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 俺は一階に降りて、ソファに座った。グルチャ申請者が『アンチノワール』である。後は、部屋タイトルや条件を設定する感じだ。時東が設定していったのは、『新大陸にいる人』である。条件は、『誰でも』である。ジャンルは『雑談』である。人数は三十名となっている。公開ボタンを押せば開始だ。んー、これで良いだろうか? メンバーは、アンチノワール欄に、ギルマス・サブマス1・サブマス2と出ている。名前と役職を申請者は選択できるのだ。顔も、公開非公開が選べるのだが、俺だけ出ている。非公開にするとフレ申請ができないから、俺はそのままにした。名前は、どうしようかなぁ。呼びにくいかな? と、悩んだ。そんな気がしたので、ゼクス(ギルマス)と、公開を選んだ。レベルは、時東も高砂も公開しているのだが、これを俺は逆に非公開にしてみた。うん、これで良いか。人数は、どうだろうな。減らそうかな。三十名と話せるか? 100人まで増やせるわけだが、最初は10名とかでも良いだろうか? まぁ、様子を見て考えるかと思って公開した。来るかなとドキドキした。

 結果、ほぼ同時に7名くらい入ってきた。6人が350レベルで、榎波・橘・英刻院琉衣洲・副・クライス・アルトである。英刻院というのは、称号だ。英刻院閣下が最初に得たものである。他1名は、5レベルの桃雪匂宮である。匂宮は、今回の新規に当選者がいたと聞く称号だ。公開後、一分以内だった。は、早い……。

「こんにちは」
「ああ、よろしく頼む。榎波という。頼みがあって入った。鴉羽銘の長剣を探してる。速度と軽さ重視の細型」
「そうだったのか。具体名を後で聞く。ええと、他の皆様は?」
「俺は、アステナで露店クランやろうかって周りと話してたから、その相談です。橘という名前で、生産はお茶専門だな」
「なるほど、それ良いな」
「俺は副と言います。アンチノワールに誰がいるのか気になって来たんだけど、え、本物? 本物、ですよね……わ……ラフ牧師の所に昔いました」
「覚えてる。元気だったか? 俺の偽者とかいたら謎だけどちょっと面白いな。後で話そう」
「うん。覚えてるとか、感涙だ……」
「あはは。ええと、そちらは?」
「桃雪は今日始めました。色々知りたくて」
「なるほど。色々話そう」
「――俺は、アルト。ここの大陸を攻略したいから、定期的なPOTと料理その他の供給してくれる所とか、協力ギルドを探してた。水筒とお弁当が助かった」
「うちのギルドは、攻略しつつ、初心者から中級者くらいまでの支援を考えてるんだ。私はクライスと言う。他には露店展開。その件で、アルトと橘とはもう別個に話をしたことがあるけど、今ここであったのは偶然だ。彼らは行動が早いからね」
「俺は、ユレイズから、こちらでの攻略検討と初心者支援に来ている琉衣洲と言う。エーデルワイスの露店が助かったから、どんなギルドかと思って入った」
「そうか。よろしくお願いします」

 なんだか一気にいっぱい来た。俺はコミュ障なのである。これ、困る。

「ええと、俺がグルを作ったのは、フレが十一人しかいないから、友達が欲しかったからだ、です、え。ごめん、俺コミュ障だから」
「桃雪、フレは今ゼロです」
「あ、本当か? フレになってくれる?」
「喜んで!」
「わー! ありがとう。他にもなってくれる人いるか?」
「あ、よ、よければ……え、逆に良いの?」
「うん。副、有難うな!」
「俺も露店相談したいし、お願いします」
「有難う」
「私も――だけど、副って、『ハピネス』の副だろう? それが恐縮するレベルと言う事は、後が怖いな」
「鴉羽の伝手まであるしな」
「けど俺はフレになりたいから、俺もお願いします。攻略もあるし」
「ああ、私もそれは頼む」
「うん、私もお願いするよ」
「琉衣洲も良いか?」
「えっ、あ、ああ」
「――わー! ありがとうございます。フレが十八人になった。朝、九人だったから、九も今日だけで増えた。けど俺、これ以上の人数と話せる自信無いから、グルの設定数減らすからちょっと待っててくれ」

