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「なんだか恥ずかしいな」
「い、いや……兄上、三分を余裕で切っている……手元だと二分四十秒くらいだった……」「ああ、そうだったか。まぁ大体三分だろう?」
「それはそうだが――……悪いんだが、リアル同期でもう一度頼む。現実か確認したい」
「あはは、ああ、良いよ」
こうして俺は、リアル同期にして、再度ボスに向かった。淡々とモーションを眺める。終わった瞬間に飛んで、同じ事をした。余裕である。
「どうだった?」
「二分三十秒台だった……」
「あ、いや、現実確認の方だ」
「それは、まぁ……――兄上、念のため、リアル半同期で、猫耳尻尾肉球装備で頼む」
「えっ、う、うーん……恥ずかしい以外の何者でもないけどな。どうして半同期なんだ?」
「恥ずかしくない! 頼む!」
「わ、わかった……じゃあ猫手袋にするから、武器を変えても良いか?」
「あ、ああ。何にするんだ?」
「エビデンス」
「へ? エビデンスって、聖職者350レベルに存在するという噂だけど見た人はいないという何かか?」
「見た人は、いるだろ。使用条件が、職10カンなんだ。だから、使える人が少ないという事だろうな。よし、行ってくる」
「えっ、あ、ああ……」
俺は、実はちょっとかったるかったので、先ほどまでより、ダラッと向かって、モーションが終わった瞬間、闇槍エビデンスでドラゴンの首を貫いた。同時に頭が爆発して消えて『クリア』と出た。
「完了だ。俺、もう、終わる。猫のいつものに戻る」
「……ちょっと待ってくれ兄上、三十九秒って、なんだ?」
「爆発するまでの時間だ」
「い、いや……――それは、貫いて、そこからか?」
「行くのが、3秒、刺すのが4秒、固定2秒、後は30秒が爆発モーションだと、前にゼストが計算してくれた。ただ、ハルベルトとルシフェリアも計算して、30秒モーション以外は意見が割れていたから、何とも言えないな。ザフィスお祖父様とのPSY融合医療装置を見てくるから、行く。レクスも、俺の家に来るか?」
「行く! 一度撮影は終わる! 終了です、お疲れ様でした!」
「改まってどうした? お、お疲れ様!」
こうして、俺達は、俺の家に向かった。フレ登録していれば、許可すれば家に入れるのだ。そうしたら、レクスがポカンとした。
「あ、兄上」
「ん?」
「これも撮っちゃダメか?」
「いや、いいけど……面白味は特にないぞ?」
「撮る! 俺には面白味しかない! ――えー、ということで、兄上の家に来ました」
「誰に言ってるんだ? まさかその部分を使うのか?」
「分からない。所で、俺には、茅葺き屋根の一軒家が立っているように思えるんだが、中はどうなっているんだ?」
「中は、マンションの事務所そのまんま。階数だけ、8階7階9階で、9階は商品サンプルと書庫じゃなくて、俺武器庫とスキル書庫だけどな。10階は無い。内部亜空間だ。入って最初だけ囲炉裏だ。左の扉をあけると内部建築で宗教建築が入っていて、右がマンション。面白味は無い。実用性のみだ」
「いや、俺的に、面白味しかない。え? 俺と兄上が住んでいるマンションの再現か?」
「そうだ。どうぞ」
「お邪魔します――ああ、囲炉裏だ。江戸だ」
「あはは。こういうの好きなんだ」
「左から見せてくれ――六部屋か」
「ゼガリア・ゼルリア・ゼスペリア・青照・月讀・月宮・弥勒だ」
「……冠位も全部か? 聖職者資格も?」
「まぁな」
「一番上か?」
「一応な」
「見てくる」
「どうぞ。俺は、右のリビングにいるから、終わったら少しアンチノワール商會で出すコーヒーでも見てくれ」
「あ、ああ!」
レクスが左に入っていったので、俺は八階リビングに、軽食セットを並べた。コーヒーと、あんみつと、抹茶あずきパフェと、モナカと、ティスタンドに、スコーン、サンドイッチ、ケーキ、キッシュセット、そんな感じを用意して眺めていたら、レクスが戻ってきた。
「兄上、あの建築やばい――……クオリティ高いな、料理まで」
「あはは。どうだ? このメニュー」
「ああ。和洋折衷具合とつまめる感が良いな。それなりに満腹にもなりそうだ」
「良かった。お品書きはこれなんだけどな、飲み物どうだろうな?」
「ああ、俺は好みだ。これは、カップはどこのものだ?」
「アンチノワールのアースタロット・オンライン限定店の食器コーナーだ」
「なるほど。無印か。持ち手以外特徴が無いが、すぐに分かるな」
「まぁな。俺、こう、何ものにも邪魔をされずに読書するのが好きなんだ。置いてあるのスキル書だけどな」
「ははっ、そうか――それにしても、マンションそのままだな。これは、デザイン機能が出来る前だろう? こちらで作って、あちらに置いたのか?」
