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「兄上有難う。両方転送した」
「いやいや。しかしこれ怖いな――所で、お前の合流したい相手とか、どうなった? ギルドの文字チャットだとか、友人クランの文字チャットとかも」
「まず広場自体が、五万人も入れる、一個の巨大な街だから、徒歩移動だけでも一日以上かかりそうだと判明した。フィールドカットの課金アイテムは使用できないし、転移系スキルは、俺の周囲では持ち主が少ない。今現在は、広場内ワープアイテムも、俺の周囲は見つけていない――というのと、PKなどの発生でピリピリしているし、ゲーマーとしては余裕の時間だが精神的に疲れたから、本日の徒歩移動は中止、という流れだ。ギルドとクランの両方で一緒の一名のみ、まだ検討中で、俺が一番合流したい相手だ。リア友だしな」
「リア友……レクスの友達に会うのは緊張するな。俺は頑張る」
「大丈夫だ。この家の時点で、かつ零時前も装備の時点で高評価からスタートだ」
「ほ、本当か?」
「ああ。それにそういう事をなしにしても、良いやつだから、気にせず普通で大丈夫だ」
「良かった」
「次にギルドだ。一応俺は、ギルマスだ。ちなみにリア友がサブマスだ。それで、俺はギルドを放って置けない。家族だし、今は兄上が優先順位がそういう意味で一位ではある。家族に死なれるのは嫌だ」
「レクス……俺もレクスの無事が何よりも最優先だ」
「有難う。だが、兄上がいてもいなくても、ギルドは俺にとってやはり大切だ。自分だけ満腹で屋根の下にいるつもりは無いから、状況次第であちらに合流するし、場合によってはフィールドにも出る」
「……」
俺は、そう言われる気はしていたので、言葉に詰まった。
「レクス、言いたい事はわかる。だけどな、俺は反対だ。ダメだ」
「……もう少し、様子は見る。状況次第だ」
「……一人で出て行ったりしないでくれ。もし仮にどうしても行く場合、絶対に俺に言え。それだけは約束だ」
「分かった」
レクスが頷いたので、ホッとした。だけど、絶対に行かせない!
「それで、ギルドの状況としては、ユレイズが拠点だから、各街に入れる場所ごとに分散して集まっている。ギルドホームのある場所に入れない者もいるからだ。まとまって野宿か、俺達のギルメンしかいない街もあって、そこは宿だ。三十名宿泊可能だったはずだが、無理に八十二人入って、狭いベットも二人で使っている。内部代表者を決めていて、文字チャットは、代表者が発言する形にした。その上で、各まとまりごとの、飲食物の確保状況を話している。宿は無くても、幸い内のギルドは、最低限の飲食物は現在ある。味はともかくな」
「そうか。それは良かった。ギルド、全部で何人くらいいるんだ?」
「532人だ。ちなみにクランの方は、内三名が同一ギルドで、そちらはそちらでやっている。二名は大規模ギルドにそれぞれ入っていて、そこに従っている。他はクランホームにいるそうだ。宿や飲食物状況は、特に聞こえては来ないが、味に関してはクランの奴らも話していたからあると思う。もう一名のリア友が、セントラルだ」
「ちなみに、どの辺にいるんだ?」
「中央の噴水そばの小川前のベンチに今はいるという」
「――迎えに行くか? 転移スキル、試すか? 俺、四名まで俺以外を連れてフィールド内転移した経験がある。距離は、アステナの端から端で試したから、ここから中央ならギリ行けるかもしれない。二回か三回なら確実に移動はできるはずだ」
「何!? ぜひ頼みたい」
「出来るか分からないけど、やってみる。レクスのリア友なら、放っておけない」
「兄上有難う! どうすればいい?」
「できれば具体的位置を地図でメールしてもらってくれ。俺達は、玄関から出る」
「分かった」
こうして、二人で外に出た。俺は、細長い杖を出した。カクカクしている氷みたいな見た目の杖で、竜のアギト杖という。レクスが感動したように杖を見ていた。ちなみに、格好はジャージだ。この杖は、いつもカバンに入っているもので、カバンはデフォルトの見た目で、下げている。「よし、やるぞ」と行って、ドンと杖を地についたら、風があふれて光が円形に流れていった。地図を視覚表示して、次の瞬間そこに出た。すると、目の前のベンチでポカンとしたように、金髪の美少年が俺達を見た。周囲に人気は無い。
「琉衣洲!」
「レクス……す、すごいな」
「とりあえず、行こう。後で話そう。行きます」
俺はそう言って、美少年が立ち上がっていたので、また杖をついた。そして移動してから持ち物とか聞けば良かったと後悔した。PKが怖くて焦ってしまったのだ……。
