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本当に行くとは……残された俺、困った。なので聖職者二名を見た。
「ええと、あの……いきなりお邪魔しまして」
「いえ。あ、ええと、僕はミナスといいます」
「僕はラクスです」
「ゼクスです」
「僕もフレいいですか?」
「僕もぜひ」
「あ、よろしくお願いします」
良い人二名がフレになってくれた。ちょっとホッとした。
「そういえば何をしにこちらに?」
「僕達てっきり、ユレイズのギルドの揉め事かなと」
「ああ、そういえば、そうだったというか、いや、レクスの所にカフェでもという話をしたら、イメージ沸かないっていうから、ここかなって」
「あ、そうだったんですか」
「そういう事なら安心しました。直談判で潰しに来られたのかと……事を荒立てたくなかったもので」
「あはは。それは俺じゃなくレクスが決める事かなって。俺部外者だから――それで、話てたら、レクスがヴェスゼストがマスターって言うけど、俺はケロッぴだと言って、見に来たんです」
「「ぶは」」
「どういう事なんだ?」
「――ゼストが、スキル書を失敗させて、結果です」
「えっ!?」
「鴉羽様――ゼクス様が書いてくださったゼスペリアの癒しで出る中の一つの状態異常解除上級で治りました」
「ぶはっ、よ、良かったです」
「だから鴉羽様だと分かった瞬間に一番焦ったんですが――……それ以上に、ヴェスゼストは普段から、好きな芸能人とブランドはゼクスだと言っていたので、ちょっと、もう、なんか、ね?」
「ええ。あんなにキラキラしたヴェスゼストは、もう、こう、見守るしかないというか」
「それ、まじで?」
「「大真面目です」」
「なんかこう嬉しいような何というか……」
「っていうか、僕もびっくりなんですけど。だってモデルのゼクス、ただのイケメンで寡黙なクール美人の印象なのに」
「いやそれ本当ですよね。福の神、あれ、記憶を掘り返しても良い意味で天然としか言えないっていうか」
「ぶはっ」
「そして先ほどから中身はそっち」
「本当それ」
「だって俺だからな。俺、別に天然じゃないけど、モデルは黙ってればいいから。角度角度」
「「ぶは」」
「そんなんでリアルにフレがいないに等しいから、ゲームで、って思ったら、気づいたら十年間レベルを上げていたんだ……今日からフレを作ろうと決意してたら、レクスが引っ越してきて、それでこれをやってると判明して今に至る」
「本当に弟なんですか?」
「そうだよ」
「引越し理由は?」
「なんか、ゲームのしすぎで家族ともめたから、VRシステムある俺の所に来たって」
「「ぶは」」
「俺も廃、レクスも廃、って良いのかな? というか、レクスって廃?」
「「確実に」」
「ホッとした」
「いやそれホッとするところ?」
「微妙なラインですが、ただ間違いなくゼクス様以上の廃ではないですよね」
「まぁねぇ」
「なぁ、その、『様』ってやめてくれ、なんかやだ」
「え、いいんですか?」
「へ?」
「グルチャ覗いたり、午後にレクスさんのブログ見たけど、基本『様』でしたけど」
「えっ、ちょ、それ無理」
「あはは」
「まぁ高レベルとイケメンの宿命ですが、両方だし諦めるしか」
「なんだそれ……とりあえずミナスとラクスは止めてくれ」
「分かりました」
「はい。けどテンション上がるなぁ……わー! 目の保養……」
こうして雑談をしていたら、レクスが先に戻ってきた。
「あ、おかえり」
「「おかえりなさい」」
「ただいま。非常に好意的な反応だったぞ。表に出てこなかった理由も分かった、アバターが福の神なのも納得が行く、そういうのと、ラフ牧師が『ばれたのか』だとかイリスが一緒に仕事してるとコメントくれたりな、ルシフェリアもリアルで知っていたとコメントを出し、俺は兄上のリアル時の生写真をブログに載せてきた。誰も疑うものはいない。ルシフェリアとイリスがコメントで、兄上の初期からの廃っぷりを語り、ゼストが同意し、昔に撮った兄上キャプを公開。してこれは、ルシフェリアとイリス、さらにはクラウ、並びに高砂が持ってたのをラフ牧師、ラフ牧師も持っていた。しかも当時のスキルつき。結果、ラフ牧師のブログサーバーが落ちた」
「へ? なんだそれ……」
「大人気だった。親近感が湧いたそうだ」
「そ、そうか?」
「あと、父上が、クラウンズ・ゲートとタイアップするからモデル、って言っていた」
「え」
「伝えておくとだけ言っておいた」
「俺はいやだ……」
「ちなみにヴェスゼストのところも落ちたし、ゼストのも落ちて復旧したのを見て、ここに来た。ヴェスゼスト、貰った時計とリアルで持っている時計を並べて出していたな」
「お、おお……な、なぁ、けどさ、この急展開、俺、予想打にして無かったんだ。どうしたらいいんだ? 父上が知ってるとか、なんで?」
「ニュースサイトに出たからな」
「は!?」
「お祖父様が報道陣に、『ゲームにハマって活動休止(意訳)』って答えたのがテレビでも流れたしな」
「……レクス、俺もうゲームじゃなくてリアルでも外歩けないんだけど」
「大丈夫だろう。意外と芸能人もやってる」
「そうなのか?」
