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 五人で中に入り、ソファに座った。俺はアイスティを出した。

「いただきます。あー、生き返る。試しに外の飲み物飲んだらさ、水か泥水だった」
「本当それな」
「らしいな。やばいな。みんな、練度と個別あげてないんだろうなって話してた」
「ゼクス、何か食べ物」
「キッシュが良い。チーズとキノコの、お前持ってただろう?」
「ああ、いいぞ」

 頷いて俺は、倉庫に行き、キッシュとミートパイと、りんごシャーベットを持って戻った。高砂は迷わずシャーベットである。こいつはこれが好きだ。時東はキッシュを一つ、ミートパイも一つである。

「「美味い」」
「それは何よりだ」
「兄上、シャワーを浴びてきたい……」
「ああ。着替え、倉庫にあるからな」
「有難う。あ、ちょっと行ってきます」
「おう」
「ごゆっくり」
「琉衣洲、そうだ、知ってるようだけど、こっちが時東で、こっちが高砂だ」
「よ、よろしくお願いします、琉衣洲です」
「高砂です」
「あのさ、琉衣洲、英刻院閣下の息子だったんだ」
「「は!?」」
「え、何それ、まじで!?」
「うわぁ、そうなの? この美少年が、猫宰相の?」
「それがな、英刻院閣下、超美形なんだ! 俺、死ぬ程驚いた」
「「!」」
「それは非常に楽しみだが、美形過ぎて吹いたのはゼクスだ。これ以上のインパクトはあるんだろうか? 今後」
「全くだよね。ゼクスがこんなに美人だと知っていたら、もっとこう普段から優しく接していて、この状況になってすぐに口説いたと思うよ。俺、ハードル高いって有名だけど、この顔はいける」
「俺もそう。超面食いと評判なんだけどな。グラっときた」
「お前ら、さっきのセクハラ軍団と変わらない発言を止めろ。かつ琉衣洲とレクスに指一本触れるな。容赦はしない」
「子供は範囲外。俺、ゼクスでも年齢はギリ。もっと上が良い。歳いくつ?」
「二十四だ」
「あれ、お前、限定からだよな? 何、十一歳から廃?」
「う、うるさい!」
「ルージュノワールで食べられるんだから良いんじゃない」
「まぁな。へぇ、二十四歳か。俺はどストライクの三歳年下だな。俺、二十七歳」
「俺、二十八歳。時東の一つ上だよ。俺てっきりゼクスは四十五歳前後のひきこもりだと思ってた」
「俺も」
「お前らな……――あ、そういえば、転送鏡、大変だって聞いたけどよく来られたな。かつ、昨日もサクッと行けたな。何か裏技あるんだろ? お前ら、人混みとか嫌いそうだし、並ばないと確信している」
「ああ、万象院の宗教建築って各街にあるじゃん? あそこの中で召喚術と法術の複合5で亜空間移動陣起動して、建築同士で移動できるでしょ、アレ」
「なるほどな。そっか、時東も万象院持ってたんだったか」
「ゼクスが取らせてくれたんだけどな」
「あはは。ギルド信仰だったしなぁ。ど忘れしてた」
「神宮系もそうだしな。琉衣洲も運が良い。父親と友人兄が伝説級だ」
「えっ、あ、はい」
「初々しいな。そこは時東の図太さを習わなくて正解だね」
「高砂、よくわかってるじゃねぇか」
「なあ、ここの庭に宗教建築設置したら、できると思うか?」
「できると思うよ。だってアンチノワールのホームに直だもん」
「アンチノワール!?!?!?」
「ああ、琉衣洲。ゼクスはな、アンチノワールのギルマスで、俺達はサブマスで、他メンバーは榎波と橘だ」
「っ!? エフネス攻略組……」
「ゼクスは、ヨゼフとアイリスとアイゼンバルドも攻略組でしょ。アイゼンバルドは手伝いしててだろうけど。ユレイズはソロで後からゆっくり」
「えっ!? ま、ま、まさか、全制覇の一名……?」
「そうそう」
「すげぇだろ?」
「は、はい……生産以外も神様だったのか」
「うん、そうだよ。むしろ生産以外が俺的に神様」
「!!!」
「お前ら、その調子で俺の株を上げてくれ」
「「「ぶは」」」