「……!」
「中に入ろう、兄上本当に有難う、琉衣洲だ。琉衣洲、こちらは俺の兄でゼクスと言う」
「初めまして。レクスがお世話になってます」
「こ、こちらこそ。琉衣洲と言います」
「敬語じゃなくて良いからな」
と、コミュニケーションを頑張って、俺は鍵を開けて中に通した。レクスがホッとしたように琉衣洲を見ている。笑顔だ。本当に仲が良いのだろう。もっと早くやれば良かった。ソファに促して、俺はアイスティを持ってきた。冷たい方が良いかと思ったのと、チョコレートをもう1箱持ってきたのだ。さらに、レクスも食べる気がしたので、サンドイッチセットも持ってきた。琉衣洲が凝視していた。良い香りもする。
レクスが早速食べて「美味い」と言った。「どうぞ」と言ったら、琉衣洲も「いただきます」と言って食べて、硬直した。それからキラキラした瞳になった。琉衣洲はレクスと同じくらいだから十七歳くらいだろう。話を聞いたら学校が同じだというから、そのはずだ。テレビをつけつつ食べていたのだが、琉衣洲は、テレビを見たら真剣な眼差しになった。真面目なのだろう。ただしこれはレクスもそうだ。そして二人共、冷静に語り合っている。怖がっている俺だけなんだか毛色が違うようだ……。
それを見ていた時だった。ハーヴェストクロウ大教会の文字チャットで、英刻院閣下から『ゼクス!!!』と来た。珍しい。
『どうかしたのか?』
『琉衣洲が一緒にいるというのは事実か?』
『ああ。知り合いか?』
『息子だ』
『え!? 俺の弟のリア友だって言ってる』
『レクスとお前が兄弟だと聞いた。そしてお前の家に保護してもらったと』
『ああ。レクスも知ってるのか? 保護と言うか、ああ、一緒にいる』
『何度か遊びに来たからな。琉衣洲は大丈夫か? よろしく頼む。心配で死にそうだったんだ。お前が一緒にいるのか、良かった』
『任せてくれ。そうだったのか、レクスがお世話になってます』
『いや、こちらこそ。お前なら大丈夫だと思うが、琉衣洲の衣食住を頼む。後悪いんだが、身の安全を考えて装備も一式頼みたい。本当に悪いが、なんとか頼む』
『ああ、分かった』
『それとフィールドには行かせないで欲しい』
『うん、俺もレクスを行かせたくないから全力で引き止める。行く場合死んでも俺もついていく』
『頼んだ。大至急俺も迎えに行きたいんだが、ギルメンがPKにやれれて、今動けないんだ』
『大丈夫か!? 分かった。位置座標はメールしておく』
『本当に感謝する。それとテレビも助かった。では、また』
という、驚愕のやりとりがあり、俺は慌てつつ、そうしながら倉庫前にいた。メールで位置を送ってから、レクスの防御系一式も手に取って、ソファに戻った。いきなり立った俺を二人が見ていた。
「兄上、どうかしたのか?」
「ああ、俺、英刻院閣下とフレなんだ」
「「え!?」」
「兄上、英刻院閣下って、あの、伝説のプレイヤーの?」
「確か、氷竜を3人パーティで倒した事があると言う凄腕の魔術師だったな」
「その三人って、俺とラフ牧師だ、他二名」
「「へ!?」」
「けど、あれ? 琉衣洲のお父さんだって言って、今俺に、共通のクランチャットで連絡があったんだけどな」
「「え!?」」
「ち、父上が英刻院閣下!? 藍洲というプレイヤーネームのはずだ……企業出店でやってはいると聞いていて、連絡はしたが……」
「ああ、まぁ、俺もレクスに企業出店の話の方向しかしない予定でルシフェリアに暴露されたから気持ちは分かる。藍洲が英刻院閣下だ」
「「ぶは」」
「琉衣洲、念のためフレ良いか?」
「あ、ああ、お願いします」
「有難う。それで、レクスも何だけど、なんか、英刻院閣下のギルメンがPK被害出てるらしくて、危ないから俺達も装備でPK対応した方が良いってなったから、今から二人に装備送るから身につけてくれ。ジャージはオシャレに入れろ。とりあえず下だけ」
「「!」」
PK被害という言葉に、二人が真剣な顔で頷いた――が、俺が送ったのを見た瞬間、顔がキラキラしたから、俺は複雑な心境になった。
「こ、これは……暗殺者最強装備……鴉羽銘……こ、これ、頂いて良いんですか? あ、後で、お返ししますか?」
「あげる。返さずずっと付けていてくれ。救助が来るまで」
「兄上……有難う……」
「いやいや」
俺は笑顔を浮かべたが、こいつら、そんなこと言ってる場合じゃないだろうとつっこみかけた。まぁ確かにこれは嬉しいだろう。ゼストとルシフェリアが共通で使っている唯一のセットだからだ。俺が元々使っていたのをあの二人が欲したのだが。これは、回避が最速になるのだ。