「うん。小さい頃というのも変だけどな、デザインを始めた頃、アースタロット・オンライン内部の生産で練習して、それを外部VRシステムで再現して、という練習をしていたから、特に俺のルージュノワール時代の製品は、こちらに似たようなのが多い」
「そういう事か。兄上は、限定からということは、何歳からだ?」
「十一歳だ。デザインが十三歳」
「今、二十四だったな?」
「そう。テスト一年で、正式公開が十二年だから、十三年目だな。飽きない。デザイン歴より長いんだ。VR専攻自体は、十一歳の時にはエルナード大のアルカサイク研究室で終わっていた。同期は、そこの同期だ」
「そうか。上も見てくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
俺が微笑して見送ると、レクスが上に向かった。
タバコに火をつけて、俺はレクスを待っていた。するとレクスがまた興奮しながら降りてきた。
「兄上! スキル書がやば――そのタバコ、どこのだ?」
「これ? ああ、黒曜宮クラフトの案内所で売るんだ」
「オリジナル!? そ、そうか……兄上はタバコが似合うな。俺は喫煙者は嫌いだが兄上は許せる。父上は許せなかった。お祖父様も許せる。この違いはなんだろうな」
「匂いかもな。父上は、あの葉巻の匂いが好きで、お祖父様は仕事的にも研究興味的にも完全カットだからな。俺はほら、煙が石鹸の匂いになる分煙灰皿をリアルで使っているからだろう」
「そういうものか。このタバコも匂いがしない、と、思ったが兄上はいつも、こういうなんだか良い匂いだが香水では無いという空気ではあるが、これがそうか?」
「多分な。香水も、黒騎士のアースタロット・オンライン限定店に置いてあるけどな」
「そうなのか。石鹸も作っていたな」
「ああ。VR環境系は、匂いのデザインができる所が比較的少ないから、やれるのを見るとつい、な。自由度が高くて、俺は好きだな、アースタロット・オンラインのデザイン」
「俺も作ってみたいな」
「黒曜宮クラフトの寺子屋カフェに、俺のテキストを置いてあるから、使ってくれ。多分誰も来ないから、レクス、使いたい放題だ」
「テキスト?」
「地味に、本を頼まれた事があって、インテリアとか色々の作り方の本だ。VR化して設置したんだ」
「えっ、見てくる、い、いや、後でにする。所で、兄上、兄上は、その――フレとはどのくらいの頻度で連絡を取るんだ?」
「特に決まって無いけどな。今、してみるか」
「う、うん」
俺は文字チャットを送った。声をかけたのは、かけやすいのとレクスがファンだからルシフェリア、後はレクスに会いたがっていたゼスト、それからラフ牧師である。全員来ると言い出した。
「レクス、あのな、フレが三人来るけど良いか? 俺、途中で装置に抜けるけど、すぐに戻る」
「あ、ああ……」
と、レクスが頷いた時には、ラフ牧師が来た。
「え、ゼクス、まじで、モデルのレクスくんが弟で、ユレイズのレッドクロスのギルマスなの!?」
「あ、ラフ牧師」
「鴉羽卿!?!?!?!? ハーヴェストクロウ大教会の、現存する最古のギルドの、え!?」
「あ、そ、そう呼ばれることもあるけど――うん、サイトのレクスアバターだ。リアル同期をみたいです。ちなみに呼ばれる理由は、ゼクスと二枚目右ステが同じで、クラウも同じで、クラウがその説明に『鴉羽武器の二枚目右』と言っていたら、俺のあだ名の方が『鴉羽』になったという理由だ。しかも、お前らザフィスの孫って真面目に!?」
「ああ、お祖父様の事、知ってるのか?」
「うん、知ってる――あ! 本物のレクスくんだ。俺好きなんだ。テレビ見ながらお菓子作ったよ、全部の回!」
「ぶは」
「あ、ありがとうございます」
「信じられない。狼の孫が狼は分かる。猫は微妙に分かる。ただ、レクスくんは分からない。その上、ゼクスもモデルって聞いたけど、そうなのか?」
「一応はな。本業はデザイナーだ。誰に聞いたんだ?」
「ゼストだ。今から来るんだろ?」
「ああ」
「! いや、あの、鴉羽卿が想定外過ぎて、逆にゼストは想定内だった」
「ぶはっ、まぁな。俺の方がゼストよりフレは少ないだろうしな。けど俺、ゼストより前からゼクスとフレだ。ルシフェリアに匹敵するレベルだろう」
「ああ。俺の初日は、ルシフェリアとイリスとラフ牧師と英刻院閣下だ」
「英刻院なぁ。俺は、ゼクスと英刻院藍洲。レクスくん、フレになりたい。ギルマス同士的な意味で別に不純な動機じゃないからな」
「あはは。不純て何だよ」
「よろしくお願いします。申請させていただきました」
「有難う! ちなみにこの和装一式、ゼクスにもらったオシャレ装備。和服の店なんだろ?」
「和服の店もある。けど、似合うな。ラフ牧師風は、俺の中でそういう感じだった」
「ふぅん。なんか嬉しいねぇ」
そこにガラっと扉の音がした。