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 二人共起きている。早い。二人共ちゃんと眠った気配はあったから、早起きなのだ。

「おはよう」
「「おはよう」」
「あのな、あんまり無いんだけど、良かったらと非常食を用意したから、ギルドで必要なら使ってくれ。不要なら備蓄してくれ」
「「!?」」
「倉庫の『非常食セット』だ。見ておいてくれ。持ってて貰って良い。俺はシャワーを浴びてくる」

 俺がそう告げてジュースを飲んでいる間に、二人は倉庫に向かっていた。良かったかなと考えながら、俺はシャワーを浴びた。自分用歯ブラシは、棚から出した。着替えたが、俺はとりあえずジャージにした。二人はルージュノワールのオシャレ装備だったが、まぁ良いだろう。戻ってから、俺は何やらギルドのメンバーなどとやり取りもしながら話している二人を見た。

「お前ら朝ごはんは食べたか?」
「サンドイッチを貰った」
「美味しかった」
「そうか、良かった」
「兄上、非常食セット、本当に助かった……」
「特に着替えと飲み物だ……みんな困っていたそうだ……」
「役に立って良かった。ちょっとずつ使えば、多分餓死は免れる。服は洗えるやつですぐ乾くから、きっとしばらくは何とかなる。救助を待とう」
「救助は分からないが、その通りだ。兄上、本当に本当に有難う」
「感謝してもしきれない」
「気にしないでくれ。そういえば二人のギルドの様子はどうなんだ? というか、テレビで他も分かってるのか? 教えてくれ」

 俺はパンとサラダとハムエッグを冷蔵庫から取り出しながら微苦笑した。しかしホカホカで出来立てで出てきた。良いな、便利だ。また、情報が気になったのは事実だが、わざわざ聞いたのは、二人の攻略予定を聞いてストップさせるためである。聴きながら、自分のチャットログとメールチェックもする予定だった。俺はながら作業が得意だ。

「今日は、各地で合流できる集団は再合流、しない方が良い既にまとまっている組も含めて、宿探しをする予定になっている。まずは基盤を安定させる――ただ、生産できる者が、みんな軒並み美味しくない飲食物しか作れないそうで、ユレイズ内なら他よりは生産素材が倉庫にあるから、各地の露店街クランに入っている者は、料理スキルが高い者に素材提供をして料理をこちらへ貰う交渉もする予定だ」
「衣類に関してもその予定だったんだが、既に下着系の生産スキルの持ち主は、ユレイズにゼロだと判明していて、露店街クランも生産クランも焦っていて、生産最大手ギルドの生産同盟に問い合わせていた」

 俺は頷きながら聞いていた。自分達で用意予定がある事にまず感動した。同時にメールで、橘から『ハーヴェストに提供した水着下とTシャツのレシピ送って!』と、着ていた理由も分かった。ハーヴェストは、レクス達のギルドだろう。橘は生産同盟でサブマスもしているから、それで分かったのだろう。

 かつ情報屋とかもやっている。アンチノワールのギルメンで、現在はクランが一緒という形だ。そちらの文字チャットログだ。榎波と時東と高砂から、『なんだそれは。現物をよこせ』と発言が着ていたので、俺は視線操作で、橘にはカバンに入れておいたレシピ×2、かつ橘と三人には非常食セットのあまりを一個ずつ送った。自分用に50個持っていたのだ。クラン文字チャットで『感謝!』と着た。まぁ俺達五人は、気を使わないで話せる感じだ。最初は四人共俺に気を使っていたが。

「そうか」
「――たった今、生産同盟からレシピが返ってきたそうだ」
「レシピ書を生産のスキル書作成スキルが高い生産者が複製してくれるそうだから、クオリティは兎も角、なんとかなりそうだ……良かった」
「ああ、良かったな。他は?」
「ええと、ユレイズは、安定するまで、ギルド間で連携できそうだ。少なくとも今の所は。ただし、大陸クエストについては意見が割れていて、行う・行わないの他に、行う場合ユレイズ内ギルドのみで連携派と、アイゼンバルドの強いギルドに支援要請をすべきだという派がいる。これに関しては、俺達のギルドは、まず、他の大陸の状況やギルド間の連携なども見るべきだという姿勢だ。ただし、ユレイズ内のギルドは、俺達の所も含めて、連携や共闘可能なギルドはなるべく探して置くことになっている。元々ユレイズは、古参ギルドと関わりが薄くて、後発組のプレイヤーが圧倒的に多いから、伝手や人脈が薄いんだ」
「なるほどな、そうだったのか」
「ああ。例えばルシフェリアなんて、超大物芸能人レベルだ」
「あはは。そうか。けどお前らの所を知ってたぞ?」
「「……」」
「嬉しくて泣きそうだった」
「聞いただけで俺もだ……」
「良かったな。多分だけどな、アイゼンバルドと共闘する場合、参加するしないは兎も角、ルシフェリアのギルドは、ユレイズ拠点で、レクスとフレだから、お前らのギルドに比較的好意的だと思うぞ。ただ多分、ルシフェリアは、一番大陸クエスト内で攻略が厳しそうなアイゼンバルドの塔と、セントラルの攻略をするような気がする。分からないけどな」
「……兄上にそう言ってもらえるだけで嬉しい」
「ああ……」
「あはは。俺としては、お前らが攻略につっこんだらどうしようかと思ってたし、今すぐフィールド見てきますとかだったらどうしようと思ってたから、そちらにちょっと安心した。自分達の衣食住を安定させるとか、俺はお前達が俺よりずっと頭がよくてホッとした」
「そうか。なんだか自信が出た。まぁ俺達も迂闊には動かない」
「ああ。もしレクスがそうすると言ったら俺が止める」
「良かった。琉衣洲、よろしくな。レクスもその姿勢を貫いてくれ」
「「ああ」」
「じゃあユレイズと、お前らのギルドはそういう感じなのか?」