 一息ついて、俺は、これ以上人が入れないようにした。みんな雑談している。顔見知りがアルト・クライス・橘のようだ。榎波と副も知り合い風だ。桃雪と琉衣洲が話している。

「よし、お待たせしました。誰かコミュ力ある人、引っ張って下さい」
「「「「「ぶは」」」」」
「――鴉羽・銘の、『氷剣・アイゼンバルド』が欲しい。予算は、とりあえず言い値を聞くが、出せるだけ出す。ブランドは『桃花源』が良い」
「そうか。見てくる。榎波は、冒険者と忍者&召喚者なのか? それともプレゼントか?」
「――自分で使うがどうして分かったんだ?」
「ん? エフネスやるのに氷剣は良いと思うけど、他はあんまり無くないか? 何かある?」
「その通りだ」
「え? エフネスって、忍者&召喚者の複合五個目か? 榎波って、やっぱり『ダークネス』のサブマス?」
「そうだ。橘だったか? お前、『生産同盟』の執権か?」
「うん、そう。よろしくお願いします。何々、ダークネス、新大陸の攻略すんのか?」
「いいや。鴉羽武器が出たと聞いて単独で来た。するかしないかを私は知らん」
「ダークネスってどこの大陸?」
「ユレイズじゃなかったかい?」
「ああ。本拠地はユレイズだ。ユレイズといえば、ユレイズ攻略初成功ギルドのハーヴェストがあったな。琉衣洲は、ハーヴェストのサブマスだろう? クライスは、天球儀のクライスか?」
「ああ。ハーヴェストの琉衣洲だ」
「私も天球儀のクライスで合ってるよ」
「みんなユレイズから来たって事?」
「いいや、天球儀はアイゼンバルドが本拠地で、遠征した事があるから拠点がユレイズにもあるという形で、私はその関連でユレイズにもいたんだ。アルトの所は、アイリスだろう?」
「そうだよ」
「アルトさんで、アイリスって事は、青薔薇騎士団? ギルマス?」
「そう! え、俺を知ってる?」
「知ってます。俺は、ヨゼフの初心者村のハーヴェストクロウ大教会の執権で、副と言います」
「っ、うわぁ、鴉羽卿の所の執権っていうだけで、なんだか申し訳ございませんって気分だけど、俺あんまりそういうの気にしないからすいません。梟さんか、怖っ」
「あ、いえいえ、そんな! もっとすごい人がいますから」
「え、副、それ、ゼクスさんなの? 副のそんな対応、俺見たことなくてガクブルなんだけど」
「うん、橘、俺が『様』つけるレベル」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
「副、お前何言ってるんだよ。あのな、特に桃雪さん、こういうの間にうけない方がいいからな」
「は、はい……本当でしょうか?」
「本当だ。あ、あと、榎波確認」
「もうしている!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! うわっ!!!!!!!!!!!!!!! と・う・か・げ・ん――!!!! 鴉羽銘!!!!!!!!!!!!!!!! 見てくるって、お前、お前、持っていたとか、うわああああああああああああああ!!!!」
「「「「「「「「「「「「「えええええええええええええええ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」
「なになになに!? まさか、って、え!? 榎波、それ、送ってもらったの!?」
「橘、私は死んでも良い……」
「なにそれ、すごっ!! 鴉羽・銘とか、へぇ……桃花源……アイリスでも滅多に見ない」
「桃花源ってなんですか?」
「ええとだね、桃雪くん。強い武器生産者達のお店の名前だよ」
「鴉羽は実在すると知っていたが、桃花源も実在するんだな……」
「というか、ゼクスが鴉羽・銘の武器生産者だからね」
「うん、そうだ」
「「「「「「「はぁあああああああ!?」」」」」」
「他に鴉羽商會で武器以外もあるし、アンチノワールのお弁当とかも在庫もある。他のギルメンもPOTのスキル高いとか色々あるから、アステナもエーデルワイスも露店関係は大丈夫だと思うけどな。攻略への供給はちょっと分からない。分からないっていうのは、売って買ってもらうのは出来るけど、直接供給とかは経験無いからという意味だ」
「ど、どうしよう、予想外に神様だった。あ、あの、生産同盟の橘と言います……ずっとお会いしたかったです……鴉羽クラフトのサイトを見ていない同盟メンバーはゼロです……応援してます」
「え!? 鴉羽クラフトって情報サイトの!? 桃雪も見てきました!!! え!? あそこの管理人さんなんですか!?」
「まぁ一応な。照れる。見てくれて有難うございます」
「ちょっと待ってくれ。私も本当に失礼した。いきなり不躾な事を言ってすまなかった。どうせ持っていないだろうと思っていたし、本人だとは全く思っていなかった。なのにこの対応……ありがとうございます」
