【8】秘匿
ザフィス神父は、これまた名前ばかりだったハーヴェストクロウ大教会孤児院と、ゼスペリア教会孤児院も再起動した。そして、最下層にそれまで沢山いた孤児の大部分をハーヴェストクロウ大教会で引き取り、その世話を、連れてきたシスターや聖職者に任せた。
――というよりシスターや聖職者として暗殺者ガチ勢を任命して雇用した。
最下層に派遣された神父には、最下層特別認定権限があり、その者つまりザフィスに認定された場合は、研修等不要で救済聖職者となれたのだ。
そうしてザフィス、孫だという時東修司という乳幼児と、病弱だというゼクスという名前の孤児と共に、ゼスペリア教会で暮らしていた。
長老・緑は、表向きは、グリーン筆頭牧師を名乗ってハーヴェストクロウ大教会にいる。
――ゼクスは正しく、死んだはずの子供である。
時東は時東で、タイムクロックイーストヘブン大公爵家が襲撃されて、ひとり助かった子供だった。ザフィスの長男の一人息子である。
法王猊下の次男の嫁ぎ先である榎波男爵家が襲撃にあったのもそうであるが、到る所で、青い修道服の集団が、人々を狙っているのは確かだった。
その襲撃の時には、榎波男爵家の弟の方は法王猊下側に引き取られたのだが、兄の方はしばらくこちらの孤児院に預けられた。
というのは、榎波男爵家は、華族であるので、安全面を考慮して匂宮に託されたのであるが――護衛のために万象院の敷地を借りようと出かけて、朱匂宮が慌ててその子供を連れて、最下層にやってきたからだった。この時初めて朱匂宮は緑羽の不在を知り、行き先を思案して、まさかと思って最下層を訪れて、そこでグリーン神父を発見した次第である。そのまま、榎波男爵家の長男である、榎波柊を、最下層で匿うことにしたのだ。
よってその時から、長老・赤も復活し、榎波柊は最下層で一時期を過ごすことになったのである。一緒に緑羽を捜索していたため、最下層を訪れた鴉羽卿もまた、ザフィス『神父』に気づいた。
名前から時東が、タイムクロックイーストヘブンの残された子供であるとすぐに理解し――同時にゼクスを見てひと目で直感した。それは朱匂宮も同じだった。
緑羽万象院はともかく、ザフィスが育てているというのは、この二人にとって衝撃的すぎる予想外の出来事ではあったが――それよりもなによりもゼクスがあんまりにも可愛くて、二人はそろって泣いてしまった。
見た瞬間に殺さなければなどという意思は消え去っていた。
ここにラファエル=ゼスペリア筆頭牧師も誕生したのだった。
匂宮や万象院、ギルド、宗教院、王家に伝えることはなかったが、皆ゼクスが自分達の孫や曾孫であると正確に理解しつつ、けれどゼクス本人にも伝えずに育て始めた。
そしてこのまま黙示録などとは無関係に、可愛い子供が育つことをただ静かに祈った。
また最初は鴉羽卿の指示を仰ぎに来ていたのだが、その内に、英刻院藍洲と橘大公爵も頻繁に顔を出すようになっていった。
穏やかな暮らしの始まりだった。