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「そういえば、レクスは、ギルメンとイベントカウントダウンでここに来たんじゃなかったのか? 俺には気にせずに行っても良いからな」
「いや、今夜は兄上と一緒にいる」
「なんか嬉しいな」
「兄上こそ、誰かと約束だのは無いのか? ギルドとか」
「俺、ギルド入ってないんだ。クランは、桃花源とかあるけどな、用事あったり変わった事あった時に各自つぶやく感じだ」
「桃花源とか普通ない……うわぁ、かっこいい」
「そうか?」
「うん」

 素直なレクスは、可愛い。そこから、レクスにルシフェリアについて聞かれたので、ルシフェリアの武勇伝を語ったらキラキラした瞳を向けられた。良いなぁ。と、和んでいたら、気づけば、カウントダウンが始まっていた。5・4・3・2――1、になった瞬間、視界に人が溢れて、さらに真っ白になった。

 なんだか、みんな白いジャージになったのである。その上に、茶色いローブである。これは、初心者のデフォルト装備だ。俺の装備はどこだろうかと思った。レクスもそうらしく、気づいたら二人でカバンを見ていた。そうしたらカバンに特別枠が二個出ていて、一個が『装備』で一個が『手鏡』だった。装備の方に全部入っていたので安堵して、手鏡を出してみた。イベント配布物だと思ったのだ。

 丁度その時、絶叫が聞こえた。見れば、周囲が手鏡を見て叫んでいたのだ。何かと思って俺も見たら――リアルと同じになっていた。福の神アバターじゃない。かつ、ゲーム内アバターでも無い。俺のゲーム内アバターは、ネコ獣人で、着ぐるみみたいなのだったのだが、完全に俺である。え!? 現実と同じだ。

 手を握ったり開いたりしたが、感触がある。レクスを見た。レクスも、現実のレクスだ。金髪じゃない。チョコレート色の髪だ。ただし、目の色は紅だ。俺の青はリアルからだが、そちらも若干、アバターと同じ色になっていた。

 これは、PSY円環の色がデフォルトで出ていたのだが、今もそうなっている気がする。周囲を見ると、黒茶が多いのだが、それは多分、非分類時だ。

 えー!? と、思っていたら、空が明るくなり、夕方みたいな色になった。

「なんだろうな、レクス」
「兄上、ログアウトボタンが無い」
「え? アバターもだけど、バグか?」
「――街人口カウントが53000人以上だ。総人口は、54000人だったはずだ」
「へ? そんなに来てたのか?」
「ログイン者はそうかもしれないが、一斉にカウントダウン直後に増えた」
「ああ、確かに……」
「クラン・ギルド・フレリスとチャットとメールを見てくれないか? 俺は、リアル友人とのクランがあって、そこの文字チャットは生きてる。他の2枠は空けてあったから無い。ギルドは、ギルドチャットがクラン枠に、特別クランとして移動していて、文字チャットのみが生きている。クラン枠は2はそのままだ。ギルド枠は1になっている。俺は1つしか入っていなかったから1つ空いていたのだがそれは消えている。フレリスは二冊になっていて、既存は既存で追加できなくなっている。さらにメールしか生きていない。メールは、クランの2つも生きてる。それと兄上、新規のフレリスを試したいから申請する」
「ああ――ん? 俺は、クランが特別枠で、5つあったんだけど、そこにさらに2つ――鴉羽商會とルージュノワールが追加されてる。特別枠扱いで、3つ全部空いてる。5つの方も、一個俺だけだの鴉羽クラフトがあって、ここで商會とルージュノワールやってたんだけどな……そこも含めて、確かに文字チャットになってる。人が他にいる4箇所で、俺含めてインしてるか今確認あって、それで全員それぞれにいたんだけど、やっぱり文字チャットのみって言ってるな。俺も入ってなかったけど、ギルド枠が1になってる。フレリスも二冊で、既存はメールのみになってる。新しいのは、レクスのみだけど、こっちはチャットできるな。文字も声も映像声も。メールも行ける。かつ――え? 生死マーク?」
「兄上、クランの新規追加と新規作成を試したい」
「ルージュノワールに追加申請した」
「っ、うわ、恐れ多い……が、ああ。入れた。そしてこれは特別枠だな。課金店だからか? チャット全部とメールが生きてるな」
「悪い、分からない。けどこれ、新規追加が発生してからだ――あ、レッドクロスって今作ったのか? レクスの?」
「そうだ。入ってくれ」
「ああ――うん、普通枠が一個埋まった」
「こちらもそうだ。こちらも全部生きているな。兄上、非常事態だから、落ち着くまでレッドクロスを維持してもらえないか? フレリスのみは怖い」
「ああ、そうだな――ん、レクス。なんか、他の、ギルドクランは新規追加できないらしい。お店クランも、桃花源の頃みたいな所は新規追加できないそうだ。個人クランだけらしい。特別枠で新規追加可能なのは、課金店クランだけみたいだ。文字チャットでフレが特別枠で打ってる」
「そうか。これからも何かあったら教えてくれ。俺も言う」
「ああ。後、フレ登録は、グルやクラン経由で無理になってるらしい。直接対面じゃないと無理だそうだ。それにクラン追加も対面以外無理だって」
「……兄上、今現在、この広場からは移動不可能だそうだ。ログアウトも含めて。ギルメンと合流したいと話したが、この人ごみでそれも困難だ。それで、俺側のフレやギルメンは、動けそうならこちらへ来るそうだ」
「分かった。俺は合流の話とかは、特に今は誰ともない。けど、居場所は報告しあってて、俺もここに座ってるとは言った」
「そうか。すごい混乱だな……」
「バグ、早く治ると良いな」

