【4】



 さて、こうして日々が流れていった中、使徒オーウェン達のサイコメモリックが再び出現した。

「ゼスペリア十九世の保護を喜ばしく思います」

 やっぱりなぁと多くが頷いた。ゼクスだったのだ。

「あとは、ゼスペリア十九世猊下から、使徒オーウェン礼拝堂起動に必要な品を受け取り、展開後に祈りを捧げてもらってください」
「「「「「!?」」」」」

 この言葉に全員がゼクスを見た。ベッドの上で聞いていたゼクスが泣きそうになった。

「俺は何も持ってないし、一般的に売ってる聖書の知識以外はない……しかも体に力がはいれないから、探しにも行けないし、祈りを捧げるのも無理だ」

 難題だった。しかしもうサイコメモリック人格達は消えてしまった。ゼスペリア十九世とわかっても、この場の人々的には敵の昔の親玉くらいの知識しかない。それは誤った知識だが。さらに――持っていないというのだし、使えない。一同、病弱なゼクスを見る目が、また蔑むものに変わった。病気は可哀想だが、傍から見ていると、元気そうだ。むしろつきっきりになってしまったロードクロサイト議長と護衛の高砂を憐れむ声まである。ゼクス本人も気まずそうにしていた。

「……お前らも探しに行ってくれ」

 すると高砂が首を傾げた。

「万象院も匂宮も闇猫の襲撃で全開して燃えたから、探しに行っても何もないんだけど」
「……」
「それより、オーウェン達が持ってるらしきことを言ってたけど、なにか心当たりないの?」
「悪い……俺はここに来るまで、寺というのは存在しか聞いたことがなかったし、華族を見たこともなかった……今でも自分がというのは信じられない」
「鏡とか見たことがない?」
「鏡? 毎朝見てたけど、ベッドに寝てからは見てないな」
「そういうんじゃなくて、こういうの」

 高砂がそう言って、青照大御神大鏡のサイコメモリックを投影した。それを見て、ゼクスが息を呑んだ。

「これ、ゼスペリア教会の地下四階にある」
「! 見ていい?」
「ああ」

 ゼクスが頷いたので、高砂がモニターにゼスペリア教会を表示した。

「「「「「!」」」」」

 教会周囲を扇たちが取り囲んでいて、中に入ろうとしている。しかし入れていない。なお、内部もモニターしたら、地下四階に匂宮、三階に万象院、二階にギルド、一階にゼスペリア教関連と思しき品々が全部あった。即刻全集団が取りに行った。ゼクスが首を傾げた。

「あれ、物置だと聞いてたけど……何か関係あったのか?」
「見たことないのか、なるほど。うん、まぁね」

 高砂が適当に頷いた。こうしてアイテムはそろったのだが――問題は、祈りだ。

「なんかこうさ、物置に祈りとか伝わってなかったの?」

 適当な感じをそのままに高砂が聞いた。だが、的を射ているようにも思える。

「は? 物置の祈り?」

 だが、ゼクスからは普通の反応が返ってきた。ゼクスが困惑している。

「心当たりがない」
「――こういうの聞いたことない?」

 すると高砂がお教を唱えた。神聖すぎて、何人か膝をついた。

「あ……ある! 地下三階の掃除の時の合言葉だ!」
「――へぇ、じゃあこういうのは?」

 続いて高砂が神道の儀典を唱えた。ゼクスが頷いて、四階入室時挨拶だという。

「これは?」

 続いて高砂、ゼスペリア教の祝詞を唱えた。宗派を超えた知識なのだろうか?

「ああ。地下一階で月に一度それを唱える」
「これは?」

 最後になんと、高砂がギルドの祭儀の祝詞を唱えた。どの時もオーラまでばっちりである。すると時東が腕を組んだ。

「お前ってさ、シルヴァニアライム闇枢機卿?」
「うん、まぁ」

 この言葉に時東以外がぽかーんとなった。だが言われてみれば適当な気配が似ている。

「ゼスペリア教は何かあるのか?」
「守護家のクラウ当主だから、ラクス猊下とユクス猊下と同じ。だから、ゼスペリア教でもギルドでも、全方向で守ってる感じ」
「なるほどな。重要人物が一名だったが、護衛も一名か」
「そうなるね」
「――けどお前、ゼクスに当たりきつくなかったか? 闇猫云々って」
「俺表面上万象院列院総代だからね。その場その場で対応は変えてるけど」
「ふぅん」

 なんかみんな、納得した。ゼクスだけ混乱している。しかし――最強のコンビが揃った。黒色はなんかテンションが上がった。万象院と匂宮は、偵察に行っているとは聞いていたので、何も言わない。闇猫もちょっと嬉しそうだ。クラウ当主は強い闇猫でもあるからだ。少なくともゼクスより強いと聞いていた。そして高砂は実際強いと、誰もが知っている。

「これで祈りも良いとして――けどさ、立てないんじゃいのれないね。ここで良いのかな?」
「別に位置の指定はなかったしな」

 と、こうして、品物が運び込まれた後、ゼクスの体調が良い日に時東が許可を出し、祝詞などが唱えられた。すると、使徒オーウェン達のサイコメモリックが出てきた。

「完璧です。以後、保護を続けてください」