【2】ゼスペリア教会の筆頭牧師就任
この頃、ザフィス神父は、使徒ゼストおよび青照大御神ことユエル・ロードクロサイトのPSY円環血統の再現表および、必要な青・赤・緑と血核球、血小板、ならびに各種のIQやPSY値を含めた天才技能――それらと共に、現在のゼクスが発症している特異型PSY-Other過剰症の詳細を綴った手記と、緑羽と朱から始まる鴉羽の血脈、王家とロードクロサイト、そしてハーヴェストの婚姻におけるザフィスの出自、結果生まれたクライスのことと、その配偶者にあたるアルト猊下の病状、そちらの両親がローランド法王猊下と英刻院舞洲であることを全てしたためて、ゼクスにカバンを出現させてそれをしまわせた。
一応ゼクスは亜空間収納されていることは理解していた。
だが、それらが何かは理解していない様子であったし、ザフィスも『緊急時の医薬品とゼスペリア教会筆頭牧師の持ち物である』と説明していた。
もしも自分が不在で、どうしても点滴類が必要だと判断したら、時東に見せるようにとザフィスは言っておいたし、ゼクスは頷いた。
この頃には、長老の赤と緑が最下層を空ける頻度が増えつつあった。
この二名は、言われた通りに万象院と匂宮に安全地帯を構築しつつあったのだ。
――ゼクスが二十二歳になった年には、医療院をクビになったとして時東が診療所の医師となって戻ってきた。代わりにザフィス神父が空ける機会が増えた。
これは実際には、時東が時間を確保し医学書の研究を始めたからであるし、ほぼ同時期に戻ってきた高砂と、一緒についてきた元々ロステク兵器の専門家であった橘も、小さな研究室を近所に勝手に作って、兵器に関する書物の研究を始めた。
ザフィスは彼らに、ゼストから託されたと言える本の研究を任せて、主に万象院と連絡を取りながら、本格的に敵の搜索に乗り出していた。
しかしゼクスは、みんな暇になったのだろうと思っていたし、言葉通り時東は左遷されたのだろうと思っていたから、なんだか悪いので深くは聞かなかった。
またゼクスには猟犬などの知識は無かったが、榛名達がガチ勢であり、その腕を買われて、榎波の部下として護衛隊に入ったことも誇りに思っていた。暗殺のガチ勢よりはましである。さらには政治の手伝いもしていると聞いていたから、口には出さないが常に応援していた。毎朝最下層に立ち寄る榎波と共に出かける三人を、孤児院街のベンチから見送っていた。
またゼスペリア教会の筆頭牧師を任せられたことが嬉しかったし、ハーヴェストクロウ大教会の筆頭牧師となったラフ牧師のことを本当に尊敬していた。
その頃から貴族院による慈善事業が開始されるようになり、やってくる、時の宰相――英刻院藍洲閣下とは顔見知りになった。なんでも元々、ラフ牧師の知り合いであったらしい。ラフ牧師はすごいと感じた。
その内に藍洲は、息子の琉衣洲を連れてくるようになり、『情操教育だ』と言ってゼクスに預けて、ラフ牧師と雑談をしていく事が増えた。あまり素直ではないが根が優しい琉衣洲がゼクスは好きだったし、呼び捨てで良いと言われたからそうしている。琉衣洲もまたゼクスが好きだった。