 そう話した時だった。空に、巨大なピエロが出現した。

『えー!!! おめでとうございます!!! 本日より、デス・ゲームになりました!!! R18制限コード開放により、血も体液も流れます!! お祝いにトイレだけ不要にしましたが、他は全部いるので注意して下さいね!!! 餓死もありますっ!!!! モンスターに倒されても、PKされても、死にます!!! SEXもできるから、強姦には気をつけてね!! ヤりたい人は楽しんで下さい!!』

 俺はその発言に唖然とした。

「レクス、ああいう不謹慎なのは聞いてはダメだ!! そして今後身の安全に気を配ろう!! 変質者が出たら俺に言うんだぞ!?」
「あ、ああ。だが、そういう問題か? ちょっと黙っていてくれ」

 レクスは怖い顔でピエロを見ているので、俺も視線を戻した。

『ゲーム内で死亡すると、現実でも死にます! 誰か、試す人がいたら、試しますか? 死んでもログアウトできませんが!!』

 その言葉に、誰か試したらしかった。死んだらログアウト出来るに決まっているという見解らしく、フィールドに出て行ったのだ。

 そう――フィールドに出られるようになったみたいだった。そうしたら、空に、フィールドに向かった人々の映像が流れ――モンスターに殺されて、血が飛び散った。肉もである。しかし、死んだら、スっと死体は消えた。

 代わりに、横にリアルの映像が出た。警察と救急が駆けつけた所だったらしい映像が出ていて、突然血を吐いて死んだから、それらの人々が慌てふためいていた。家族が通報したようだ。

『運営会社には、ログアウトできない皆様の事は伝えてありますっ、政府にも連絡したみたいだぞっ!!! テロ集団だからねっ!!!』

 俺は目を見開いた。そういえば、海外のゲームで、ログアウトできなくするテロがあったというニュースを見たことがあったのだ。あちらもデス・ゲームだったはずで、食料の奪い合いで殺し合いが発生したと見たことがある。ただしRPGじゃないし、フィールドモンスターに殺されたというのは聞いたことがない。

『五感も制限コードの開放により、リアルと同一だ!!! 味覚も痛覚もあるからねっ!! 料理の味は、生産レベルで変わったりするっていうのは、秘密情報!! レベルや武器は、今まで通り!! ただし感触や感覚はどうかな? 勿論、レベルは、モンスターを倒すと上がるよ! 破損もするよ!!』

 そういう事なら大丈夫かなとは思ったが、ただ、痛いというのは困る。

『それではクリア条件だ!!! 皆様には、クラウン・クエストを行ってもらいます!!! 具体的には、セントラル大陸の攻略開放と、これまでの6つの大陸に出現したクラウンの塔の攻略だよ!!! ヒントはここまで! 後はみんなで探しながら進めてねっ!』

 そう言うと、ピエロが消えた。そして夜空が戻った。少し沈黙があったが、すぐに周囲がざわめきだした。「テロ!?」「嘘だろ!?」という声があふれている。過去に俺は三回聞いたことがあるが、意識不明のまま全員死に、食料の奪い合いに関しては、外部から接触できた一回があって、その時の情報だ。