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「兄上、大丈夫か?」
「俺達がいるから大丈夫だ」
「……あ、ああ。有難う。情けなくてごめんな……」
「いいや、普通はそれが正常な反応だ」
「俺とレクスは対人戦闘VRもやっていた事があるから、こういう映像に慣れているだけだ」
「そ、そうか……」
「――まぁ、こういう状況だ。ただしこれは、フィールドへの出入り口付近ばかりで、街中では無い。セントラルは街中でも少しピリピリしているが、各地の初心者街は、今は揉めていないし、さらにそれ以外の街であれば、現在はユレイズのように助け合いがある。ただセントラルと初心者街は、宿の取り合いは起きている。これは、連泊問題だ。変われという喧嘩だ。それとギルドホームへの侵入などもあるようで、各ギルドが防衛に乗り出してもいるようだ。代わりに開放して炊き出しをしているギルドもある」
「なるほど」
「食料は、相変わらずNPCショップも露店も、素材を含めてからだ。POTとその素材も同じだ。さらに、武器防具の値段、衣類の値段が高騰している。NPCショップは、入荷時間の午前十時に1分後には完売で、十二時と午後五時と夜十二時もそうなると思う。味は色付きの水と味なしパンだそうだが、不味くないだけマシらしい」
「きついな」

 ジャムレシピを思い出したが、買い占める人々だから別に提供しなくても良いかなと思うし、このレシピは生産同盟にも沢山ある。橘はジャムとか大得意だ。

「後は、フィールドへ向かった人々の噂がいくつかある。セントラル以外の街だと、アイゼンバルドと、アイリスの右以外は、全てレベル5程度のモンスターだが――レベル350フルパーティ6名でも死亡例がある」
「え!?」
「感覚が掴めない場合があるらしい。これは、体型がリアルに変わったのと、体感がリアルになり肉を切り裂く感触や相手からの威圧感がある事などが原因みたいだな。だからそれらがあまりなければ、レベル5の初心者二人組でも倒せていたりする」
「……俺は、身長体重は変わらなかったが、頭の大きさが違う猫アバターだった……身体動作は行けるかなぁ、昨日スキルを使ったら感覚だと。そういえば、経験値はたまるっぽい事をピエロは言っていたけど、アイテムと通貨は落ちるのか?」
「両方落ちるそうだ。ただし、一体倒すのに三時間などもあるそうだから、素材収集は現在絶望的なようだ。範囲に慣れている動きも良い高レベルパーティが動いていないだけかもしれないが」

 俺は頷いた。ちなみに、アンチノワールのチャットに、榎波、高砂&時東がフィールドに行ってきたというログがある。昨日の夜の内だ。今も行っているみたいだ。榎波は負傷する手前で得意の転移で逃げて、心臓が止まるかと思ったと書いていた。

 これも5レベルの敵だ。ただ、その後、慣れてきて、図太いので恐怖が消えてから、10レベル、30レベルと倒し、ヨゼフの初心者村から最初のダンジョンがあるフィールドまでたどり着いたそうだった。榎波はユレイズとエフネスとアイゼンバルドを攻略していたはずで、他をしていないから、初めてだろう。

 ただ、アイゼンバルドを攻略したのは超すごいらしい。俺は全大陸を攻略しているが。だが、その榎波も、ダンジョンは入らず、街に引き返したようだ。しばらくは、5レベルの敵で感覚を掴むと書いてある。高砂&時東は、一度高砂が結構ひどい負傷をして、時東が回復スキルで治したとある。

 傷は治ったそうで、時東は聖職者一位を最近維持していてどんなに落ちても三位以内だから別だが、弱い聖職者だと、回復できても残存ダメージが残るという知らせがあった。普通に痛いらしい。痛み止めもあった方が良いようだ。理由は、回復が万全でない聖職者だと、怪我が残るらしいのだ。そしてフィールドを見回した限り、8割以上が万全ではないようだった。ただし基準はまだ明確ではないらしい。

 なお、今回こちらは時東が完全に回復に回っているそうだ。そして高砂が範囲でやっているらしい。そう、高レベル範囲だ。慣れた現在、いつも通り、一瞬で殲滅できるから、敵は近づけないようだ。30〜45レベルを5体くらいずつ範囲で殲滅しているらしい。エフネス大陸のアステナの都の隣のフィールドだという。アステナに、アンチノワールのクランホームがあり、二人はそこにいるのである。

 昨日、「来ないの?」と言われたので「リアル弟といる」と伝えたら、納得されたが、連れてくればと言ってもらったので、実は俺は検討している。だが、行ったら、俺も行かせられそうで怖い。それと、戦闘すると、疲労がすごいらしい。消耗するそうだ。疲労回復POTというこれまで効果が不明だったものを俺は趣味、時東は薬剤の神様なのでクランにあったのだが、かなり消費したそうだった。時東は、これの生産に取り掛かるらしい。

「なるほどな」
「今日になってから、行ってみる集団が増えたようだ。初心者街の近郊、最初のフィールドは恐らく、全て誰かは行ったはずだ」
「じゃあセントラルの人混みも少しは収まったのか?」
「――いいや。移動したのは、基本的に、キャラだけでも350以上、多くは職も1つ以上はカンストの上級者ばかりだ。その関連ギルドのメンバーや、ホームがある者なら、低レベルでも多少はいる。聞いた限り、5000人程度しか、各地には散っていない。内、大規模ギルドが6つで、その合計が3500程度だ。4つの内、1つは、俺達のギルドだ」
「えっ、そうなのか……」
「ああ。死者が1000として、48000人以上がセントラル、かつ広場で徹夜だそうだ。飲食物もカバン内のみで、無いものもいる。倉庫窓口と転送鏡前は、5時間以上待つそうだ」
「ちなみに、分かるか分からないけど、6つ知りたい」
「天球儀、青薔薇騎士団、ハーヴェストクロウ大教会、聖青十字教会、黒騎士と、俺達の――ハーヴェストと言う」

 俺は頷いた。クライス・アルト・ラフ牧師・ゼスト・ルシフェリアがギルマスの所だからだ。まあ小さい所は、現在はクランだけどアンチノワールの二名だとかも移動しているから、もっとパラパラと存在はするだろう。英刻院閣下のギルドも移動しているはずだ。生産同盟も一部だけ移動などだろう。

「そうか。有難う。所で、48000人は、今後どうなるんだろうな……だって、座る場所とかもあんまりないだろう?」
「フィールドに出て、草木を食べる挑戦をしている者もいるようだ」
「え」
「ただし生産スキルが無ければ採取はできないという」
「そ、そうか」
「ただ、食べられるみたいだな、採取すれば。苦い草だとか」
「……そうか」

 何とも言えない気持ちでクッキーを見た。俺達は贅沢なんだろうな。