【6】キス
それを眺めながら高砂と座っていたら、人混みを縫って、こちらもフードを被っていたルシフェリアがやってきた。俺の前でフードを取ったので、俺も取った。幸い誰もこちらを見ていない。というか、角度的に人目がちょっと無いというのもある。
「大丈夫か、ゼクス」
「ああ。ルシフェリアは?」
「まだ分からない。一緒に来い」
「あ、いや、時東とレクスがここに来るのも待ってるからな」
俺が言うと、小さくルシフェリアが頷いた。それから高砂を見た。高砂もルシフェリアを見ている。なんだか俺は――緊迫した空気を感じた。
「ゼクスなら俺が一緒にいるから大丈夫ですよ」
「――そうか。だが、ゼクスは非常に親しい俺の大切な相手だから、任せてお願いしておくつもりはない。一緒に来るならお前も来れば良い」
「まぁこの非常事態に全部放置してルシフェリアが駆けつける程に大切に思っているというのはよくわかったとはいえ、それは俺もなのでご心配なく」
「……そうか」
ルシフェリアはそう言って目を細めたあと、俺に一歩歩み寄って、唐突に俺の顎を持ち上げた。何事かと思った瞬間――唇を奪われた。!? 呆然としていたら、そのまんま腰を抱かれて、口づけが深くなった。俺は――唖然とした。五感がリアルになったというアナウンスを思い出した。その通りで、これまでのVR内のキスとは全く違ったのだ。舌を甘く噛まれた瞬間、体がピクンと跳ねた。息が上がる。
これまで気持ちいいというキス経験はあったが、苦しいというようなのは、VRには無いのだ。慌てて押し返したら、ルシフェリアがあっさりと離してくれた。肩で息をしていたら、ルシフェリアが頷いてから高砂を見た。高砂は、死ぬ程不機嫌そうにルシフェリアを睨んでいる。つぅか、ルシフェリアは一体いきなり何をするんだ、と、俺は思わずポカンと見上げてしまった。
「高砂列院総代にゼクスを守れるとは思わんが、今後の害虫避け程度にはなると期待している」
「害虫に忠告されると気合も入りますね」
こうして、なんか険悪な感じの中、ルシフェリアは改めて俺を見て、「後でまた連絡するから安全に気を配っていろ」と言い、いなくなった。高砂は終始ルシフェリアを睨めつけて見送った。そうしていたら、レクスから、「明日会おう」と連絡が来た。なんだか人混みが凄すぎて移動できないらしい。
レクスは『モデルのレクス!!!』として、ユレイズについて知らなかった人々も、一気に押し寄せて、今みんなに囲まれていてやばいらしいのだ。
高砂にそう伝えたら、「時東も移動が大変みたいだから、後で合流にしたよ」と、言っていた。確かに移動が難しい大人数である。なにやら、ホーム移動も、転送鏡が使えないとか、何やら色々あるみたいだったが、確認すらできない。どうしようかと思っていたら、高砂が立ち上がった。
「奥に、万象院寺院がある。緑羽万象院、つまり、ゼクスとゼストの称号か、列院総代称号、つまり、俺・クラウ・ルシフェリア以外は、中に入れない。かつ称号保持者は、1人ずつしか入れないから、俺とゼクス以外入れない。暴動も怖いし、とりあえずそこに落ち着くまで行こう」
「あ、ああ。高砂ありがとう!」
俺は、ほっとした。そして俺も立ち上がると、迷わないようにだろうが、高砂が手をつないでひっぱってくれた。芝の上を突っ切っているのだが、ここにも人がかなりいたのである。高砂もフードをかぶったのは、目立つからだろう。普通にイケメンは目立つというのもあるし、顔が高砂は高砂だ。
万象院寺院は、誰も入れないのもあるから、人気はなかった。こういう宗教建築というのは、僧侶攻撃力アップなどに使うものである。多分だが、高砂が建てておいたものだから、他のメンバーも知らないと思った。高砂は、各街に行く場合、事前に建てる事が多いのだ。高砂も建築スキルを上げたらしいのである。
中に入ると、電気が点いた。勝手についたりするのは、ゲームと同じだ。だけど、畳の感触とかは違う。後ろで高砂が鍵をかける音を聞いた後、俺はそう伝えた。すると、背後からギュッと抱きしめられた。
「ねぇゼクス。ずっと聞こうと思ってたんだけど、ルシフェリアと付き合ってるの?」