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 それにしてもイケメンである。背が高いイケメンで、僧侶服だ。髪の毛は狐色で、瞳は緑色である。

「だけどゼクスがギルド入ってないって驚いた。入っていたら、紹介してというか、入れてと言おうと思ったのにな。ゼクスの所だと言ったら、みんな黙りそうだからね。確かにどこのギルドにいるとか聞いたことが無かったな。いつからソロなの?」
「俺はゼスペリアの教会解散後、ずっとソロだ。二年くらいしかギルドにいたことない……つまり、ずっとソロだ……ギルドチャットとか、現在の形態がわからない」
「ぶはっ、え、なんで?」
「いやな、最初みんないっぱい作ってたから、落ち着いてきたらどこかに入れてもらおうって話していたんだけど、気づいたら今になっていた。落ち着いたという報告は無かった」
「ぶはっ、自分で作らないの?」
「んー、今は、つまり三日前くらいからは、それも選択肢の一つとして、今後のリア充計画を考えてる」
「あはは。作ったら入れて欲しいな。俺は、正直しばらくソロかなと思ってたんだけど、思いのほか周囲の網がきつかったから、『もうギルド入ってる』と言いたい」
「ああ、いいぞ。作る場合は一緒に作ってくれ。確かに『ギルド入ってる』っていうと、色々な事が許されるよな。『ギルメンに呼ばれた』とか」
「ぶは。えー、本気なら、本当に作りたいんだけど」
「本気で検討してるけど、高砂が乗り気なら検討の段階を引き上げる準備があるぞ。ギルド名とホーム設置大陸&街を検討する所に移行する感じだ。高砂こそ考え直すなら今だぞ」

 俺がそう言って笑うと、高砂が少し真面目な表情に変わった。そして視線を下ろした。

「とりあえず人よけになるから入れてもらいたいけど、贅沢を言うなら、あんまり騒がしくない方が良い。ゼクスがいるというのは、すぐに大規模になるだろうから、その場合、我が儘を言っていいなら、自由に抜けさせて欲しい」
「――うん? 入れてもらうというか、高砂は一緒に作るんだぞ? かつ、騒がしさとか規模とか脱退関連は、贅沢とか我が儘ではなくて、高砂も決めるんだぞ? 俺がいると大規模に――武器配布とかすればすぐなるかもしれないけど、そういうのも全部決めるんだ。そもそもギルマスをどちらがやるかから検討開始だぞ? 俺、俺が一人で作って高砂を勧誘だと、それは再検討をしなきゃならないんだけど、そうなのか?」
「え? 本気で言ってるの? 準備してあったから俺をたまたま見かけたか何か聞いて空いてると判断して声をかけたんじゃなく?」
「へ? だから三日前から案の一つだけど、今考え出したんだぞ? 準備とかゼロだ。高砂を見かけたのはたまたまだけど、ここで話してる以上に何か聞いた事はなく、声をかけたのは、俺を覚えていたらあわよくばフレになってもらおうと思ったからだ」
「ぶはっ、ああそう。だとしてさ、ゼクスみたいなレベルで、俺とギルマスの座を迷う余地が有るの?」
「ん? ギルマスってレベル関係ないだろ? キャラはお互いカンストだしな」
「いや、そういうレベルじゃないけど――……つまりイメージとして、フレとノリで新ギルド設立みたいな?」
「へ!? 違うの!?」
「てっきり規律がある大規模ギルドを作って戦闘&攻略するのかと思ってたんだ。ゼクスもいよいよ天下を狙いだしたみたいな」
「そ、そういうのが高砂は良いのか? 俺、絶対俺には向いてない気がする……」
「それはそれで初期メンバーだったと言ったら名誉ではあっただろうけど、正直俺はそういう所は好きじゃないから抜けるの前提で話してた。向いてるかは知らないけど、それが可能な数少ないプレイヤーだろうとは思うよ。だから、そういう古参実力者がさ、俺にさらっと『ギルド作ろう!』というとは思わなかったんだ。普通そういう場合、なにかやらせられる。サブマス決定で、色々と」
「なんか高砂の中の俺のハードルが超高いことだけ分かった……俺、あの、ただのぼっちなんだけど、大丈夫? 俺そこの方が怖いんだけど。どうしよう『イメージと違った!』って抜けられたら……」
「ぶはぁっ、いやもう、かなりイメージと違いはじめたけど、良い意味で裏切られてるからホッとしてるよ。安心して、俺、今が一番良い」
「ほ、本当か? 慰めだったら、治すところを教える方向で頼むからな?」
「うん、あはは」
「うーん。後は、とりあえず、ギルドは3名以上だから、もう1人探さないとな。俺は宛ゼロだけど、お前ある?」
「……――どうだろう」
「お前クラン枠空きある? あるなら、最初そこで俺とお前で話して、なんか適度に見てみる? 即決しないで、数日クランでダラダラ」
「うん、空いてる。じゃあ、歴職不問雑談定員5名、キャラ350以上、職2個以上300、複合5個目1個以上、生産1個以上200で出して良い?」
「別にいいよ。あ、申請有難う」
「いえいえ。この条件に普通に文句言われないのが泣ける程嬉しい。まず満たせない人ばかりだし、みたせると歴職うるさいから大体」
「そうなのか」

