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「さて、行くか」
「おう」
「うん」

 扉を開けた。イベントでボスが喋り始めた。これはカットできない。俺、もう何回も聞いたからセリフ暗唱余裕レベルだ。なので、終わりの言葉も分かったので、終わった瞬間床を蹴り、転移スキルと加速スキルで、攻撃してから床に降りた。左後方でズドンと音がして、ボスの竜が倒れて首がゴトンとなった。クリアの鐘の音が鳴り響き、壁に扉が現れて、仰々しく開いた。

「よし、行こう」
「「……」」
「次の連戦の時は、壁やるから、お前らのスキルはちゃんと上がるから大丈夫」
「いや、あの、そこの心配っていうより、何今の」
「早ぇよ、というか、それは、攻撃速度的にも討伐速度的にも、え、何? ちょっと俺は今止まった。俺が今まで見ていたソロに強いプレイヤーとは何だったのかという話になった。コペルニクス的転回が起きてる」
「ゼストのプレイ動画見た限りだけど、俺はこれまで、ゼストに匹敵する級としてゼクスを語っていたけど、間違いで、ゼストの上の方にゼクス級があって、今なおゼストはゼクスの下の方を追いかけてる認識だったって事でいいのかな」
「ああ、俺もちょっとレベルが違いすぎて、これは、ああ。少なくとも、ここのソロ動画でこれは見た事がない。大抵1時間はかかる。最速のルシフェリアでも。そしてそれはソロじゃない。ハルベルトとの動画だ」
「俺達もアンチノワール動画とか上げるか? 俺あんまり得意じゃないから、上げるならお前らをメインで加工するけど」
「いや良いよ」
「おう。行こう」

 なんだかそんな流れで、街についた。イベントを聞いた後、適当な空き地を見た。

「別荘ここでいいか? 居間と魔法陣しかないけど」
「おう」
「うん」
「よし、これでいいな」
「なんつぅか、普通のギルドなら、このレベルの家が手に入っただけで泣くよな」
「それ。本当それ。俺は時東がいてくれて良かった。自分の価値観がおかしいのかと思った。自分で思ってたより俺ってレベル低かったのかな的な。いやまぁそれもあるんだけど」
「安心しろ高砂。俺とお前は、恐らく自分が思っていたより低いが、ゼクスは規格外だ」
「なぁ、なんか俺、変な人みたいだろ、それ。あ、中に倉庫取り出し口あるから、お前ら装備置いてきたなら付けてきてくれ」
「つけてきたよ」
「俺も大丈夫」
「なんだ、意外と俺を信用してくれたのか。良い奴らだな」
「まぁね」
「ああ。蘇生は任せろ」
「はは。とりあえず行ってみて、もし他に今後も含めて必要そうな武器とか装備あったらそれも確認しよう。右の階段から降りる。地下三階の亜空間フィールドで、ランダム生成になるから、クリア無い。帰りたいとか、寝るとか、上げ終わったとか、休む時は言ってくれ」
「分かった。まさかと思ったが、本当にランダムか……」
「初めて行くけど、行く前から死亡報告しか聞いた事ない場所って、こう、うん、まぁ行く。お任せします」
「あはは。ええとな、じゃあ、二人共、上げるスキル内容を、覚えたやつ一覧の左上から順二列まで、上から五つまで、セットしてくれ。後は好きで良い」
「分かった」
「緊張する。レベル2とかだよ」
「平気だ。よし、着いた、降りる」

 こうして俺達は、階段から降りた。クルクルと降りて、地下三階に到着し、俺は中央の巨大な魔法陣を見た。あそこに立った瞬間、大量にボス級のモンスターがいる部屋に転送されるのである。そして倒しても倒しても出てきて、襲いかかって来るのだ。

「ええと、スキルが10個とも100レベルになるまでは、俺がソロするから、お前らは自分自身を回復し続けて死なないように頑張ってくれ。どっちか死んでも俺が蘇生するから常に自分。俺への回復系はいらない。俺が死んだ場合だけ蘇生して。その時は、時東蘇生で。良いか?」
「おう、蘇生は分かった……」
「なんかこう、寄生してごめんなさいとか言いたいんだけど、そういう感じ? 全くわからない。だって、10個100レベルって、五段階だよ? どのくらいかかるの?」
「三時間を見てるけど前後はするかなぁ」
「「三時間!?」」
「いや、早いだろ」
「なにそれ、つまり、そのレベルのモンスターいるってこと?」
「早いといえば早いだろうな。うん、モブが強いから早い。後、その10個がここのモンスターと相性が良い。だから使わなくてもセットで上がる部分が多いんだ。さて、行こう」

 こうして俺は踏み込んだ。倒すのを開始しながら、二人が入ってきたのと、各自安全地帯を即座に見つけて回復防御を開始したのをチラっと見て、後は攻撃に専念した。二人共、流石にうまい。迂闊に死なないし、回復タイミングも完璧で、無駄打ちもしていない。俺は部屋全部ひたすら範囲しながら、その間にも湧いて出る真正面の一番強いのを手で手押し、また倒し、だ。あちらの攻撃が発動する前に倒しているし、避けているというか瞬足転移だし、なんかこう、危機感とかあんまりない。ただ最初は、二人共、俺が死なないか気にしてくれていた。良い人だ。以降は見学されているようだったが、モンスター退治が楽しすぎてそちらに熱中してしまった。そして気づいたら――ん? あれ? 2時?