 そこへレクスが戻ってきたので、琉衣洲が代わりにシャワーに行った。

「今な、ゼクスが大陸全制覇の一名で、アンチノワールのギルマスで、俺と高砂がサブ、その他が榎波と橘だって話してたんだ」
「え!?!?!?!?!?!?」
「琉衣洲くんと同じ反応だね」
「驚くよな」
「そ、そんな、兄上が……兄上はぼっちだと言っていたが、数少ないフレのクオリティが高すぎる……」
「「ぶは」」
「なのに俺にはゲームばっかりするなと言うんだ」
「「ぶはぁっ」」
「ゼクスに言われたくねぇよな」
「だよねぇ。ああ、けど、兄弟揃って初攻略経験者とかさすがだよね。血筋? 顔が美人なのは遺伝で良いけど、ゲーマーの遺伝子とかあるのかな」
「どうだろうな。集中力だとか、な。俺は救急だから遺伝子だのの研究系は専門外だ」
「時東はねぇ、お医者さんなんだって」
「そうなんですか。リアルでも!」
「「ぶは」」
「ゲームでもリアルでも回復か、確かにね。的確なつっこみだ」
「悪い、ツボった、吹いた。レクスお前、面白いな。真面目なイメージしかなかった。両家の御子息なイメージだ」
「時東、レクスは両家の御子息だ。俺の弟だ。我が家は両家だ。レクスを輩出した!」
「「「ぶは」」」
「そういえば、お前らは、これからどうするんだ? 俺は救助を待ちたいんだ……一週間くらいで来ないかな?」
「VRシステムクラックテロからの外部援助による意識復帰事例は3例だけだ。この規模のテロだからな。快楽テロだから、クリアした場合は自動的に目が覚める設定になってる。公安規定で、逆にシステムを外部解除すると脳ダメージの危険性が高いから、救助は基本しない事になっている。VR救急マニュアルには、そう書いてあるな」
「え」
「時東とは話したけど、救助は期待しない方が良いみたいだね。特に、三日以内にアクセスが無ければ、外部との接触も、敵が娯楽的に繋がない限りは無理そうだ。それと昨日のリアルでの死亡映像は、あれは本物の可能性が高いんでしょ?」
「ああ。VR救急の専門医で学会で見たやつがいて焦ってたからな。あれがやらせなら、あいつはクビだ。キャリア的にありえない」
「さらに、これまでの事例で、国内報道されていないものも含めると、意識不明のまま3年弱が6件、5年超が2件」
「えっ!?」
「リアルの肉体は、確実に最寄りの医療機関に保護されてVRにも繋がってる状態になるし、トイレもいらないというか、そちらで排泄処理がなされる。煙草だのも無いとエラー危険性が高いから恐らく全て繋がっているだろう。無論栄養もばっちりだ、が、こちらで餓死すると死ぬのであれば、それはVRシステムに餓死データが届いた段階で心停止などが誘発されるウイルスなどが仕込まれていると考えられる」
「つまり、今後俺達は、余裕を見て、五年分の食料を確保しないとならないし、場合によりそれ以上って事になる。クランに生産敷地あるけど、料理だのの生産状況を見ると、これは橘とも話したけど、手入れしないと荒れる可能性がある。それも高スキル者が」
「さらに、医療品、医薬品も確保しないと危ない。まずモンスターによる負傷が聖職者技能で回せない可能性があるから、痛み止めや、そもそも聖職者がいない場合の包帯だのが、今後は必要だ。存在するアイテムだが、生産はほぼされていない。医療品に関しては、PSY円環と能力が維持状態であるから、医療院にその専門科がある以上、PSY疾患だのが出る可能性もある。感染症危険性もある。風邪だのもな。設定にはあったしな」
「へ!?」
「その上で、ログアウトするためには、大陸クエスト6つと、セントラルのクラウン・クエスト攻略というか大陸開放みたいだ。整理すると、救助来ない、ご飯用意、お薬も用意、攻略、って事だね。とりあえず、俺と時東は、お薬用意までを念頭に置いてる。攻略は――ルシフェリアとかゼストから何か聞いてない?」
「うん、ルシフェリアはアイゼンバルド攻略でギルメンがセントラル見学。ゼストの所は、セントラル攻略だそうだ」
「兄上、そうなのか!?」
「ああ。チャットログで見ただけだけどな」
「ルシフェリアとゼストのログ……?」
「はは、まぁな」
「――そこ二箇所行くなら様子見てたら良いだろうと思うけど、ゼクスも行くの?」
「行くわけないだろう。俺は、レクスと琉衣洲を守るんだ!」
「かっこいいねぇ。俺もレクスと琉衣洲を一緒に守ろうか?」
「俺も守るよ?」
「よろしくお願いします!」
「いや、あの、俺はユレイズの自分のギルドに合流予定だ。兄上のみ守ってくれ」
「ゼクスを守るとした場合、変態の眼差しを遮断するくらいしかできん」
「そうなんだよね。かよわそうだから守ってあげたいんだけど、俺達より強い。精神的に慰めてあげたりはできるよ。俺、美人には優しくできる時がゼロじゃないから」
