【7】二子


 アルト猊下に、最後の甥が生まれたのとほぼ同じ年に、クライスも後継者を儲けた。義務的な人工授精だった。クライスもまた冷徹な面ばかりが目につくようになっていたし、その子供を愛している様子はあまりなかった。だから――誰ひとりとしてその子が、クライスが保持していたアルト猊下の遺伝子情報から人工授精した、二人の第二子だとは気付かなかった。

 瞳の色がゼスペリアの青ではなく、クライスと同じ真紅であったことも、気づかれなかった理由の一つだろう。また、先天的にOther過剰症だったため、PSY-Other完全遮断装置を身につけさせた結果――生まれたレクス・ハーヴェストは、Otherの青部分が、非分類紫にしか見えなくなっていたことも気づかれなかった理由だろう。

 アルト猊下が結婚しないのもそうだが、クライスもまたアルト猊下を忘れられなかったし、どうしても子供のことが頭から離れなかったのだ。

 クライスは結婚こそしたし、代理配偶者にも無断でなってもらったわけであるが、戸籍上の配偶者への愛などかけらもなかった。そして気づかれないようにしているだけで、クライスはレクスを溺愛していた。

 ただ、中絶の一件以来、クライスはギルドにこもるようになっていた。

 クライスも両親とは疎遠になっていた。これはクライスがレクスがアルト猊下との子であると気づかれる事を忌避した結果だ。匂宮や万象院にも連絡をしなかった。


 鴉羽卿はそんな中、王宮にて率先して黙示録対応をしていたし、朱匂宮は緑羽と大喧嘩してから長らく華族敷地の匂宮本家に戻っていた。



 そのため――彼らは全員、ザフィスはハーヴェスト侯爵家にいて、緑羽万象院は万象院本院にいると考えていた。

 たまに帰って、ザフィスの不在を、クライスと鴉羽卿は確認していたが、元々医師として多忙なので、たまたま出かけているのだろうと思っていた。緑羽に関しては誰も確認しなかった。また院系譜の僧侶達は、緑羽が朱匂宮の所か、王都に出かけているのだろうと考えていたのである。


 その頃には、最下層ガチ勢の間で「長老の緑が戻ってきた」という噂が広がっていた。

 昔――駆け落ちした時、緑羽万象院はガチ勢を締め上げてここに君臨していたのである。無論身分を知っている者は少数だったが、存在を覚えていたり、伝説を聞いていたものは大勢いた。

 同時に、これまで名前ばかりで、本来は月に一度は来るはずが、来たことがなかった慈善救済診療所に、ザフィス神父という医師が常駐するようになった事も、すぐに話題になった。


 ――二人は、最下層にいたのである。