13
近くにいたいくつかのパーティが動きを止めてレクス達を見ていた。ポカンとしている。少しして、二人が戻ってきた。汗をかいていて、疲れているようだ。
「これを飲め」
「「有難う」」
俺が渡した疲労回復POT――ポカリ味を、二人は飲んだ。そして驚いたように瞬きをしてから俺を見た。
「兄上、これは? 疲れが溶けた」
「ああ……驚いた」
「疲労回復POTだ。モンスター退治は疲れるみたいだから」
「感謝する」
「流石だな……」
二人が笑顔になった。俺も微笑した。
「もう感覚は分かっただろう? 帰ろう」
「「……」」
「帰ろう!」
そう宣言した時だった。こちらを見ていた数名が俺達を囲んだ。
「ああ、帰れ。その鴉羽武器と装備を置いてな」
「というか、全員脱がせてやるよ」
「!?」
俺は驚いた。ニヤニヤ笑っている。気持ち悪い……。
レクスと琉衣洲を見たら、冷ややかな顔をしていた。冷たい眼差しだ。だが、若干冷や汗をかいているのが分かった。気持ち悪いからだろうか?
「お前らみたいな変質者に渡すものはゼロだ。レクスと琉衣洲に近寄るな。どっかに行け!」
「「っ」」
俺が言うと、レクス達が息を飲んで体を固くした。目が止めろと言っている。だが、そういうわけにもいかない。俺は二人の前に立った。そうしたら、ニヤニヤしている連中が、もっとニヤニヤした。
「強気だねぇ」
「泣かせたいタイプ」
「美人だなぁ」
「鳴かせ甲斐もあるよな」
「「「ぶは」」」
声を上げて笑い始めたオッサンどもを俺は睨んだ。怖いけど、レクスと琉衣洲に近寄らせるわけには行かない。そう思っていたら、奴らが俺に近づいてきた。
「わっ」
「細いねぇ」
そうしたら手首を引っ張られて、腰を撫でられた。別の人に顎を持ち上げられた。ガーン。絶対に俺の方が速度は早いんだけど、怖くて動けなかったのである……。泣きそうだ。
「装備は全部渡す。兄上を離してくれ」
「物分りが良くて何よりだが、なら、お前が俺の相手をしてくれんのか?」
「は!? レクス上げちゃダメだし、相手なんかダメだ!」
「兄上、勝てない」
「そういう問題じゃない! 自分の体を大切にしろ! っ、うわっ!」
俺がレクスに叫んだら、耳に息を吹きかけられた。ぞわっとした。
「感度いいねぇ。弟さん? が、大切なら、自分を差し出したら?」
「は!? 気持ち悪いセクハラをするな! わわわ!」
「本当にスタイル良いな……うわぁっ、見てるだけで、グラつく」
「脱がせるか」
「やめ――」
俺はもがいた。いつの間にか周囲に人だかりが出来ているのだが、みんな見ているだけで助けてくれない。逆にこう、ねっとりとした視線が絡みついてきた。完全にエロ目線でこっちを見ている……。泣きそうになったその時だった。
「自分の顔見て手を出しなよ」
淡々とした声が響いた。瞬間、場に沈黙が降りて、周囲が声の方を見た。俺も見た。僧侶服のイケメンが立っていた。みんなが息を飲んでいた。
「全くだ。美人を捕まえてるキモデブ」
今度はその反対の方角から声がした。続いてそちらを見ると、ニヤっと――だがこちらは格好よく笑っている白衣のイケメンがいた。
「高砂! 時東!」
俺は、二人共アバターと変わらないし、俺が上げた服を着ているので一発で分かった。だが、二人は少し息を飲んだ。小さく目を見開いている。
「エフネスタを好きなだけやるから俺とレクスと琉衣洲を助けてくれ! レクスが話した弟で琉衣洲はそのリア友だ!」
「「ゼクス!?」」
俺の言葉に二人が声を上げた。え? 気づかれてなかった?
驚いた時には、俺を掴んでいた人が吹っ飛んでいて、俺は高砂に抱きしめるように助けられていた。敵を吹っ飛ばした時東は、それから振り返って俺をまじまじと見た。
「え、まじで?」
「なにが?」
「うん、俺も驚いた」
「なんでお前こんな雑魚に捕まってんだよ?」
「だよね」
「怖いだろうが……」
「何がだよ?」
「俺が吹っ飛ばしたら死んでしまうだろうが!」
「「「「ぶは」」」」
二人及び聞いていたレクスと琉衣洲が吹き出した。へ? 違う?