「桃花源もそうだけど、つまり、ルシフェリアとか知ってるって事ですか?」
「いやあの、普通に皆様敬語を止めてくれ。ルシフェリアは知ってる」
「ルシフェリアを知ってる!?」
「知っているというか、私の記憶が正しければ、同じギルドで、ゼクスがマスター、ルシフェリアとゼストがザブマスじゃなかったかな? ヴェスゼスト達もいた所だ」
「「「「「「「「「「「「「「「えええええ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「ああ。クライスさん、長くやってるんだな。よく覚えて――ん? あれ、ルシフェリアのギルドの執権だったクライス? 義兄弟二名がサブマスの時の」
「ええ。見た時に、似てるし名前同じだけどまさかなと思ったら本人だった上、思い出してもらって非常に光栄だ」
「早く言ってくれよ。しかもお前さ、当時ローブだったから顔見えなかった。名前と口調しかヒントが無かった……」
「あはは。まぁゼクスのすごさを一言で変わりに説明すると、アイゼンバルド大陸という伝説の攻略不可能大陸は、ゼスト&ルシフェリア連合――に、依頼を受けたゼクスが手伝ってくれなければ未だに攻略されていなかっただろう、って感じかな。英刻院もいた。そうそうゼクス、英刻院とは連絡を取ってるのかい?」
「ああ、取ってるよ。朝の九名だったフレの中の貴重な一人」
「「「「「「ぶは」」」」
「え、英刻院って、英刻院閣下!? あの『金十字』のギルマス!?」
「そうそう。琉衣洲くんの前のギルドじゃなかったかな?」
「っ、ああ、そうだが……英刻院閣下と? あの人のフレ……しかもルシフェリアを手伝った……? 事実なのか……?」
「事実だけど、お前ら大げさだな。一人で倒すのは大変だからみんなでという話なだけだ。英刻院閣下はな、俺がヨゼフの初心者村で、狼の皮で腕輪を作っていた頃からのフレだ。あの人にデザインを褒められるとちょっと和むよな」
「すごいな」
「いや逆に英刻院閣下の評価もこれは上げるしかないな。すげぇよあの人」
「けどなんか世間は狭いな。みんな知り合いなのか? 俺、あんまりギルドの話題とか詳しくないからぼっち感が……」
「本当ですか? 桃雪は全部聞いたことがありますが」
「え!? どこで聞いたんだ!?」
「有名ギルドと高レベルプレイヤーはネットに出ています。ただし、『ゼクス』というのを桃雪は見たこと無かったです。ただ、鴉羽クラフトは見ました。スキルと生産に関してはあそこに無い情報はゼロだと聞きましたし桃雪も見ていてそんな気がしました」
「そうなのか。俺、自分の更新以外は、ネットをする間も惜しんでゲームだ……」
「「「「「ぶは」」」」」
「アンチノワールも桃雪は聞いたことがないのですが、いつ作ったんですか?」
「ああ、露店を開いた三十分前くらいかな。そのさらに三十分前くらいに作ると決まったんだ」
「え、メンツは? 今何人いるの?」
「俺と二人、サブマスだ。僧侶と聖職者というメンツだな」
「これから募集かけんのか?」
「大陸攻略どういう進行予定?」
「支援もするのか?」
「いや、三人でしばらくまったりする予定だ。ノープランだけど、攻略の話は出てないな。支援は特にギルドでとかはない。各自フレを手伝ったり、居合わせたら自由って感じかなぁ。俺の想像だけど。落ち着いたら、募集するかもしれない。それでアステナに家を建てたから、しばらくここら辺にいるから、仲良くなって欲しいと思った」
「桃雪、仲良くなりたいけど、アステナに到着する日がいつになることか不明です」
「あはは。俺がエーデルワイスに行くよ。一緒にアステナを目指すか?」
「ぜひ!」
「じゃあフィールドワープも作ってみる。楽しそうだな。ワープ作ったら支援やるギルドにも送るか?」
「欲しい。すごく欲しいっていうか、アステナ目指した後、その先を目指す気とかない?」
「んー、どうだろうな。アルトは、どのくらいのペースで攻略する予定なんだ?」
「毎日のようにハイペースで」
「すごいな。どのくらいの規模でやるんだ?」
「クライスの所の攻略組20人前後と、俺のギルドの青薔薇騎士団100人前後と、アステナでこの話をしたギルド5つ合計50人前後とソロ&固定PTの人々合計15人くらいで、フィールドは各自、ダンジョンは全員で、という流れの予定だよ」
「200人近いのか。じゃあ後100個くらい水筒を支給して応援の気持ちとする」
「それはすごく助かる。気が向いたら攻略にも来て」
「ああ。話してみる。それはそれで楽しそうだと思う。わくわくするよな、見知らぬ土地」
