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街は、噴水前から始まる。ここが初心者の街『エーデルワイス』である。空は、青空で雲が見える。露店街がもう出来ていた。三日経っているし、商売人はそりゃあ行くだろう。新素材情報も集めたいし、流通価格も知りたい。これは大陸や街により、POTの値段が違ったりするからだ。賑わっているなぁと思って歩いていたら、なんだかヒソヒソというざわめきが聞こえた。なんかベンチ付近の一箇所が、ポーンと空いていて、囲まれている人が居る。囲まれているというか、みんなそこに近づけないんだけど、尊敬の眼差しというか「あれ、高砂じゃない!?」みたいな声だ。高砂――?
なんだかどこかで聞いたなと思いながら、俺も見に行ってみた。そして知人を見つけた。ラフ牧師のギルドに最初にいた初心者で、その後死ぬ程強くなり、クラウが引き抜いて一緒にギルドを作った僧侶である。今はクラウが忙しくてサブマスになり、高砂もまたサブマスだが、別の誰かがマスターをして、存在しているはずだ。ヨゼフとアイゼンバルドで活動しているトップギルドだ。規模関係無しの全体戦闘力なら、ルシフェリアと争う一位か二位のギルドである。そりゃあまあ有名人だ。僧侶ランキングなる攻撃力ランキングを有志が作っていて、最近はもうクラウを抜いて不動の一位である。俺は僧侶ランクは高いが基本職が僧侶じゃないし、僧侶としての動きなら多分勝てないだろうなと思う。
なんかこの高砂、すごい不機嫌そうに俯いて投げやりにベンチに座っているのだ。確かに高砂と知らなくても声をかけるのは戸惑うだろう。かつ高砂だった場合、キレると怖いというのは通説である。けど俺は、さしてそうは思わない。それより何か、久しぶりだなと思ったので、こそっと近寄ってみた。みんな見てるから、こそっとしてもあんまり意味ないのだが。
「高砂?」
「――……っ、え」
「あ、あの、俺を覚えてるか?」
「いや忘れるわけがないですけど、ここで何を?」
「何かしようと思って来たら、ベンチに注目が集まってるから、何かと思ったら高砂がいたから、覚えてるかなと思ってだな。高砂は?」
「なんかこうもう嫌だというかどうでもよくなったから、他のギルメンが未攻略のユレイズを選択した瞬間にギルドを抜けてこっちに来て、ここに座ったのが五分前だよ」
「ぶはっ、え? まぁなんだ、大変――なのかよく分からないけど、ここ目立つから移動したらどうだ? 逃げてるなら来ちゃうだろう」
「……行き先が無くて。俺が知ってるギルドとかは全部話が回ってるし、俺、フレいないし。かと言って、店に入ってもこのベンチと大差なさそうだから」
「ああ、なるほどな。んー、じゃあ、俺が露店カフェ出すから、中入るか? 客1名で満杯設定にしておけばいいし」
「良いんですか?」
「うん。じゃあ着いてきてくれ」
という事で、俺は露店街の一角の空き地に向かった。高砂への視線がすごい。さすが人気者だ。俺は強いけどガチひきだから、顔を誰も知らないから、こういう事は無い。こうして俺は、錬金術師スキルで、三階建ての店舗を出して、その一階のカフェを開けた。
「どうぞ」
「お邪魔します」
こうして中には入り、定員を1名、あとは従業員の俺として、誰も入れなくなった。窓も外が見えない。ソファに促し、お茶を出した。俺も正面に座る。そして灰皿を置いた。
「吸っても良いか?」
「ええ――俺も一本欲しいんですけど」
「ああ、どうぞ」
「ありがとうございます」
二人で火をつけた。VRだから、ニコチンは摂取されないのだが、吸った気分にはなる。お茶などの味も、最高・上・中・下・微妙・最悪とかなのだが、ちょっとする。さて、俺は聞いてみる事にした。
「あのさ、高砂」
「はい」
「高砂ってフレいないのか? 俺、今、九名しかいないから、フレを求めてるんだ」
「ぶはっ」
すると高砂が咳き込んだ。
「あ、悪い事を聞いたか? もしかして、フレ、ゼロ……?」
「ゼロって、ぶはっ――いや悪くないけど、普通ギルドの事を聞くかと思ってね。聞かれると思っていうのもだるいからどうしようかと思ったら、まさかの『友達いないのか』で、そこまでなら兎も角その後、それ何。別にいいけど」
「あ、ありがとうございます。フレ申請送った」
「ゼクス様ってさ、意表を突いてくるよね」