「案外頑丈とかか? 俺、殺人犯になる恐怖で足が震えて動かなかったんだ……手加減しても一瞬でこいつら死んじゃうと思って……」
「ああ、うん。ゼクスの言ってる事は正しいよ」
「兄上の言葉の意味を取り違えていた……」
「というか……時東さんと高砂さんって……」
琉衣洲が呟いたら、レクスも緊張したように頷いた。吹っ飛ばされた人というか、さっき割れた人混みの人々も、その名前にざわついている。
「マンハッタンの時東?」
「万象院総亜の高砂!?」
「た、確かにアバターと同じ……イケメン!」
「間違いないだろう、もう一人のイケメンは誰だあれ?」
「レクスはハーヴェストのレクスだろ?」
「横の琉衣洲はサブマスだろ?」
「もう一名誰? 流れ的にレクス兄」
「時東と高砂を呼び捨てで知り合いだろ? かつ強そうな話」
「見てた限り弱そうというか、かよわそうな線の細い壮絶な美人だ」
「俺、タイプだ……」
「そ、そりゃ俺も期待した……」
「けどやばいだろ、時東だぞ? 聖職者一位」
「高砂、僧侶一位!」
「うわあああああああああ」
「かっこいいな……」
「絶対アバター作ってると思ってた! リアルイケメンとか」
なんか観衆ダメな奴らの集合体に俺は思えた。
「あ、ゼクス、一応新フレ」
「あ、俺も頼む」
「うん。二人共助けてくれて有難うな。エフネスタ送った。1セットで良いか?」
「うん。別に良いけど。一応これは助けるくらいの仲ではある」
「まぁな。ゼクスだと知らなくても俺は美人は助けた。助けて『かっこいい、ポ』を高砂と狙ってみるかと話してたら、ゼクスだったとか泣けるな」
「だよね。美人いたら助けに入って、と、思ってて、やっと俺達の許容範囲にいる美人が出たと思ったらゼクスとか」
「ホームにいて目の保養にはなるが、そこまでだからな」
「それ、本当それ。手出したら即死だからね」
「あーあー。美人いねぇかな。俺、ガキは無理なんだよな」
「俺も」
「というか――レクスと琉衣洲は久しぶりだな」
「ええ……お久しぶりです。覚えていていただいて、本当に嬉しいです」
「助かりました……またお会いできて光栄です」
「時東、ゼクスの弟さん達の知り合い?」
「ああ、ユレイズのハーヴェスト――ユレイズ攻略開放ギルドのギルマスとサブマスだ」
「あ、そうなの? 死霊術師と魔術師だっけ。暗殺者兼の」
「そうそう。強ぇよ、こいつら。あそこの雑魚より全然強いが、アレらは、ほら、入ってるギルドがな」
「紋的にバチスタジムとかいう所でしょ。忍者ギルド。忍者一位の暁がいる所」
「それそれ。カスいけどねちっこいからな。PKギルドだ」
「ああ、そりゃあ避けた方が頭は良いね。なんでその高頭脳集団と時東は知り合いなの? ユレイズにいた頃の?」
「まぁな」
「――聖職者と魔術師は、俺達のギルドは、時東さんにご指導頂きました」
「攻略時も回復をしていただいたんです」
「兄上が知り合いだなんて、驚きで……ご迷惑をおかけしていなければ良いんですが」
「えっ!? 時東、レクスと琉衣洲に敬われてるのか!? 嘘!」
「なんで驚くんだよ?」
「羨ましくて……」
「「「「ぶは」」」」
「ねぇ、とりあえず、移動しない? ゼクス、なんか街に家建てたんでしょ? 斬新な事に」
「無いと作り出すってすごいよな、本当」
「ああ、建てた。行こう。というか、お前らセントラルに何で戻ってきたんだ?」
「ん? ゼクスの弟を見に来た」
「そうそう。その前にフィールドチラ見に来た感じ」
「なるほどな。俺も実は、お前らにこの二人を保護する相談をしたかったんだ。こいつらお外に行きたがるから。俺はひきこもりたいのに!」
「「「「ぶは」」」」
こうして俺達は、歩き出した。途中で時東に装備を褒められ、二人が喜んで走ったため、俺はまた加速しなければならなかった。時東と高砂は余裕で走っている。結果、すぐにフィールドを抜けて、俺達は家についた。