「ああ。ただしレベルは――っていうか、兄上より高いユーザーいないからな」
「うう……」
俺は俯いた。どうしていいのか分からない。そこへヴェスゼストが戻ってきた。
「すごい人気だと再確認してきた……」
「それはゲーム内か? 外か? ちなみに俺は外はもう慣れた」
「両方だ、特に外だ。ゼクスに会えるとして、クラウンズ・ゲートの新規が5400人を突破したそうだ。俺とレクスのブログ更新五分後から」
「え」
「俺のブログのコメントも、普通のファンからも大量だった」
「だろう? 他の芸能人からも、自分もやってみたいとTwitterが来て、俺は、なんというか……」
「俺に会えないからな? ちょ、なんだよそのデマ。俺、やだよ」
「だろうな」
「うむ」
「お前ら大丈夫って言った! 俺は地下にこもる運命だった……」
「安心しろ兄上。きっとヴェスゼストが守ってくれる」
「えっ!? う、あ、ぜ、全力で!」
「ありがとうございます……けど、どうやって?」
「新規を全部ヴェスゼストのギルドでいいだろう」
「「ぶはっ」」
「トップギルドになって、いつか会える的な」
「うは、レクス、お前、あのな、俺の所だって取捨選択はあるんだ」
「ヴェスゼストならさりげなく追い出せるんじゃないのか?」
「……レクス」
「なんだ?」
「ゼクスの前でそういう事を言わないでくれ……」
「「ぶは」」
「わかるか!? 目の前に、憧れの人がいた気持ちが!」
「わかる! 俺も今日最初にルシフェリアに会った時、そうだった!」
「舞い上がるだろう!?」
「その通りだ! 悪かった」
「いやお前ら何言ってるんだ? そして、そういう事じゃなく、俺は今後どうすればいいんだ? これじゃあこの街のカフェシステムをレクスと見に行けない……」
「問題ない。どうせダンジョンを越えられない」
「その通りだ」
「あ、なるほど」
俺はちょっと落ち着いた。それから、改めてヴェスゼストを見た。
「そういえば、ミナスとラクスと話してたんだけど、ユレイズって、何がどうで何だった?」
「ああ、ヴェスゼスト。一位と二位と提携旧執権をどうにかしてくれ」
「――破門依頼か?」
「俺はそれでも良い」
「破門ってなんだ?」
「「「えっ」」」
「兄上は、ぼっちのひきだから何にも知らないそうだ」
「う、あ、そ、そうか……ええとな、宗教から追い出す事だ。もうゼスペリア教徒ではなくなる」
「いやあの日本語は分かるぞ?」
「そ、そうか。ええと、その――」
「MPが減ったりスキルが使えなくなる」
「あ、そうなのか? なんかそれ可哀想だな」
「ああ。しかし使えるからこそ威張り散らしているという事実もある」
「対人的に効果があるのか?」
「いいや。一部のモンスターがそれでしか倒せない」
「スキル名とモンスターは?」
「ゼスペリアの赦祝で取れる紫電の聖槍と闇竜トルトゥーダ」
「カルミナの首飾り下げてたら、闇竜の攻撃は全部無効でこっちにダメゼロなのに?」
「「「「えええええええええええ!?」」」」
「首飾り配って終わればいい」
「知らなかった……」
「早急に入手させて試させる……成功したら配布して、あちら三名には破門警告をする。それでどうだ?」
「ああ、感謝する」
「なんかまとまったなら良かった。けど俺は人生の危機的状況で、今まさに今夜が峠って感じなんだけどな。お前らそれ、真面目に考えてくれ」
「――グルチャ情報で、新規10000人突破、現在の人口70000超えだそうだ」
「流石だ」
「……その人々は、どこで何してるんだ?」
「各地の初心者村だ。あと、意外と、真面目なゲーマーも多いらしい。廃人魂だそうだ。後は、ゼクスもやってるんならやってみようかな、という、ライトユーザー。一般人がソリティアの先を探していてたどり着いた感じだ。残りがファンと復帰」
「鴉羽福の神アバターは目撃者が結構いるし、古参も知ってるから、大量に『俺知ってる』『見たことある』として初心者と仲良くなっているそうだ。幸いまだ詐欺被害などは無い」
「そ、そっか」
「あと――ん? 公式が掲示板を立ててる。ん? なんだろうな」
「なんだよ? 俺も見――……は? ラフ牧師の動画?」
「「え!?!?!?」」
「これラフ牧師のリアルアバターだ。どっかで見たな――あ! ドラマの!」
「うわあああああああああああ!!!!!」
「まじで!? ラフ牧師!? あ、本当だ! 喋ってる! ラフ牧師だと言ってる、鴉羽卿はゼクスにもらったって! お互い知らず、かつラフ牧師はデビュー前からゲーム内フレ!!!!!! おじいちゃんと福の神!!!!! 普通の二人キャプ!!!! 全身ゼクスデザインコス!!!! 羨ましい!!!!!」
「え、なにこれ、知らなかった」
「ラフ牧師効果でさらに新規が大量に参入!!!!!! こっちもネットトップニュース!!!!」
「あ、けど、これで俺の存在紛れる! もっと誰かいないかな?」
なんていうやりとりをしながら、俺は掲示板のタイトルだけチラ見した。スキル検証が一番進んでいる。なんだかんだでゲーマーが一番多い。後は、生産だ。また、その直後、イリスの動画がアップされた。アバターと一緒だが、こっちの方が大人っぽい。