「そうか? っていうか、『様』ってなんだよ、高砂様。ゼクス(はーと)って呼んで欲しいとかは微塵も思わないけど、普通にお願いします」
「ぶはっ、うん、分かった――……あー、久しぶりに俺を敬わない上、敵対心があるわけでもない高レベルに合った。他は、低いレベルで『高砂様(はーと)(崇拝)』ばっかりだから。俺でさえこれなんだけど、ゼクスって生きるの辛くないの?」
「ん? 俺、ぼっちだから、誰も俺を敬わないし、敵対心を持つ程俺の存在は認知されていないし、高低満遍なく俺のフレは九名しか存在しなかったしギルドも入ってないから、孤独で辛くしかならないぞ? しいていうなら、『えっ!? クラウ様のフレ!?』という敬いは、クラウを敬ってるという流れで最終的にクラウ賛美になるし、俺と敵対して勝利しても『ゼクスに勝利した!』『誰それ?』だからなぁ……ただ高砂と全く同じ質問をゼストやイリスといった人々から昔よく聞かれたな」
「そういうものなの? けどさ、そのフレ九人の顔ぶれがやばいんでしょ? クラウがさくっと出てきて、それでゼストとかイリスとかさ」
「やばい有名人ではあるだろうな。今十人目に加わった高砂もそうだ。なのに俺、有名じゃないって結構すごいよな。改めてそう思う時がたまにある。鴉羽商會がラフ牧師経営って思われた辺りからもう止めようの無い流れだったな」
「ぶはっ、鴉羽卿ってお元気なんですか?」
「たまに敬語になるの止めろ。ラフ牧師はなぁ、ヨゼフの初心者村で相変わらずだな。行ってみるか?」
「……後で機会があったら。鴉羽卿の所にも、多分探してる人々が多数向かってるはずだからさ。迷惑かけて申し訳ないって伝えたいけど、俺も流石に鴉羽卿の連絡先とか知らないから」
「ああ、言っておくか? けど知らないって意外だな。仲良かっただろ」
「――恐れ多くて聞けないんだよ、普通」
「えっ、そうなの? じゃあ『高砂が謝ってた』で、良い? なんかいる、他。場所とか一緒にいるとか送る?」
「謝罪だけで良いよ。普通に恐れ多いからゼクスにもみんな聞けないだけで、高レベルは高レベル側が申し出ない限り、低レベルは基本的に交流系以外ではフレ申請とか無理だから。それで数少ないんじゃない」
「メールで送っておいた。それにしても――そうか。じゃあ……俺、自分からフレを求めていかないとダメなのか……うーん、交流系って、雑談グルチャとかって事か?」
「ありがとう。まぁ雑談も良いかもね。俺は好きじゃないけど。どうしてそもそもフレが欲しいの?」
「あのな、気づいたらスキルと生産のレベル上げしかしてない十年だったんだ……その過程でクエスト&ダンジョン&ボス攻略と大陸移動、商売はしたけど、フレがいない……始めた時は、クラウンズ・ゲートで友達を作って、ぼっちを脱出! って思ったのに、ゲーム内でもぼっちだったんだ……一日がゲームとサイト更新で終わるのに、外でも中でも誰とも話してない……」
「ぶはぁっ、ちょっ」
「この前、レベル上げがひと段落して気づいたら、ぼっち感に襲われた……だから、新大陸もできたし、今度こそリア充になろうと思ってな! ゲーム内だけど」
「すごい衝撃の激白を聞いた気分だよ。哀愁漂ってる……っく。サイトって鴉羽クラフトでしょ? あの、レベルおかしいスキル一覧と生産の神様情報のサイト。前から思ってたんだけど、あれの僧侶情報どうやって手に入れてるの? クラウじゃないって、クラウとギルド入ってから分かった。ラフ牧師は鴉羽商會と無関係っていうのは、ラフ牧師にゼクスを紹介された時に知ってたんだけど」
「あれは、俺がやった結果だ」
「ぶはっ」
「全部俺がやって、一個ずつメモして、その結果――スキル一覧は頭おかしい高クオリティの自信があるんだけどな、ぼっちクオリティにも磨きがかかってしまった……」
「うわぁっ、くっ――う、うん。俺ね、あれにすごく助けられつつ進んできたから、正直伝説のサイト管理人に出会えたと再確認していて、前々から何かのきっかけでゼクスが手伝いにクラウやラフ牧師の所に来たのを見たりすると緊張しながらも胸が躍って色々聞きたいけど恐れ多い、とか思ってたんだけど――ぼっちクオリティで全部持ってかれた」
「な、なんだと!? 言わなければ良かった……ふっ、なんでも聞いてくれ」
「もう遅いから」
「うう」
俺は涙ぐんだ。高砂は機嫌が直ったようで、少し微笑した。