 愚痴なのか感嘆なのか不明な高砂に苦笑し、俺はクランチャットを見た。新しいのは久しぶりである。条件をクリアしていない人には表示されないチャットであり、入るまでメンバーは不明だ。ちなみに、部屋作成者は定員には含まれないし、それは申請されたサブ管理者も同じである。なので、7名までで話せる形である。形態は、遠隔だからテレビ電話のように使える。俺と高砂は対面しているが、自動展開したモニターでも見られるのである。なお、今回の条件は、俺が思うに、ゲーム人口30000人中、100人もいるかどうか怪しいものである。満たせていない条件は出せないから、高砂はこれ以上なのだ。俺は聞かれていないけど、さっきサイトを自分の情報だと話したから大体分かるだろう。まぁ全部だけどな……。さて、来るかなと思いながらタバコを吸っていたら、意外とすぐに入室者がいた。

 入ってきたのは、時東という人だった。名前のみ表示されるのである。俺は、この人をひっそりと知っていた。初期からイリスのライバルであり、途中からミナスとみつどもえの聖職者(回復)実力争いをしていて、さらに生産の薬剤系でも非常に有名な実力派なのである。イメージとしては、俺の中で高砂と同じで、正式公開前後開始のカテゴリだ。ヴェスゼストもそうだが、限定テストからの開始組に追いついた最初の人々という感じである。だからまあ今見れば古参なのだ。まぁこのようにイリスやミナスの件で知っていた他に、時東はユレイズ大陸で活動していたみたいで、英刻院閣下経由で何度か手伝いに行ったことがあるから知っていたのである。二人が同じギルドだったかは忘れたが、英刻院閣下の手伝いに行っていたから、時東も手伝いに行っていた可能性がある。