「でしょ? そうなんだよ。わー、けど、開放経験者に会えるなんて。俺、ヴェスゼストには会った事あるけど……いやもう、ゼストとか、その上の神様で、その手伝いとか……すごいね」
「別にすごくない。その時他の人がゲームしてなかっただけだ。きっとアルトが同じ時期に開始していたら、攻略に乗り出したんじゃないか」
「そうかな? 俺もそう思うんだけど」
「ああ、絶対そうだ。タイミングとか、気分とか、デカイよな」
「「「「「ぶは」」」」」
「そういえば、クライスと琉衣洲の所は、支援って何やるんだ?」
「私の所はね、とりあえずアンチノワールの武器を購入して必要者に援助したよ」
「あはは」
「それからスキルの使い方を、セット方法から伝授して、装備方法も教えて、モンスターの属性と動き方、タイミングを伝えて、次のフィールドまでの行き方を教えて終了。一番は、仲良くなって交流するのが目的だからね。新規の人とも楽しくと思って」
「良いな。かっこいい。琉衣洲の所は? 攻略検討もだったか?」
「あ、ああ……端緒は新大陸の攻略を考えてフィールドを見に来たんだ。ただ、初心者が多かったから、手伝いを始めて――アンチノワールの武器を買った」
「あはは。そっか。使い勝手どうだった?」
「――支援をしていた側のギルメンも欲しがって買っていた」
「琉衣洲くんの所もかい? 私の所もだ。あれも鴉羽作と考えていいのかい?」
「ああ。銘が違うだけでどっちも俺作だ」
「買い占めが発生しそうな情報だね。私は黙っておく」
「桃雪もアンチノワールのハンバーガーとオシャレのカバンを最初に買いました。美味しかったし可愛かったです」
「本当か? 良かった。なんかあんまりエーデルワイス、売ってないよな」
「他の街や大陸にはあるんですか?」
「いやいや桃雪さん。全然無いから。最早、エーデルワイスは初心者の憧れの場所レベルになってる。しかも逆に鴉羽銘が置いてあるわけだから、変な古参は警戒して来られなくなったし。初心者支援も攻略者支援も、アンチノワールは露店内容物的には既にやってるに等しいから、詐欺とか支配独占系も、鴉羽関係ギルドのアンチノワールが出た時点で居場所消えたと思う。そういう意味ですごく有難いから見に来たというのも会ったんだけど、ギルマスが鴉羽製作者の上、素性が神様の手伝い経験者とかだったから、逆にもうなんか、新大陸はアンチノワールの支配下にあると言われても何も言えない」
「憧れの街辺りまでは、俺、自分は良い事をしたと思ったけど、なんかこう、後半に行くにつれてすごくこう、何とも言えない不可思議な感覚で、あんまり嬉しくないんだけどな。俺はそんなに神様方向じゃないぞ。さっきもいるのにいない座敷わらし的な妖怪を連想したけど、俺そんなに人外か? 俺は、こう、フレを作って和気あいあいなリア充になりたい。そのためにこの大陸で頑張りたいんだけど、なんかそういう方向になるにはどうすればいいと思う?」
「ぶはっ」
「座敷わらしっ」
「笑うな。切実なんだからな――それはそうと、橘とクライスの露店クランっていうのは、何を話したり決めたりしてるんだ?」
「ああ、ええと、一つは物価。高すぎず安すぎず。と言っても、上限と下限だけだな。安すぎに関しては、価格操作ミスのストッパーって感じ。もう一つは、素材。今後のフィールドで攻略組がそれをこちらに送る代わりにPOT送るという提携をしたから、参加者には素材配布とPOT作成依頼窓口。三つ目が、一般素材で助け合い。無いものをある人が持っていたら売ってあげる感じ。後は、この大陸で新しいレシピが出た場合に出た報告をする感じだな。他にはフィールドとかに、どうしてもあった方が良い共通物、例えばそれこそワープだとかが作れるスキルあって行けるようなら作ったり、作った情報を出したり。場合によっては、武器が欲しい場合に、クラン経由で製作可能者を紹介したりというのも考えられる。これは、他の大陸の大きめの街の例だな。生産同盟のギルメンで、やってるクランが結構あるんだ」
「そういう感じだね。あとは急遽大量にPOTが必要になった場合に、クラン加盟店で集めたりもできるし、転売屋を防止したり注意喚起したりもできる。その他に、橘のギルドは生産者支援をしているから、一緒にスキルレベルを上げたりね」
「一応な。恥ずかしながら」
「生産同盟のオニギリロゴが俺は好きだな」
「えっ、ほ、本当に?」
「うん。特に鮭」
「!!!!!! 俺、もう、死んでもいいかも。俺が作ったんです」
「えっ、そうなのか!?」
「わーん、嬉しい……クラン、ゼクスさん空きある?」
「あるよ。さん、とかいらない。いれてください。俺コミュ障で表彰レベルだから無言かもだけど」
「わー!!!!!!!!!! いてくれるだけでいいから。ありがとう!」

 こうして、俺のクランが四個になった。