「ゼロじゃないって、高砂、俺もそうだが、お前、正直だな」
「だってねぇ。ゲームだったら、こう、高レベルに緊張とかあったけどさ、ほぼリアルとして考えると、美人に対して緊張じゃない? だって、フィールドでなければレベル無関係だし。これが、交流プレイヤーのスタンスだったんだろうなと今更気づいたよ。なにやってんだろうと見てたんだけど、今はよく分かった」
「まぁな。けど、俺達はどちらかといえば、既にフィールドに試しに行ってるから、やはり交流系は向かねぇんだろうな」
「それね。そうなんだよね、つい、さ」
「ゼクスよりは、レクスと琉衣洲の気持ちが分かる。行ってみたいというな」
「俺もそう」
「だよな!?」
「レクス待て。高砂と時東は、そういうこと言うな!」
「弟が心配なのは分かるけど、ゼクスが思ったより慎重で驚いたよ。顔と同じくらい」
「ああ。もしリアル弟がいなかったら、ゼクスはどこで何してたんだ?」
「俺か? どうだろうな。一人だったとしても、移動だるそうだから、セントラルにやっぱり家を建てて、後は、クランチャット眺めながら、今後について考えてただろうな。フィールドは、一人であれば、行くとしたら各地のマイホームの状況を見にだな。俺効率厨だから、無駄な移動とPOT消費しない」
「「「ぶは」」」
「兄上は、怖いのかと思ったらそうじゃなかった。舐めていた。すまない」
「ゼクスって一見怖そうなんだよな。それは猫アバの時からだ。レクスに罪はない」
「一切強くなさそうに見えるのに死ぬ程強いからね」
「いや、怖いよ? 怪我とかさ、殺人犯とかさ、変質者とかな。ただ、何が怖いかって、こう、悪意とか犯罪とか。あと、血とか肉片は具合悪くなるけど、自分がそうなる恐怖じゃなくて、相手が。俺、ひきだけど、たまぁーに、外出すると、大抵カナダでクマと鹿を猟銃でズドンとやって、解体して燻製にしてるから、むしろ、ゲーム内屈指の生肉経験者かもしれないぞ」
「「「ぶは」」」
「確かに兄上、猟銃腐る程あるし、グアムに撃ちっぱなし旅行に行っていたな。そうか、忘れていた」
「ゼクスが言うと、カナダって言うのもあるけど、猟友会とかじゃなくて、こう、オシャレだよね」
「おう。吹いた。生肉経験者って、おい。表現が、ぶは」
「だって、だな。明らかに、殺りなれてるか、装備整ってるか、が、フィールド見てた感じ、勝敗を分けてる。レベルより、そっちだった。体感は、自分イメージより、自分が弱かっただけだと思うぞ」
「ああ、それはあると俺も思う。魔法範囲のイメージが違って大怪我。イメージを消し去って、都度、慣れじゃなくて強ボスを初めて倒す時みたいに集中して変えたら範囲余裕だった。生肉経験者ではないけど、血肉は平気だったし」
「回復も、それもあるだろうな。血を見て焦って回復できてねぇやつもいたし。かつ、精神集中だとか、力を溜める、みたいなのが、効果がかなり出てるみたいだ。宗教建築だとかな。今まで名前のみだった各種の代物が、きちんと効果が出ているらしいしダメージにもなってるらしいんだが、まだ未確認が多い。効果情報がある鴉羽クラフトが欲しい。サイトの方な。スキルと生産関連もこの状況だから見たい。お前あれ全部覚えてるのか?」「無論だ。書いてない事まで頭に入っている。さらに紙にメモしたのもゲーム内にある。ゲーム内の紙にだ」
「さすが」
「ちなみに、他に配布なしで、この家にいるメンバーのみなら、五年分の食料備蓄ある?」
「まぁ……どうだろうな。あるって言ったら、よこせって言われるかもしれないから秘密だ。プラス生産の畑も俺ならスキル的にもリアル的にもやれるだろう。ひきこもりは庭までで、ハーブを育てていた」
「「「ぶは」」」
「たまに日光を浴びていたな、そういえば」
「「「ぶは」」」
「あと兄上は料理が美味いから、作るのがスキルでもリアルスキルでもそこも大丈夫だろうな。それと兄上、俺もいくらなんでもギルドによこせとは言わない」
「そうか? 照れるな。うん、十年分くらい余裕であるから大丈夫だ」
「「「ぶは」」」
「ただな、俺は善人じゃないけど、目の前に餓死者とかがいたら、ちょっと心が揺れ動くような気もする」
「そりゃまぁな」
「大丈夫。俺と時東が止めるから。必要時以外。自分が生き残るためなら、俺、結構鬼になれるから」
「「「ぶは」」」

 そうしていたら、琉衣洲が出てきた。こうしてまた五人になった。レクスが、救助が来ない話などを端的に伝えると、琉衣洲が険しい顔になった。少し黙ったから、英刻院閣下あたりに、チャットで伝えている気がした。音声チャットだと、視線が動くから分かるのだ。多分高砂と時東も分かったと思う。レクスはまだ、そういうのは見抜けないみたいだった。俺は視線で「問題ないのか?」と聞かれたので微笑して小さく頷いておいた。