「あ、悪い、時が経つのを忘れた……今、何レベルだ?」
「全部120代」
「俺も……クソ強いな……モブもお前も」
「あはは。よし、じゃあ、一回戻ろう。後、俺ほら気づくと一人で没頭するタイプだから、時間になったりレベルが上がったら教えてくれ」
「うん、そうしようかと思ったんだけど、あんまりにも見事な戦いに目を奪われた」
「俺もだ。なんかこう、久しぶりに戦闘風景に胸が躍った」
「ぶはっ、嬉しいな。ええと、移動スキルの家転移出た?」
「出た!」
「なにこれ、すげぇな。こっちも上がってる。わー!」
「うんうん。じゃあ、それを。別荘に出る」

 このようにして戻った。転移は、最寄りのギルドホームに出るのだ。それから俺はソファに座ってタバコに火をつけた。二人も同じだ。

「俺的には、こんな感じで、全部まず100にするのが良いと思うんだ。階段変えると生成亜空間の内容変わるから。それで、その後200までは、アイゼンバルドの二個目の街からヨゼフの地下の大神殿に飛ぶ隠しダンジョンがあるから、そっち。行ったことある?」
「「ない」」
「っていうか、存在を聞いたことない」
「俺もねぇよ。アイゼンバルドにいる連中も普通に知らないってことだろ、高砂が知らないんなら」
「んー、どうだろうな。ゼストには教えた。ゼストいわくルシフェリアは知らないそうだ。今は知ってるかな。不明だ。それでそこが終わったら、ヨゼフに行って、マイセスの都の裏側から行く隠しダンジョン。ここで200から行ける所まで、となる。ただ、100にした後は、先に複合4と4段階と特別7を200まで連戦で上げるのが効率が良いと俺は思う。こっちはスキル使用しつつだ。かつそれをやると、複合5の強さが格段に上がるし使い方も分かるし、アイゼンバルドからは複合5の使用も行ける。かなって思うけど、別にこれじゃなくても良いかもな。どうしても上げたいの先でも良いし。今日のは、こう、見本みたいな」
「俺はそれで良い」
「俺も基本良いけど、先にっていうのは気になる。どのくらいで、連戦って終わるの?」
「んー、とりあえず、複合系全部を、一日3時間ずつ一日一回やるとして、余裕見て一ヶ月以内として、それ以外に3時間連戦するなら三ヶ月くらい、終わってからやるなら半年くらいがいいかもな、余裕見て。一日6時間複合上げるなら話は別だし、9時間でも違う。効率重視で使える時間全部使うパターンもあるし、日によって気分として、最低限三時間確保、というのが俺は良いかなって思っただけで、一日12時間でも別に行ける。後は、一日1時間とか、土日だけとかでも大丈夫。二人次第かなぁ。時間合わなければ別々でも大丈夫だし。俺は朝昼晩いつでも大丈夫で、睡眠タイミングも操作可能だ」
「――朝七時から夜七時までの十二時間が俺は望ましいんだけど、時東は?」
「俺もその時間でも大丈夫だ。夜七時以降は自由だろ?」
「うん。俺もそこからは、スキル書とか書くかも」
「了解。じゃあ、明日から、というか、もう今日だけど、今日からそれで良いか?」
「うん」
「おう」
「じゃあしばらくは、7時に別荘集合で、10分後に開始、夜7時10分終わり。やってる間は、喋って良いし、各地のクランチャットとか、むしろ様子見てくれ。露店も」
「分かった」
「うん。本当によろしくお願いします」
「あはは。じゃあ、俺は寝てくる。また明日!」

 こうして、なんだか充実した気分で一日を終えた。なんか結構良いな。今後が楽しみである。そうして食事をしてシャワーを浴びて、三時前に寝た。早くした。寝ておかないと。そして、六時半に起きてご飯を食べてログインしたら、二人共いた。

「おはよう、ちゃんと寝たか?」
「ばっちりだ。露店のPOT類は終わってる」
「おお! ありがとう。それで来たから助かった。武器は、今日は、これをだそうと思うんだ。水筒は、念のため200個は攻略クランにチャット出しつつアルトに送るけど、露店にも置く。鴉羽商會で。それで武器は、1種類だけ鴉羽・銘の今回は体装備。他は、今からアンチノワールの銘入れるけど、これリスト。どうだろう?」
「良いと思うぞ」
「良かった。あと、倉庫に昨日そうだお弁当入れたけど、二人共見た?」
「見たよ。貰った」
「あはは、良かった。効果今度教えてくれ。じゃあ入れてくる」

 俺は和やかな気分で武器を用意し、露店に置いた。アルトにも送っておいた。その作業で、7時10分前になった。

「なぁ、毎日6時50分集合いけそう?」
「おう」
「行ける」
「じゃあそうして7時開始にするか? わかりやすいし」
「うん」
「そうだな。それが良さそうだと思って、今日は早めに来てみた」
「あはは。良かった。じゃあ行くか」

 こうして、朝7時から夜7時まで、亜空間フィールドにこもる日々が開始された。これがまたすごく楽しい。我を忘れた。一人だと作業ゲーになりがちだが、人が居るとやっぱり違う。しかもクランチャットラジオとギルドチャットによるその解説があるし、すごく面白い。俺的にすごく和やかに倒していたら、二人も最初緊張していたようだが、落ち着いてきたみたいだった。まぁそんな感じで、10日で目標は達成した。