 俺は、ゼスペリアの教会のクランチャットで、ルシフェリアが『アイゼンバルドの攻略をする、セントラルはギルメンが様子を見に行く』と残していたのを再確認しながら聞いた。ゼストが『俺のギルドはセントラルに行く』と残していて、ヴェスゼストは『各初心者街の様子を見る』と残していたのも見た。あと、「テレビ有難うございます」とヴェスゼストからメールが着ていた。律儀である。

 ヴェスゼストは、今でも俺に低姿勢である。かつ、他のやつらと違って俺はヴェスゼストにも平等対応でテレビをあげたりするから喜ばれている。なんかゼストVSルシフェリアVSヴェスゼストVSクラウみたいな流れは前からあるのだ。そして他三人と俺は仲良しだから、ヴェスゼストは自分にもくれる俺を立ててくれる事がある。気にしなくて良いんだけどな。チャットで良いのに気を使ってメールなのだ。

「ああ、とりあえず、そうだ。今後、常時連絡は取る」
「なるほど。あと、そう、俺、思いついたんだけど、生産にさ、家電のテレビ電話とか家電とかあるんだけど、チャットじゃないけど、それ、使えないか? 電話線ないけど、テレビだってテレビ局ないし、電気だって電線ないだろ?」
「「!!」」
「試しに、テレビ電話1個を今、レクスに送った。それ使えたら、英刻院閣下にも一個送る。こっちのは、このテーブルの上と、テレビの上に設置するな」
「兄上有難う!」

 という事でやってみたら、使えた。おおー!
 レクス達がギルドホームとやり取りをしている間に、俺は英刻院閣下に送った。メールで送り、チャットも飛ばしたのである。そうしたら『すぐにかけさせてくれ!!! 話し中で繋がらない!!!』と着た。

「悪いんだけど、一瞬だけ、英刻院閣下を試させてくれないか?」
「ああ」
「ゼクスさん、有難う」
「ゼクスで良い。心配してるから、かけてくれ。番号、登録の2番だ。1番がお前らのギルドだ」

 頷きながら、琉衣洲がかけた。すると英刻院閣下が真剣な顔で出た後、琉衣洲を見て涙ぐんだ。本当に心配していたようだ。しかし、俺は驚いた。だって、英刻院閣下も、猫だったのだ。俺のアバターと色違いだったのだ。子供がいるとは聞いていたのだが――写ったのは、壮絶なイケメンだったからちょっとビビった。琉衣洲と同じルージュノワールの服だ、というのはおいて、なんというか、若い。三十代だろうが、若い。琉衣洲も美少年だが、英刻院閣下もかなりやばい。

『ゼクス、本当に有難う――というか、顔に驚いた』
「いやそれ俺のセリフだ。誰かと思った」
『俺の中で、アバターと違っても特に誰にも感想は無かったんだが、初めて意表をつかれた。それは兎も角、本当に安堵した。琉衣洲を頼む。レクスも、琉衣洲を頼む』
「わかりました」
「俺も頑張る!」
「父上、俺も精一杯頑張る。父上の方は大丈夫なのか?」
『――ああ、落ち着いたらすぐに行く』

 というやり取りをして、電話を切った。俺はこの時、黙ってフレ申請テストをした。そうしたら――やれた。英刻院閣下も表情を変えずに登録してくれた。琉衣洲も一瞬ビクっとしていたから、多分やったと思う。だが、これが広まると、テレビ電話を求められまくるだろうから、俺は黙っていた。英刻院閣下もそう考えたと思うし、琉衣洲もそうか、英刻院閣下が釘を刺したと俺は思う。

 こうして、俺の新しいフレリスは、三名になった。

 テレビ電話に関しては、桃花源では呟いておいた。ルシフェリアとイリスから『グッジョブ』と着た。二人は作るスキルもある。フレ申請についても伝えた。番号は伝えていないが、必要なら連絡があるだろう。

 今のところクランチャットで大丈夫だから、問題は無い。また、橘には、普通のテレビについても情報をつけ、メールしておいて、電話機能側はレシピもつけて置いた。即座に返信がきて『超有難う!!!』と言われた。なお、琉衣洲とレクスは、ギルドと再びやり取りをしている。

 俺は立ち上がり、冷蔵庫に食べ物を倉庫から補填し、家倉庫にも他から補填した。それが終わり、クッキーセットを持って戻ると、二人共ひと段落していた。

「良かったら食べてくれ。後は、そうそう、他の状況とかは、どうなんだ?」
「「いただきます」」
「――ええとな、死者が各地の合計で1000名を超えた」
「っ」

 レクスがチャンネルを変更して目を細めた。俺も息を呑んだ。なんと、PKが最大の死因である。映像が映っていて、その風景的に、もう終わりだから好き勝手やる、というような、快楽終末傾向の犯罪だった。

 物取りでは無い。治安の悪化である。まだ一日目なのにと俺は思ったが、だからこそ、夢の中気分でやっているのかもしれないとも思った。R18の犯罪映像が垂れ流しだ……未成年が目の前に二人いるのに。だが、俺は、それよりも俺自身が真っ青になり、震えてしまった。怖い。口を覆った。二人はそんな俺を一瞥して、焦るようにチャンネルを替えた。