「こんにちは。時東さんて、聖職者と薬剤の?」
「ああ、そうだ。こんにちは。ん、高砂って万象院の――……っ、え? ゼクス?」
「久しぶりだな、時東ってユレイズで会ったの覚えていてくれたのか?」
「あ、ああ……そちらこそ」
「俺は覚えていた。あのさ、俺、フレを求めているんだけど、なってくれないか?」
「えっ!? 良いのか!?」
「だ、だめか……?」
「大歓迎だけどな……このクランは、ゼクスのフレ探しグルなのか? そう書いた方が集まりはいいと思うぞ」
「いや、違う。高砂と俺がみんなと雑談をするグルだ――よし、登録できた。時東、有難う」
「こちらこそ」
「高砂と時東も知り合いなのか? 聖職者と薬剤って」
「――知り合いじゃないよ。個人的に話すのは始めてだから。聖職者ランキングのトップスリーにいる有名人だから知ってるだけ。ゼスペリアの医師だから」
「俺も僧侶ランキングの不動の一位は知ってる。信仰の万象院を保持していて、職クロスで見ても死ぬ程強いギルドのサブマスでその中においても一番強い僧侶が高砂だ。ただ生産もやってるとは知らなかった。何やってるんだ?」
「スキル書」
「ああ、なるほどな。そういえば、そのギルドの『青き法典』の連中が、ユレイズに押し寄せて来たが、内部で何かあったらしく動きが停止したと聞いたが、何かあったんなら言える範囲で俺は聞いてはみたい。雑談は、それか?」
「ちょっと俺がギルドを脱走して、まあ雑談はその後の展開。逃避先でゼクスに会ってフレになって、それで雑談クラン作ろうとなって、今ここだよ」
「へぇ。その流れでゼクスとフレは運が良かったな。元から顔見知りではあったんだろ?」
「うん、まぁね。覚えているかなとは思ったけど、だとしてもフレになるとは思わなかった。これに関しては奇跡としか言えない」
「高砂は大げさだな。時東も比較的大げさだよな」
「時東、ゼクスはずっとこの調子なんだよ」
「俺は高砂の気持ちの方が分かるからな。グルじゃなくてクランって事は、数日は維持だろ? 青き法典が落ち着くまでか?」
「いいや。俺と高砂がギルドを作るか作らないか及び作る場合のもう一名を決定するまで続くから、抜ける時は言わないとずっとある。ギルドができたら気づいたら無い」
「うん、そういう感じ」
「――は? 二ついいか? 高砂は、ギルドを抜けたのか? 抜けるのか? もう一つは、ゼクスがギルドを作るのか!? もう一名って……お前ら以外のメンバーは、今、何十人くらいを予定してるんだ? この募集的に幹部探しだろ?」
「ギルドは抜けたよ」
「メンバーは、今、俺と高砂だけ。俺は、ぼっちだから、宛が無い。それも含めてクラン。幹部探しじゃなく、とりあえず雑談する条件を高砂と設定したんだよな」
「うん、そう。俺がこの条件を希望しただけで、別に幹部とかではないよ」
「……っ、何というか、恐ろしい高レベルギルドができそうだな。しかも大規模の」
「いいや、今までの流れで、大規模は俺と高砂には向かないとなってる」
「うん。驚くべきことに、ゼクスの希望は、フレノリギルドだから少数精鋭とかでもないんだよ」
「そうなのか……高砂は幸運だったんだな、本格的に。羨ましいな。教祖にはなりねぇが、ゼクスにばったり会いたいという意味で」
「うん、今日は俺もそう思ったよ。時東って、ギルドは『エクエス』だろ? ユレイズの上位ギルド。四位くらい。そこはどう?」
「あー……悪くは無いぞ。ただユレイズは、職2以上300だとかは少ないから初心者というより、全般的な後進育成や助言、補助、そういうのが多いから、俺や高砂のレベルだと、自分を上げるのが難しい。なのに後ろの連中には『すごい!』だのと言われるから、俺は萎える。そういうのが好きな高レベルには向いてる。まぁ高砂ならどこでもそういう扱いかもしれないし、エクエスに来るというんなら、ギルドの連中は大歓喜だろうよ。青き法典と揉めても気にしない奴らだし、問題が起きて封鎖されて困るような人脈を持つ古参もいねぇからな。なお俺は、今後を考えてる。エクエスにいると、自分の事ができない」
「えっ!? 高砂がエクエスに行くのか!? 俺の想定だと時東が俺と高砂の所に来る以外の流れの発生は考えていなかった……そうだったのか、なんということだ……」
「行かないよ。俺の中でユレイズ大陸は今一番行きたくない場所だからね。今後を考えているというし、時東が来る方向で検討で良い思うよ。俺も自分の事ができない気持ちは痛い程理解できる」
「――良いのか? 正直言って、高砂はギリとして、ゼクスのギルドの立ち上げメンバーというのは、どんなにやりたくても、自分から『行きたい!』とは言えないからな」
「だよね。俺もそう思うんだよ。だから俺と同じ『普通』の感性の持ち主に大至急来て欲しいから、俺は良いよ。頭来たら蹴るから。それに時東なら、俺と同じレベルだから気が楽そう。この条件の中でまさに理想」
「ああ、なるほどな。そういう基準の相談対象ならこのクラン表記で納得できた」
「俺だけなんだか話が分からないんだけど、まとめると、三人でギルドを作るという事で良いんだよな?」
「うん」
「よろしく」
「よろしくお願いします。わー、じゃあギルド名とギルマスとかを決めて、そっちで話す? もっとメンバーをクランで探す?」
「とりあえず作ってみよう。時東はいつ抜けられるの?」
「今すぐ抜けられる。抜けるって挨拶を発言して終わった所――抜けた。けど、ギルマスとかを決める? ギルマスは、ゼクスじゃないのか?」
「俺もそう思うんだよね。ゼクスで良いよね? 話し合ったとしてもさ」
「まぁ高砂でも良いぞ。俺はやりたくないが。ゼクスがギルマスで、高砂がサブで、俺もやっていいならサブがいい」
「うん、俺は良いよ。ゼクス、これで良い?」
「ん? うん、分かった。じゃあそうしよう。俺がギルマスで、お前らがサブマスな。ギルド名どうする?」
「カタカナが良い」
「ぶは、高砂は寺だからな。あー、俺もカタカナが良いな。アンチノワールは?」
「オイルライターのブランドの?」
「そう。俺あそこのライター好きでな」
「奇遇だね、俺も時東と一緒であそこのを使ってる」

 俺はちょっと黙った。アンチノワールというシルバーデザインの会社、あれは実は、俺の会社なのである。もう長らく無職ひきの俺だが、日本に来る前にドイツで作ったのだ。十代前半である……そしてそれが日本に参入したのだ。だから最近は関わってないが、俺のが売ってるのである。俺のライターもそこのだ。しかも二人が使ってくれているとは。嬉しいような恥ずかしいような。

「じゃあアンチノワールにしよう。ゼクス作って」
「あ、ああ! できた!」
「おお」

 こうして、ギルドが完成した。ギルド登録番号もあるし、メンバーも三人と出ている。