが?」
「うん。生産は、露店込みで、こういう感じなら、攻略再開で劇的に変わると俺は思う。レクスが言ってた底上げは、難しく無いと思う」
「本当か? なんだか、ダメ出しされる覚悟しかなかった」
「あはは。そんな事ない――後は、フィールドモブを見るのと、スキル取得で多いのと、そのレベルが知りたいな」
「フィールドから行こう。一緒に話す」
「ありがとう」
こうして街の外へと出た。次のフィールドは夜で、星空の草原だった。モンスターは強めのゴブリンで、範囲で倒せる数もそこそこだから、僧侶のレベル上げに良いと判断されるのは分かった。だから多いのだろうが、スキルによる。
「僧侶のスキル、先に聞きたい」
「水派生三個目と、聖職者と僧侶の複合二個目の風竜巻が多いな。範囲のレベル上げは、ここではそればかりを見る」
「そうか。水派生二個目と僧侶派生四個目の嵐とかは?」
「――一人いる」
「レベルは?」
「キャラが705、職が僧侶500の聖職者420くらいだ。基本職は、錬金術師で300だ。ただし死霊術師になる予定ではない」
「ふぅん。次に行きたい。右の奥の、なんか黒いのは何だ?」
「――ああ、狼だ」
次に進んだ。狼は、黒に近い緑だった。これは――泥属性だ。すごい珍しい。魔術師範囲でガンガン攻撃スキルのレベルが上がる属性なのだが、一人もいないし、そういえば話題にも出ていない。
「なぁ、魔術師っていないのか?」
「――三人だけいる。ここでレベルを上げているという意味でだが。全員、レベル500代、魔術師が450以上、基本も魔術師、次が聖職者300程度と暗殺者250程度だ」
「そうか。ちなみにレクスのギルドのホームって、ここか?」
「ああ、そうだ。先程の露店があった街だ」
「大陸平均だと中級くらいの街か?」
「そうだ」
「上級側と初級側とここの比率は? 人口」
「上級が四割、初級が0.5、ここが残り全部だ」
「他の大きいギルド二個は、ホームは?」
「上級だ、両方」
「同じ街か?」
「そうだ。最後の巨大な都だ」
「そこの露店とフィールドも見たい」
「ああ」
こうしてまた俺達は移動した。ここは、入った瞬間にざわめきが起きた。しかしもう気にならない。俺の頭は、露店と職とモブ一色だ。さて、露店は、修理屋がやっと1箇所、オシャレ屋さんが二箇所、他は全部変わらない内容だった。露店数が少なく値段が高いという、むしろ悪い結果である。ただ、武器が大別して2ブランドだ。定期的に卸している所が固定だなと思った。競合すると面倒そうだ。薬剤ポットも固定で5ブランドがあるが、HPばっかりで、中の上くらいのPOTというのは、変わらない。武器は、たまに銘が入っている。大規模ブランドみたいだ。恐らくクラン組だが、銘もブランド名も聞いた事はない。近場の露店の棚が見えて、たまたまそこにあったので見たが、デザインは、デフォルトにオリジナルマークと宝石が一個ついていて、宝石が魔力をちょこっと含んでいる感じだった。総合平均なら上かもしれない。武器は、ほとんどの人が作れないのだ。そしてその割には、値段はリーズナブルである。
「フィールドに行きたい」
「分かった」
そうして出た。海がドーンと広がっていて、日の出が見える。
「綺麗だ……!」
「ああ、俺も初めて見た時は感動した――が、俺達にとっては、中から来るモブが今もきついんだ……」
「そうなのか」
と、話していたら、何かが海から飛んできた。巨大な――龍? かな、と思いつつ指を回して消滅させた。
「――!? は? え? 何をしたんだ?」
「召喚術だ。亜空間に転送して亜空間ごと消す奴だ。楽だ」
「!?!?!?」
レクスが呆気に取られていた。だが俺は今の敵について考えて来た。レベル関係無く襲ってくる。俺より龍は超弱いのにだ。これはレクスがいるからではない。暗殺者と属性が合わないのだ。そういえば暗殺者の話もあんまり聞かないし、暗殺者は転職したと聞いた。属性は、恐らく光だ。あんまりそうは見えないが。これも僧侶なら美味しい敵だろう。暗殺者を立たせて、いっぱい出たのを狩れば良い。あるいは本人が暗殺者で向かい、すぐ変更でも良いのである。だが周囲にちらほらいるのは俺達の見物人でなければ、錬金術師ばかりだ。効率は悪いだろうが、上がらなくもないだろう。
「レクス、ありがとう。俺は、満足した。とりあえず、レクスのタウンに戻ろう」
「あ、ああ」
まだ動揺中のレクスを促して、俺は微笑した。レクスがちょっと吐息して落ち着いた。さて、戻って、俺は適当な店を探した。しかし喫茶店が……無い!
「なんかこう、座って話せる所とかあるか?」
「無い」
「ぶはっ、あー、じゃあ、売ってる空き地はあるか?」
「無料の空き地が大量にある」
「連れて行ってくれ」
俺の言葉にレクスが頷いた。さて、街の上の方に行くと、なるほど、確かに空き地があった。ポカンと森の横に砂の広大な土地がある。
「ここは、何があったんだ?」
「生産すると言って誰かが伐採して以来ハゲた」
「ぶはっ、え? 街の木でか? 斬新だな。何ができたんだ?」
「爆発したそうだ」
「っく」
「俺達は理由が不明で悩んだ」
「ああ……悪いツボで。イリスもやってたなと思ってな」
「えっ!?」
「これさ、家建てるのに行けそうなんだけどな、実は薬剤にしか使えないんだ」
「は!?」
「だから生えないんだ。栽培しないと。つまり栽培すれば戻るけど、使っていいなら使いたい」
「――使っていいが、何をするんだ?」
「ん? いや、座ってお茶を飲もうと思って」
「あ、ああ。どうぞ――!?!?!? へ!?」
「うん、いいかな。どうだろう?」
「いや、え? ベンチを出すとかじゃなく、庭付きの家だと!? いやこれは、家じゃない、なんだ?」
「シャッター閉めてるけど店だ。左側の壁に扉だ。触ると開く。行こう」
と、俺は歩いて、中へと入った。